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イベントレポート

Ustream Asia中川社長が講演、3月11日・東日本大震災当日の視聴動向を解説


 「Interop Tokyo 2011」で10日、Ustream Asia株式会社代表取締役社長の中川具隆氏が「震災におけるソーシャルメディアの役割と可能性」と題して講演。東日本大震災の発生した3月11日以降、ライブ映像配信サイト「Ustream」がどのように利用されたかについて、テレビ局の対応やトラフィック動向などを交えて語った。

月次の視聴者6500万人、Ustreamの魅力とは

 中川氏はまずUstreamを「誰もが手軽かつ本格的に、世界中に向けてライブ配信していただくためのサービス」と定義。サービスの概要をあらためて紹介した。

Ustream Asia株式会社代表取締役社長の中川具隆氏

 2011年3月度時点では、月間ユニーク視聴ユーザー数は全世界合計で6500万人。ライブ配信を実施するためにユーザー登録した会員の数は累計1050万件に達した。アーカイブを含めたビデオの視聴回数は月間2億5000万回にも及ぶ大規模サービスであることをアピールした。

 しかし、会員のすべてが大規模な配信を行っているわけではない。「1人で配信し、1人しか見ていないチャンネルも数千件ある。その一方で、放送局が実施して100万人が視聴する番組もある。個人か放送局かにかかわらず、統一されたシステム上でどんな規模の配信も共存していることも特徴」と中川氏は補足する。

 現在は、90%近いユーザーがPCからUstreamを視聴しているが、今後は携帯電話やスマートフォンからの視聴が増えるとみられる。また、Ustreamを直接視聴できる高機能デジタルテレビも米国では発表されている。

 不法配信コンテンツの対応も徹底。サンフランシスコ、東京、ブダペスト(ハンガリー)の3拠点が、時差を利用しながら24時間365日体制の監視を実施している。

 また、Ustreamがソーシャルメディアと称される点については、Twitterとの強力な連携機能を整備した結果ではないかと中川氏は分析する。Ustream閲覧直前に利用しているサイトないしサービス(導線)を分析したところ、日本では約11%がTwitter。さらに、Ustreamを閲覧し始めたユーザーが「ソーシャルストリーム機能」を利用して番組関連のツイートをし始め、それを見た別のユーザーが呼び込まれるケースも約13%あるという。結果として24%のユーザーがTwitter経由でUstreamを利用していることになる。米国ではTwitterに加えてFacebookからの流入も多い。

 ただし、中川氏自身は「Ustream自身はメディアではなく、ライブ映像配信のためのプラットフォームだと思っている」とコメント。Ustreamを使って動画配信するユーザー自身がメディアになれる可能性を秘めていると訴えた。

 基本無料で利用できるUstreamだが、その収益源の1つには「Open PPV」がある。米国で積極的に展開している方式で、「人気の番組を配信しているユーザーに対してプロ・アマ問わず、有料のPPV番組を配信する権利を運営側から勝手にお渡ししている。その方々に独自にご判断をいただき、もし実際に有料制にするのであればレベニューシェアをいただく方式」という。このほか、一般的な広告枠の販売に加え、日本でも導入した「Ad Free」は、動画配信画面の広告枠をユーザー側が自由に設定するための有料プランとなっている。


Ustreamの利用実績 約24%のユーザーがTwitter経由でUstreamにアクセスしている

震災時のテレビ放送再配信、その裏側とは?

 続いて、東日本大震災を受けてのUstreamの対応が説明された。まず、日次での視聴者数が震災の前後で激変した。「1日あたりのユニーク視聴者数は、震災発生直前は約20〜25万人ほど。これが震災当日は約133万人になった」と中川氏は説明する。その日を境に5.2倍にもなった。

 これには、NHKやTBSニュースバード、フジテレビをはじめとしたテレビ放送各局がUstream向けの番組再配信を行った背景がある。この段階では再配信の公益性を重視し、広告も完全に非表示とした。

 とはいえ、コスト面の負担は相当なものだったらしく、中川氏は「地震の影響が長引くにつれ、(トラフィックの)費用メーターだけが上がっていき、収入はゼロ。『このまま続いたらUstreamはどうなってしまうのか』と、経営陣は影でこそこそとミーティングしていたのが正直なところ」と、苦労の様子を明かした。

震災発生前後の日次視聴者数 月次での視聴者数

 震災報道が落ち着き、広告表示を再開したのは1週間後の3月18日。しかし、デイリーでの視聴数は震災前の約2倍にあたる約50万件を維持。中川氏は「震災対応を売り文句にするわけはいかないが、結果的にはサイト価値が2倍になった」と複雑な胸中を覗かせた。また、同時接続者数のピークとなったのは3月15日13時ごろで、約20万人。当日は、福島第一原発のメルトダウンの疑いが高まった時でもあったという。

 地震発生当日の様子はどうだったのだろうか。中川氏は象徴的な事例として、地震発生から約17分後の15時3分には、テレビ番組の違法再配信がすでに始まっていたことを挙げる。「広島県の中学生が、スマートフォンを使って勝手にNHKのテレビ放送を再配信していた」。

 この行為は前述の監視センターによってすぐに発見された。通常であれば排除措置を即刻行うが、当日はすでに万単位の人間がこの違法配信を同時に視聴してしまっていた。米国出張中だった中川氏自身、現地からUstreamにアクセスした際、この違法番組の存在を目撃したという。

 この配信自体は暴挙であるが、番組に付随するコメントなども監視したところ、テレビが見られずに困っている人の多さ、非常時における多様な報道手段の確保を認識させられたという。このため、Ustreamでは異例の対応として、NHKの経営企画部にメールで現状を報告。「(違法とはいえ)現実に必要とされている以上、この情報の流れを止めないで欲しい、もしくはNHK自身でネット向けの配信を実施してくれないかとお願いしたところ、15分ほどで『本メールをもって再配信を許諾したと思ってもらってかまわない』と返答いただいた」と、中川氏はその舞台裏を明かす。その後、正式な再配信が開始された。

 さらに時系列ではTBSニュースバードが17時42分、テレビ神奈川が19時10分、フジテレビも20時40分に再配信を開始した。地震当日の約6時間でこれだけの再配信が開始できた点について、中川氏は「メディアではなく、あくまでもプラットフォームという立ち位置にUstreamがいたことが奏功したように思う」と振り返る。Ustreamが仮にメディアであった場合、テレビ各局とは“競合メディア”の関係になってしまう。しかし、プラットフォームという姿勢をあくまでも貫いたため、競合や許諾といった余計な手間なく、スムーズに配信できたのではないかと中川氏は分析していた。最終的には13のテレビ・ラジオ放送局が再配信を実施。視聴回数はのべ680万回を超えた。

同時接続者数の推移 地震発生当日の状況。震災発生の約17分後にはNHK番組の違法再配信が始まっていた

番組ニーズも次第に変化

 また、今回のテレビ・ラジオ再配信では、非常事態を考慮して海外からの視聴制限を設けなかった。結果、約74%のユーザーは国内から番組を見ていたが、残る約26%のユーザーが海外から日本語放送を見ていた。最終的には131カ国からアクセスがあったという。震災当日、海外出張していた中川氏も、日本へ電話をかけても繋がらない状況に焦りを覚えたとのことが、Ustream上の再配信から安堵感を得ただけでなく、サービスのポテンシャルを再確認できたと語る。

 NHKが海外向けに放送している英語報道チャンネル「NHK World」の再配信では逆の現象が発生。英語番組にも関わらず、日本国内からの視聴が約30%を占めた。日本国内に在住する英語圏出身者が、この再配信を頼ったと考えられる。

地震発生から日が経つにつれ、ランキング上位番組の傾向も変動していった

 一方、地震発生から約3週間の番組視聴数ランキングからは、求められている番組が少しずつ変遷していく状況が垣間見えた。例えば地震翌日12日までは、より信頼性の高い情報を求めてか、在京キー局を中心とした大手マスメディアの番組のランキングが高くなっていた。

 中川氏によると、Ustreamでは震災発生以前から在京キー局とはコンタクトをとっており、いずれの局にも配信用アカウントを発行していた。何らかの形でテスト配信も実施されており、各局ともUstreamの理解度は一定レベルに達していたはずという。

 その後は時間が経過にするにつれ、より被災地に根ざした情報源、つまり現地テレビ局の情報が重要になってくる。しかし、地方局となるとUstreamのサポートが行き届いておらず、放送局の関係者がUstreamの存在すら知らない可能性もある。

 だが、この問題は解決できた。「今回ありがたかったのは、地方在住の一般の“Ustreamer(ライブ配信をしている人)”が、現地のテレビ局スタッフに変わってテレビ再配信をボランティアで代行してくれたこと」と中川氏は説明。一般ユーザーによる尽力があったことも明かした。

 在京キー局、地方局の番組に続いて、その後ランキング上位に目立つようになったのは、フリージャーナリストたちの番組だ。大手マスコミとはまた異なる見地から原発問題を解説する番組が多く、原子炉の設計者なども出演していた。これらは原発の危険性を率直に告げるケースがほとんどで、聞いていて恐ろしい内容が大半。中川氏は「『大手マスコミが民衆を落ち着けようとしているのになぜ煽るんだ』という声もあったようだが、やはり我々には知る権利がある。さまざまな意見、事実をすべて出してもらって、その上で選択していくスタイルになっていくのだろう」と補足した。

 続いて3月下旬以降では、チャリティーを目的とした番組も増えた。中川氏は「いくら高名なアーティストでも個人で動こうとすれば、義援金を集めるためには大きな会場が必要になり、お金も当然かかる。Ustreamであればアーティスト自身の思いやアクションを(よりシンプルに)表明でき、共感の助けになる」と語り、海外など遠隔地からのチャリティーにも有効だとした。

中川氏によるまとめ

 中川氏は最後に震災の教訓として「テレビ、電話に並ぶ情報伝達手段としての、インターネットの重要性をもう一度認識できたと思う」とコメント。また、テレビ局がUstreamというツールを利用して再配信に取り組んだ例を挙げ、“既存マスメディア対新興ネット企業”と一般に語られる対立軸は過去のもので、補完関係にあると指摘した。

 さらに「ソーシャルメディアはあくまでも道具。Ustreamはインフラとしてのバックアップこそできるが、情報の送り手と受け手が信頼し合えることが重要」とも補足。ユーザー1人1人の考えや行動こそが、ソーシャルメディア全体の価値を決めると訴え、講演を締めくくった。


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(森田 秀一)

2011/6/10 17:31