インタビュー
「アプリだけで完結する市場を作る」~ホームページ作成サービスJimdoの新アプリ
(2013/9/2 06:00)
12カ国語に対応したホームページ作成サービスを運営する独Jimdoは、ホームページ作成から管理・更新まで行えるiOS対応アプリ「Jimdo-App」を8月22日にリリースした。PCを持たないユーザーでも、Jimdoのユーザー登録からホームページ作成・更新まで、スマートフォンやタブレットのみですべて行える点が特徴だ。
2007年にドイツのJimdo社が開発したホームページ作成サービス「Jimdo」は、2009年にKDDIウェブコミュニケーションズと協業し日本国内向けにサービスを開始した。2011年にはKDDIウェブコミュニケーションズがGoogleと協業で全国の中小企業支援策としてJimdoをベースとしたホームページ作成サービス「みんなのビジネスオンライン」提供を開始。Jimdoの特徴であるWYSIWYGのわかりやすいユーザーインターフェイスもあり、サービスの認知度も高まってきている。
今回リリースされた「Jimdo-App」は、PCを所有していないユーザーでもiPhoneやiPad、iPod touch上でユーザー登録からホームページの開設、コンテンツの作成・更新までの一連の作業を可能とするもの。正式リリースにあたり、緊急来日したJimdo創設者のフリティオフ・デツナー氏と、KDDIウェブコミュニケーションズでJimdoのJapan Country Managerを務める駒井健生氏に、「Jimdo」と「Jimdo-App」にかける意気込みを聞いた。
メールと同じく、ウェブもいつでもどこでも管理できることが重要に
――初めに、「Jimdo」のワールドワイドにおける状況を教えていただけますか。
デツナー氏:
現在、グローバル全体では約900万のユーザーがいます。インターナショナルカンパニーとして12カ国語でサービス展開していまして、オフィスはドイツのハンブルク、サンフランシスコ、東京、上海の4カ所に構えています。中でも日本はドイツに次ぐ2番目に大きなマーケットになっているという状況です。
――モバイル対応については、2009年の日本でのサービスイン当初からどうなるのかという話は出ていましたね。今回「Jimdo-App」としてリリースすることになった経緯を教えていただけないでしょうか。
デツナー氏:
これまでJimdoで作成されたページのモバイルトラフィックを追ってきましたが、現在は全体の20%がモバイル端末からのアクセスとなっています。すでに今回のiOSアプリのリリース以前からモバイルに向けた活動はいろいろやってきていまして、たとえば2年前はスマートフォンに最適化した表示をできるようにし、この春にはスマートフォンでもっと使いやすくなるよう、たとえばショップのWebサイトであれば連絡先や地図などの情報を凝縮して表示できるようなフロントページも開発しました。
こうしたスマートフォンに対する活動を続けてきた中で、アプリとしてリリースすることは将来に向けての重要なステップであると言えます。たとえばEvernoteやメールなんかでは、PCとタブレット、スマートフォンの間で同期して使えることが非常に重要です。Webサイトについても、次の新しいステージとして、それらと同じように場所やプラットフォームを選ばずに管理できることが大切になるだろうと考えました。
――アプリからはPCブラウザーと同じ機能を利用できるのでしょうか。
駒井氏:
アプリの機能はPCブラウザーよりも限定されています。ただし、Webサイトを作るうえで一番必要なもの、ページの新規作成、文字入力や写真の追加・挿入といったページ編集、ページ削除などについてはきっちりカバーしています。PCで作る時と同じようにページのデザインレイアウトも選ぶことができますが、初期設定時のみ選択が可能です。スマートフォンでWebサイトを作成・編集し、それをもっとカスタマイズしたい場合にはPCブラウザーからの操作に切り替えることになります。
ウェブサイトを管理するサービスは他にも多くありますが、モバイル環境だけでユーザー登録からWebサイトの作成、編集、管理まで完結するサービスは今回の「Jimdo-App」が初めてではないでしょうか。
――機能をあえて絞った理由は?
デツナー氏:
さまざまな管理・編集の機能をモバイル単独でできることは重要です。1年半かけてポテンシャルの高いアプリを作れたと思っていますし、今も絶えず開発を続けています。PCブラウザー版の方がより多くの機能があることは確かですが、モバイルで本当に大切なのは、簡単に使えることと、必要な機能を網羅していることだと考えているんです。
駒井氏:
機能を絞ったのは、モバイルの操作性を損ないたくなかったというのもあります。Jimdoの場合、何をどこまでできるかということには重きを置いていません。機能が多いほどそれがユーザーにとって難しくなるのであれば削る、というコンセプトで、今回はiOS端末で使ったときに最も迷うことのない作りにしています。もちろん、今後の機能追加は考えてはいますが。
――具体的にはどういったことができるアプリになっているのでしょうか。
デツナー氏:
複雑なものを省いてシンプルにするというのが我々のJimdoにとって重要なコンセプトです。編集画面では、タップでタイトルやページ本文などに触れるだけで文字入力を始められますし、メニューからページの新規作成や写真の追加もできます。直感的な操作で複数枚の写真を一括アップロードでき、ユーザーに(プログラム的な)知識がなくても、アクセスしてきた端末に最適な形で画像とページを表示できるようになっています。
駒井氏:
編集画面では、ユーザーの想像通りに、「ここをタップすればこうなるだろう」というのをイメージしやすい作りにしていますね。編集した瞬間に実際のWebページにもその変更が反映される仕組みになっています。
――可能な限り簡単に、誰でも使えるということにフォーカスしているんですね。
デツナー氏:
オープンプラットフォームですので、ラップトップでも、他のスマートフォンやタブレットなどのデバイスでも、同時に管理画面を開いて編集可能です。本当に簡単に編集や更新ができるんです。楽しく更新できるのが一番ですし、楽しければもっとページを更新するようになります。たくさん更新するようになればいいコンテンツが生まれて、成功にもつながるでしょう。
たとえばレストランで撮った食事写真を公開するならスマートフォンやタブレットを使いたいところですが、新しいページを作ってさらに細かいこと、大きな変更をしたいならPCブラウザー版を使いたくなるわけで、すべてのデバイスで利用できることが大事ですよね。
個人的に開発に深く携わってきた、大好きで思い入れのある製品というのもありますが、本当に簡単に使えて、タップしていくだけで楽しく編集できるものに仕上がったと思います。
駒井氏:
私も開発の段階からずっと見てきていて、iOSアプリで機能が限定されることに対してどうなのか、という思いは正直言ってありました。ただ、モバイルで作って完結させるWebサイトがこれからどんどん増えていくのではないかな、と。PCブラウザー版でさらにカスタマイズできるとはいえ、特に日本市場ではPCを使わずモバイルのみで完結させるケースも多くありそうです。モバイルで完結させるのなら、今回のアプリで実現している機能が一番最適なんじゃないかと思いましたね。
初めてタブレットを使った時のような新鮮さを
――iOS版からリリースしたのはなぜでしょうか。
デツナー氏:
iOS端末は他のプラットフォームよりポピュラーな存在だと思ったのと、プロモーションの仕方も比較的やりやすいように感じたからです。iOSのもつ直感的なユーザーインターフェースと、Jimdoの直感的な部分とを合わせて考えると、やはりiOS端末との親和性の方が高いかなとも感じますね。
とはいえAndroid版もすでに開発を始めていて順調に進んでいますから、遠からずリリースできるはずです。
――Android版は多数の端末があって検証が大変になりそうですが。
デツナー氏:
たしかに大変です(笑)。たくさんの人がAndroid端末を使っていますが、我々としてはまずiOSにフォーカスして、みなさんにWebページを作成することに楽しいイメージをもってもらいたいと考えています。その後でAndroid端末向けにも出して、さらに多くの人に楽しんでもらいたいですね。
私が最初にタブレットを手にしたとき、使っているだけで面白くて、手元でWebページを次々に見ていくのが新鮮に感じたものです。Webページを作ることについても、そんな風にタップ操作でなんでも簡単に面白くできてしまう、というのをアプリで実現できればと思ったんです。
――Android版はau端末に限るということは?
駒井氏:
それはないです(笑)。できるだけ多くの端末に対応したいと考えています。
――個人でもSNSやブログのように簡単に使えるサービスだと感じていますが、ホームページ作成サービスというと、やはり商用ニーズが多いように思います。そういった商用向けにプロモーション活動などはされているのでしょうか。
駒井氏:
弊社では2年前にGoogle、KDDIと始めた「みんなのビジネスオンライン」(http://www.minbiz.jp/)というサービスを行っています。商用利用という意味では、Jimdoもこのプロジェクトで支援していきます。
私は以前中小企業の方と直接お会いする仕事を担当していて、企業ウェブサイトを管理する担当者の方の現場を見てきたのですが、みなさん忙しいんですよね。忙しくてPCの前でなかなか作業できない。その現状をこのアプリでだいぶカバーできるのかな、と思うところはあります。プロモーションもそうですが、今後セミナーや商工会を巻き込んで、今までにない簡単さで使える、端末も場所も選ばないツールとしてアピールしていきたいですね。
それに、このアプリは農家の方も活用できるんじゃないかな、と思っています。ポケットにiPhoneが入っていれば、できあがった農作物を写してアップロードするのもいいですよね。そのように簡単に更新したページの他に、PCブラウザーで直販用のページを本格的に作ることもできます。
これまで日常生活の中で簡単にWebサイトを更新できるツールがなかったわけですから、多くのユーザーが自分のビジネスをアピールする機会を失っていたとも言えます。そういったニーズをカバーできることをより前面に出していこうかとも思っています。
――ビジネスユーザー向けということで、ECサイト向けの機能などを盛り込んでいくことは考えていらっしゃいますか。
デツナー氏:
Webサイト作成ツールは世の中にたくさんあるんですけれども、使い勝手としてはあまり優しくないんですよね。我々はユーザーのみなさんに本当に満足して使ってもらいたいという気持ちがあって、時間をかけてJimdoを作り上げてきましたから、他社と比べるとサービスとしてリリースするのは少し遅かったかもしれません。次からはユーザーの意見を取り入れて作っていきたいですし、その中にはオンラインショップの機能なども当然含まれてくるんじゃないでしょうか。
直近では、この後iOS 7のリリースが控えています。我々はすでにiOS 7のルック&フィールに対応したバージョンも準備していますから、iOS 7のリリース後すぐに対応アプリを公開できるはずです。iOS 7対応版ではインターフェース自体は大きくは変わりませんが、有料プランのビジネスユーザー向けに、アクセス解析の機能をアプリから利用できるようにします。
プロダクトベースで、自分たちが信じるものを作っていきたい
――「Jimdo-App」を開発するうえで苦労されたことはありますか。
デツナー氏:
たくさんありますね(笑)。「Jimdo-App」はメインであるPCブラウザー版とは別のセカンドプロダクトとなるわけですが、こういった全く新しいことを始めるときはいつもエキサイティングです。システムに接続するためのAPIを実装したり、時間がたってみないとわからないような未知のことにも対応できるよう、先々を見越した開発を行うのに時間がかかりました。
そのため、1年半という予想以上に長い時間がかかってしまいました。ですから、ユーザーのみなさんがどう感じてくれるかわかりませんが、リリースすることに対してはすごく興奮しています。今やスタッフの数が80人にまで増えたJimdoですが、そのメンバー全員が今回のアプリリリースに一丸となって臨んでいます。本当にいいものができたという自負はありますよ。
――海外市場とは異なる日本市場特有の事情やニーズもあるのではないかと思います。日本市場に向けてどういったカスタマイズを検討していく予定ですか。
駒井氏:
機能的な面では、フォントがあります。Webフォントの出現によって、どのデバイスで見ても同じように見える技術が進んできているものの、日本語フォントが海外のサービスに取り込まれているというケースはほとんどありません。Jimdoも「JimdoBusiness」という有償プランでモリサワフォントを使えるようにはなっているんですが、将来的にはこの部分をWebフォントに置き換えて、日本として特徴のあるフォントを提供できるようにしていきたいですね。
また、オンラインショップの機能では、一般的な海外の仕様ですと日本市場に合わないところもありますので、もし実装することになれば、その部分で他とのサービス連携を強めていくことが日本における課題でもあったりします。
――ワールドワイドでは今後どんな方向性で進めていく予定でしょう。
デツナー氏:
我々はマーケットにフォーカスする会社というよりも、プロダクトベースの会社です。いいものを提供しよう、いいものを提供したうえで見えてくるものがあるんじゃないか、という考えをもっていまして、それが現在の900万というユーザーにつながっていると思っています。
多くのスタートアップ企業がベンチャーキャピタルから投資を受けてスピード感をもって事業を進めていく、というような市場ではあるんですが、我々はそういう支援は一切受けておらず、ずっと独立企業として運営してきました。ですから、資金調達の面では苦労してきたところもあったんですけれども、3年半前からは黒字を続けています。
これまでも他の企業と提携することもありましたが、市場動向や我々の精神にそぐわないものは作りたくありません。信じるものだけを作ってきたというところは誇りに思っていますし、これからも同じように続けていきたいですね。
――ライバルとして意識されている製品やサービスはありますか?
デツナー氏:
グローバルでは「WIX」と「weebly」の2つですね。ただ、彼らがやっていることをまねるよりは、我々は簡単に使えることにフォーカスしてどんどんいいものを作っていこうという風に考えています。
駒井氏:
日本でのライバルというと、情報発信という意味ではブログも根強いですし、グーペや最近ではオンラインショップ向けのSTORES.JPやBASEなどすごくいいサービスがたくさんあります。ただ「Webサイト」というより「ホームページ」という市場で強いて言うならば「ホームページ・ビルダー」でしょうか。ホームページを作るということ、イコール「ホームページ・ビルダー」という考えが日本のビジネスユーザーの頭からはがれていないように思うんですよ。その先入観を壊したいなと思っています。
Movable TypeやWordPressはCMSとしては我々の競合になりますけども、我々が見ている市場は“一般の人でも使える”というところをメインにしていますので、そういう意味で一般に普及している「ホームページビルダー」がライバルになりますね。
――獲得ユーザー数の目標など、ぜひ今後に向けての意気込みをいただければと思うのですが。
デツナー氏:
実際のところ、目標数字は考えていないんです。言うならば、たくさんですね(笑)。Jimdoのサービスイン以来、プロモーションに一切お金を費やすことなく大きく成長できてきましたので、この勢いを維持しつつさらに増やしていければと考えています。
駒井氏:
「Jimdo-App」は、PCブラウザー版のおまけではない、と思っています。このアプリだけでWebサイトの管理が完結するものなので、日本においてこの“アプリだけで完結できる市場”をJimdoで新しく作り上げることを目標にやっていきます。
――本日はありがとうございました。