インタビュー

ヤフー、宮坂社長が語る“インターネットを通じた社会貢献”

ヤフー、宮坂社長が語る“インターネットを通じた社会貢献”

 ヤフーは新たに「Links for Good~クリックで、世界を変える~」という広告配信技術を用いたNPO支援のプラットフォームを開始する。同社は事業を通じて社会に貢献することに力を入れており、地方経済の活性化やリユースの促進に、広告、ヤフオクといったサービスを利用することもこうした取り組みの一環と位置づけている。また、東日本大震災後には、復興支援として石巻にオフィスを設置。社員5人を常駐させている。

「Links for Good~クリックで、世界を変える~」では、広告技術YDN(Yahoo!ディスプレイアドネットワーク)を使って、NPOと個人を結びつける

 11月には、復興支援の一環として、河北新報社と共同で「ツール・ド・東北 2013 in 宮城・三陸」を開催する。これは、「震災の記憶を未来に残すこと」を目的として、宮城、三陸エリアをめぐるサイクリングイベントだ。ヤフーとしてリアルなイベントを“主催”するのは、初めてに近い形となる。もちろん、こうしたイベントでも同社の得意とするIT技術を生かし、チャリティオークションやクラウドファンディングといった仕組みも用意する予定だ。

 これらの取り組みに加えて、11日、新たに発表されたのが「Links for Good」となる。「Links for Good」は、広告技術を活用してユーザーとNPOを結びつける社会支援活動のこと。Yahoo! Japan全体のページビューの1%にあたる、月間5億ページビューをNPOのサイトに誘導させていく構えだ。当初は約200件からスタート。能動的に検索していなかったが、こうした活動に興味を持ちそうな潜在ユーザーを、マッチングさせていく。この「Links for Good」には、ユーザーの興味関心に合わせた広告を掲載する「Yahoo!ディスプレイアドネットワーク(以下、YDN)」が利用される。技術的には広告を応用するが、NPOに対しては無料にする方針だ。

 「ツール・ド・東北 2013 in 宮城・三陸」および「Links for Good」は、どのような経緯で始まったのか。また、一連の取り組みについて、ヤフーとしてはどのような目的や思いがあるのか。ヤフーの代表取締役社長 宮坂学氏が、こうした質問に答えた。

NPOと個人をマッチングする「Links for Good」

ヤフー株式会社 代表取締役社長 宮坂学氏

――最初に、「Links for Good」の件からうかがっていきたいと思います。この取り組みの概要を教えてください。

宮坂氏:
 事業を通じて、世の中にいいインパクトを与えたいというのが、僕自身にも会社全体にもあります。株式会社として、成長を通じて利益を2倍にすると、株式市場に対しても会社のみんなに対しても言っていることです。一方で、事業を通じて世の中にいいインパクトも与えたい。もちろん、今もそれはできていて、たとえば検索連動広告やオークションも、個人を力強くするツールであり、ある種の武器です。一個人がビジネスをやっている中で、地方の小さなお店が日本全体を相手に商売することができます。

 それをもっと拡大したいということで始めるのが、今回の事業です。その前提としてあるのが、会社のミッションである「課題解決エンジン」――情報技術で人々の課題を解決したいという思いがあります。ソフトウェアやITを使えば、今まで解決できなかったことが解決できる。そういう実感があります。モバイルインターネットやスマートフォンで、その可能性はもっと広がります。それは、イコールでインターネットの発展でもあります。

 NPOには課題に敏感に勘付くことができる方々がいます。事業化することを目指す方もいますが、NPOは企業より早いタイミングで動く。そうしたNPOの活動を、インターネットやヤフーがお手伝いできないかと考えたのがきっかけです。これまで、YDN(Yahoo!ディスプレイアドネットワーク)は小さな事業者に対して興味ある個人を紹介するというマッチングを提供してきましたが、応用で考えれば、これは何も企業である必要はありません。NPOと個人をマッチングできないか。これは、我々にしかできないことの1つです。

 もちろん、NPOに資金を提供するのも1つの方法ですが、資金提供はお金があれば誰にでもできます。そうではなく、僕たちにしかできないことをしたいという思いがありました。ヤフーは元々、リンクをするのが仕事です。世の中を良くする仕事をしている人にリンクしよう。世界を変えるクリックを集めるお手伝いができないかと考えていています。クリックというのは、今後はタップという言葉に置き換わってしまうかもしれませんが(笑)。

 全体のページビューの1%、5億PVを提供することで、個人とNPOの架け橋になりたいですね。

広告技術を使えば、もっと上手につなげられる

――元々の事業を応用していた社会貢献事業ということですね。

宮坂氏:
 世の中には答えを求めている方が、たくさんいます。あのニュースはどう、明日の天気はということはもちろん、オークションや検索もそうです。これに対して、我々は「こうじゃないですか」という答えを提供しています。回答を知りたい人と、答えを持っている人の両方、これはECなら出品者、検索はサイトを作っている人ということになりますが、その両方をピッタリつなぐというのが、色々なサービスを通じてやっていることです。

 これを応用して、大げさではなく、世の中をちょっとでも変えたいといういくばくかの気持ちと、実際に活動をしているNPOをつないであげたらいいんじゃないか、というのが今回の取り組みです。

――YDNを利用するという点を、詳しく教えてください。

宮坂氏:
 広告技術を使えば、もっと上手につなげられるのではと考えました。世の中を変える活動をしている方がたくさんいる中で、そこに対してトラフィックを1%ほど提供します。形としては、NPOに登録してもらうことになります。お金はいただきませんが、クライアント(出稿者)になってもらい、広告をYDNでユーザーに配信します。YDNはユーザーのターゲッティングができるので、問題意識に合った形で出せるようになります。

 スタート時点では、NPOを支援するNPOである中間支援組織5団体からの情報と、Yahoo!のインターネット募金やチャリティオークションなどでお付き合いのあったNPO、合わせて200団体の社会貢献活動の情報を掲載します。

――元々広告用に開発されたYDNで、行動履歴を元にしたとき、きちんとマッチしたNPOが表示されるのでしょうか。

宮坂氏:
 現状では、実際、直に「献血」や「募金」といったキーワードで検索する人は、それほど多くありません。ストレートにキャンペーンがユーザーに刺さるかというと、そうではない状況です。ですから、当初はマッチングして出る広告もありますし、NPO側で30代、40代女性といったように設定したターゲットに基づいて出る広告もあります。そうしたフィードバックがかかっていけば、マッチングも進みます。

――登録を中間支援組織にした理由はありますか。

宮坂氏:
 NPO団体は非常に数多くありますから、すべてだと収拾がつかなくなってしまいます。NPOにも色々ありますから、まずは付き合いがある人に紹介してもらうという形を取りました。今後、直接登録ができるようにしたいですね。また、CSR(Corporate Social Responsibility=企業の社会的責任)についても、知る機会をちゃんと作りたいと考えています。

――実際の広告は、どのようなイメージになるのでしょうか。

宮坂氏:
 「Links for Good」というロゴとセットで掲載されます。うちが儲かるわけではないので、心置きなくクリックしてください(笑)。誰も損をせず、世の中が良くなるだけです。

――トラフィックの1%は、どのような根拠で導いた数値でしょうか。

宮坂氏:
 月間5億PVは、普通にやると、ギリギリ届かないアグレッシブな数字です。2016年の3月末までに月間100万クリックぐらいにしたい。この位になるように、この取り組みを続けていきたいと思います。ただ、達成するためには会社としてページビューを成長させなければなりません。ですから、トラフィックはもちろん、サービスを成長させることにも、引き続き取り組んでいきます。

――今回、「Links for Good」の対象をNPOにした理由は何かありますか。

宮坂氏:
 まず、焦点が当たっていないという話があります。企業の場合は事業化しなければなりませんし、そこに超えられない壁があります。先ほどお話ししたように、何か問題があり、そこに最初に気づくのはNPOということが多い。たとえば、多摩川を毎日歩いていても、そこにゴミがあっても気づかない人は多いですよね。この最初の一歩に気づく人は、とても貴重です。

リアルイベント「ツール・ド・東北 2013 in 宮城・三陸」を主催するわけ

――次に、「ツール・ド・東北 2013 in 宮城・三陸」について、伺っていきたいと思います。元々は何がきっかけだったのでしょうか。

宮坂氏:
 最初は、確か震災直後の原発が騒ぎになっていたときです。そのとき、「今は復興フェーズだから不謹慎かもしれませんが、いつか必ず良くなるし、良くなるプロセスを見ることも大事」だからツール・ド・東北のようなイベントをしたら良いんじゃないかといったことを、何気なくFacebookに書き込みました。そうしたら、「いいね!」がすごくたくさんきたんですね。そうこうしているうちに、「すごくいいと思う」というメッセージもいただき、喫茶店に20人ぐらい集まって話し合うことになりました。ただ、その後なかなかうまくいかず、2年ほど空いてしまいました。

 そんなとき、ひょんなことから河北新報社の社長と一緒になり、石巻の復興ベースを作るときに、会食の場でポロッとこの話をしたのが実際の開催につながりました。

――ヤフーがリアルなイベントを主催するというところが、意外でした。何かやろうとしていることがあるのでしょうか。

宮坂氏:
 インターネットの可能性を試してみたいという思いはありますね。ヤフーとしても、初めてのリアルな取り組みです。ここに、インターネットの技術やアイディアを使っていきたい。

 いくつかやりたいこともあります。たとえば、自転車のホイールにちょっとしたハードウェアをつけてインターネットでメッセージを出せたり、チケッティング(発券)にも「PassMarket」があるため、これを使えば手数料はタダで、現地ではスマートフォンを見せるだけになります。また、プロジェクションマッピングを安くできないかということも考えています。自分たちでやるからこそ、試せることもたくさんあります。

 ほかにも、これは発表した後に気づいたことですが、石巻には宿泊施設があまりありません。ですから、今、地元の家に泊まってくださいという民泊をやろうと思っています。海外では「エアB&B」(民泊用に個人の空き家を仲介するサービス)が流行っていますが、こうしたことも自社事業なので試せます。もしうまくいかなくても、イベントなので期限がくれば終わりますから、比較的色々なことを試しやすいですね。

インターネットそのものがいろいろな可能性を秘めている

――最後に、なぜヤフーが社会貢献なのかというところを改めて教えてください。

宮坂氏:
 急に言い出したというより、昔からやっていたことです。ヤフーではインターネット募金を中越地震のあった2004年に始めています。もっと前にさかのぼると、「Yahoo!きっず」は、上場したときに始めたもので、これもほとんど広告は載せていません。インターネットは世の中に対して意義があり、インターネットそのものがいろいろな可能性を秘めているから、この仕事をやっています。そして、その可能性はまだまだ拡大していくと思います。

 最近だとインターネットでの選挙も、新しい可能性の1つです。よく「ネットの選挙でどのくらい儲かるのか」と質問されることもありますが、あれもそういう話ではありません。インターネットでできることを証明したい、インターネットでできることが1つでも増えればいいと考えています。

 「Links for Good」でも、1日の100クリックの中で、1クリックだけでもこういうことに振り向ければ、世の中がすごく面白くなりますよね。1クリックでもいいから、世の中を良くしようと思っている人のサイトを訪れることをみんながやれば、やっている人(NPO)も勇気づけられます。今回の取り組みも、そういうムーブメントのきっかけになれば、うれしいですね。

石野 純也