イベントレポート

第17回図書館総合展

図書館向け「電子書籍」がなかなか増えない理由

 一般社団法人電子出版制作・流通協議会(電流協)は11日、「第17回図書館総合展」でフォーラム「図書館に電子書籍は増えるのか?」を開催した。司会は植村八潮氏(専修大学教授/電流協技術委員長)。報告は山崎榮三郎氏(電流協電子図書館部会委員長)。パネリストは小池信彦氏(調布市立図書館館長)、吉羽治氏(講談社デジタル・国際ビジネス局)、沢辺均氏(ポット出版・版元ドットコム)。

(左から)増田典雄氏、植村八潮氏、山崎榮三郎氏
(左から)小池信彦氏、吉羽治氏、沢辺均氏

公共図書館アンケート報告

 まず電流協の山崎氏から、2015年4月〜5月に実施された、全国の公共図書館中央館1352館を対象としたアンケートについての報告がなされた。回答数は791で、回答率は58.5%。都道府県立および政令指定都市の図書館の回答率は、約95%とかなり高い。なお、このアンケートは2013年から行われており、今回が3回目。

山崎榮三郎氏(電流協電子図書館部会委員長)

 アンケートの結果は、「電子書籍サービス」を実施しているのが54館(2014年は38館)、「デジタルアーカイブ」を提供実施しているのが122館(2014年は100館)、国立国会図書館の「デジタル化資料送信サービス」の閲覧・複写サービスが123館(2014年は31館)だった。

 電子書籍提供の対象者としては「障害のある人」「ビジネスパーソン」「学生」「非来館者」「高齢者」など、電子書籍サービスの懸念点としては「コンテンツ価格」「コンテンツが少ない」「新刊コンテンツの提供がされにくい」「購入費用の会計基準」など、電子書籍サービス導入への課題は「予算確保」「知識・経験不足」「サービス中止に対する不安」などが上位。

2年間または貸出52回で、定価の1.5倍から2倍の価格は高いか安いか

 このアンケート結果を受け、調布市立図書館館長の小池氏から、公共図書館の立場としてどんなことを感じたかが述べられた。

小池信彦氏(調布市立図書館館長)

 懸念点として上位に挙げられている「購入費用の会計基準」は、通常、本は「備品」として購入するが、「電子書籍サービス」は「利用」するものなので、「備品」の予算をそのまま使うと問題になってしまう可能性があるということ。これは、それぞれの図書館が会計の担当者と話をし、消耗品、備品、データベース、オンライン、委託料など、工夫して会計処理を行っているらしい。

 また、国立国会図書館の「デジタル化資料送信サービス」は、「現在のところ申し込む予定はない」が420館(53%)という状況なのは、端末の要求スペックが比較的高く(Internet Explorer 10以降が必要)、リース契約が切れるタイミングまで替えられないため導入したくてもできない事情があるとのこと。

 懸念点の「コンテンツ価格」は、例えば株式会社日本電子図書館サービス(JDLS)の契約条件である2年間または貸出52回では、紙の定価の1.5倍から2倍程度が推奨されている(販売価格は出版社が決める)が、これが高いのか安いのか、判断が難しいという。

 また、懸念点の「コンテンツが少ない」に関しては、ラインナップが学術系中心で、利用者が期待している文芸系が少ない、という不満も述べられた。

講談社の図書館向け配信数は1244点で5%未満

 次いで、コンテンツを提供する側の立場として、講談社の吉羽氏が現況の説明を行った。「本気でやる気があるのか?」と言われれば、講談社は野間社長が陣頭指揮を執って強力にデジタル化を推進しており、マンガはほぼ同時刊行を実現。テキスト系はまだ同時刊行にまでは至っていないが、徐々に改善されているという。

吉羽治氏(講談社デジタル・国際ビジネス局)

 講談社の「電子書籍」点数は、コミックが1万8000点、テキストが9000点、計2万7000点。テキストのうち、学芸(ノンフィクション)が2700点、文芸(ライトノベルを含む)が5000点、実用書が600点、児童書が500点。児童書はほとんどがテキストで、絵本はデジタル化が進んでいないとのこと。

 そのうち図書館向けに配信しているのは、10月末時点で824点。つい先日、現代新書の配信が決まり、420点追加され総数1244点になった。講談社の「電子書籍」点数全体からすると、5%にも満たない。内訳は、ブルーバックス373点、選書メチエ122点、吉川英治歴史時代文庫85点、講談社サイエンティフィック177点、講談社学術文庫17点。文芸系は吉川英治だけだ。

 課題はもちろん点数拡大で、特に児童書をもっと増やすべきだと考えているそうだ。また、コミックの配信を要望されているが、「自宅で買い揃えづらいもの」を優先しているという。文芸系が遅れているのは、配信リクエストが学術系からだったからとのこと。また、文芸系は作家との話し合いがまだ十分ではないらしい。

中小出版社の多くは、まだまともに電子書籍を作っていない

 続いて、中小出版社の現況について、ポット出版の沢辺氏から見解が述べられた。ポット出版は年間10冊くらい刊行し、新刊は電子版も同時に出しており、電子書店だけではなく、電子図書館にも配信している。

沢辺均氏(ポット出版・版元ドットコム)

 ところが中小出版社でポット出版のような事例は珍しく、ほとんどの中小出版社はまだまともに電子書籍を作る体制にないという。紙の本を作ったときのデータが、数年もすればどこへいっちゃったか分からなくなる、とか、データは印刷会社にしかない、といった状況がほとんどらしい。

 「コンテンツが少ない」のが電子図書館普及への最大の問題だと思ってはいるが、まだサービス利用館が少ないので、仮にすべての電子図書館に買ってもらったとしても売上数万円という状態では、なかなか厳しいというのが本音とのこと。

 以前はXMDFやドットブックなど複数のフォーマットを作らなければならなかったのが今はEPUB 3で作っておけばOKという状況になったし、例えばJDLSの契約形態には3年目以降は「都度課金」方式が選べるので「1回売ったら終わり」ということもなくなった。著者に対する許諾も、公衆送信権さえあれば法的には問題ない。

 電子書籍市場も伸びているので、いずれ中小も対応するだろう、と沢辺氏。ただ、図書館が欲しい(=利用者の要望)のは「ベストセラー作家の作品を、家で寝転がったままタダで借りられる」という状況だから、そこの溝は深いという見解だ。

電子図書館を通じて、地元の書店にお金が落ちる仕組みを

 植村氏は、図書館とその利用者からどんなコンテンツが求められているかは、もう一度整理する必要があると、ディスカッションの口火を切った。

 沢辺氏は、山梨県立図書館では作家の阿刀田高氏が館長をやっていて「本をすぐ読みたいのなら、買ってもらうように言いなさい」と指導しているが、現実問題としてそれは無理があると指摘。すなわち、図書館リテラシーの問題だというのだ。

 利用者が図書館をどう捉えているのか、図書館はどういう資料を集めるべきなのか。小池氏は会場に「『文芸より、選書メチエだよ』という図書館関係者、いますか?」と疑問を投げかけた。また、講談社への配信リクエストが学術系からだった理由を、会場にいたJDLS関係者に尋ねた。これは、公共図書館からではなく、大学図書館からのリクエストだったらしい。

植村八潮氏(専修大学教授/電流協技術委員長)

 植村氏は、「電子図書館」という言葉に含まれるものは非常に幅広いため、限定的に定義しないとズレてしまうという思いから「電子書籍貸出サービス」という言葉を作ったという。そして、期待されているのは「電子書籍貸出サービス」であり、国立国会図書館の「デジタル化資料送信サービス」も導入は進んでいるけど、まだまだ利用率が低いという問題点を挙げた。

 吉羽氏は、欧米の図書館は「知の結集」という意識が強く、非常に幅広いジャンルの本を集めていることを指摘した。例えばサンフランシスコの図書館にはマンガがラインアップされており、マンガを入り口に言語を学んで欲しいという意図があるそうだ。

 文芸のデジタルに関しては、講談社は「丁寧にやろう」というスタンスで、契約上は問題なくても、著者宛に手紙を送って再許諾をとるような形にしているそうだ。作家側にまだ「紙で」という意識が残っている場合、その上さらに電子図書館への配信となるとハードルが高いという。

 また、編集部に「どうせ儲からないでしょ?」と言われてしまう場合もあるという。粗利率の低い少部数出版の場合、電子化するとそのぶん利益を食ってしまう。野間社長の号令によって、全体ではリクープするようにはなってきたが、図書館での売上がたったの数万円、となると著者も躊躇してしまう、と吉羽氏。

 植村氏は会場のJDLS関係者に、OverDriveのような「Buy it Now」ボタンを付ける予定はあるのかを確認し、今年度中には用意する予定との回答を得た。しかし沢辺氏は、そのボタンを導入するかどうかは、公共図書館側の判断ではないかと指摘。小池氏は、個人的な見解ではありだと思うが、公共サービスとしてどうするのかは議論が必要だと述べた。

 そこへJDLS関係者から、購入に繋がるリンクは電子書店や通販だけではなく、地元の書店という方向も考えているという回答。小池氏は、地元にお金が落ちる仕組みは重要だと思うと賛意を示した。最近よく話題になる“TSUTAYA図書館”の問題は、地元の書店で本を買わない仕組みになってしまったところが大きい、という見解だ。

 最後に植村氏は、採算ベースの話になりがちだけど、ITによって可能になったことを忘れてはいけないと釘を刺した。来館できない人に貸し出せることや、アクセシビリティ。文字拡大、音声読み上げ、反転機能の3つは、図書館アンケートでも上位になっている。

 なお、アンケートの詳細は『電子図書館・電子書籍貸出サービス 調査報告2015』(ポット出版)に収録されている。

(鷹野 凌)