10代のネット利用を追う

iPad学習は効果的? DeNA「アプリゼミ」導入校に見るタブレット学習の狙い

1年生が自ら取り組む「自習の時間」

 「やったー、100点!」「おっしゃー!」
 「この『むむむむむむむ』って誰?」「俺!」「えー、1位じゃん!」

 教室は、子供達の歓声で賑やかだ。自習の時間、1年生が1人1台のiPadを机の上に置き、各自操作をしている。彼らが立ち上げているのは「アプリゼミ」。各自、国語や算数のさまざまな教材に取り組んでいる。

 一般的に、小学1年生に自習をさせるのは簡単ではない。ところが、賑やかに声を上げながらも、彼らは慣れた手つきでアプリを操作し、問題を次々と解いていく。

 平仮名のなぞり書き、書き順、足し算、時計……得点や早さ、正確さなどによって点数が付けられ、クラスの中でのランキングが決まる。表示されている名前は自分で決めたニックネームなので、どの児童が何位かはすぐには分からないが、1位の児童は周囲に自慢したり、他の児童に何位かを聞いたりして楽しんでいる。複数の教材があるので、飽きたら違う教材を立ち上げ、30分間自習を続けることができていた。

 アプリゼミは、株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)が手がけるスマートフォン/タブレット向け教育アプリだ。タブレットを学習に導入する事例は増えてきたが、どのように使い、どんな効果が期待できるのだろうか。東京都多摩市立東愛宕小学校で2月に行われた、アプリゼミを使った公開授業を通して考えていく。

1人1台だからこそ身に付く

 東愛宕小学校では、iPadを児童数分用意して教育活動を進めている。基礎的学力や、プレゼンテーション、共同学習をする力を付けたいという思いから導入したものだ。自習活動で利用するほか、タブレットを使ったプレゼンテーションを行ったり、2年生が1年生に読み聞かせをするのに使ったり、英語学習に使ったりと、さまざまにな活用がなされている。

 同校の松田孝校長は、「iPadが1人1台あることが大切。数が足りない場合、使う時間を調整したり、使いたい時に使えなかったりする」と主張する。iPadを使い始めたのは、2013年10月のこと。2010年より、総務省や文部科学省が学校でのICT導入やデジタル教科書に関する実証実験を行ってきたことが背景にある。

東京都多摩市立東愛宕小学校の松田孝校長

苦手なものが楽しく学べるアプリ

 アプリゼミは、DeNAがエデュケーション(教育)とエンターテインメントを融合した“エデュテインメント”という思想を具現化して作った学習サービスだ。

 2013年12月に無料の「小学校入学準備号」の提供を開始、先週3月20日から月額980円(8%の税込金額/6月までは無料)の「小学1年生講座」の配信を開始した。今後、段階的に小学校の他学年や、将来的に中学・高校にまで拡大予定となっている。「小学校入学準備号」は算数と国語のみだったが、「小学1年生講座」には英語も用意されている。3年生以上には社会や理科などの課目も登場するので、それに合わせて教科を増やしていく予定だ。

 教材は株式会社NHKエデュケーショナルが企画・監修、筑波大学付属小学校などの先生方の協力・監修を得て構成されている。

 コンテンツは11種類。例えば「オシャレ美容室」は髪のお団子を「左に2つ、右に3つ」など、指示通りに左右に分けるというものだが、足し算・引き算をする時に数を分解する練習になっている。問題は音声で流れ、回答はひらがな・数字で入力する仕組みだ。

 コンテンツの中では、「オシャレ美容室」は女の子に、お尻で文字を書く「尻文字列車」は男の子に人気だ。アプリゼミ総合プロデューサーであるDeNAの床鍋佳枝氏は、「男の子は数は好きでなぞり書きが嫌い、女の子はなぞり書きは好きで数は嫌いという傾向があるので、それぞれが好きではない方に好きな要素を入れたのが好評」という。

株式会社ディー・エヌ・エーの床鍋佳枝氏

隙間時間にiPadでアプリゼミ

 学校には授業が始まるまでの間や、定期検診などの待ち時間など、意外と隙間時間があるものだ。東愛宕小学校では、アプリゼミをそのような隙間時間や放課後補修用教材として使う予定だ。「学校は一斉学習だから、早く終わってしまった児童はすることがない。その間に教科に関するアプリが進められたら、早く終わった児童が不利益を被らないし、時間を有効に使える。学校で学習環境を整えてあげられれば、学習力を身に付けられる」(松田校長)。

 通常、文字の書き取りをする場合、教員が丸付けするが、書き順までは見ることはできない。ところが、アプリゼミなら書き順が把握できる上、なぞり方で点数が変わるような仕組みとなっている。

 「点数が出ると意欲が出るし、点数を付けているのは機械なので客観性がある」と松田校長は語る。できる児童には厳しく付けるが、できない児童ががんばっていたら丸を付けてしまうなど、教員が点数を付けると正直、基準がずれることがあるものだ。その点、機械が点数を出しているので公平というわけだ。

 同校では、アプリゼミを4月から本格導入する予定だ。他にもいろいろなアプリがあるが、「ゲーミフィケーションの考え方、量の概念を取り入れたり、子供が主体を持って学べる点」を評価した。学習指導要領に準拠しているため、進度に沿った内容の教材を進めていく予定だ。

ミラーリングでプレゼンが楽しくなる

 松田校長は昨年4月に東愛宕小学校に着任したばかり。iPadは松田校長が中心となって取り入れたものだが、元から詳しかったというわけではない。むしろ、以前いた学校では、配布されているのに使えていなかったくらいだという。

 ところがある時、ミラーリング(iPadの画面をテレビの画面に映し出すこと)を見て、「これは学習に使える」と思い、使い方を学んだという。「iPadを使うと、子供たちにとって発表が楽しくなる効果がある。以前は緊張して恥ずかしがっていたけれど、喜んで発表している」と松田校長。今後、高学年に英語での発表にも使わせたいと考えている。

 iPadは、制約をしすぎると可能性を失ってしまうと考え、あまり制約は設けていないが、トラブルはほとんどないという。子供はタブレットを受け取った当初から勝手に使いこなしており、子供が使うと教員も使い出す傾向にあるとしている。

アプリは豊富だが、高価なiPad

 AndroidタブレットではなくiPadを選んだ理由は、使いやすさとアプリの多さだ。例えば、子供用プレゼンアプリ「ロイロノート」は、発表が苦手という子供も「発表が楽しい」と言う良アプリ。ところが、このアプリはAndroidにはまだ存在しない。

 iPadの欠点は、1台約6万円と大変高価なこと。東愛宕小学校で現在利用している端末は、購入したのではなくすべて貸与されたものだ。市からも21台借りているが、それでは足りないので、松田校長が周囲に声をかけて児童数分かき集めた。

 今後、児童数が増えればもっと多くのiPadが必要となれば、人数分集められなくなるかもしれない。「将来的には保護者に購入してもらい、BYODにしていきたい。そうでなければ続けられないので、それまでに導入効果を実証していきたい」(松田校長)。

保護者は7割が賛成、3割が懐疑的

 保護者からの反応は、必ずしも最初から良かったわけではない。導入する弊害を指摘する保護者もいたくらいだ。しかし導入後、iPadを使った学校公開授業を行った上でアンケートを取ったところ、「集中していて楽しそうだった」「学習に役に立つのではないか」と好意的な回答が7割となった。ただし、依然として「勝手に危ないサイトに行くかもしれない」「目が悪くなる」「外で遊ばなくなる」と懐疑的な人も約3割残る。

 新1年生の保護者が来校し、実際に端末とアプリを利用する機会が設けられた。利用した保護者は、「家でもスマホで学習系アプリを使わせているのであまり抵抗感はない。子供も楽しんで使ってくれそう。学校でどんなふうに使っていくのか興味がある。(タブレットなどの利用は)避けて通れないものなので、この機会に正しい使い方を学んでほしい」という。

 子供はやはりタブレットが好きだ。楽しそうに自ら学ぶ姿を見て、改めてそう感じた。課題は、タブレットをせっかく購入しても使いこなせない教員たちだろう。しかし、このように活用している先例を見習って導入することで、うまく活用でき、効果も上がるのではないだろうか。

高橋 暁子

小学校教員、ウェブ編集者を経てITジャーナリストに。Facebook、Twitter、mixi などのSNSに詳しく、「Facebook×Twitterで儲かる会社に変わる本」(日本実業出版社)、「Facebook+Twitter販促の教科書」(翔泳社)など著作多数。PCとケータイを含めたウェブサービス、ネットコミュニケーション、ネットと教育、ネットと経営・ビジネスなどの、“人”が関わるネット全般に興味を持ってる。http://akiakatsuki.com/