イベントレポート
Cloud Conference 2013
クラウド事業者トップが本音で語る、AWS対抗で「国内事業者ならではの強みを!」
(2013/3/13 14:46)
3月12日、社団法人 日本インターネットプロバイダー協会クラウド部会は、「Cloud Conference 2013」を東京・コクヨホールで開催した。
ユーザーではなく、クラウド事業者の立場からさまざまな角度でクラウドに関するセッションが行われたが、最後の時間に行われたのが「国内最大級のクラウド事業者のトップ達が全てを語る」と題されたパネルディスカッション。デロイトトーマツコンサルティング株式会社 TMTインダストリグループ パートナーの八子知礼氏をモデレーターに、NTTコミュニケーションズ株式会社のクラウドエバンジェリスト 中山幹公氏、さくらインターネット株式会社の代表取締役 田中邦裕氏、GMOクラウド株式会社の代表取締役 青山満氏と、クラウド業界ではお馴染みのメンバーが揃った。
サブタイトルに「そこまでしゃべるか1時間半 Ust、Twitter投稿を禁止にしてでもしゃべりたい、伝えたい事がある!」とあり、それまでのセッションで進めていたTwitterでの投稿も、「このセッションでは控えてください」と出演者が壇上から呼びかける、本音一杯のディスカッションとなった。
「儲かっている?」「オンプレミスの方が安いのでは?」各社が本音で語る
八子氏が用意したパネルディスカッションのテーマは、「今、俺のクラウドの熱い叫びを聞け!」。最初に八子氏がクラウドを取り巻く現状を紹介。グローバルでのサーバーの数が、論理サーバーが物理サーバーを抜いて大きく上回り、2012年にはワールドワイドで1億台を突破し、依然として高い成長率を維持している。調査会社のデータでは、SaaSマーケットは2011年から2015年で2倍に成長するという予測を出している。
日本でのクラウド利用状況についても、「日本ではクラウドの利用は進んでいないと思われるかもしれないが、NTTコミュニケーションズさんの1年前の調査で、クラウドの利用は3割弱。現在はすでに3割を超えているだろう。アジアの他の国と比較しても、認知度が最も高いのは日本」(八子氏)と日本のクラウド利用が進んでいることをアピールした。
これを前提とした上で、3社に対する最初の質問は「ずばり、クラウド事業は儲かっているのですか?」。直球の質問であったが、3社とも「儲かっています」という答えが返ってきた。ただし、その中味については、さくらインターネットの田中氏は、「まだ母数が少ないので」、NTTコミュニケーションズの中山氏は「エンタープライズ領域で」と、状況は異なるもののビジネスが伸びているのは確かのようだ。
これまでクラウド導入に辺りネックとなってきた、「クラウドを利用するよりも、自分でサーバーを購入して自分で運用した方が安くなるのでは?」というユーザーの疑問も、「決してそうではない」と三人が口を揃えた。
GMOクラウドの青山氏は、「事業者は大量にサーバーを購入するので、サーバーの価格比較をしたら事業者の方が圧倒的に有利。セキュリティを自分で組んだ方が安上がりという声も聞くが、これだけセキュリティ攻撃が多い時代に自分で対策をすることの方がリスクは多いし、コスト的に見ても決して安価とはいえない」と運用においても専門の事業者に任せた方がコスト、リスクの面から見てもメリットは大きいことを指摘した。
今回登場した3社とも、国内でクラウド事業を展開する事業者。3社の前に大きく立ちはだかるのが先行するAmazon Web Service(AWS)だ。八子氏は、「日本の事業者はAWSと競合した場合に、彼らにはない優位性を持つことが出来るのだろうか?」と問いかけた。
田中氏は、「クラウド専業ではなく、専用サーバーなどクラウド以外のラインアップを持っていることが強み」とクラウド専業でないことが強みになるとアピール。他の二人もラインアップが幅広いことがAWSにはない特色としている。
ただし、同じ企業が扱う商材でありながら、同じような営業活動、ターゲットではビジネスはうまくいかないのだという。これはクラウドは低価格で時間単位で利用出来ることが特長なサービスであるのに対し、専用サーバーは利用する企業側が検討し、承認を得た上で利用するものであるなど、商品毎の特性によるものだ。
「レンタルサーバーは単価が安いので基本はネット上で商談をクローズできる体制を作る。それに対し専用サーバーとなると、対面で要望聞いて、こういう形で構築しましょうとアドバイスした上で利用をスタートしてもらうことになる」(青山氏)
比較的安価なクラウドに関しては、出来るだけ手をかけずに販売することが理想だが、「IaaSは、中小企業の人が宣伝すれば買ってくれると思っていたが、それは幻想だった。IaaSをあまり説明することなく買ってくれるITリテラシーが相当高くて、自分でどうにかできるベンチャー企業か、情報システム部門がしっかりしている会社だけ」(中山氏)と現実にビジネスを行うと見込みが違うケースも多いそうだ。
それでは単価の低いクラウドをビジネスとするためには、「多数の顧客を獲得すること」(田中氏)と三人の見方は一致した。
AWSに対して国内クラウド事業者はどうあるべきか
それに対し八子氏は、「ではその多数の顧客を獲得する際に、AWSと戦っていくことが出来るのか?」と問いかけた。
既存の法人向けビジネスでの経験が長いNTTコミュニケーションズの中山氏は、「主戦場はエンタープライズ市場。最近はAWSも力を入れているので、競合することも増えてきたが、現段階ではうちの方が今は強みがある」と自社の強い分野であれば、戦える可能性は十分にあると強調した。
また、「クラウド利用で月額数百万円レベルとなると、全てクラウドを利用するのではなく、専用サーバーなどとのハイブリッド利用が低コストになるのでそういうアピールを行っている。また、AWSは機能が多すぎて使い切れないという声もお客さんからあがってくるようになった」(青山氏)と顧客に合わせた提案ができることも日本の事業者の強みとなっている。
また、よく言われる「ワールドワイドで事業を展開するAWSには、日本の事業者はコスト的に勝てない!」という指摘についても、「物理サーバーの単価はどんなに下がっても下限が決まっている。例えば我々の100倍の物理サーバーを買っていても、購入額が100分の1になるわけではない。使用する電気コストだって、どれだけ規模を大きくしてもコスト削減できる幅には限りがある」(田中氏)と現実的に比較してみせた。
「先行する企業が圧倒的に強い」という見方についても、「先行者は最初に導入した古いハードウェアを使い続けなければならないので、コストパフォーマンスで考えれば後発の方が先行者よりも有利な面もある。後発ならではのメリットは何かを考えて戦っていくというやり方もある」(田中氏)とあえて後発であることの特性もあるという。
ただし、クラウド専業ではないことによるデメリットが出ていることも明らかになった。AWSの場合、最初の申し込みから拡張、新たなサービスの追加に至るまで全てが最初の窓口から申し込むことが出来る。それに対し今回参加した三社ともに、申し込み窓口が別々で、例えば専用サーバーからクラウドへの移行といった場合にはサービスの切り替えが必要となる。
そのため、「スタート時点で、高いのはわかっているのだが日本の事業者ではなく、AWSを申し込んだ」という利用者や、「最初は日本の事業者のサービスを使っていたのだが、卒業してAWSに移行する」という利用者がいることが三人の口から明らかになったのだ。
八子氏は、「こうした利用者に最初から、卒業されずにサービスを使い続けてもらうための仕組みやブリッジ的なものが必要なのでは?」と問いかけると、三人は大きく頷いた。
また、三社ともに日本以外の国での事業展開に向けても取り組んでいるが、その一方で、「小さい会社だからこそ出来るきめの細かいサービスというのもある」(田中氏)との指摘も。「クラウド事業者も規模ばかり追求していると隙間が出来る。その隙間をどう埋めるのかが課題」と八子氏も話した。
今後の展望については、田中氏は「日本の事業者はAWSを見過ぎている。対抗して機能を増やしていくだけでなく、クラウド以外のサービスもあります!という視点で比較してもらうと、我々ならではの強みもある」と自分たちの強みを改めて考えて訴える必要があると言及した。
中山氏は、「田中さんの仰ることが本質だが、我々はあえて対抗する姿勢も作っている。当社は複数の国にまたがってシームレスに使えるサービスまで本気でやっている。どうせなら、日本で税金を払っている事業者のサービスを選んで欲しい」とNTTグループならではのアピールを行った。
クリエイティビティとしてのコンピューティングも考慮すべき
青山氏は、「今日は議題にあがらなかったが、伸びているというクラウドの中でゲーム事業者の利用が多いことにも着目すべき」と指摘。これには八子氏も、「確かにこれまでのコンピューティングは効率追求という側面ばかりだったが、クラウドというのはまさにパラダイムシフト。クリエイティビティとしてのコンピューティングというのはもっと考えていくべき」と反応した。
また、青山氏は、「クラウドは知っている人は増えているが、クラウドとは何でも出来るものといったように、勘違いされていることも多い。本当のクラウドが何かをきちんと理解してもらい、感覚的に使いやすいものとなるよう開発をしていかないと」と開発事業者としての決意を語った。
三者三様の見方を聞いた八子氏は、「それぞれ特長ある戦い方をしているし、クラウドなのか、クラウドではないのかという二者択一で考えてはいけないんだと痛感した。それと共にクラウド専業ではない日本のベンダーの強みと、乗り越えるべき課題も明らかになった。戦い方の違い、商材の違い、お客様の違いを明確にしてビジネスをしていかなければならないことも実感できた」と対談を締めくくった。