圧倒的なプロダクトか、カスタマイズか――GREE、mixi、CAのトップが語る海外戦略


 デジタルマーケティングの大規模カンファレンス「ad:tech Tokyo」が10月26日から28日まで開催されている。27日の基調講演にはサイバーエージェント代表取締役社長CEOの藤田晋氏、グリー代表取締役社長の田中良和氏、ミクシィ代表取締役社長の笠原健治氏が登壇し、日本のネットサービス事業者が海外進出する際にとるべき戦略について語り合った。議論をリードしたのは、日本コカ・コーラでインタラクティブマーケティングを統括する江端浩人氏だ。

左からサイバーエージェントの藤田晋氏、グリーの田中良和氏、ミクシィの笠原健治氏

広告代理業からネットビジネスに舵を切るサイバーエージェント

サイバーエージェントのアジア展開

 まずは各社のビジネスおよび海外展開の現状を整理してみよう。サイバーエージェントは現在、広告代理店事業の変革に取り組んでいる最中だ。社名が表すとおり、同社はもともとネット広告専業の代理店として営業を開始した。しかし、その後ブログサービス「アメーバ」が急激に成長し、さらにそこから派生したコミュニティサービス「アメーバピグ」が大ヒット。広告収入、課金収入ともに絶好調だ。

 「当社の売上と利益の合計を、ざっくりそれぞれ1000億円、100億円とすると、実質利益の過半数はアメーバ事業。広告代理店事業は10%にとどまる。今後もアメーバなどのメディア事業の割合が高まっていく。経営者としてより収益性の高い分野に集中することを決断した。」(藤田氏)

 藤田氏は、ネット広告というビジネスについて「今後も有望な市場である」としながら、社内の体制は広告を収益源としたメディアやツールの新規開発に大きくシフトしていく方針を打ち出した。「広告代理店事業の優秀な人材をメディア開発にシフトさせるのが今回の変革の主旨」と語る。各種メディアやSNS関連サービスを2年で100個ほど立ち上げ、次の主力事業を創出するのが目標だ。

 サイバーエージェントは同社専務取締役で、実質ナンバー2の西條晋一氏がサイバーエージェント・アメリカのCEOを兼務し、北米市場に取り組んでいる。年商は約10億円。国内市場と同じく、自社でサービスを開発している。「我々の文化、価値観で、ジャパニーズクールなサービスを産み出していきたい。ブログの成長が止まったと思われた中、アメーバが飛躍したプロセスは特徴的。そこで生まれたピグも世界的にユニークな存在になっている」と藤田氏は語る。

 アジア地域にはベンチャーキャピタル事業を中心に進出している。これまで約30社に投資し、2社が上場したという。中国のSNSでもピグを提供しており、今後はアジアでもサービスを展開していく。

「SNS2.0」を探るミクシィ

ソーシャルバナーの効果

 ミクシィは8月末、同社が運営する国内最大規模のSNS「mixi」で個人や企業、有名人が情報発信するための公式ページを作成できるサービス「mixiページ」を開始した。

 mixiはこれまで日記やつぶやきを通じて、ユーザー同士が密なコミュニケーションをとるためのサイトとして利用されてきた。mixiページを使えば企業もmixiを有効なツールとして活用できるようになる。mixi内のユーザー同士のつながり(ソーシャルグラフ)を用いて、効果的な情報発信を行えるからだ。わずか2カ月足らずでmixiページの開設数は13万を突破。一般ユーザーがmixiページを訪れやすくなるような導線も新たに設けた。今後はさらに盛り上がりが加速しそうだ。

 ソーシャルネットワークを生かした広告ではすでに成功事例を持っている。ナイキと共同で仕掛けた「ソーシャルバナー」という広告商品では、「Nike ID」という自分でシューズをデザインするサービスをソーシャルグラフ上で訴求した。友人がデザインしたシューズの画像がバナー広告に組み込まれ、自分のページに表示されるというもので、クリックスルーレート(CTR)は通常のバナーと比較してPC版が11倍、モバイル版が16倍を記録したという。

 ミクシィは現在、上海とシリコンバレーに海外拠点を持っている。上海は開発拠点で、シリコンバレーは投資とアライアンス目的のオフィスだ。「SNS関連企業のリサーチを行なっているが、当然自社サービスも展開していきたいと考えている」(笠原氏)。

 ミクシィはSNSにまだ進化の余地があると見ている。笠原氏は「SNS2.0」を見つけたいと語った。「mixiはGREEやFacebookと同じく、2004年に始まった。その後、サービスをブラッシュアップしてアップグレードしてきたが、運営側からするとまだまだ課題があり、使いにくいと思っている。昔、ロボット検索も多くの種類があったが、どれも使いにくく、Googleが新しいものを開発した。同じように我々も『SNS2.0』として新しいmixiを検討していく」。

ミクシィの海外拠点ミクシィが目指す「SNS2.0」

10億ユーザーを目指すグリー

グリーのビジネスモデル
グリーの海外拠点

 グリーはソーシャルゲームプラットフォーム「GREE」を積極的にプロモーションしている。日本におけるGREEの会員数は6月末時点で2641万人で、その後も順調に推移しているという。グリーといえばテレビCMだ。最近では「探検ドリランド」というソーシャルゲームのCMにTOKIOを起用し、圧倒的な露出を図っている。

 「ドリランドだけでも通信キャリアくらいのGRP(Gross Rating Point:延べ視聴率)を流している。ゲーム単体でそれくらいの規模。日本最大級の放送回数をここ2~3年維持している。テレビCMをいかにネットサービスに誘導するかにこだわり、効果測定もひとつひとつやっている。これからも1人あたりの顧客単価が上昇すれば、より多くの広告を出稿できると考えている。」(田中氏)

 グリーはほかにも東京ゲームショウ(TGS)に出展するなどし、ゲーム業界におけるプレゼンスを高めてきた。日本におけるコンソールゲームとソーシャルゲームは同じくらいの市場規模があり、どちらも約3000億円程度だ。田中氏によれば、「会社によってはコンソールよりもソーシャルの方が売上規模が大きくなってきている」という。最たる例はコナミだ。コンソールのゲーム機から得た利益よりも、ソーシャルゲームのプラットフォームから得た収益の方が大きい四半期があった。

 海外展開においては、4月に米国OpenFeintを子会社化したことで、1億ユーザーを超える世界最大級のモバイル向けソーシャルゲームプラットフォームを構築した。次に目指すのは「10億人が使うサービス」だ。「Facebookのユーザー数は7億人。5年後には10億人規模のサービスがいくつも出てくるはず。我々も1億ユーザーで満足せず、10億人レベルを目指していく」(田中氏)。

日本のネットサービスは世界で通用するか

 日本のネットサービスは世界で通用するのだろうか。幾度となく語られてきたお題について、あらためて3社のトップが答えた。

 グリーの田中氏は、ローカライズしなくても通用するようなサービスを開発しなければならないと語る。「シリコンバレーに行ったことがある人は多いと思うが、はっきり言ってど田舎。あんなど田舎に住んでいる人が世界に向けて、特定地域向けにチューニングしてサービスを運営しているわけがないと思っている。TwitterもFacebookも何億人もユーザーがいるが、世界規模で大掛かりなカスタマイズはせずにやっている。変えているのは言語くらい。成功するのは世界でカスタマイズする必要のないサービスだ。“日本向け”“中国向け”とか言う必要がないサービスを作れるかが問われている」。

 ミクシィの笠原氏も「自分たちのサービスを磨いて、グローバルに通用するようにするしかない」と言い切った。「以前、中国向けにサービスを展開していたとき、中国の現地の人を採用した。中国人にウケるサービスは中国人に作ってもらおうと考えたからだ。一方でそうすることで、ミクシィの良さがそがれた部分もあった。現地で流行っているサービスを機能として追加して、ミクシィらしさが埋没した。ミクシィに関してはとことんユニークにして、コアを追及していく。それが日本人にウケるのと同じ理由で、米国や中国でウケることも可能だと思っている。自分たちのやるべきことをやるのが一番の近道だ」。

 サイバーエージェントの藤田氏も田中氏と同じ意見だ。「Facebookがオープン化したことで、企業はソーシャルアプリケーションプロバイダー(SAP)としてスタートできるようになった。クラウドを用いれば、自社でサーバーを構築する必要がない。こうした環境が事業を加速させた。特にスマートフォンが普及し始めてから、びっくりする変化が起きている。App StoreとかAndroidマーケットでアプリを配布すると、放っておいてもユーザーの2~3割は海外から来る。あっという間に海外向けサービスが出せるということ。つまり、ローカライズやカスタマイズをする必要がない、すぐに世界で使ってもらえるレベルのサービスを作るのが大事になってくる」と話す。

各社の海外展開、具体的な戦略は

日本コカ・コーラでインタラクティブマーケティングを統括する江端浩人氏

 では、具体的な戦略面ではどうか。ミクシィは基本的に海外向けサービスも自前で開発する方針だが、現地に同じ方向性で、合う会社があればパートナーとして組んだり、あるいは買収することも検討するという。

 サイバーエージェントは大型買収はしない方針だ。自社開発にこだわる。「グローバルの壁を越えられるのは、GoogleやAmazonのような強い技術力。ひとつ良いサービスが出ると世界中で一気に広まる。最近、海外のサービスが日本に入りづらくなったのは、入ろうとした時にはすでに似たようなサービスができているから。真似できないほど技術力が大事。サイバーエージェントは私が技術担当役員となり、技術力を強化する方針をとっている」(藤田氏)。

 グリーの田中氏は「圧倒的な製品力があればグローバル化はたやすい」と語る。「製品力とは何かというと、類似品に対する品質の差。ソーシャルゲームという分野では類似品の品質が低い時代だから我々が他社を圧倒できているが、半年後や1年後はわからない。我々のプロダクトに競争力があれば、カスタマイズする必要はなくなる。市場環境によって、カスタマイズするか、得ないかを考えるのが重要」と述べ、あらためて世界のスタンダードとなる立場を狙う姿勢を強調した。

 江端氏は、ディスカッションに参加した3社を「ビジョナリーカンパニー」と評した。「自社のコアビジネスを作って、それを進化させて、時代に合わせた形で展開している。コアを持って世界に進出してほしい。私の夢は、コカ・コーラのキャンペーンをサイバーエージェント、グリー、ミクシィのグローバルプラットフォームで展開すること」と締めくくった。


関連情報

(武田 京子)

2011/10/28 06:00