インタビュー
精度数cm、衛星航法による自律ドローンは、社会になにをもたらすか? 安全を確保する「衝突回避」が実現すれば多数のドローンが飛ぶ社会も……
2017年9月21日 16:26
10月3日~6日に幕張メッセ(千葉県千葉市)で開催される「CEATEC JAPAN 2017」。その中の主催者特別企画展示である「IoTタウン」では、「社会課題を解決してSociety 5.0を築く」をテーマとして、さまざまな産業のフロントランナーが集結し、新たなビジネスモデルにつながるアイデアやパートナーとの共創を発信する。
「超スマート社会」ともいえるSociety 5.0だが、その中で興味深い組み合わせといえるのが、業務用の国産大型ドローンを開発する株式会社自律制御システム研究所(ACSL)と、そうしたドローンに搭載される精度1cm以下の高精度のGNSS(全地球航法衛星システム)受信機を提供するマゼランシステムズジャパン株式会社(MSJ)の2社が組んだ出展ブースだ。
両社は、その協業で、ドローンの高度な衝突回避システムを実現、高度な測位や原子時計並みの時刻同期を元にした「高精度なドローン活用」や「落ちないドローン」を現実のものとしていくビジョンを持っているという。
今のところ協業が始まったばかりの両社だが、今回は、IoTタウンにおいて何を展示し、どのような未来を訴求するのか。マゼランシステムズジャパン代表取締役の岸本信弘氏と、自律制御システム研究所取締役・最高事業推進責任者(CMO)の鷲谷聡之氏に話を聞いた。
「精度1cm以下の測位技術」(MSJ)と独自のドローン自律制御(ACSL)で、高度な衝突回避を実現
――CEATEC JAPAN 2017のIoTタウンでは、2社共同でブースを構えるとのことですが、両社の協業はどのようなことがきっかけでスタートしたのでしょうか。
岸本氏:
弊社は衛星測位システムの開発会社として、2017年2月で30年を迎えました。まだGPS衛星が存在する前からこのビジネスを展開してきたわけですが、近年、特に力を入れているのが、従来の衛星測位技術を大きく上回る、精度1cm以下で位置情報を取得できる高精度測位技術です。
この分野は、従来は測量用途などに限られていましたが、コストを下げることで自動運転や機械制御、モニタリングなどさまざまな用途への利用が可能であり、その中の1つとして、ドローンの高精度な自動運転にも我々の技術を生かせるだろうと考えて、ACSLにラブコールを送り、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)が実施する「ロボット・ドローンが活躍する省エネルギー社会の実現プロジェクト」において、ドローンの衝突回避技術の開発に共同で取り組むことにしました。
鷲谷氏:
弊社は2013年に千葉大学の野波健蔵教授が設立したスタートアップ企業です。野波教授は20年間、「ドローンが飛んでいるときにどうやって機体を安定させるか」という、人間に例えると頭脳にあたる部分を研究してきました。この研究を産業用途に活用するために創業したのがACSLです。弊社は大型の産業用途に特化した国産ドローンメーカーとして、機体から制御に至るまで総合的に開発を行っています。
ドローンがしっかりと飛ぶ上で、「自分がどこにいるか」を認識することは極めて大事であり、今回、MSJと一緒に組むことで、高度な衝突回避が実現できると考えて、協業を決めました。
――競合他社と比べて両社がどのような強みをもっているのか、それぞれお聞かせください。
鷲谷氏:
弊社のドローンの強みは、なんといっても独自の制御技術にあります。我々の制御アルゴリズムは産業用に特化しており、飛行機のように機体とプロペラを傾けて、傾けたまま姿勢を維持することで横向きの推力を作ることが可能なため、時速70~80kmの速さで飛行することができます。
ドローンを物流に使うのであれば、いかに限られた飛行時間でスループットを最大化するかが求められますので、より遠くへ運ぶためには飛行速度を最大化する必要があります。また、測量などの用途においても、大規模なエリアでできるだけ早く処理するためには高速飛行が求められるので、そこが最大の強みと言えます。
岸本氏:
我々がデザインしているGNSS受信機は、2018年度から4機体制となる準天頂衛星「みちびき」の高精度測位技術に対応しており、わずか数cmの誤差での測位が可能です。一方で、基準局から送られた補正情報を活用したRTK(リアルタイムキネマティック)測位も可能で、用途に応じて使い分けることも可能です。
ドローンの「ぶつかる」「落ちる」といったイメージをなくす
――2社の協業のテーマは“衝突回避技術”ですが、この技術はこれからの社会においてどの程度、重要となる技術なのでしょうか。
鷲谷氏:
衝突回避技術は、あくまでもドローンの安全対策技術の1つに過ぎませんが、実はとても重要です。現在は、まだそれほどドローンが空を飛び交っているような状況ではないので、その重要性を実感するのは難しいかもしれませんが、この技術はドローンを普及させていく上で大きなマイルストーンとなる技術と言えます。
なぜなら、ドローンに対して「ぶつかる」「落ちる」といったイメージがあるうちは、あまりにもリスクが大きく、人はドローンを本気で使う気にはならないからです。特に産業用ドローンの場合は企業にとってのリスクとなってしまうので、衝突リスクについて技術的にしっかりと解決できているということを示さなければいけません。ドローン対ドローンだけでなく、ドローン対“建物”、ドローン対“人”など、さまざまなモノ同士の衝突を回避させる技術は、これから非常に大事になります。
――ドローンの自律飛行が普及するためには、衝突回避技術はどの程度まで進化する必要があるとお考えですか。
鷲谷氏:
少なくとも地上を歩いている人には絶対にぶつからないようにすることが必要となるので、まずは“落ちないドローン”を作ることですね。もう1つは、たとえ落ちたとしても、最悪のケースを防ぐために、ドローンが人の上を飛ばないようにコースを選択するとか、万が一、墜落する場合にしても、人にはぶつからないような技術や工夫が必要となると思います。
――そのような課題が解決されることによってドローンの自律飛行が実現した場合、Society 5.0の中でドローンはどのように活用されると思いますか。
鷲谷氏:
具体的な事例としては、まず精密農業が挙げられます。高齢化が進み、耕作放棄地の増加が社会的な課題となっていますが、自律して動くドローンが普及することにより、例えば東京で会社勤めをしている人が、早朝やアフター5に、北海道にある農地を、ドローンを使って遠隔管理できる時代が訪れるかもしれません。
物流についても、人がその場に行って運ぶのではなく、遠隔地から監視したままモノを運ぶことができるようになれば社会に貢献できると思われます。すべてを自動化させるのがいいとは限りませんが、少なくとも、いわゆる“3K”(「汚い」「きつい」「苦しい」)の仕事は完全な自動化を目指すべきだと思いますし、それによって省エネや、労働者の余暇を増やすことにもつながります。
ドローン、車、船――原子時計並の精度ですべての時間を同期
――GNSS技術の重要性についてはいかがでしょうか。また、Society 5.0の中でGNSS技術はどのように活用されるとお考えですか。
岸本氏:
衝突回避技術については、鷲谷さんがおっしゃった通りで、1平方kmあたり3機しか飛べない状態だったのが、高精度な衛星測位によって「20機を飛ばしても大丈夫」ということになれば、それによって安全面を担保しながら効率化を目指していくことができます。
そしてもう1つGNSSがもたらす機能として、原子時計並の精度で時間を同期できるという点が挙げられます。ドローンだけでなく、地上の車や船舶など、すべての動くものがGNSSによって時間同期されて、それによってスムーズに連携できるようになる社会を我々は目指しています。
例えば、必ずしもドローンが1つの荷物を何十kmも運ぶ必要はなく、途中までは無人搬送車(AGV)を使い、ラストワンマイルでドローンを使うやり方ありますが、その場合、ドローンが戻ってくるまでAGVがずっと待機しているのは非効率です。厳密な測位や安全の確保ができれば、待ち時間もAGVが移動し、最適なルートで合流する、といった効率の良いシステムが構築できます。
もし時刻が厳密に同期されていなければ、そのようなスムーズな連携は困難です。これは物流だけでなく建設現場や自動運転といった分野でも同様で、GNSSによる時刻同期は今後の社会において不可欠な技術と考えています。
「衝突回避ドローンが作る未来」をCEATECでアピール衛星測位が前提の新型ドローンや、衛星測位の農機、自動搬送車などを展示予定
――そのような技術や将来のビジョンを来場者に伝えるために、CEATEC JAPAN 2017のIoTタウンではどのような展示内容となるのかをお聞かせください。
岸本氏:
今回の展示では、2社それぞれの最新製品や得意とする技術を展示すると同時に、今後、両社の技術を組み合わせることによってどのように社会が変わっていくか、どのように社会に貢献できるかということも訴えたいと思います。もちろん、NEDOのプロジェクトにおける衝突回避技術への取り組みについても、真ん中に置いてアピールしたいと考えています。
MSJの製品としては、最新のマルチGNSS受信モジュールを展示する予定です。1つのアンテナでGNSSのL1/L2/L5/L6の4周波をまかなえるのは世界初です。また、弊社はドローン以外にも、京都大学と共同で自動搬送車や農機などの自動運転にも取り組んでおり、その取り組みを紹介するために、京都大学で実際に使われているAGVも展示します。
鷲谷氏:
弊社では、MSJの新しいGNSS受信モジュールを搭載することを前提としたドローンの最新機種を展示します。ドローンは機体の重量や大きさが飛行時間のボトルネックになるので、いかに軽量化するかが課題となります。その点を工夫しなければならないと同時に、新型モジュールの搭載によって、ノイズ処理の方法など中の作り方も変えたものが必要となります。
また、従来は雨が降る中での飛行は想定されていませんでしたが、物流で長距離を飛ばすとなると、雨の日も飛行する必要があり、防水処理なども工夫しなければいけません。このような点に配慮した、展示会では初公開となる最新機種をお見せする予定ですので、ぜひ楽しみにしてください。
――最後に、CEATEC JAPAN 2017を訪れる参加者にメッセージをお願いします。
岸本氏:
衛星測位の技術は今後、30年間は進化していくと言われていますが、これから訪れる次の社会を構築しようと考えている方々、特に車両などの機体を開発しているメーカーの方には、ぜひブースに来ていただきたいと思っています。GNSSの技術には多くの可能性があり、いろいろな扉がありますので、ぜひそこをノックしていただければ幸いです。
鷲谷氏:
ドローンメーカーとして、常に最先端の製品、一歩先を行く最新の取り組みについて発信していこうと考えていますので、ドローンに興味のある人はぜひブースにお立ち寄りいただき、気軽に声をかけてください。今後ドローンを活用したい人、すでにドローンを活用している人、あるいはドローンのことを全く知らない人でもかまいません。すでにホビー用ドローンを使っている方であれば、ホビー用ドローンと産業用ドローンとの違いにぜひ着目していただきたいと思います。