10代のネット利用を追う

炎上予防に大学が策定するSNSガイドライン、“想像力の欠如”を補う具体的すぎる説明文

亜細亜大学と東海大学に聞く

 ここ数年、不適切な投稿によるソーシャルメディア炎上が目立つ。それに伴い、大学や企業などで、学生や従業員向けにソーシャルメディアガイドラインを策定するところが増えてきている。どのような内容で、どんな運用がされているのだろうか。実際にガイドラインを設けている亜細亜大学と東海大学に話を聞いた。

学生の人生を守るためにも――Facebookページ開設きっかけに策定

 亜細亜大学は、2013年4月1日、学生向けのソーシャルメディアガイドラインを公開した。中心となって作成したのが、総務部総務課主事補の小林勉氏だ。2012年末に教職員向けのガイドラインを作り始め、それを応用して学生向けにしたものを新入生入学に合わせて公開したかたちだ。

 もともとは、同大学のFacebookページ開設がきっかけだ。Facebookは学生が多く使っている上、Facebookページならリアルタイムに手軽に情報が流せる。新入生募集のための広報ツールであり、在学生やOB・OGが情報を得られるページとして開始することにした。

 しかし、Facebookで検索すると、「亜細亜大学○○部」など、課外活動団体が独自で作成したような「亜細亜大学」と名前の付いたFacebookページが多数存在する。まずは、このようなページについて、どれが大学の管理下にある、いわゆる公式のものなのかユーザーが分かるよう、公式アカウント一覧ページと広報課所管の公式アカウント運用ガイドラインを作り、さらにソーシャルメディア全体に関する大学としての考え方を明記したポリシーを作成した。

 同時に、大学としてSNSの個人的な使い方、つまりガイドラインを定めていった。世間では学生がソーシャルメディアで不適切な投稿をして炎上する事件が続いていたため、学生が将来を棒に振らないような使い方を提案することにしたのだ。同時に、教職員の使い方についても定めていった。

 「これまで亜細亜大学で大きな炎上事件が起きたり、学生から相談が来たことはない」と語る小林氏だが、大学生が炎上事件に巻き込まれたり、大学が謝罪する事態になる事例が多いのを憂慮し、自大学に関する情報検索は無論、個人的に他の大学や大学生の事例を集めて注意している。また、総務課、人事課、学生生活課、広報課の責任者が折に触れ、メディアリスクに関するセミナーに参加しているという。

「想像力を働かせて」ではなく、「具体的に分かりやすく」

 亜細亜大学のソーシャルメディアガイドラインは、非常に具体的で分かりやすい。例えば、「トラブルの例」と「それが招く結果」として以下のように書かれている。どれも、一度ならずニュースを賑わした例ばかりだ。

  • 未成年飲酒、イッキ飲み、電車の不正乗車、賭博麻雀、カンニングを告白。→ 法的処分の対象になりうる他、学内でも処罰の対象となる。
  • アルバイト先での機密情報を暴露。→ 企業に不利益を与えた場合、損害賠償を求められるおそれがある。
  • 就職内定先企業への侮辱的な発言。→ 内定はあくまで内定であり、こういった行動は、内定取消を招くおそれがある。
  • 「○○君は今日、××で飲み会」など、友人の交友関係を無断で投稿。→ 人間関係の悪化や思わぬトラブルを生む。
  • ニュースなどに対する偏った思想のつぶやきや侮辱的・わいせつな書き込み。→ 炎上・いやがらせなどの事態を招くことがある。
  • 悪質なデマや不正確な情報の発信。→ 大きな社会問題となった事例もある。
  • 他者のケータイや自分の管理外のパソコンを使って、SNSにログイン。→ アカウント情報の漏えいにつながり、悪用されるおそれがある。

 亜細亜大学のソーシャルメディアガイドラインは、他の大学やメディア、企業などの公開されているガイドラインを参考にして作ったものだ。ただし、他大学の例では「大学生であることを自覚し」「軽率な発言は慎んで」等の抽象的なものが多かったが、不用意な発言をしてしまうのは想像力の欠如によると考え、具体的で分かりやすい内容にした。

 「自分が投稿することで周囲に及ぼす影響や重大性に気が付いていないのが、ソーシャルメディアで炎上が起きる原因のひとつ。『想像力を働かせて』ではなく、『具体的に分かりやすく』という考え方で、こうしたらこういう結果につながってしまうということを見せた」(小林氏)。すべて説明するのは幼稚ではないかとも考えたが、それ以前に学生の身を守るのが一番と考え、このように具体的なものとなったという。

 炎上事件に巻き込まれるのは、大学生という自覚が薄い1年生が多く、企業なら新入社員が多いという。ガイドラインは、数日前まで高校生だったような人たちにも分かるように、徹底的に具体的で分かりやすくした。

 例えば「ソーシャルメディア」ではピンと来ない層に向けて、FacebookやTwitterなどの具体的なサービス名を紹介し、「ガイドライン」とは何か分からない層に向けて、「ガイドラインとは守るのが好ましいと思われるルールのこと」と説明をし、専門用語はすべて丁寧に解説した。ガイドラインの適用される対象も、「学部生、院生、短大生、別科生、聴講生、科目等履修生、交換留学生など、亜細亜大学・亜細亜大学大学院、亜細亜大学短期大学大学部で学ぶあらゆる立場の者」と、自分も該当すると分かるように列挙。同時に、有事のために、相談先として電話番号とメールアドレスを連絡先として明記した。

入学式後に配る手引きで周知、夏休み前にはメール一斉配信も

学校法人亜細亜学園・総務部総務課課長の柿内利宏氏

 新入生には、入学式直後のオリエンテーションで配る「学生生活の手引き」内に項目を設け、さらに別途プリントして配布。入学後に必ず一度は目を通すようにした。在校生に対しては、夏休み前に一斉配信メールで同ガイドラインを送っている。確かに、2013年の夏は炎上事件が多かった。このように、休み前に気を引き締めるための周知は重要と言えるだろう。

 教職員向けのガイドラインが言論の統制ととらえられないか反応を心配したが、現場では当たり前のこととして受け入れられたという。「大学は学生を相手としているので、学生を知るためにはSNSを使わないと取り残されてしまう。実際に、ほとんどの先生方は日常的に活用している。学園の名誉を傷つけないよう一定の配慮は必要だが、むしろどんどん使っていただきたい」(小林氏)。

 「ネットを無視することはできないので、大学をあげてガイドラインを作り、教育していくことは必要だと思う。テクノロジーは常に進んでいくので、取り残されないためには大学もアンテナをはっていかなければ」と、総務部総務課長の柿内利宏氏も主張する。

 「大学は、研究の成果を社会に生かすことも重要だが、まずは人材育成が大切。問題を起こすとその学生の人生、将来が狂ってしまうので、彼らの人生を守っていきたい」と小林氏は考える。いくら公開範囲を友達に限定しようが、インターネットに出した情報は、赤の他人に見られる可能性がある。「学生には、一度ネットに出した情報は多くの人に見られる可能性があり、未来永劫消せない可能性があると考えて情報を発信してもらいたい」。

SNSは就活と無関係ではない――就活指導への活用が策定のきっかけ

学校法人東海大学 理事長室広報部広報課課長の大木洋幸氏

 東海大学でも、2013年4月1日にソーシャルメディアガイドラインが誕生している。広報部広報課課長補佐の小栗寿夫氏を中心に、2012年中に作成したものだ。同大学は全国にキャンパスがあり、短大・付属高校なども多い。そこで、東海大学としてのガイドラインは、学園全体の広報業務を担う広報部広報課が中心となって作り、運用・指導は学校ごとの現場で行っている。

 ガイドラインの誕生は、学生のキャリアアップのための支援・指導をする部署である「キャリア支援センター」が、就活用Facebookページを用意することにしたのがきっかけだ。活用するならガイドラインが必要だし、学生にも教職員にも指導が必要と考えた。

 東海大学の学生を対象としたガイドラインも、非常に具体的で分かりやすい。例えば……

  • ソーシャルメディアが就職活動と無関係ではないことを知ってください
  • 就職活動への影響を意識してください
  • 違法行為、モラルに反する行為について書き込まないでください
  • ソーシャルメディアは自分の未来にも影響を与えることを意識してください

となっており、さらに各項目について詳細な解説が付いている。

 最初は、教職員、学生など構成員がソーシャルメディアにどう向き合っていくかを考えて基本となるガイドライン作成。他の大学の事例等を踏まえ、自校に置き換えて作り込んでいった。実際に利用をしている人が多いので、利用を制御するのではなく、リスクに向き合っていく内容となっている。

 同校には、授業の履修申告をしたり、休講情報を得たりできる学生向けのポータルサイトがある。まず、そこにガイドラインを策定したことを告知した。

 その後、読んで理解してもらわねば効果が上がらないだろうと考え、学生向けには、改めてもっと分かりやすい具体的なガイドラインを用意した。9月にはリーフレットの形にして、所属学科から学生に手渡している。ポスターも用意し、学生が必ず目にするように工夫した。新年度を迎えたらガイダンスや授業で取り上げたいなどと議論に上っている短大等もあるという。

大学には学生を教育する義務、あくまで教育活動の一環

 さらに各キャンパスごとに、「活用に関する相談」「トラブルに関する相談」それぞれに違う窓口が用意されている。もともと学生が何でも気軽に相談できる場である窓口はSNSにおいても駆け込み寺的役割を果たしており、口に出して相談しづらいこともあるだろうとメール窓口も用意した。

 「大学は、所属している学生を責任をもって教育していく義務がある。ソーシャルメディアだけが取り上げられているが、あくまで我々の行っている教育活動の一環。」(大木氏)

 東海大学としてのガイドラインは作成したが、実際の指導は現場に任せている。高校・中学などはケータイを持ってはいけないというところもあるし、学校での指導の範囲なので一任している状態だ。ただし、教職員向けガイドラインは在籍する教職員全員に向けてのものなので、全教職員が同じガイドラインについて認知している。

今後は担当者向けの対処ガイドラインなど、指導事例集マニュアルも用意

 「間違いが起きてしまうのは仕方がないが、そこから学んでもらいたい部分はある。起きた時にどう対応するかもガイドラインに入れている。二度と起きないような指導もできると思っている」と小栗氏は語る。「ソーシャルメディアは、使い方によってメリットにもデメリットにもなる。出していい情報かどうかを判断する材料としてガイドラインを使用してもらいたい。他校の生徒にもきっと参考になると思う」。

 「SNSは、社会の環境を学ぶこともできる一方で、すべての情報が筒抜けになってしまう恐ろしい部分もある。社会環境の中でこういうツールをどう使うのか、向き合う勉強もしてほしい。」(大木氏)

 今後は、学校によって違う指導をすることがないよう、指導事例集マニュアルを用意する。事件・事例を集め、対処法を自分たちの言葉でまとめ、どのようなケースにはどう対処し、どういう時には本部に連絡をするかなどをきめ細かに定めたものにする予定だ。ただしその場合も、「学生の立場に立ち、心のケアを一番に考えるようにしていきたい」と広報部広報課課長補佐の小栗寿夫氏は語る。

 また、ガイドラインは随時アップデートしていく予定だ。「いろいろなシーンでリスクはある。例えば教育実習で子供と写真を撮ってもSNSにアップしてはいけないなど、学生は最初は分からないかもしれない。具体的に学んでいってほしい」。

 大学生が、一度の炎上事件で将来を棒に振るケースが増えている。大学生たちは、ソーシャルメディアの威力を知らずに、振り回されている状態だ。ソーシャルメディアの利用は広く浸透しており、利用を制限することはできない。これからの大学は、まだ未熟な学生の将来を守るために、このようなガイドラインを用意することも必要なのではないだろうか。

高橋 暁子

小学校教員、ウェブ編集者を経てITジャーナリストに。Facebook、Twitter、mixi などのSNSに詳しく、「Facebook×Twitterで儲かる会社に変わる本」(日本実業出版社)、「Facebook+Twitter販促の教科書」(翔泳社)など著作多数。PCとケータイを含めたウェブサービス、ネットコミュニケーション、ネットと教育、ネットと経営・ビジネスなどの、“人”が関わるネット全般に興味を持ってる。http://akiakatsuki.com/