高木浩光氏「Winnyは適法に使えない」


 「安心・安全インターネット推進協議会」のP2P研究会が2日に開催した情報セキュリティセミナーで、産業技術総合研究所の高木浩光氏が「Winny」や「Share」などのファイル共有ソフトの問題点を指摘するとともに、児童ポルノの単純所持規制や「ウイルス罪」の新設など法改正の必要性を訴えた。

Winnyを使っていなければ大丈夫?

産業技術総合研究所の高木浩光氏
P2P/ファイル共有/Winny等の3つの領域では、「Winny等」が問題だという

 高木氏はまず、Winny開発者の金子勇氏が逮捕・起訴されて以降、Winnyをめぐる世論が間違った方向に向かっていると指摘する。

 「著名な評論家が『Winnyは悪くない』と言ったり、先日も『朝まで生テレビ』で日本は新しいP2P技術をつぶすような社会といった発言があったが、これを受けてTwitter上でも盛り上がっていたが、これは間違っている。」

 また、一般人がWinnyに対して抱く印象としては、「よくわからないけど情報漏えいが怖いので使わない」や「会社から禁止されているので使わない」といったものが多いという。こうしたことから、「情報漏えい問題が解決されれば、Winnyを使っても良いのではないか」という話になりかねないと危惧する。

 「極端な話だが、Winnyを使っていなくても、Winnyプロトコルを実装するウイルスが登場すれば、そのウイルス自体がWinnyの役割を果たすことで、感染したユーザーのファイルをWinnyネットワークに公開することは技術的に可能だ。Winnyなどのファイル共有ソフトをなくさない限り、情報漏えいの根本的な解決にはならない」。

 「情報漏えいはウイルス対策ソフトで防げる」といった声に対しては、「最新のウイルスは防げない」と反論。さらに、未知の脆弱性を突く攻撃に対しては、誰もがウイルスに感染して情報漏えいする可能性はあるとして、現状では、Winnyネットワークに流出したファイルを流通させない取り組みが不可欠だとした。

 そもそもの問題として高木氏は、WinnyやShareなど「社会で問題視されている」ファイル共有ソフトと、コンテンツ配信などに活用されるP2P技術が一緒くたになっていると指摘。さらに、同じファイル共有ソフトでも、「BitTorrent」には流出した個人情報などの削除依頼を行えるとして、Winnyなどのファイル共有ソフトとは区別すべきと訴えた。

日本で情報漏えいが止まらない理由

LimeWireとWinnyの構造の違い
Winnyは「ワームプラットフォーム」だと指摘する

 また、WinnyやShareなどのファイル共有ソフトの性質として、「人が嫌がることをする輩が現れたとき、たとえそれが多くの人が望まないことであっても、誰もそれを止められない」ようにシステムが作られているという。「暴露ウイルスに感染して流出したファイルを集めて楽しむような、日本社会全体の一種の文化が形成されてしまった」。

 一方、英語圏では「Gnutella」ネットワークが主流で、同ネットワークを使用する「LimeWire」など複数の互換ソフトが使われているが、情報漏えい事故は日本ほど深刻ではないという。過去に漏えい事故は起こっているが、その原因の多くは「My Documents」フォルダを公開フォルダに設定するようなミスだったとしている。

 日本で情報漏えいは止まらない理由について高木氏は、Winnyのキーワード指定自動ダウンロード機能の存在を挙げる。例えば、「映画」や「仁義」で検索すると、映画の「仁義なき戦い」だけでなく、流出ファイルに付けられる「仁義なきキンタマ」という文字列を含むファイルも一緒にダウンロードして共有状態にしてしまうというわけだ。

 テレビドラマをダウンロードしたつもりの主婦が、いつのまにか児童ポルノに関するファイルをダウンロードしてしまうケースもあると指摘。「そうなるようなファイル名をあえて付けることができるのも問題だ」。このようにして共有状態になったファイルは自動的にWinnyネットワークに流れることから、情報漏えいが止まらないと解説する。

 また、Winnyネットワーク自体が「ワームのプラットフォーム」の役割を果たしていると強調する。高木氏は、ウイルスには「害を及ぼす」「自己複製で自動的に拡散する」という2つの構成要素があると指摘。Winnyで出回るAntinny系のウイルスは後者を備えていないが、Winnyの自動複製拡散機能に便乗して、ウイルスの複製が行われているとした。

Winnyは適法には使えない

 高木氏は、2ちゃんねるの「MXの次はなんなんだ?2」というスレッドにおける、「利用者は自分が運んでいるものがやばそうなものであることは知っていますけど、それの詳細は知らず」という47氏の発言を引用し、「つまり、自分が何を公衆送信可能化しているか自覚しない仕組みになっている」と話した。

 さらに高木氏は、Winnyが「キャッシュ」と称しているものは、使用頻度の高いデータをメモリーなどから高速に読み込む、本来のキャッシュではないと指摘する。「例えば、Googleが検索結果に表示する『キャッシュ』は、いわば『ミラーコピー』。これをキャッシュと呼ぶようになり、著作権侵害を懸念するソフトウェア開発者が『キャッシュだから許してくれ』と言う風潮が出てきた。Winnyのキャッシュもミラーコピーに該当する」。

 なお、Winnyの開発で著作権法違反ほう助の罪に問われた金子氏は2009年10月、大阪高裁で無罪判決が言い渡された後、「ユーザーがソフトをどう使うかは自由だが、ちゃんと使っていただきたい」とコメントしたとされる。この発言に対して高木氏は、「Winnyはネットワークに参加する人が全員適法に使わない限り、適法に使えない」として、「どうやったらちゃんと使えるのか」と疑問を呈した。

過失による放流にも罰則を適用すべき

ウイルス罪などの法整備の必要性

 高木氏は、Winnyネットワークのノード数で間違った事実が報道されているとも指摘。具体的には、改正著作権法が施行された2010年1月前後で、実際にはノード数が1~2割減少していたにもかかわらず、増加したと報じられていた。「ある大学の研究用クローラーに不具合があったため、通常よりも約8万のノードが増えていたためだ」。

 このほか、法整備で情報漏えいを防ぐことも重要だとして、ウイルス作者を罰する「ウイルス罪」を新設すべきだと主張。「国会で継続審議のまま6年間も放置されている。ウイルス罪は共謀罪とセットになっているから通らなかったが、ウイルス罪だけでも分割して審議すべき」。

 一方、著作権法によるアプローチでは、問題の根本解決にはつながらないという。「私見だが、京都府警が金子氏を著作権法違反ほう助で逮捕したのは、著作権侵害が蔓延するからではなく、流出したファイルが消せなくなるなどの人権侵害が起きることも踏まえて立件したと思っている。『著作権法は万能』と警察はいうが、別件的に逮捕している限り、問題の根本解決にはならないだろう」。

 最後に高木氏は、Winnyなどのファイル共有ソフトのユーザーを対象にした法律案として、自らが考えたという「Winny等規制法」を紹介。同案は、Winnyなどのユーザーが、児童ポルノをはじめとする「重大な権利侵害情報」を過失によって公衆送信させた場合でも罰金刑を適用するというもの。

 高木氏によれば、Winnyに関してはこれまで、ファイルをキャッシュとして共有していたユーザーが起訴された事例はないという。これは、ユーザーがキャッシュを故意に保有していたか、過失で保有していたかが、警察では証明できないためだという。高木氏は、過失で公衆送信することも処罰の対象とすることにより、そもそもWinny型のファイル共有ソフトを使うことが即違法になると語った。


関連情報

(増田 覚)

2010/3/3 17:07