イベントレポート
CEATEC JAPAN 2016
「さくらのIoT Platform」は“データを迎えに行く”プラットフォーム
2016年10月11日 11:00
本誌ですでにお伝えしたとおり、さくらインターネット株式会社は、IoT向けの通信環境やデータ処理に必要となるシステムを一体で提供するプラットフォーム「さくらのIoT Platform β」の申し込み受付を開始した。この「さくらのIoT Platform β」について解説する講演「さくらのIoT Platform β ~さくらインターネットが取り組むIoT~(β版提供について)」が、「CEATEC JAPAN 2016」で開催された。
「データを迎えに行く」プラットフォーム
まず、「さくらのIoT Platform β」の背景について、さくらインターネットIoT事業推進室室長の山口亮介氏が解説した。
さくらのIoT Platformは、これまでクローズドなα版として試験提供してきた。山口氏は「α版では機能を開発してきた。β版では価格を開発し、さくらインターネットらしい価格を提示したい」と、β版の位置付けを説明した。正式サービスは2016年度中を目指す。
山口氏はIoTについて「弊社では『モノのインターネット』ではなく『モノ・コトのインターネット』と呼んでいる」とし、「インターネットにデータが集まってくれば、モノ・コトの相関性が調べられる。たとえば、『風が吹けば桶屋がもうかる』かどうかも検証できる」と説明。「そこで、モノがインターネットにデータを上げるにはどうするかが問題になる。『モノがつぶやけばいいのに……』という言葉がきっかけで、さくくらのIoT Platformを開発した」と述べた。
さくらのIoT Platformの特徴として山口氏は「データを迎えに行く」と表現した。モノからインターネットにデータを上げるには、組み込み機器や通信モジュール、ネットワーク、データベース、ミドルウェア、APIによるデータ連携と、種類の異なるスキルが必要になり「すべて自社でやるのは現実的ではない」と氏は指摘。「やりたいことはサービス。ほかは、すでにあれば使いたいというのが本音だ。さくらは通信からデータ連携までを、中身を隠蔽して提供する」と説明した。
注意点として、さくらのIoT Platformは統合型プラットフォームであり、SIMやクラウドサービスなどの単体提供は指摘していないと山口氏は強調した。
LTEカテゴリー1のほか920MHz/2.4GHzのモジュールも開発
通信モジュールについては、さくらインターネットIoTチームの椚座淳介氏が解説した。
通信モジュールはデバイス側エッジであり、製品に組み込むことでLTE閉域網でつながる。サイズは46×34mmで、ほぼSDカード2枚分の大きさだ。通信プロトコルスタックもモジュールに内蔵し、I2CまたはSPIのシリアルバスでデータを投げ込むだけで利用できるという。
通信モジュールは、「脱プロトタイプ」として量産性を考慮した仕様を意識して新規設計したという。
もう1つ力を入れたのが長期運用を考慮した低消費電力で、電池で数カ月の運用を実現、商用版では年単位の運用も可能にするという。そのために、M2M/IoT向けにソフトバンク株式会社、Altair Semiconductor、太陽誘電株式会社が開発したLTEカテゴリー1モデムを搭載する。
LTEだけではなく、920MHz(LoRa)や2.4GHzのモジュールも開発し、無線方式の特徴に合わせて選べる。すべて形状・寸法インターフェースが同じため、差し替えて使えるという。ソフトウェアからも無線方式を意識しないコマンドで制御するため、ソフトウェアの大きな変更もないという。
質疑応答では、LTEの国外対応についての質問があった。これについては「β期間はとりあえず国内だけだが、必ず世界でやりたい」とのことだった。
2つの連携方式と3つのデータ保存先
さくらのIoT Platform自体については、さくらインターネット執行役員技術本部副本部長の江草陽太氏が解説した。
まず、プラットフォームの連携方式について「リアルタイム連携」「バッチ処理」の2種類の方式を説明した。リアルタイム連携はリアルタイムの接続であり、WebHooksやWebSokcet over SSL、MQTTといった汎用プロトコルで通信する。さらに、AWS(Amazon)やBluemix(IBM)、Azure(Microsoft)、myThings(Yahoo!)、BOT TREE(ZEALS)、Milkcocoa(ウフル)といった各種サービスとも、ウェブのコントロールパネルから接続できる。
一方のバッチ処理は、通信モジュールからのデータをさくらのIoT Platformで永続的に保存し、一括や条件付きで取得して日次バッチ処理などに使うものだという。
通信モジュールからのデータの保存先は、共通の領域に保存する「オープン」(無料予定)と、領域は一緒だが自分しか見られない権限の付いた「クローズ」、ユーザー専用の環境に保存する「プライベート」の3つがある。
さらに、通信モジュールのファームウェアも自社で開発したことにより、通信モジュールの機能を利用したサービスも提供できる。たとえば、マイコンのファームウェアアップデートをアップロードしておいてファイル配信するような機能や、通信モジュールの時刻同期の機能をマイコンに提供するようなことができるという。
なお、最近、IoT機器がDDoSの踏み台にされると言われていることについては、さくらのIoT Platformではモジュール・通信・プラットフォームが一体化しているため、ほかから接続できないというセキュリティがあるという。
これらの機能については、パートナーと協力して作ってきたことが語られた。これらには水門の制御やスマートキーがある。パラグライダーの位置情報の例では、LTEは電波法で空を飛べないことからLoRaなどの通信方式が追加されたという。
現在進めているものとしては、ハウステンボスとのPoC(概念実証)が紹介された。パーク内のゴミ箱に機器を取り付け、Bluemixでデータを分析して効率的なゴミ収集を図るという。
BluemixやmyThingsと接続したデモ
パートナー企業のサービスとの連携については、さくらインターネットフェローの小笠原治氏がデモを交えて解説した。
小笠原氏は「さくらインターネットはインターネットの会社なので、アプリケーションは自分たちでなくパートナーと組んで作る」と語った。
まず、非接触の心拍センサーをさくらのIoT PlatformによりBluemix上のNode-REDのプログラムにつなげるデモ。ただし残念ながら、デバイスの不調でデモはうまくいかなかった。
気をとりなおして、次は気温が上がって熱中症になりそうなら警告するデバイスのデモ。myThingsでYahoo!の天気情報を取得し、さくらの通信モジュールと音声チップを付けたArduinoで警告をしゃべるものだ。
そのほか、デモはなかったが、BOT TREEでチャットボットを作リ、電灯がつきっぱなしになっていることを教えてくれる例や、メッセージで命令してエアコンをつける例なども紹介された。
β期間は利用料金無料
最後に再び山口氏が、料金などについて説明した。
受付は10月5日に開始し、10月末ごろに発送予定、利用開始日は11月1日。β版提供記念として各製品の半額キャンペーンを実施しており、LTE通信モジュールが4980円、Arduinoのシールドボードが4000円、ブレイクアウトボード(検証ボード)が2500円で提供される。
プラットフォームの利用料金はβ期間中は無料。利用料金は、1RM(Relation Message、ほぼ送受信に対応)に対応するRP(Relation Point)を単位として課金し、通信モジュールには100万RPが付属する。1モジュールあたり月額最低利用料100円を予定しているが、それも含めて「料金は、みなさんの様子を見ながら決める」と山口氏は語った。
なお、質疑応答では、さくらのIoT Platformの想定提供期間について質問がなされた。さくらインターネットでは「製品に組み込むには提供期間が短くては困るというご要望があると思う。そういったご要望をぜひβ版でいただきたい」との回答だった。
また、通信モジュール単体方式のほか、ゲートウェイを経由して利用する「ゲートウェイ方式」も開発中と発表されていることの質問に対しては、「本番サービスまでに提供する。ハウステンボスとの実験でも、ゲートウェイタイプについても検証する」との答だった。