イベントレポート

CCDシンポジウム

権利者とユーザーは垣根を越えられるか、コンテンツ流通のWin-Winな未来とは

 権利者や制作者の業界団体が加盟する「デジタル時代の著作権協議会(CCD)」は15日、「クラウド時代におけるコンテンツ流通促進を考えるシンポジウム」を開催。その中で、ユーザーと権利者が垣根を越え、どうすればWin-Winの関係を築けるかというテーマでパネルディスカッションが行われた。

 登壇者はコンピュータソフトウェア著作権協会(ACCS)専務理事の久保田裕氏、実演家著作隣接権センター(CPRA)常務理事の椎名和夫氏、電通総研研究主席兼メディアイノベーション研究部長の奥律哉氏、フジテレビジョン編成情報センター室長の金田耕司氏。モデレーターは立教大学社会学部メディア社会学科准教授の砂川浩慶氏が務めた。

左から久保田氏、椎名氏、奥氏、金田氏

 以下、主な発言をまとめる(敬称略)。

クラウド時代にあった「クリエイターへの還元」を

実演家著作隣接権センター(CPRA)常務理事の椎名和夫氏

砂川:クラウド時代になってコンテンツの利用環境が劇的に変化しましたが、権利者、ユーザー、メーカーの関係者がお互いに良い関係を築くにはどうすればよいと思いますか?

椎名:クラウド時代でコンテンツが拡散していく中で、情報が豊富になってみんなの暮らしが豊かになりました。その一方で、僕自身は音楽家ですけれど、作り手のほうになかなかお金が回ってこない状況を何とかしないといけないんだろうと。

 クラウドは今、非常にホットなイシューですが、そこに現実的なマネタイズの仕組みをきちっと組み立てていくこと。ビジネスモデルが成立しない部分については、補償金なり何らかの形でクリエイターに対価を返す仕組みが重要だと思っています。

 その意味では、昨年秋に私的録画補償金の最高裁の決定があって、私的録画補償金は事実上消滅しつつあります。そこら辺も含めて、これからは国の役割が非常に重要です。著作権法がうまく機能しなくなる中で、国がどういうふうにリコンストラクション(再構築)していくのか。ユーザー、メーカー、権利者もWin-Winになる関係をどう作れるかが、これから進んでいくべき道だと思うんですよね。

 そのためには目先を変えなければいけない。実際、補償金問題ではメーカーと権利者が激しく対立する構造で10年間くらい過ごしてきましたが、それを見直してクリエイターに対価を戻す仕組みを再構築する。それについてはぜひ、文化庁が音頭を取ってくれれば。

コンテンツの面白いところだけを「食い散らかす」時代

フジテレビジョン編成情報センター室長の金田耕司氏

金田:チャットしながらテレビを見るなど、視聴者のテレビの見方が変わっているのは、うちの調査で実感しています。一言でいえば、若い人は「コンテンツの食い散らかし」というような印象がありまして。

 3年前の調査だと「好きなテレビ局はフジテレビ」いう人に、フジテレビの好きな番組を聞くと「アメトーーク。」とか「帰れま10」とか。つまり、局と番組のイメージが一致しなくなってきているんですね。去年の調査では番組名すら言えない人がいて、「10位まで当てないと帰れないやつ」とか。

 何が言いたいのかというと、昔はどのテレビ局の何時から、うちで言うと「月9」というのがありますが、枠の概念が全くなくなって、面白いところだけの食い散らかし。テレビで見逃しても、「ネットにアップされた動画を見ればいいや」と。こんな人を相手にどういうコンテンツ展開をしていけばいいのかと大変だなあと思います。

 ネット系のデバイスが無視できない時代になって、売り上げ単価のゼロ1つ少なくなっています。つい10年前はドラマやアニメのDVDで1本3000円というイメージ。中に4話くらい入っていて。でも、今のネットの見逃し配信は1話300円で、4話で1200円程度。

 そんな時代でWin-Winになるためにすべきことは、売り上げが3分の1になるなら、マーケットを3倍に広げるしかない。しかも、単価が落ちているので少なくとも3倍以上。日本国内が無理だとして物価が安いアジアに進出するなら、30倍のユーザーを捕まえないと10年前の状況は維持できないという実感は持っています。

奥:15年以上にわたって市場調査をしていますが、若者のコンテンツ利用が変わっているのは間違いありません。金田さんが言うように、放送局のブランドは「局」から「番組」へ、そこからさらに「コーナー」へと断片化しているのはその通り。

 10代、20代の若者は10年後に社会のコアとなって働くわけですが、彼らが40歳になって惑わなくなるかというと、テレビが好きな人はテレビが好きだし、ネットが好きな人はネットが好きで変わらない。コンテンツやデバイスの感覚は青少年期に受けた影響は大きいので、早めに彼らの気持ちを理解した上でサービスを提供するのが大事だと思います。

「いい大人」はそろそろコンテンツ流通促進の中身の話を

砂川:コンテンツをめぐっては、「権利保護」と「利用の円滑化」が二項対立でとらまえられることがあります。本来、これらは車の両輪で、バランスがとれなければ市場が成立しません。権利保護と利用円滑化という意味で、ミュージシャンでもある椎名さんはどう考えていますか?

椎名:本質的な利用円滑化といった時に、(売り上げ単価の)ゼロが1つないし2つ少なくなっちゃってる。嫌な言い方ですけど、客単価が落ちている。そんな中で「円滑化もしろ」と言われて、どうすりゃいいんじゃいというのがあります。

 コンテンツ、権利者、ユーザーもそうだけど、日本の場合は各立場の事情に埋もれがちになります。権利者は原理主義的になるし、利用者はコピーレフトになるところがあって。そこらへんはもうそろそろ、いい大人がやっているんだから、10年も20年もやりあってもしょうがない。利用円滑化と権利保護のコンフリクト(対立)を逆に利用して、お互いにインセンティブが感じられるようなモデルを作っていくべき時期に来ている。

 実際、Appleがどうだったかといえば、大量の音楽コンテンツを取り込んでうまくやってきましたよね。日本でもアナログ盤からCDになったことで、音楽産業は3000億円から6000億円に育ったんですね。それはメーカーと権利者が両輪でやったから。それからさまざまな要因で3000億円に下がりましたが。

 そうした中で、日本のメーカーもコストの問題というところで、有能な経営者であるほど補償金をコスト視してカットしようとして、コンテンツへの有用性への配慮が足りなかった気がします。

 裁判でさんざっぱらやってきた中で、本当にマーケットを拡大するのか、あるいは単価を上げるのか、どっちもあると思うんですけど、いい大人はそろそろ中身の話に入ってもいいというのが素直な感想ですね。

著作権法改正は「決して規制強化ではない」

コンピュータソフトウェア著作権協会(ACCS)専務理事の久保田裕氏

砂川:一般的には、「著作権法は規制強化路線」というイメージがありますがどう思いますか?

久保田:著作権は、「許諾を取ればいいんでしょ」というのが大原則なんです。それがわかれば、「許諾が取れなければどうするか」となる。まず許諾を取りに行く発想がないので、「著作権法が整備されると首が締められる」という規制のイメージになってしまうのだと思います。

 多分それは著作権法の伝え方が悪いし、著作権教育が間違っているんです。規制されているというような発想があるせいか、違法ダウンロードの刑事罰化について、著名な人たちが新聞コラムで「文化を殺す」と言っているが笑ってしまいます。

椎名:ネット上に拡散してしまったコンテンツは、私的なエリアであれば権利が制限されるというルールがあるんだけど、そこからはみ出した量が膨大だったので「何とかしよう」というのが罰則の話。規制強化ということではなく、ぼーっと膨れてしまったところを元に戻し込んでいるんです。許諾を取れない利用は消していきましょうと。

 僕は、著作権法が規制強化の方向で何年も動いてきたとは全く思っていません。規制緩和、規制緩和、規制緩和、規制緩和と来て、怒った権利者が「規制強化」とちょっと言ったくらいの話。自分の事情だけではなくて、全体を見渡した上で、いろんな当事者が考えるべき時ではないでしょうか。

ネットの放送コンテンツ二次利用に未来はない?

立教大学社会学部メディア社会学科准教授の砂川浩慶氏

砂川:テレビ局としては権利保護と利用の円滑化についてどう考えているのでしょうか?

金田:国内の違法動画に関しては結構がんばってやってきた感じもあって、ISPも理解してくれています。海外では、ついこの間まで中国の(動画共有サイト)「YOUKU」が違法動画でえらいことになっていたのが、尖閣あたりからアップロードされなくなったんですね。うちは中国対策の予算を会社から確保して外部に発注していたのが、「あらっ、やることなくなっちゃったよ」という状態でして。

 今は(違法動画を)落とすことが目標になっていますが、本来は正規コンテンツを流通させるのが目標のはずで。海外展開の視点がないような気がします。

奥:新しいサービスには新しいコンテンツが必要だと考えています。でも実際には、マルチユースや二次利用とか、「ここにあった物をあっちに入れる」といったことが進められていて、「それで楽しいですか?」と。従来のコンテンツを右から左に流すだけではお金が回らないよね、というのがあります。

金田:「ネットでコンテンツを出せ」という話になると、いつも放送コンテンツとなる。
ありがたいですけども、それ以外のところにも目を向けるべきではないでしょうか。海外で放送コンテンツの二次利用を10年やってきても成功例がないのは、ここに答えがないからなのかもしれない。とはいえ、「テレビ局は右肩下がり」というものの、放送で食えちゃってる部分があるんですね。食えちゃうのを自ら否定するのは人間としては難しいことで。

 海外展開という視点では、日本国内でリクープ(回収)することを前提としたコンテンツと、海外でウケることを前提としたコンテンツがあってもいいとは思います。そのために、権利者、実演家、作詞作曲家、プロデューサー、みんなが力を合わせて「世界で当ててみようぜ」という試みができると面白いかもしれません。

 そこで大事なのは、いかに「無駄をできるか」ということ。ハリウッドのシステムは、1本のテレビ番組を成立させるために、100本のあらすじを書かせています。米国の予算の付け方は無駄前提で、100個捨てても1個が5年間当たればリクープできると。そのためには国の支援があれば冒険しやすいのになあというのはあります。

機能しなくなった補償金制度を所管する行政はけじめをつけるべき

電通総研研究主席兼メディアイノベーション研究部長の奥律哉氏

椎名:国の役割という意味では、利用円滑化と権利保護のコンフリクト(対立)の中で著作権法をはさんだやりとりがありました。あえて話をずらしますが、象徴的なのは補償金の話。「デジタル方式の録音録画はオリジナルと同じ物ができてやばい」「だから補償金払ったほうがいい」という趣旨が、このデジタルコピー全盛の世の中で機能しないのはおかしいと思うんですよね。

 補償金に制度としての瑕疵があるのかも含めて、機能しなくなった制度を所管する文化庁と経産省は、行政としてけじめをつけるべきではないでしょうか。権利者とメーカーの対立になっているので、それを解きほぐしたり、先のロードマップを引くのは行政の役割だと思います。

久保田:ゲーム業界はいっときマジコンに席巻されかけましたが、不正競争防止法や著作権法で対応したことで、確実に抑止力が働いたというのがあります。その意味では法律をきちんと作るのが重要ではないでしょうか。

 国の役割で重要なのは、権利保護団体のデータベースを国が承認することです。例えば、欧米や中国で権利を主張したときに、「データベースが日本政府に準じて管理しているもの」と保証してもらいたい。権利者としても、権利を主張できるかたちがあれば、タイムスタンプを応用した著作権保護を行う程度のことはやりますよ。

椎名:国のほうで、コンテンツに対するメタデータ保有やコンテンツID付与の仕様を決めてくれればみんなやるわけですよね。権利者は権利者で所在を明らかにしなさい、きちんと管理できる体制を取りなさいということを含めて、権利処理の環境を整えるという意味での法整備はどんどん行われてもいいんじゃないかなあと思います。

奥:ユーザーの立場を考えると、クラウド時代になってOSやプラットフォームが変わった時に、コンテンツの利用権は担保されているのか、という不安があります。「一度お金を払ったのにまた買い直すわけ?」という怖さがある。事業者側の事情によってシフトした時に、同じ利用権利はあるのか。物(パッケージ)があれば安心ですけど、クラウドではどうなるかが気になるんですね。そこがすかっとしたときにユーザーは活性化するはずです。

(増田 覚)