イベントレポート
ARM Tech Symposia 2016
ARMのIoTポートフォリオ「チップからクラウドまで」
2016年12月5日 06:00
CPU設計大手のARMが2日、年次イベント「ARM Tech Symposia 2016」を都内で開催した。基調講演のうち「ARM Keynote」と「ARM Product Keynote」では、10月下旬に米国で開催された「ARM TechCon 2016」で発表された内容を中心に、英ARM自身のビジネスと製品が語られた。ここでは、基調講演後の記者説明会で語られた内容もあわせ、IoT関連の話題をレポートする。
デバイスからライフサイクルまでのIoTセキュリティを支援
ARM Keynoteでは、英ARMのRene Haas氏(Executive Vice President and Chief Commercial Officer)が同社のビジネスについて語った。
まず、ソフトバンクグループによる買収以降の体制について。「買収を発表したときに、5年で2倍に人を増やすと発表した。これが我々には大切なことだ」とHaas氏は言う。「IoT、エンタープライズ、サーバー、ネットワークなどに事業を広げていける。これは単独の会社では難しかった」。
そのIoTについて、「The Economist」誌の調査ではIoTがすでに「ビジネスに影響を与えた」という回答が大半となっているという。ただし、その課題としては「セキュリティ」「コスト」「知識」の3つが挙がっている。
Haas氏はIoTのセキュリティについて「デバイス」「コミュニケーション」「ライフサイクル」の3種類のセキュリティに対するARMの対応を説明した。
デバイスセキュリティへの対策としては「TrustZone」が対応し、ライセンス先メーカーが対応する。また、コミュニケーションセキュリティは、「CryptoCell」や、パートナーエコシステムによる実装が挙げられた。そして、デバイスを最新にアップデートしていくライフサイクルセキュリテイとしては、「mbed Cloud」によるデバイス管理が対応する。
「ちょうど10月のARM TechConのころ、MiraiボットによるDDoS攻撃が大きな問題になっていた。古いルーターなどではいろいろな穴が放置されている。ファームェアを常に最新にしていくことが必要だ。」
Haas氏はIoTの応用例として、多数のCPUが組み込まれている現在の自動車や、自律走行車、ヘルスケア、スマートシティ、農業などを挙げた。
「ARMの核はパートナーシップであり、エコシステムだ。1社ではできない」とHaas氏。昔の携帯電話の時代は垂直統合で機能が限られていたが、スマートフォンの時代はアプリケーションのエコシステムが築かれた。同様に、「従来の組み込みデバイスは単純な機能でクローズドだったが、IoTではアプリケーションのエコシステムこそが機会となる」と氏は語った。
Haas氏は「mbed Cloud」の事例として、ビル建築現場での利用例を紹介した。ビル建築では、コンクリートを流して固まるまでの時間がリードタイムを決めるという。そこで英国のある建築会社では、マイクロコントローラをコンクリートに埋め込み、固まる様子をネットワーク経由でモニターしたということだ。
そして日本でのIoTについて、「携帯や自動車で先行した国であり、材料はそろっている」と語り、日本でのパートナーシップ拡大に意欲を見せた。
最後に、日本の次期スーパーコンピューター「ポスト京」でARMv8-Aアーキテクチャが採用されたことを取り上げた。「ARMは12カ月前のARM Tech Symposiaで話したときと同じ会社だ。そして今、ソフトバンクによって、より先に進める」とHaaS氏は話を締め括った。
デバイスを管理するためのSaaSを提供
ARMのIoTポートフォリオについては、基調講演後に開かれた記者説明会で、Michael Horne氏(Deputy General Manager and Voice President of Marketing and ales, IoT Business Unit)により整理して語られた。
ARMのIoTポートフォリオについてHorne氏は「チップからクラウドまで」と説明した。2015年には15億のARM CPUがパートナーを通じてセンサーからサーバーまでの用途で出荷されているという。IoTの構成要素としても、チップや、IoTデバイスを管理するクラウドSaaS、セキュリティなど、IoTをサポートするさまざまな要素技術が用意されている。
10月のARM TechConでは、これらのIoTデバイスをクラウド管理するための、クラウドSaaSサービス「mbed Cloud」と、mbed Cloudに対応した組み込みOSの「mbed OS 5」が発表された。mbed Cloudとmbed OS 5の間は簡単にセキュアな接続でつなげられ、全デバイスにセキュリティ、接続、プロビジョニング、アップデートの手段を提供するこれにより、脆弱性問題などへの対応がすばやく確実にできる。SaaSモデルで、必要な機能だけを使い、使っただけ課金される。mbedはもともとクラウド上の開発環境で開発したプログラムをデバイスにデプロイできるようになっており、そこでは月に100万を超えるデバイス用のビルドがなされていることも紹介された。
「86%の企業が、IoTの課題として、いかにデバイスを管理してファームウェアを確実にアップデートするかを挙げている。mbed Cloudでデバイスの管理がシンプルになり、アプリ開発にフォーカスできる」とHorne氏。
一方、デバイスとしては、組み込み向けプロセッサのCortex-Mファミリーで、チップ内でプログラムを隔離して動かす「TrustZone」と、暗号化支援機能の「CryptoCell」に対応することが、ARM TechConでは発表された。ARMv8-M命令セットのCortex-M33とCortex-M23も発表されている。
IoTセキュリティに対応したARMv8-Mプロセッサ
そのCortex-M33/M23については、Monika Biddulph氏(General Manager, Systems and Software Group)の「ARM product keynote」における一連の製品の説明の中で解説された。
Cortex-M33/M23は、いずれもTrustZoneに対応し、インターネット接続されたデバイスへのセキュリティのために別途チップを必要としないとBiddulph氏は説明した。
Cortex-M33は小型のプロセッサで、Cortex-A5の20%のサイズ。ベースコアにコプロセッサ対応やFPU、TrustZoneなどを組み合わせるようになっており、単純なセンサーからコントローラー、複雑なIoTデバイスまで広い用途に利用できるという。
Cortex-M23はさらに小さく、Cortex-M33の25%のサイズ。電力消費が小さくエナジーハーベスティングを含む電力の限られる応用分野に向き、「スマート絆創膏も可能になる」とBiddulph氏は語った。
チップやソフトウェアのベンダーなど、パートナーのエコシステムでも新しいCoretx-M/ARMv8-Mへの対応を表明していることも紹介された。
さらにBiddulph氏はセキュリティ機能を構成するコンポーネントとして、TrustZoneのSIE-200を解説。また、暗号化支援のTrustZone CryptCell-312、省電力無線のCordio Radio、mbed OSを含むCoreLink SSE-200も解説した。