インタビュー
住宅建材のスペシャリスト、LIXILはスマートホームにどう取り組むのか?
外構をスマート化する「スマートエクステリア」をCEATECに出展
2017年9月20日 06:01
トイレ、サッシ、キッチン、お風呂……これでまでは、個々のスペシャリストであるメーカーが、個々に開発・製造・販売していた。しかし、「総合的な住宅のIoT化」を見据えると、横断的に対応できるメーカーに俄然注目したくなる。そして、まさにそうしたメーカーとして世界規模で展開しているのが、日本のLIXIL(リクシル)だ。
同社は2011年、国内の大手建材・設備機器メーカー5社(トステム・INAX・サンウエーブ工業・新日軽・TOEX)が統合して誕生、さらにGROHEやAmerican Standard Brandsなどの海外子会社も統合した「総合住生活企業」。多岐に渡る建材・設備機器と幅広い住関連サービスを提供しており、そのカバー範囲も戸建住宅・マンションからオフィス・商業施設などの非住宅向けまでと多岐にわたる。
そんな同社は、政府の打ち出した超スマート社会コンセプト「Society 5.0」にフォーカス、スマートハウスの開発やそれを支えるセンサー、IoT化の技術開発を「U2-Home II(ユースクウェアホームII)」という実験用の住宅で行っているという。そして、「Society 5.0」をテーマとする、CEATEC JAPAN 2017のIoTタウンにも出展、敷地周りの外構をスマート化する「スマートエクステリア」などをアピールする予定という。
電気やエネルギー、ITというイメージはあまりないLIXILが、どのような研究・開発を行い、IT産業の次を担うSociety 5.0にアプローチしているのか? 株式会社LIXIL Technology Research本部 システム技術研究所 所長の三原 寛司氏にお話をお伺いした。
窓、洗面台、トイレ、お風呂、キッチン、外構まで……「建材設備機器メーカー」ならではの視点で超スマート社会に切り込む
――国が提唱している超スマート社会「Society 5.0」というビジョンがありますが、LIXILもこれに向けて舵を切りつつ、住宅建材やシステムを開発してるのでしょうか。
Society 5.0という考えは非常に幅広く、国の言葉を借りれば「必要なもの・サービスを、必要な人に、必要なときに、必要なだけ提供し、社会の様々なニーズにきめ細かに対応でき、あらゆる人が質の高いサービスを受けられ、年齢、性別、地域、言語といったさまざまな違いを乗り越え、活き活きと快適に暮らすことのできる社会」とされています。
それを支える技術や仕組みは、インターネットやIoT、ICTといったものに加え、人や物を効率よく運ぶシステム、エネルギーのバリューチェーン、セキュリティシステム、インターフェースの標準化、AIの活用やビッグデータの解析などさまざまです。
LIXILは建材・設備機器メーカーとして、U2-Home IIを使い、快適で安心・安全をテーマに250個のセンサーを設置し、実際に得られるデータの活用を研究しています。
また、「スマートエクステリア」という外構では、IoTを用いてホームセキュリティや不在時でも宅配便を受け取れる「宅配ボックス」など、すでに実用化している製品もあり、次のステップに向けた研究・開発を行っています。
私たちLIXILは、住環境という観点からSociety 5.0の研究・開発を行い、「快適に暮らすことのできる社会」を研究しています。
――先にお伺いした社史では、名立たる企業が名を連ねていますが、スマートハウスやIoTという観点から見ると、ちょっと距離がある感じがします。具体的にはどのような取り組みを行っているのでしょうか。
本実験施設では、一般的なスマートハウスが最重視するエネルギーにあえて固執していません。そのせいで情報化やIoT、スマートハウスというイメージから離れているように見えるのかもしれません。しかし個々の製品、例えば水回りのウォーターテクノロジー、自動シャッター、玄関回りなどの電子化やIoT化を行っています。
しかも私たちの製品は、あくまで建材や設備であって、お客様に選んで使っていただくものです。ですからLIXIL製品ですべてをご提案するというのは、逆に不自然なのです。この実験住宅は、各部屋でエアコンのメーカーを変えています。なぜならLIXIL製品は、どの電機メーカーやエネルギー供給会社、ハウスメーカーにも対応できるように、汎用的なセンサーやデバイスを開発・研究しているからです。
「U2-Home II」では、HEMSだけでは管理できない、ウォーターテクノロジーや快適制御を研究開発
――一般的なスマートハウスは、HEMSを中心に各種のセンサーやデバイスで構成されていますが、エネルギーに固執しないLIXILは、どのようにこれらを統合しているのでしょうか。
例えば水回りであれば、各所に水流計センサーを設けているので、水が出しっぱなしの状態で玄関を出ようとすると警告します。水は一般的なHEMSでは管理できないのです。
また、お風呂での事故は気温差によるヒートショックが大きな原因となっています。そこで気温差が少なくなるような、室温コントロールをします。部屋と屋外の接点になる玄関なども、温度をコントロールして温度差を緩衝します。LIXILはエネルギー効率のみを考えた住環境ではなく、暮らしやすさや安心・安全を含めた住空間を研究しています。
これらはデバイス単位で制御・統合する場合もありますし、必要に応じてどのメーカーのHEMSともリンクさせて統合することもできます。場合によってはインターネットを経由し、クラウドで処理された結果がフィードバックされるということもあるでしょうし、これらのハイブリッドも考えられます。
――「U2-Home II」には、ほかにもたくさんのセンサーやデバイスが設置されているようですが、どのようなフィードバック制御をしているのでしょうか。
U2-Home IIは実験施設なので、250個というかなり多めのセンサーを取り付けています。音声コントロール用のマイクに気温センサー、粉塵(PM2.5)センサー、ドア開閉センサー、照度センサー、人感知センサー、水量センサーなどさまざまです。
これらのデータは、空間の快適制御(気温コントロールなど)やセキュリティ、音声コントロールなどと連動し、常に状態をモニタリングできるようになっています。
階段には手すりのタッチセンサーも設けてあり、安全対策の一環として「階段を登る際、手すりに触れていないと警告を出す」といった機能もつけています。
センサーのデータは、無線LANで送信するものもあれば、赤外線でデータをやり取りするものまでさまざまです。
各部屋に入れているメーカーの異なるエアコンも、独自のシステムで集中管理するようになっています。外気が涼しいようなら、スウィング窓(換気用の窓)を開けてエアコンを消すなど、より普段の生活に近い居住空間の快適制御を行っているのです。
建材メーカーとして汎用性を研究、いろいろな機器が導入されている既築住宅のスマートハウス化に対応できれば、新築にも対応可能
――見たところ、このU2-Home IIは新築ではないようですが、既築の住宅をスマートハウス化することを目標にしているのでしょうか。
さまざまなメーカーの機器が導入されている既築の住宅に対応できれば、新築住宅にも簡単に対応できます。そのために、あえて対応が難しい既築住宅を使って実験しています。
LIXILではさまざまなセンサーとさまざまなインターフェースを用いることで、汎用性の高いシステムを構築することを目指しています。将来どんなシステムにも、インターフェースを合わせられるようにしているためです。
ですから新築でスマートハウスにすることはもちろん、部分的なリフォームで部分的にスマートハウスにすることもできる、自由度を持っています。
一般的なスマートハウスは、主に新築をターゲットに研究をされています。しかし私たちは建材メーカーなので、部分的にも対応でき、既築住宅にも対応できる柔軟さを持たせています。
――すでに販売されている「スマートエクステリア」は、自宅の外回りのスマート化ということなのでしょうか。また、U2-Home IIとの連携はどうなるのでしょうか。
スマートエクステリアは、外構のIoT化で、簡易的なホームセキュリティや便利機能を提供するものです。将来的にはU2-Home IIで実験しているように、宅内の建材や設備機器と連動するデバイスの1つになります。
例えば警戒(留守)モードで外部からの侵入者があると、自動的にシャッターを下ろし警告。あわせてダウンライトを点滅することで、異常をお知らせします。
また、車には、駐車時に真上から見ているように見せるアラウンドビューという技術があります。私たちはこの技術をホームセキュリティに応用し、まるで上空から自宅を監視しているように見えるようしました。
さらに駐車場用のカーゲートは、従来は赤外線リモコンなどを利用していましたが、ホームユニットに接続してIoT化することで、スマートフォンで開閉可能にし、その記録を残すことも可能です。
将来的には、スマートエクステリアとU2-Home IIのさまざまなセンサーのデータを連携させ、快適空間制御やホームセキュリティなどにフィードバックします。
2016年、発売し、予想を大幅に超える反響をいただいた「宅配ボックス」もIoTデバイスの1つで、宅配の受け取りをスマートフォンで確認できます。さらにカメラと連動させることで、受け取り時の撮影も可能となります。
今後の課題は、「各部屋に適したセンサーユニットの開発」とデータ整理、そして施工担当者の育成
――いまはまだ実験段階のU2-Home IIですが、今後の課題や製品化に向けてのロードマップを教えてください。
このモデルハウスでの実験は、個々のセンサーをたくさん取り付けていますが、将来的には「トイレ用センサー」「お風呂場用センサー」「玄関用センサー」というように、取り付ける場所ごとにいくつかのセンサーをまとめたセンサーユニットにまとめることです。建築部材メーカーからすると、こうして各部屋用のセンサーユニットにするのが、施工面やデータ収集の面でも合理的と考えています。
また、これらのセンサーからの情報をまとめ、データを整理し、快適制御を行うシステム開発も引き続き行います。より高度でインテリジェント、しかも汎用的にするために、システム技術を研究する部門を設け研究を続けています。
さらに大きな課題として残るのが、施工担当者の訓練です。ホームネットワークの構築から、各デバイスの接続・セットアップ作業と、ITエンジニアとしての知識が必要になります。その訓練を行い、取り付けからメンテナンスまでスムーズに行える人材育成も大きな課題としています。
CEATECブースでは、スマートエクステリアを展示LIXILだからできる「快適な暮らし」を目指して
――LIXILは「CEATEC JAPAN」の「IoTタウン」に初めて出展するわけですが、出展に踏み切った意図と、意気込みをお聞かせください。
宅配ボックスでLIXILのIoTへの取り組みを知っていただいた方もいるかと思いますが、大多数の方はLIXILのスマートハウスやIoTへの取り組みについてをご存知ないでしょう。今回、CEATEC JAPANに出展することで、少しでもみなさまにLIXILの考える近未来の住環境を知っていただければと思っています。
また、スマートエクステリアを展示しますので、すぐそこにある未来の外構を実際に見て、その手で確かめていただけると思います。LIXILの考える「快適な暮らし」をぜひご覧ください。