イベントレポート
THE WEB EC SUMMIT 2014
モール&SNS全盛で自前ECサイトはどう変わる? ウェブ構築事業者が討論
(2014/9/26 06:00)
オンラインビジネスをテーマにしたビジネスカンファレンス「THE WEB EC SUMMIT 2014」で25日、ウェブ構築サービス事業者によるパネルディスカッションが開催された。インターネットを使った集客や、オンライン通販に新規参入したい企業がどう“自前サイト”を運用をすべきか。モバイルやSNSとのかかわりに触れながら、討論した。
ECサイトやるなら、モール内出店と自前運営どっちが有利?
ディスカッションのテーマは「オンラインビジネス成功のためのツールとは?」。パネリストは株式会社ブラケット取締役の塚原文奈氏、株式会社デジタルステージ代表取締役の熊崎隆人氏、株式会社KDDIウェブコミュニケーションズ取締役副社長の高畑哲平氏の3名で、いずれもウェブサイト構築サービスの運営・開発に携わっている。モデレーターは「東洋経済オンライン」編集長である株式会社東洋経済新報社の山田俊浩氏が務めた。
オンライン通販サイトなど、いわゆるECサービスを巡ってはさまざまな課題があるが、近年は特にAmazon.co.jpと楽天市場という大手事業者の存在が挙げられる。こういった「モール型」のショッピングサイトへ出店した方が、通販サイトをゼロから立ち上げるのと比べ、集客力などの面で明らかに有利とされる。こういった情勢下でも、自前サイトを作る意義はあるのだろうか?
この疑問に対し、熊崎氏は「結局のところ、店は他社と競争して勝たなければならない。そのためにはやはり(店構えも含めた)『差別化』が重要ではないか。我々は『BiNDクラウド』というウェブ構築サービスを提供しているが、オリジナリティのあるサイトを作れるようこだわっている」と述べた。
塚原氏はECサイト構築サービス「STORES.jp」の運営に携わっており、「出店者の皆さんの多くは、商品に対して強い思い入れがある。そんな中で、Amazonや楽天などでは(商品ページに既存のフォーマットがあるため)その表現に制限がかかりがちではないか。それに対して独立したサイトであれば、商品の見せ方もより広がる」と説明。近年は、特に商品写真などのビジュアルの優劣が売上に直結する傾向にあるため、それらのレイアウトも含めた自由度の高さは、自前サイトならではの魅力だとした。
ウェブサイト構築サービス「Jimdo」を手がける高畑氏は、プライベートでもAmazonと楽天のヘビーユーザーだという。しかし「商品を実際に買っでも、どの出店者から買ったかほとんど意識できていない。それでいて、次回も同じ店で買うのではなく、必ず価格比較をして安い店で買う。つまり(モール型ECへの出店は)価格競争に巻き込まれやすい」と説明する。
また、山田氏は「楽天や、リアル店舗であるイオンを見ていて感じるのだが、こういった事業者に出店すると、(モール運営業者が主体となる)ポイント増額セールへ協賛する必要も出てくる。出店者の発言力が低いのでは?」という疑問も投げかけた。モール型ECサイトは一般的に売上の一部をロイヤリティとして徴収するのが通例で、熊崎氏によれば、これを回避すべく自前ECサイトを構築する例も実際多いという。
しかし、モール型ECの集客力は中小企業にとって大きな魅力ではある。これを受けて山田氏は、モール出店と自前サイトの併用を1つの解として挙げた。ウェブ技術の発展やクラウドの普及により、自前サイト運用が低コスト化しているためだ。
スマホの大画面化は止まらず、iPhone 6バカ売れでウェブサイトも変わる?
パネルディスカッション開催の1週間ほど前には、アップルの最新スマートフォン「iPhone 6」「iPhone 6 Plus」が発売された。従来機種と比べて大画面化。一方のAndroidも5インチ超のディスプレイがすでに一般的。“スマホ大画面化”の傾向は、近年極めて顕著になった。
山田氏は「iPhone 6がバカ売れしている状況で、さらにはApple Payも登場した」「ぶっちゃけ、iPhone 6でモバイルサイトも変わっていくのか」とパネリストに質問した。
熊崎氏は、iOS端末の画面サイズが多様化したことにより、UI(ユーザーインターフェイス)設計において考慮すべき要素が増えたと認めつつ、それと同時に「1ページあたりのコンテンツ量」の調整に苦心していると明かす。スマートフォンがいくら大画面化したとはいえ、PCサイトと比べて文字表示量は当然少ない。PCサイトをモバイルサイトにそのまま転用し、ページが文字ばかりで埋め尽くされる状況が果たして良いのか。そのさじ加減が課題という。
塚原氏はiPhone 6への対応は手探り状態とした。ただ、サイト管理者向けの管理画面についても、画面サイズに合わせた使い勝手などを研究していきたいという。
高畑氏は、画面サイズに加え、地域特性に応じたスマートフォン活用実態把握も重要と話す。「長野や福岡や鹿児島でも、果たして東京の電車内ほどスマートフォンが使われているのか。ある意味、東京だけ異常なのではないか」とし、自動車通勤者ならではの事情(運転中にモバイル端末を操作できない)など、スマートフォンとユーザーの接し方を改めて考えることの重要性を指摘した。
また、近年のウェブサイトは、ページ内のボタンで「PCモード」「スマートフォンモード」を切り換ええられる仕様が一般的だ。これはサイト構築者にとって大きな手間となっているが、果たして1つに収れんされる時代が来るのか。そんな疑問がパネリスト勢から山田氏へ逆質問される一幕もあった。
山田氏は、すでに東洋経済オンラインの記事において、スマートフォンでの文字表示への配慮として、字数調整や要約の付記を行っている例に言及。掲出場所(PCで表示するのか、スマートフォンなのか、それとも別の何かなのか)を考慮し、多様化できることが重要であるとした。これを受け、高畑氏は、ページ表示モードの切り換えではなく、コンテンツを“自動分割”する機能を展望していた。
SNS栄枯盛衰、しかして「ホームページ」はしぶとく生き残る
ウェブサイトへの集客手段として、SNSはすでに欠かせない存在となっている。しかし、熊崎氏は「米国出張の折に実感したが、現地では若者が相当“Facebook離れ”になっているように思える」「日本でもついこの間までmixiをあれだけ使っていたわけで、時代によって(人気が)変わる」と、その流動性を指摘。一方で、いわゆる“ホームページ”がブログの流行を経てなお生き残っている現状を踏まえ、SNSとの上手な付き合いが求められるとした。
塚原氏は「SNSとはコミュケーションツールである」という点を忘れてはならないと話す。「新商品の情報など、自分たちが知ってもらいたい情報ばかりを一方的にSNSに流すのではなく、コンテンツ(読み物)であったり、店舗運営者の顔が見えるような情報なども必要ではないか」
高畑氏はさらに「お客様は『ファン』『潜在顧客』『見知らぬ人』の3つに分類できると思うが、SNSはこのうちの『ファン』とのコミュケーションに最適なツールではないか」と語る。その上で「例えば、学生向けSNSとしての成り立ちを考えると、Facebookは井戸端会議の場。そこで人々が語り合っているところに『ねぇねぇこれ買ってよ』と営業をかけては、失敗する」と続ける。Facebookでは井戸端会議に徹し、商売をする際には自前のウェブサイトへ誘導する。高畑氏は、これを1つの理想型として挙げた。
「HTMLメール」「写真」「見出し」を突き詰めよ
ディスカッションの最後には、パネリストから“明日から使えるオススメ販促術”が紹介された。熊崎氏が挙げたのは「HTMLメール」で、ウェブサイト構築以上に注力すべきとした。メールによる販促というと、成熟が進み、古臭いイメージがあるものの「コンバージョンレートを近年最も稼げる手段ではないか」と評価。目安としては「(運営の)8割ぐらいの力をかけるべき」という。
塚原氏は「商品写真のクオリティ」を指摘する。「写真が綺麗なほど売れるというのは実感としてある。プロに商品写真を撮ってもらって売上が倍になったケースもある」「単純に白背景の写真を撮るのもいいが、商品の世界感を表現するためにモデルや小物と一緒に写すのもよい」とアドバイスした。
高畑氏は、ページやメールマガジンの「見出し」にこだわって欲しいという。「商品ページで長い文章を書いても、誰も読んでくれない。読む前にどんなコンテンツか分かる見出しは本当に重要」と指摘。その上で「『メールマガジンの見出しだけしか読まない』ぐらいのつもりで、新聞の見出しなどを参考に、考えてみてほしい」とも補足した。