インタビュー

HEAPS.の挑戦~デジタルネイティブな雑誌モデルとプラットフォーム構築

実験的デジタル雑誌「HEAPS」を発行するHEAPS.吉岡賢司社長に聞く

「HEAPSには、積み重ねるという意味がある」~吉岡社長

HEAPS.社長の吉岡賢司氏

 HEAPS.と大日本印刷は、デジタル雑誌「HEAPS(ヒープス)」を創刊。2013年6月3日から、AppStoreを通じて、専用アプリケーションの無償提供を開始した。対象端末は、iPadおよびiPad mini。今後隔週刊サイクルで発行され、6号までは無償で提供。7号以降からは有償でのコンテンツ配信を行う。7号以降の価格は未定だが、「100~300円の範囲で検討している」(HEAPS.の吉岡賢司社長)としている。

 創刊したHEAPSは、デジタルコンテンツならではの特徴を取り入れた新たな形の雑誌を目指したもの。ひとつのコンテンツ配信で、男性誌と女性誌の両方を提供。アイコンにタッチするだけで、表紙やコンテンツ、レイアウトが切り替わる。

 隔週で発行する特集記事のほか、表紙画像や特集関連情報、コラムなどを毎日更新する仕組みとしており、隔週刊発行とはいえ、毎日異なるコンテンツを楽しむことができる。デジタル雑誌ならではの特徴を生かし、静止画にも動きを与えたり、表示方法に工夫を加えることで、臨場感のある誌面づくりとしている。また、一部コンテンツには音を加えるといったことも行っている。

 対象端末は、iPadおよびiPad mini。今後、iPhoneやAndroid端末への対応も計画しているという。

 最初にタイトルが一覧表示され、それらがガラスが割れるように飛び散る演出が行われているが、「この演出には既存の雑誌の概念を打ち破るという意味を込めた」(吉岡社長)という。

左が男性誌、右が女性誌の目次。右上のアイコンをクリックするとプルダウンメニューが表示され、男性誌・女性誌を切り替えられる

 編集部は、米ニューヨークに置き、基本的には、ニューヨーク在住の日本人だけで編集。ニューヨークを拠点にアートディレクターとして活躍する中鉢ふーこ氏を編集長に、米国の政治経済分野でジャーナリストとして活躍する津山恵子氏をはじめ、フリーランスのフォトグラファー、デザイナー、ジャーナリスト、ライターのほか、インターンで渡米した日本人学生など15人が参加する。

 「ニューヨークのビジネス、アート、ファッションなどの最新トレンドを現地在住のクリエイターが編集し、紹介する日本語デジタル雑誌。すべて日本人によって編集されているのが特徴。特集ではニューヨークで注目を集める人物やトレンドなどに焦点をあてるほか、一般記事ではビジネス、スタイル、カルチャー、イート、クリエイティブという5つの観点から最新動向を捉える。これらを、男性誌、女性誌の両面から編集し、それぞれに向けた2つの雑誌として配信する」(吉岡社長)という。

 男性誌としてのターゲットは、ウェブクリエイティブやデジタルクリエイティブに従事するクリエイター、アントレプレナー、起業家、社会に働きかけることで変革を果たしたいと考えるビジネスマンや学生。女性誌としてのターゲットは、社交性が高く、ニューヨークのライフスタイルに共感を覚える行動的な20~30代の女性としている。

 創刊号の特集では、男性誌では、「世界一強い広告を、つくる男たち」とし、Droga5を取り上げ、大統領選挙においてバラク・オバマ氏を勝利に導いた手法、骨髄バンクへの登録を3倍に増やした手法などについて触れている。また女性誌では「出会いの戦略」としてニューヨーク流の恋愛術などを紹介している。

 吉岡社長は、「HEAPSには、積み重ねるという意味があり、この雑誌を読んで新たなことをやってみよう、行動してみようと思い立つことを支援し、読者に経験を積み重ねてもらいたいという想いを込めた。また、デジタル雑誌として、今後、コンテンツを積み重ねていけるという特性も表した」とする。

大日本印刷と共同でデジタル雑誌の普及に向けたサービス事業構築へ

 デジタル書籍は市場拡大の傾向が一部で見え始めてきたものの、デジタル雑誌については、定期購読者の獲得手法や広告モデルの確立など、まだ課題が多い。

 「紙の雑誌を単にPDF化し、デジタル端末向けに配信をしても、価値を高めるどころか、逆に価値を損なう場合の方が多い。デジタル端末での閲覧に適したコンテンツとはどういったものか、どんな広告が最適なのかといったことも、HEAPSを通じて模索していきたい」と吉岡社長は語る。

 HEAPS.と大日本印刷では、同誌を通じて、映像や音声を積極的に活用した広告効果の高い表現や、広告効果測定手法の開発を行い、記事と連動した広告の閲覧率などについても検証する考えだという。

デジタル雑誌「HEAPS」の公式サイト
http://www.heapsmag.com/

 また、両社では、今後のデジタル雑誌の普及に向けたサービス事業を開始する姿勢をみせる。

 5月30日付でメイク・センスプラスから社名変更したHEAPS.は、2011年から大日本印刷と共同でデジタル雑誌に関する協業を進めており、その経験をもとに、デジタル雑誌の運用ノウハウと、デジタル雑誌向けプラットホームアプリケーションを、出版社や広告代理店、広告クライアント企業などに提供していく考えだ。

 具体的には、デジタル雑誌向けのアプリケーションプラットホームの提供のほか、ニューヨークおよび米国のデジタル分野、クリエイティブ分野などにおける最新情報に関する編集企画および取材アレンジメント、デジタル雑誌における購読回数の増加や印象付けを高めるためのコンテンツギミックの企画および制作などに取り組む。さらに、HEAPS.単独としては、ニューヨークのクリエイターネットワークをコーディネートする「デジタルクリエイティブサービス」を提供するという。

 デジタルだけで提供する新雑誌として創刊したHEAPSが、デジタル雑誌市場におけるビジネモデル確立の道筋をつけることができるかが注目される。

大河原 克行