イベントレポート

「失敗なんて恐れるな」 Android OS生みの親やTwitter創業者が日本経済に叱咤

 「失敗を恐れるな」「まずは挑戦したことを褒めればいい」――世界を代表する起業家が日本を訪れ、日本経済にいま求められている“破壊的イノベーション”を引き起こそうと、思い思いの言葉で檄を飛ばした。

Android OS生みの親、Twitter創業者などスター起業家が提言

 4月16日、新経済連盟が大規模カンファレンス「新経済サミット」の第1回を開催。ここに招かれたのが、Andoroid OSの産みの親で現Google上級副社長のアンディー・ルービン氏、Twitter創業者のジャック・ドーシー氏、Pinterest共同創業者兼CEOのベン・シルバーマン氏、Skype共同創業者で現在はロンドンを拠点に投資家として活動しているニクラス・ゼンストローム氏の4人。

新経済連盟は産業界および政官界へ意識改革を促すために、「新経済サミット2013」を開催。世界のアントレプレナーを招き、“破壊的なイノベーション”を起こした力を探る

 彼らはいずれもグローバルレベルのスター起業家だ。世界中の人に利用されるサービス、あるいはプラットフォームを作り出し、いままさに世の中を変えつつある。

 2004年に初期のプロジェクトが始まったAndroid OSはいまやスマートフォン市場の7割以上のシェアを押さえている。Twitterはデバイスを問わずシンプルに情報を発信するツールとして広く普及した。Skypeもメッセージングサービスとして世界規模で利用され、それ以前の音声通話の常識を一変させた。Pinterestはこの中では最も新しいが、ビジュアルをベースに自分の興味関心を他の人と共有するサービスとして一気に広まった。

左からアンディー・ルービン氏、ジャック・ドーシー氏、ベン・シルバーマン氏、ニクラス・ゼンストローム氏

 こうした面々と、新経済連合代表理事で楽天創業者兼CEOの三木谷浩史氏がパネルディスカッションで日本市場への印象、破壊的イノベーションとは何か、ビジネスパーソンへのメッセージなどを聞いていった――。

「日本のエコシステムは素晴らしい」

三木谷浩史氏:アンディー、Androidは世界で成功しており、日本にも注力している。日本という市場についてどう思うか。

アンディー・ルービン氏:日本人はエコシステムについて幅広い考え方をもっている。例えば「iモード」だ。日本の消費者はもともとエコシステム的な思考ができていた。だからAndroid端末を簡単に使えたのだと思う。

 また、日本は長い時間をかけて1990年代のプラットフォームをつくってきた。例えば半導体や通信インフラ。これらはすべてプラットフォームであり、その上に何かを載せるもの。ミドルウェアやウェブサービス、クラウドを載せ、産業を作った。そういったことに慣れていたと思う。

ジャック・ドーシー氏:日本のエコシステムは素晴らしい。日本はTwitterが流行るのが早かった。自分たちのモノとして使っているし、クリエイティブに、自分の文化に即した方法で使っているように感じる。当初、我々はTwitterの日本版サービスを作っていなかったが、日本の開発者が自らやっていたね。

「日本の消費者はもともとiモードを使ってエコシステム的な思考ができていたため、Androidを簡単に使えたのだと思う」というルービン氏。世界でもっともアプリの売上が大きいのが日本で、パズドラの決済日はパズドラによる“スパイク”がグラフではっきり出るほど。“パズドラスパイク”に耐えられるようサーバーを強化したという

ドーシー氏「起業の燃料はアイディアであり、人」

三木谷浩史氏:ジャックはシリアル・アントレプレナー(立て続けに事業を興す起業家)だ。TwitterとSquareという2つのサービスを作った。両サービスに共通点はあるのか。

ジャック・ドーシー氏:類似点は多い。まずはシンプルにいろいろな人に使ってもらえるところを重視しているが、Twitterはコミュニケーション、Squareはコマースの分野でそれを実現している。私は起業の際、自らの問題意識から発進している。自分事のように物事を捉えながら、進めていく。会社はその問題意識を解決し、世の中に広めるためのツールでしかない。その燃料はアイデアであり、人だ。

三木谷浩史氏:ニクラスは世界でもっとも破壊的な人のうちの1人だと思う。破壊的なイノベーションを生み出す何かがあなたの血に流れているのか。

ニクラス・ゼンストローム氏:っていうか、ジャケットのポケットに入ってるんだ。冗談だけどね(笑)。私は子どもの頃から人と違うやり方をしたいと常に思っていた。何か違うやり方はないか、なんでこんなことをやるんだろう、もっとシンプルにできないものかと。同時に、人に流されたくない、大衆でありたくない、僕は違うんだという意識もあった。反逆児だったかもしれないね。

三木谷浩史:ベンはPinterestを作り、米国で成功している。シリコンバレーのエコシステムが成功に寄与したのか、あるいは別の場所でも成功できたと思うか?

ベン・シルバーマン:シリコンバレーにいて良かったとは思う。あそこでは勇気を貰える。失敗している人、成功している人、どちらもいるが、自分もそこにいていいんだと思える場所だ。支えてくれる人、応援してくれる人がいるのはいいものです。でも、シリコンバレー以外で事業を興せないというわけではない。

Twitter創業者のドーシー氏。ドーシー氏のもうひとつの起業ビジネス「Square」は、スマートフォンやタブレットに装着する、クレジットカード決済用のアダプター。これにより個人が簡単にカード決済によるビジネスをどこでもできるようになった。三木谷氏のカードで決済するデモも行い、チップも計上でき、領収書もメールで送れることを見せた

ルービン氏「反逆でありたいわけではなく、違う方法を提供したかった」

三木谷浩史氏:破壊的イノベーションとは何でしょうか、アンディー。Androidは破壊的な発想でありながら、いまなお継続している。そんなことが可能なのか。

アンディー・ルービン氏:物事は、ニーズがあれば維持される。私は反逆でありたいわけではなく、違う方法を提供したかった。それに対して既存産業はたまに反対したり、あるいは受け入れたりしてくれる。こういった新しい会社やエコシステムが出てきたときに、既存産業がそれをオープンに利用していくという視点が必要になってくると思う。

ジャック・ドーシー氏:実は「破壊的」という言葉は嫌いなんだ。私は何も破壊していない。ただ、ものごとを進行させているだけだ。私達が取り組んでいるのは新しいチャンスを見つけること。壊すのではなく、新しい方法を見つけて、世の中を先に進めている。

 決して、壊すわけではない。アイデアは破壊するためのものではない。世の中にビジョンを提供したい、世界で使われるサービスを作りたい。そういう気持ちがまずある。私たちは好きなこと、有益なこと、たくさんの人に使ってもらうことに集中する。そこに成功例が出てくるのでは。

三木谷浩史氏:破壊的といったが、要はユニークなサービスだと思う。Pinterestもそうだ。ベン、人の興味関心をつなげるコンセプトはどう思いついた?

ベン・シルバーマン氏:私自身、物を集めるのが大好き。それをオンラインでやろうと思った。2009年に作ったが最近のことのように感じる。当時、人気のサービスはテキストベースのものが多かった。あるいはTwitterのようなリアルタイムのやり取りがもてはやされていた。私は写真で見せたかった。そして同じように考えている人がいるんじゃないかと。途中で改善しながらここまでやってきた。

ゼンストローム氏「成功した事業だけではなく、たくさんの失敗と涙があった」

三木谷浩史氏:最初からうまくいったのか。

ベン・シルバーマン氏:会社は世の中にたくさんあるが、僕の会社は最悪だった。とは言っても、それなりにうまくいっているが。以前、ゲームを作ったが、その日のうちにクラッシュした。気づいたのは自分自身だった。他に誰も遊んでないために、気づいてさえもらえなかった。それに比べたらPinterestが多くの人に使われているのは嬉しい。一緒にサービスを作った友人とエキサイトしている。作ったものが人に使われるのは嬉しいし、いまもその気持ちに動かされている。

三木谷浩史氏:ニクラスは、いままでの道程を振り返ってどう思う?

ニクラス・ゼンストローム氏:私自身も成功した起業家と見られがちだが、たくさんの失敗と涙があった。音楽のPtoP事業を始めたときは業界から追放された。成功は突然訪れるわけじゃない。Skypeは3つ目の会社だった。ベンに同意するのは、自分のサービスを使ってくれる人がいて、それが機能するのが楽しいということ。

三木谷浩史氏:でもSkypeだって訴訟された。そこで事業を止めなかった理由は?

ニクラス・ゼンストローム氏:自分でSkypeにコミットすると心に決めたから。周りのノイズとか、そんなのうまくいかないよっていう声には耳を貸さない。自分を信じることだ。困難なとき、喜ばしいときを共有する人、共同創業者などが身の周りにいるのが大切。励まし合いながら大切な時間を乗り越えていくんだ。

ニクラス・ゼンストローム氏。skype、FON、gengoなどいくつも起業し成功させてきたが、その陰には多くの失敗があったという

シルバーマン氏「素晴らしい発明や商品は、自分を信じている人から始まる」

三木谷浩史氏:日本のビジネスパーソンに、最後に一言。

アンディー・ルービン氏:日本で事業をすることについて、よく日本は他の国々と違うと言われる。だが私にとっては同じ。日本の消費者の好みに合わせてモノを作ったら、もしかしたらグローバルではウケないかもしれない、でも起業家は世界を日本に染めるくらいのオープンな意思が必要だ。日本でヒットするものは世界でもヒットするはず、くらいの気持ちでいるべき。

 例えばiPhoneは日本の携帯電話とそれほど変わらない。iモードだってすごい。日本向けサービスだったが、あれは世界でも通用したと思う。

ジャック・ドーシー氏:ある人の言葉を引用する。未来はすでにある。ただ、まだ知られていない。広まっていないだけ。だから皆さんがそれを広め、共有するべきだ。会社を作って、それを世界に発信する。なぜこのサービスが世界の人々に使われていないのか、絶対に使うべきなんだという気持ちを元に、世界市場でやっていくべきだ。私は世界の人々にコミュニケーションしてほしいから、Twitterを作った。これからも忍耐強くやっていくつもりだ。

ベン・シルバーマン氏:素晴らしい発明や商品は人から始まる。自分を信じている人から始まるんだ。何かしたいと思ったら自分で応援団を作ろう。自分がリーダータイプじゃないと思ったら、他の人をサポートしてあげよう。私は以前、医者になりたかった、本当になれるの? と周りからは言われた。起業家も同じこと。リスクじゃない? 失敗したらどうするの? と言われる。誰かを応援、支援する気持ちも持ってほしい。

昆虫を集めるのが好きだったからPinterestを作ったというシルバーマン氏。「何かしたいと思ったら自分で応援団を作ろう。自分がリーダータイプじゃないと思ったら、他の人をサポートしてあげよう」という

ニクラス・ゼンストローム氏:スウェーデンで育って、イギリスに行った。起業するときに誰も応援してくれなかった。きっとうまくいかないよ、Microsoftに勝てるはずがないと。やらない理由はたくさんあるが、うまくいくように工夫すればいいだけだ。それでもうまくいかなかったとしたら、試したことだけでも褒めよう。

 私が会社を作るといったら、妻がこう言った。「やれば?」と。妻は私を、年をとって「あのとき挑戦していれば……」と後悔するおじさんにはしなかった。だからうまくいった。

 もう1つアドバイスがある。最初からグローバル市場を目指してほしい。才能のあるエンジニアは国内に集中してはいけない。ソフトウェアを作るのであれば世界を見るべきだ。そのために英語を勉強しよう。私は留学して人生が変わった。他の国の人たちにたくさん出会った。それで発想が変わっていった。

三木谷浩史氏:皆さんのお話しをまとめましょう。やはり失敗を恐れないことが大事。そしてニクラスの言葉を借りれば、失敗しても失う物はない。むしろチャンスの方が大きい。日本市場は特別ではないし、日本でいかに勝負するかを考えなければいけない。ジャックが言っていたが、破壊的であるだけではなく、世の中に役に立つ、ビジョンのあるサービスを作るのが大事だと思う。ベンチャー企業は最初から思い通りに進むわけではない。軌道修正を行なって、大きなサービスに育っていくものだ。

新経済連合代表理事で楽天創業者兼CEOの三木谷浩史氏は、「硬直していた日本経済が少し活性化してきた。今回のパネルはグローバルにビジネスをしていく上で示唆に富む内容になったのでは」と述べた。

(中村 翔平)