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イベントレポート

星にチェックインして共有、イトカワを歩ける体験も〜宇宙アプリのハッカソン


 米国航空宇宙局(NASA)や日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA)が公開している宇宙・地球環境・衛星関連のデータを使ったアプリを開発するハッカソンイベント「International Space Apps Challenge(ISAC)」が4月21日・22日に世界各国で開催された。今回が初の開催となるISACは、ソフトウェア開発およびオープンハードウェアの開発、市民科学、データの可視化といった4種類の課題に取り組むことを目的としている。

「International Space Apps Challenge」公式サイト

 世界25都市の会場に加えて、南極のマクマード基地やISS(国際宇宙ステーション)などからも参加。日本でも東京大学・駒場リサーチキャンパスが会場となり、ソフトウェア開発者をはじめデザイナーやアーティスト、アントレプレナーなどさまざまな人が集結し、2日間にわたってさまざまな作品の開発・制作が行われた。

 なお、ISACは2日間のうちにアプリや作品を完成させることを目標としており、開発期間の短さを補うために、事前にアイデアソンと呼ばれるプレイベントが行われた(アイデアソンの内容については、本誌4月12日付関連記事を参照のこと)。

発表や審査が行われた東京大学・駒場リサーチキャンパスのコンベンションホール ハッカソンの会場

 今回のハッカソンでは、全世界で2000名以上がエントリーした。東京会場の参加者は50名ほどで、スタッフが20名。スタッフの中には開発者としてチームに参加した人も多かった。このほか、ハッカソンには参加しない一般参加者は38名だった。

 1日目は、まずオーガナイザーの関治之氏がISACの概要について説明。マクマード基地やISS、元宇宙飛行士からのメッセージビデオなども紹介された。その後、アイデアソンで提出されたアイデアのプレゼンテーションのほか、アイデアソン以降に加わった人のプレゼンテーションも行われた。

ISSからのビデオメッセージ

 アイデアソンからイベント本番までに生まれた企画の中で、ISACの本サイトに登録されたプロジェクトは以下の通り(カッコ内は課題のカテゴリ)。

Our Sphere(データ可視化)
 NASAやJAXAで提供されるデータをウェブサイトやiOS上などで球体にマッピングし、多くの人とシェアできる3Dデータマップビューアー。

Our Sphere

A View from Space(データ可視化)
 3Dで表現された地球にISSの現在位置を表示させて、固定された視点を共有できるコンテンツ。平均気温や雲の密度などさまざまな切り口で見え方を変更できる。

A View from Space

Artistic Data Materialization:Beyond Visualization(データ可視化)
 NASAなどが提供する宇宙関連のデータをもとに、アクセサリや日用品の形状データを生成するアプリケーションを開発し、そのデータを3DプリンターやCNCフライスを用いて物体化。具体的には、任意の日時の天体座標を取得するアプリケーションや、天体の座標を断面としたリングを生成するアプリケーションなどを開発。

Artistic Data Materialization:Beyond Visualization

LinkAStar(Space-Geosocial App)(ソフトウェア)
 スマートフォンを夜空に向けて表示された星を選択することにより、星にチェックインできるアプリ。同じ星にチェックインしている人同士でコメントを共有できる。将来的には、ユーザーに星を推薦するリコメンデーション機能や、ゲーム機能などの追加も検討。

LinkAStar(Space-Geosocial App)

Connect(Magnetic Field Line Connect Our Life)(ソフトウェア)
 磁力線を使ってコミュニケーションするためのウェブアプリ。ある地点と磁力線によって結ばれている反対側の地点の緯度・経度を出すデータベースを利用して、向こう側の景色やそこにいる人の会話、人気スポットなどをGoogle マップ上に表示する。

Connect(Magnetic Field Line Connect Our Life)

 これら5つを含めて、世界各国で64チームが登録された。ISACのグローバルコンペティションに参加するには事前にグローバルサイトへ登録することが必要となり、登録していないチームはグローバル審査の対象とはならない。しかし東京会場では上記以外にもさまざまな企画が提案されて開発が行われた。提案されたプロジェクトは以下の通り。

CO-CUPOLA(コ・キューポラ)
 ISSの出窓「キューポラ」からの眺めを実物大で体験できるシステム。子どもたちに宇宙開発技術を身近に感じてもらうことを目的としており、小学校や中学校の授業で使用されることを想定。Google Earthの上にキューポラの窓の形を重ねて表示させるウェブアプリケーションをフルスクリーンにして天井に投影し、寝転がって下から眺めることで、まるでISSの中にいるかのような気分になれる。

CO-CUPOLA

ITOKAWA WALKER
 3Dで再現された小惑星「イトカワ」の上を擬似的に歩けるアプリ。iOS/Androidに加えて、Windows 7およびKinect、ヘッドマウントディスプレイ(HMD)を組み合わせたシステムも開発。はやぶさが実現できなかった小惑星の地表からの視点を再現できる。

ITOKAWA WALKER

Apollo Surface Panoramas
 月面で撮影されたアポロのパノラマ写真を使って、月を歩いているかのような映像を楽しめるシステム。AndroidタブレットとPCを連携させてHMDに表示させることが可能。

Apollo Surface Panoramas

Crater API
 クレーターに関するデータのアクセス性を高めるためのAPI。このAPIを使って、好きなクレーターを選ぶとおすすめのクレーターを選んでくれるコンテンツや、クレーターに関するクイズ、クレーターの画像をリストから選んで見られるiPhoneアプリ、クレーターの画像を加工できるアプリ、クレーターに合った音楽を流すコンテンツなどさまざまな作品を制作。

Crater API

Galaxy Sexy
 「mindflex」という装置を使って人の脳波をデータ化し、インターネットにポストすると、NASAの宇宙データ「PhotoJournal」から瞑想的な画像を抽出して表示するシステム。脳波のグラフと宇宙の映像を重ねて見ることでリラックスできる。

Galaxy Sexy

Image To Degree
 パラメーターによって色分けされた地図画像から緯度・経度とパラメーターを逆算して取り出すツール。NASAなどが公開しているデータはメッシュで表現されたデータが少なく、データ量によって色分けされた地図が多いので、その間を埋める目的で開発。

GEO JACKASS
 Ustreamにジオタグを付けてGoogle マップ上で位置を確認できるサービス。サーフィンなどアウトドアで遊んでいる時に好きな場所の現在の様子をリアルタイムに把握したり、路上のライブパフォーマンスをアピールしたりすることができる。

Space Timeline
 Facebookのタイムライン上の出来事を光跡に沿って投影するシステム。生まれた時刻と緯度・経度を入れると、その時点の宇宙空間の位置を算出し、それをもとに光の方向を分析する。

 これら13チームに分かれて開発がスタートした。2日間で作品を形にしなければならないということで場内は熱気にあふれ、中には泊まりがけで開発を行った人も20名ほどいた。また、東京会場も含めて世界各国の会場の様子がUstreamでリアルタイム中継され、東京会場でも大型モニターに各国の様子が映し出された。

大型モニターで各国の様子を紹介

ナイロビ会場の様子

 開発終了は2日目の14時30分で、15時から各チームが短い時間で作品をプレゼンテーションした。なお、グローバルサイトに登録されていないチームも東京会場限定でのローカルコンペティションの対象にはなり、審査にあたってはグローバルサイトに登録されているか否かは一切影響しない。ローカルコンペティションの上位2チームが世界で行われるグローバルコンペティションに進むことになるが、もしも1位か2位の中にグローバルサイト未登録のチームが含まれている場合は、下位のチームが繰り上げ出場になる。

 審査員は元JAXA宇宙飛行士の山崎直子氏、JAXA広報部長の寺田弘慈氏、東京大学空間情報科学研究センター・前センター長の柴崎亮介氏、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科准教授の神武直彦氏、日本科学未来館プランナー/展示デザイナーの今泉真緒氏の5名。

 審査の結果、最優秀賞を獲得したのは「CO-CUPOLA」。総合的な完成度の高さが評価された形で、プレゼンターの山崎氏は「私は2010年にISSに行きましたが、その2カ月前にキューポラが取り付けられていて、私も実際にキューポラからの映像を見てとても感動しました。普通の窓とは違った感動があるキューポラからの映像をリアルタイムに再現して、学校や家など身近な場所で見られるのがいいなと思いました」とコメント。賞品として望遠鏡およびソースコード共有サービス「github」のシルバープラン1年分が贈られた。

最優秀賞の授与

「CO-CUPOLA」チームのメンバー

 2位を獲得したのは「LinkAStar(Space-Geosocial App)」。授賞理由として柴崎氏は「星でつながるアプリという発想がユニークで面白かったです」とコメント。3位は「Artistic Data Materialization:Beyond Visualization」で、授賞理由として神武氏は「実体化させると、図面だけを見るのとは全然違う。そういう意味で3次元プリンターを使うアイデアは重要で面白いと思いました」とコメントした。

 このほか、JAXA賞として「Connect(Magnetic Field Line Connect Our Life)」が受賞。授賞理由として寺田氏は「人と人とをつなげるアプリがいろいろとある中で、磁力線に注目したのが非常にユニーク。自分がつながっている相手が日々刻々と読み取れるのは楽しいと思いました」とコメントした。

 最後に総評として山崎氏がコメント。「どれもアイデアがすばらしく楽しかったです。いろいろなアプリを通して宇宙がどんどん身近になることがうれしく思いました。データというのは『使われてナンボ』なので、これらをみなさんが加工して誰もが簡単に使えるように橋渡しをしてくださったことは、とてもすばらしく感動しました。これからも応援しています」とまとめた。

総評を語る山崎氏

 なお、最優秀賞を獲得した「CO-CUPOLA」はグローバルサイトでは未登録のため、前述したようにグローバルコンペティションに進出するのは2位の「LinkAStar」と3位の「Artistic Data Materialization:Beyond Visualization」となる。これら2チームは今後、一般投票による一次審査の後、専門家などによる審査を経て最優秀賞が決められる。グローバルの優勝者が決まるのは5月17日。

 審査発表の終了後は、開発に参加した人々とイベントスタッフ、審査員、一般参加者を交えて懇親会が行われた。会場には最優秀賞を獲得した「CO-CUPOLA」の実演コーナーが設置されたほか、「Artistic Data Materialization:Beyond Visualization」の3Dプリンターのデモや「Apollo Surface Panoramas」のデモも実施。2日間に渡るハッカソンの疲れを癒しつつ、開発者同士で活発な意見交換が行われた。

「CO-CUPOLA」の実演コーナー

「Artistic Data Materialization:Beyond Visualization」で使用された3Dプリンターや作成したアクセサリー

 今回のハッカソンについて参加者に感想を聞いたところ、「これほど大きなハッカソンはなかなかないので、とても有意義だった。また開催されるなら絶対に出たい」「イベントが終わったから終了というのではなくて、これをベースに作品を発展させていきたい」「初めて出会う人同士で開発する過程そのものが面白かった」「初めは宇宙関連のデータについて何も知識がなかったが、周りの人から教えていただいて知識が身に付いた」など、各自でさまざまな収穫を得たという意見が多かった。

 最優秀賞の「CO-CUPOLA」の原案を考えた犬飼博士氏によると、ハッカソンへの参加を思い立ったのは開催日の3〜4日前だったという。「最初は紙をキューポラの形に切って窓に貼って眺めるというアイデアから始まったのですが、子どもには無理ということで紙を加工するのをあきらめました。プロジェクターを上に向けて寝ながら眺めることを思い付いたのは1日目の夜中のこと。この方法なら投影するだけで済むし、形としてもスマートになりました」と犬飼氏。イベントへの感想としては、「今回は開発の人たちがみなさんすごかった。でも、その一方でデザイナーやイラストレーターを求める声もあちこちで聞かれたんですね。だからコーダー以外の人たちも参加してみれば、面白いことがきっとあると思います」と語った。

 オーガナイザーの関氏によると、今回のイベントの目的はコンテストで賞を勝ち取ることではなく、多くの人が集まって良いアプリケーションを開発し、それを通して参加者が意見交換をしたり、コミュニケーションしたりすることにあるという。日をまたいでの長丁場となったことにより、参加者同士が意見交換を進める中で強い一体感が生まれ、その成果が各作品の完成度の高さに反映されていた。来年の展開については未定だが、今回のハッカソンを通してISACが今後どのような発展を見せていくのか注目される。

懇親会の様子




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(片岡 義明)

2012/4/24 15:18