インタビュー

「Yahoo!知恵袋」の10年、歴代・中の人が振り返るあんなことやこんなこと

 Q&Aサービスというかたちでユーザー同士が知恵を共有できる場を提供する「Yahoo!知恵袋」。2004年4月にベータ版としてスタートした同サービスが、今年で10周年を迎えた。質問総数は1億2000万件以上、回答総数は2億7000万件以上に上るというが、そこで共有されているのは何も真面目な知恵だけではないのは誰もがご存じの通り。そんな投稿ネタに勝るとも劣らない?運営の裏側のエピソードを、Yahoo!知恵袋の歴代サービスマネージャーや担当者にお集まりいただき、うかがった。

  • 岡本真氏:アカデミック・リソース・ガイド株式会社代表取締役。Yahoo!知恵袋の初代サービスマネージャー(2004年~2007年担当)。2009年にヤフーを離れ、起業。教育産業や地方自治体のコンサルティングなどを手掛けている
  • 竹内美尋氏:前Yahoo!知恵袋サービスマネージャー(2009年1月~2013年9月)
  • 金子千夏氏:ヤフー株式会社 メディアサービスカンパニー UGCメディアユニット Yahoo!知恵袋サービスマネージャー(2013年10月~)
  • 片山玲文氏:ヤフー株式会社 メディアサービスカンパニー(Yahoo!知恵袋の企画担当)
  • 佐古智正氏:ヤフー株式会社 メディアサービスカンパニー(Yahoo!知恵袋の開発担当)
  • 望月亮氏:ヤフー株式会社 メディアサービスカンパニー(Yahoo!知恵袋の開発担当)

当初は“ナレッジサーチ”路線を意識、しかし“点呼投稿”契機に路線転換

 2004年、“ナレッジサーチ”路線で運用が開始されたYahoo!知恵袋だったが、ほどなくして、Q&Aサービスならではの方角へ進み始めた。

 「最初は堅めでした。もともとのプロジェクト名が『ナレッジサーチ』というもので、ナレッジというのは、例えば『土星の輪は何でできているのでしょうか?』といった質問です。そのように最初は比較的硬派な、科学図鑑的に役に立つようなことを意識していましたが、サービスを公開して1カ月もすると、その前提は一気にくだけてしまいました。」

 「質問者が『おはようございます』などと投稿する“あいさつ投稿”や、“点呼”と呼ばれる投稿が登場してきたんです。あるユーザーが質問として『点呼!』と投稿すると、他のユーザーが回答としてそれぞれ『1』『2』『3』『4』『5』……と投稿していく。ユーザーがYahoo!知恵袋に出勤するイメージです。」

 「『彼らは何をやっているんだ?』『これはQ&Aと言えるのか?』『Q&Aサービスとしてノイズは排除した方がいいのではないか』……。何を削除すべきか、さんざん悩んだんですが、考えた末、質問した人がハッピーであればそれでいいじゃないか、と。そこからはもう、雑談も許容。おしゃべりというカテゴリを作るとか、かなり初期の段階で大きく舵を切ったというのがあります。」

 「ゆるくなる、くだけるというよりは、我々はYahoo!知恵袋というサービスの場を提供しているに過ぎないので、その場の上でユーザーがどういうことをするか、あとはユーザーに任せる。ユーザーが作りたいものを作る。」

 なお、今年3月、さらに「10年目の大きな舵取り」が行われた。これまで「おしゃべり、雑談」カテゴリは7日間で質問が自動的に削除されていたが、永久にアーカイブするよう運用ルールが変更されたのだ。大喜利やネタ、ユーザー同士のコミュニケーションをいっそう愉しんでもらえるとしている。

Yahoo!知恵袋の投稿データを研究・学術用に外部提供するのは、技術者の獲得手段

 最近でこそ各所でオープンデータの重要性が叫ばれているが、Yahoo!知恵袋ではその重要性にいち早く気付き、2005年の時点で研究・学術用に投稿データの提供を開始している。蓄積された質問・回答データが個人を特定できないかたちで研究・学術機関に提供され、言語学の研究などに活用されている。

 「研究内容はいろいろあります。投稿内容の分析もあれば、IDは別々でも実は同一人物じゃないかと特定するような研究もあります。また、国立国語学研究所で現代の一般的な日本語のサンプルが作られているのですが、ウェブ上の日本語の文体のサンプルがYahoo!知恵袋です。万一、Yahoo! JAPANそのものがなくなっても、2000年代初めの10年間のウェブ上の日本語サンプルとして後世に残ります。」

 ただし、Yahoo!知恵袋のデータ提供は、こうした社会貢献だけが目的ではない。Yahoo! JAPANとして優秀なエンジニアを採用する狙いも大きいという。

 「データの提供を開始した当時は、Googleとかの方がだんだん人気が出てきた時期で、優秀な新卒を採用するというのはYahoo! JAPANの会社全体としても課題でした。そこで、研究者が喜ぶことをする、あるいはYahoo! JAPANそのものを研究テーマにする研究者や学生が増えてくれれば、彼らがYahoo! JAPANに入社してくれるとのではないかと考えました。実際、そうして入社してきた学生もいます。」

 「あとは、しょせん社内の技術者だけでやれることはたかが知れている、ということもあります。Yahoo! JAPANには優れた技術者がいますが、1万人もいるわけではない。1つのプロジェクトを担当する技術者は2、3人いればいいという時代でしたから、その2、3人がフルスペックでがんばったってたかが知れている。対して、データを提供して外部の人にも研究をしてもらえば、外部にブレーンを持つことができ、その方が開発力が上がると考えました。」

 「研究を促進すること自体がそもそも価値なんじゃないかという思いもありました。実はYahoo!知恵袋は、ある3つの研究成果に基づいて作られているんです。そこで、大学などで研究され、理論化され、検証を重ねた学説をうまくアレンジして適用できれば、成功する確率が高まるはずだと考えました。ちょっと独りよがりになってしまうかもしれませんが、こうしたスタンスもYahoo!知恵袋がここまで生き残ってきた大きな理由だと思っています。」

分からないことがある→ゴールは“調べる”から“聞く”へ

 何か分からないことがあって、ウェブで情報を得る手段としては、検索が最もポピュラーだろう。Q&Aサービスは使ったことがなくとも、インターネットユーザーであればほとんどが検索サイトを使ったことがあるはずだ。しかし、検索を使いこなすにはそれなりのテクニックを要する。

 「検索キーワードって難しいですよね。意図した検索結果が返ってくるキーワードを抽出するのは、リテラシーが高くないとできないことだったりします。要するに、こういったことを知りたかったらこのキーワードだっていう概念を抽出する作業は、けっこう難易度が高いんですよ。Yahoo!知恵袋は、検索キーワードを抽出するというような検索のテクニックに向かうのではなく、誰もが使える方向を目指した。この辺りが、Yahoo! JAPANらしさだと思います。」

 一方で、Yahooo! JAPANの社員といえば、ある意味で検索のプロであり、こうしたキーワード抽出のノウハウに精通しているわけだが、そんな彼らであっても検索では見つからない情報があり、Yahoo!知恵袋を使うこともあるという。

 「ウェブ検索では見つからないもの、世の中にドキュメント化されていないもの――人の頭の中を引き出してインデックス化することに使命を感じていました。そうしてYahoo!知恵袋で解決済みとなった情報が蓄積された段階で、ウェブ検索と連携させ、通常のキーワード検索をした際にYahoo!知恵袋のコンテンツからも検索結果が返る仕組みが出来上がりました。」

 人の頭の中にあった知恵がどんどんドキュメント化され、それをキーワード検索できるようになったわけだが、手段がキーワード検索とQ&Aとでは、得られる情報が同じであっても、価値が異なるとの指摘もあった。

 「私自身そうなんですが、検索で手軽に知り得た情報って身に付かないんです。例えばExcelの関数とか、検索結果からコピペしたものは身に付かないので、また10回も20回も同じことを検索してしまうんです、検索結果の3番目に出てくるっていうことを覚えてしまうくらい……。でも、自分の言葉で質問すると、それに対して寄せられた回答が経験値となって忘れない。この体験を多くの方に踏んでいただいて、手軽に知ったつもりになれる検索よりも、経験値になる“聞く”という行為を浸透させたい。ゴールは“調べる”から“聞く”へ。」

 「サービス開始当初から、競合を作らないという方針でした。Q&Aサービス自体を普及することが重要なのであって、OKWaveさんもはてなさんも敵ではない。各社が伸びていって、分からないことはネットで聞いてみるという文化を創らない限り、明日はないと考えていました。Q&Aというフォーマットだけ見るとOKWaveさんとYahoo!知恵袋は競合しているように見えるかもしれませんが、それを言うのであれば、Wikipediaも、NAVERまとめも、知りたい欲求を満たせるという点は共通。あるいは、TwitterやFacebookでも、疑問や問題を解消するために人に聞くといった、Q&Aサービスと同じような使い方ができます。」

 「TwitterやFacebookが普及し、可処分時間がSNSにシフトしてきている中にあって、Yahoo!知恵袋は善戦していると思いますが、これは匿名性が担保されている環境下で気になっていることを聞けるという強みがあるからです。病気のことや家族関係のことなど、お互い見知っている関係では聞けないことが世の中にはたくさんあります。Facebookには絶対書けないし、LINEでも難しい。その受け皿として、Yahoo!知恵袋は強い。」

 分からなかったら人に聞けばいい――。Yahoo!知恵袋の根底にあるこうした考え方が、悪い意味で最大限に活用されてしまったのが、2011年はじめにマスコミをにぎわせた京都大学の入試不正騒動だろう。ある受験者が、試験の最中に入試問題をYahoo!知恵袋に投稿して回答を募っていたというものだ。

 「教育現場でそういう不正な使われ方がされるかもしれないというのは、実はサービス開発前の企画書において、想定されるリスクとしてリストアップしていました。ですが、実際に京都大学の入試で発覚した時は、サービスを運営する立場として非常に残念で遺憾に感じるとともに、そういう時代が来てしまったのか、と。けれどそれ以前からこれに類するような使われ方はいくらでもありました。おそらくレポートの課題をゼミ生が書き込み、それを教授が発見するというような。ただ、サービス運営側としては、質問と回答の流れを見て、これはそういう使い方をされているのかもしれないという推測にすぎません。我々は検閲機関ではありませんので、投稿の行為そのものが違法だとはっきりいえない限りは、削除は行えないし、投稿者の権利も付随するものなので扱いが難しいのが現状です。」

 「多分、2004年ごろの投稿だったと思います。小学生か中学生だったでしょうか、算数か数学について質問していて、推測にはなってしまうのですが、おそらく宿題なんですよ。その質問に対して完ぺきな回答を投稿した人がいたんですが、その回答の最後がとても秀逸でした。『私は通りすがりの人間で、あなたの人生に対して一切責任がないから教えてあげちゃいましょう。でも、果たしてそれが学びになるんですか?』といったものでした。これを見て我々は納得したんです。(この回答が子供の宿題に転載されてしまうとしても)この人の回答を削除するわけにはいかない。この回答自体がまさしく教育プロセスになっている。あとは使う側がどう受け取るか、です。」

「Yahoo!知恵袋」は言葉遊びの知的ゲーム、難しすぎて中の人でもクリア不可能

 Yahooo!知恵袋が知恵の共有の場であるとともに、ネタを披露する場でもあるというのは冒頭で述べた通りだ。実際のところ、ネタの割合はどれぐらいあるのだろうか? また、数々のネタも、実は中の人がコミュニティを盛り上げるために投下していたりするのではないかといった疑問もある。

 「その投稿がネタかどうかなんて区別できないじゃないですか! 『うどんは靴紐として利用できるのか?』なんて完全にネタのように見えますが、もしかしたら大まじめかもしれない。ギリギリのラインのものもある。『道場破りをする時の礼儀作法を教えてください』とか『西洋甲冑の手入れ方法を教えてください』とか、思わず『今から道場破り行くんですか!?』『西洋甲冑を持っているんですか!?』って心の中で突っ込んでいます。『顔がスーパーマリオによく似ている人がいて爆笑しそうになった時、どう対処すればいいですか?』って、『そのシチュエーションっていつやってくるの?』とか……。でも、Yahoo!知恵袋のすごいところは、ネタもありつつ、ネタということを分かっているのか分かってないのか、純粋に回答してあげている人が多いんですよね。すごく心が洗われる。ベストアンサーに選ばれている方はすごく詳しく書いていて、『この人は日ごろから西洋甲冑をお手入れされているんですね!』っていう。ネタとして見てしまった私はちょっとひねくれてるな、と感じてしまったりすることもあります。」

 「実は中の人はあまりグレード(※)が高くないんですよ。けっこうこまめに投稿しているんですけど、グレードの壁があるんですよね。中の人のグレードで過去最高は、もう退職してしまった方で、グレード『4』まで行った人がいます。自分たちでグレード設計をしておいてなんですが、グレード『7』の方とか神ですよ。」

※グレード:Yahoo!知恵袋での活動実績を示す目安で、「1-1」から「7-3」までの21段階ある。回答数やベストアンサー率などによって決まる

 「そこがある種のゲーム性として面白いところなんでしょう。普通のゲームでは開発者がクリアできてしまうんですけど、Yahoo!知恵袋は開発者ですらクリアできないようなゲームになっている。 “言葉遊び”の部分も含めて、ある種“知的ゲーム”なんです。それが10年間飽きられないで利用され続けている理由の1つなんじゃないでしょうか。」

 それでは最後に、中の人お勧め・お気に入りの会心のネタを教えてください。

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永沢 茂