「NBA選手の肌露出もダメ」中国のフィルタリング義務化騒動


JPCERT/CCのJack YS Lin氏

 秋葉原コンベンションホールで開催中の「Internet Week 2009」で25日、「インターネットをとりまく政策と規制の最新動向」と題したセッションが行われ、JPCERTコーディネーションセンター(JPCERT/CC)のJack YS Lin氏が、青少年の保護を目的とした中国政府のフィルタリング導入政策について解説した。

 中国政府は5月19日、中国国内で7月1日から販売されるすべてのPCに対して、違法・有害コンテンツの閲覧を遮断するフィルタリングソフトのインストールを義務付けると通達。予算として4170万元(約6億円)を計上し、「グリーン・ダム」と呼ばれるフィルタリングソフトの使用権を1年間買い取るとしたが、現在は棚上げ状態となっているという。

 「グリーン・ダム」の“強制インストール”をめぐっては、国内外から「独占禁止法に抵触しないのか」「PC単位の検閲を行うのか」といった強い反発が見られたという。また、中国のインターネット利用者からも、「内側にグリーン・ダム、外側にグレートファイアウォール、合わせて天下無敵」といった冷ややかな反応があったようだ。

フィルタリング義務化の目的と手段フィルタリング義務化が通達されるまでの経緯

フィルタリングの義務化は棚上げ状態に


フィルタリング義務化に対する国外の反応と中国政府の見解

 「グリーン・ダム」は3月以降、95のWebサイトで無償公開され、ダウンロード件数は累計326万件に上るなど多くの関心を集めていた。こうした中、「グリーン・ダム」が他社のコードを無断使用しているとの疑惑が噴出。さらに脆弱性が指摘され、「グリーン・ダム」を無効化するツール「ダムバスター」までが登場するに至った。

 一連の騒動を受けて中国政府の工業和信息化部は6月30日、「PCメーカーは状況に応じてインストール時期を見合わせても良い」として、フィルタリングソフト義務化の実質的な延期を認める通達を出した。政府の情報検閲を懸念する声には、「ソフトはユーザー活動の監視を行っていない。使用・不使用もユーザーが決めることだ」と反論したという。

 なお、8月には工業和信息化部の李毅中氏が、「学校やネットカフェなどの公共の場所以外ではインストールを強制しない」と公式に発表している。Lin氏によれば、「その後、中国政府のフィルタリング政策が進んだという話は聞いていない」としており、暗礁に乗り上げているようだ。

画像フィルタリングは「肌の露出度が判定基準」


「グリーン・ダム」の主な機能

 「グリーン・ダム」の主な機能としては、キーワード、画像、IPアドレスによるフィルタリングに加え、プロキシによる匿名閲覧を禁止する機能、3分おきに画面キャプチャを撮影する機能などがある。ブラウザで閲覧中のWebページがフィルタリング対象と判定された場合には、Webページの表示を遮断するだけでなく、ブラウザ自体を強制終了する。

 Lin氏は「グリーン・ダム」をインストールしたPCで、米プロバスケットボールリーグのNBAの公式サイトを閲覧するデモンストレーションを行い、選手のユニフォームから露出する肌が“アダルトコンテンツ”と判定される様子を紹介。この不可解な判定基準について、Lin氏は「肌の露出度で判断しているため」と説明した。

 また、台湾のニュースサイトでは、トップページに記載されている語句がフィルタリング対象とされ、ニュースサイトが閲覧できない状態となった。なお、フィルタリング対象とされたサイトは自動的に「グリーン・ダム」のブラックリストに登録され、ユーザーが解除しなければサイトにアクセスできない仕組みになっているという。

「グリーン・ダム」のオフィシャルサイト「グリーン・ダム」のトップ画面(左)と、遮断画面(右)

「グリーン・ダム」の管理画面。インターネットの利用を許可する時間帯(左上)、フィルタリングを実施するコンテンツのカテゴリ(右)、起動を許可するプログラム(左下)などを設定できる3分おきに撮影する画面キャプチャ(左)とアクセスログ(右)

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(増田 覚)

2009/11/25 17:52