インタビュー
オンラインストレージはユニバーサルサービス品質の時代へ
RAID6で三重化! NTT Com「マイポケット」のスゴいこだわり
(2013/6/28 06:00)
「速い」という噂は聞いているものの、海外のサービスに比べると、ちょっと地味……。もしも、そんなイメージで、NTTコミュニケーションズの「マイポケット」を見ているとしたら、その認識は少し改めた方がいい。同社へのインタビューで明らかになったのは、オンラインストレージをユニバーサルサービスとして捉えた数々の配慮と、「そこまでやるか」と感心させられる徹底的な品質のこだわり、そして単なるオンラインのストレージの枠組みを超えようとする開発陣の並々ならぬ情熱だった。
オンラインストレージを「ユニバーサルサービス」品質で
「なるほど、日本のものづくりに対するこだわりの精神は、インターネット上のサービスにもしっかりと受け継がれているんだなぁ。」
NTTコミュニケーションズで「マイポケット」の企画・開発を担当する、同社アプリケーション&コンテンツサービス部 サービス企画部門 第4サービス企画担当の担当課長 青木誠志氏と、同主査 松本誉史氏へのインタビューを終えて思い浮かんだのは、そんな感想だ。
DropBox、SkyDriveなど、「オンラインストレージ」といって多くのユーザーが真っ先に思い浮かべるのは、おそらく海外製のサービスだろう。無料で使うこともできることから、日常的なデータの保存に活用している人も少なくないはずだ。
しかし、どこかで不安や不満を感じたことはないだろうか。アップロード・ダウンロードが遅い、新機能を説明する公式ブログや技術サポートページが英語のみ、突然のサービス撤退の可能性はないか―――オンラインストレージが世に登場したばかりの時代であれば、それもひとつの「面白さ」と割り切ることができたかもしれないが、日常のツールとなりつつある現在では、できればユーザーに不安を与える「隙」はないに越したことはないだろう。
NTTコミュニケーションズの「マイポケット」は、まさにそんな「隙」をなくしたサービスと言える。
松本氏は「マイポケットはユニバーサルサービスです」と表現する。ユニバーサルサービスとは、固定電話や携帯電話などの生活に欠かせないインフラを日本全国どこでも使えるように、あまねく提供するサービスのことだ。もちろん、オンラインストレージに、電話のような法的な拘束はないため、真意は「ユニバーサルサービスと同じ考え方でサービスを提供する」ということだが、こういった考え方は海外製サービス、もしくは無料サービスにはない考え方ではないだろうか。
その考え方を松本氏は、次のように語った。「インターネット上には、さまざまなサービスに慣れている方もいれば、あまりインターネット上のサービスに慣れていない方もいらっしゃいます。私たちは、このような広い層のすべての方にサービスを楽しんでもらうことを目的としています」。「広い層」に「楽しんでもらう」、ここがポイントだ。
その具体的な内容は、こうだ。「たとえば、インターネットやパソコンに慣れていない方の中には、ユーザーIDやパスワードの入力そのものが苦手という方もいらっしゃいます。このような方のために、可能な限りユーザーIDやパスワードの入力を省略できるように工夫したり、操作に迷うことがないように、ユーザーインターフェイスを工夫したり、画面遷移を少なくするといったことを心がけています(松本氏)」。
こうしたわかりやすさへの配慮は、シンプルさを追求する海外製サービスとの相違点と言えるだろう。しかし、実際にサービスにログインしてみると、この工夫によって、操作に迷わないことを確かに実感できる。
マイポケットの画面には、アイコンのみで表現された機能が見当たらず、「ファイルのアップロード」や「すべてチェック」など、あらゆるアイコンに説明が書き添えられているうえ、「アップロードするファイルをこちらにドラッグ&ドロップしてください。」といったように、初心者が迷いそうな機能にはきちんと操作方法まで説明されている。
ヘルプも充実しており、電話によるサポートも受けることができる。電話サポートは、無料サービスではまず提供されない有料サービスならではのサポートだろう。IT機器に慣れない人も安心して利用できる。もっとも、パソコンの初心者でも前述の通りアイコンには日本語の説明がついているため、たいていの場合は電話サポートを受ける必要はなさそうだ。
シンプルな海外サービスなどに比べると、「野暮ったい」と感じられるようなデザインも、実は「ユニバーサル」なデザインの発想で構成されているというわけだ。
一方で、NTT Comが目指す「広い層」の先端にいる人々への配慮も忘れてはいない。「比較的、ハイレベルな機能を求めるお客様のために、バックアップ機能や複数端末での同期機能、複数IDでのディスク共有など、豊富な機能を提供しています」(松本氏)。
実際、機能面を比較すると、マイポケットは他のオンラインストレージに比べて、基本的なスペックや提供される機能が豊富だ。月額315円の料金で容量は64GB(6月22日から増量)と、同価格帯の有料サービスでは最大となっている。アップロードできるファイルの最大サイズに関しても、1ファイルあたり最大2GBまで対応でき、アップロードできるファイル数の制限もない。この条件は、パソコンでもスマートデバイスでも共通だ。
他社製サービスでは、そもそもGBクラスのファイルはアップロードできなかったり、できたとしても専用クライアントから転送する必要があるなどの制約がある場合がほとんどだ。マイポケットではそうした制限がなく、オンラインストレージを使い込んでいる人ほど、うれしい点と言えるだろう。
また、マイポケットでは、パソコン上のデータを専用のアプリケーションを利用して、マイポケット上に自動的にバックアップすることができるようになっているが、ここで「バックアップ」と「同期」を選択可能になっている。
バックアップは、「パソコン→マイポケット」の片方向コピーだ。標準では同一ファイルが存在する場合は「追加」という形で日時をファイル名に加えて別に保存されるが、「上書き」することもできる。
同期は、「パソコン←→マイポケット」間の双方向コピーで、マイポケット上のデータを削除した際にPC上のデータを削除するかどうかは設定で選択できる。
一般的なオンラインストレージサービスでは、こうした選択肢が用意されていることはあまりない。マイポケットでは、バックアップでパソコンのデータをオンラインストレージに保存でき、「追加」を選択しておけば、同一ファイルがすでに存在する場合に、同名ファイルを履歴として保管しておくことができる。
デジカメで撮影した写真や、画面キャプチャツールなどではファイル名に通し番号をつけていくものがあり、既存のファイルを消去するとまた若い番号からふっていくため、オンラインストレージに保存しようとして、既存のファイルとファイル名が同一、というケースは意外に多い。初期設定では、名前を変えて保存する設定になっているので、初心者が細かいことを気にせずに使い始めても安心だ。
こうした機能の細かな動作についても、ユーザーに複数の選択肢を用意しているあたりは、初心者から上級者まで、幅広く利用できる「ユニバーサル」品質を目指すNTT Comならではの工夫と言えそうだ。
「楽しむ」ためのストーリーを用意
初心者から上級者まで幅広いユーザー層に満足してもらうことが配慮されている「マイポケット」だが、単なる保存先ではなく、保存したデータを「楽しむ」ための機能も強化している。
松本氏によると、「マイポケットでは、単なるストレージではなく、保存したデータを楽しんいただくためのさまざまな工夫をしています。その1つが、『フォトライフサイクル』という考え方です。最近では、スマートフォンを使って写真やショートムービーを楽しまれる方が増えてきましたが、その『撮影』、『保存』、『加工』、『印刷』、『共有』という一連の流れをマイポケットを使って楽しむことができるようになっています」という。
「具体的にはたとえば、スマートフォン用のマイポケットのアプリを使うと、スマートフォンで撮影した写真を自動的にマイポケットに写真をバックアップできます。マイポケットに保存した写真は、マイポケットアプリからデコレーション機能を使って、フレームを付けたり、スタンプを押すなど、プリクラ感覚で楽しむことができます。また、保存した写真をオンラインプリントで印刷したり、SNSで友だちに送ることも簡単にできるようになっています。」(松本氏)
日本のサービスだけあって、日本のユーザーのニーズをよく研究しているという印象だ。オンラインストレージに限らず、最近のインターネット上のサービスは、まるでオープンワールドのRPGのように、仕組みだけを提供し、楽しみ方はユーザー次第というスタイルが主流になっている。しかし、これは初心者ユーザーにとっては敷居が高く、日本的な感覚では扱いにくく感じることが少なくない。
むしろ、少しくどいくらいに、「こうしてみたらどう?」、「こういう機能使うと楽しいですよ」と、日本的な“おもてなしの精神”で提案してくれるくらいの方が、初心者にはありがたいだろう。こういった提案をサービスがしてくれるという丁寧さは、今後日本から世界へひろがっていくのかもしれない。
RAID6で三重化、サービスのパフォーマンスも徹底チェック
実際に使ってみると、その機能の豊富さに驚かされるマイポケットだが、さらに驚かされるのは、品質へのこだわりだ。
もともと、マイポケットはオンラインストレージとしては転送速度が速いことで定評がある。筆者は以前から個人的に利用しているのだが、画像や動画などを含むサイズの大きなデータを編集部に送信する際にマイポケットを利用した際に、受け取った人から「速くて助かります」とお礼を言われたことが多くあるほどだ。その速さの秘密が今回のインタビューでわかった。
まずは、大切なデータを預けるということで、もっとも気にする人が多いデータの信頼性だが、開発を担当している青木氏によると、「データは、グローバル統一基準に基づくTier3~Tier4クラスのNTTコミュニケーションズのデータセンターで管理しています。ストレージは、RAID6構成で、さらにデータを3つのストレージに記録することで三重化しています」とのことだ。
エンタープライズ向けのオンラインストレージサービスと言っても違和感のない構成で、これが月額315円で利用できることの方が驚きだ。
青木氏は、この点についてこう補足する。「弊社グループで提供させていただいているサービスとして、無料のサービスとの一番の違いだと考えています。お客様に『一生、データをお預けいただく』というコンセプトでサービスを設計している以上、グローバルな規格に従った信頼性の高い環境でしっかりと信頼性を確保することは、弊社として『譲れない』ところと言えます」。
一方、転送速度の速さについては、「弊社はネットワークやクラウドサービスを数多く提供しているので、速度などの品質の部分でも自信があります。具体的な数値は公表していませんが、十分に高速な回線をご用意させていただいています」という。
感心したのは、この品質を自社で定量的に評価している点だ。「もちろん、ベンチマークテストも定期的に実施しています。競合と言われるストレージサービスについて、容量やサービス内容などを比較して改善していくことはもちろんですが、速度も計測しています。また、自社だけの計測では偏りがある可能性がありますので、年に数回、外部の業者に委託して品質を評価してもらうこともしています。この品質に対して、お客様に価値を感じていただいて、その対価を支払っていただいていると強く考えています。」
データセンターの仕様や回線やサーバーの多重化だけでなく、実際に第三者企業に依頼して数値を取ることまでしているという、徹底した品質に対するこだわりと自信は、マイポケットについてのインタビュー中、そこここで感じることができた。
このほか、クライアントとの通信は、ウェブブラウザーでも、アプリでも、HTTPSを利用した暗号化通信となるなど、セキュリティにも配慮がなされている。現状、インターネット上のサービスは無料であることが当たり前になりつつあるが、われわれユーザーとしても、何に対価を支払うべきなのかを改めて考えさせられた。
機能にもこだわり~笑顔判定や動画変換、7月には顔認識機能も予定
品質だけでなく、機能的に見ても、マイポケットは十分に対価を支払う価値があるサービスと言えるだろう。
中でも注目したいのは、写真関連の機能だ。機能詳細については、スタパ齋藤氏によるデジカメWatchの記事(http://dc.watch.impress.co.jp/docs/review/special/20130617_603085.html)ですでに詳しく紹介されているので参照してほしいが、マイポケットでは写真を保存するだけでなく、保存した写真を探しやすくするための工夫がなされている。
「撮影日で写真を整理して表示したり、地図上に写真を表示したり、タグを利用して写真を自動的に整理したりと、いろいろな方法で写真を整理できます。保存した写真を簡単に探せるようになることは、お客様から高い評価を得ています。」(松本氏)
ビジネスマンの場合、オンラインストレージと聞くと文書を保管するためのサービスと思いがち。しかし、前述したデコレーション機能など、写真を楽しむための機能が豊富なのもマイポケットの特徴のひとつだ。
このほか、スマートフォン版アプリの機能となるが、人物写真で「笑顔判定」や「童顔判定」など、ちょっとしたゲーム感覚で使える機能も使えるようになっている。
また松本氏によると、「今年の7月30日に予定しているアップデートで、顔認識機能を搭載します。単に顔を認識するだけでなく、1人の人を複数の顔で認識できるようにして、子供の頃と大人になってからで顔が違う場合でも同じ人として認識できるようにしたり、グループ機能を使って、家族で写っている写真を家族というグループで分類できるようになります。言わばライフログ的な機能と言えます」という。
ここまでできると、もはやPCに写真を眠らせておくのはもったいないという印象で、積極的にマイポケットに保存しておきたいと思えるほどだ。
なお、「技術的な話なので、あまり表に出ない機能なのですが、実は写真を表示するときのサムネイルは先読みをしているので、表示速度はかなり速い自信があります。また、動画をアップロードすることもできるのですが、実はサーバー側でリアルタイムトランスコードの機能も持っています。このため、iPhoneやAndroidなど対応するフォーマットが違う端末でも、アップロードした動画を他の端末から問題なく再生できるようにも工夫しています」(青木氏)とのことだ。
ライフログとなる写真なら、後で見たい時に取り出せる、探しやすいシステムが必要だ。今後顔認識機能が搭載されることで、子供が生まれてから現在までの写真をまとめて見るなど、まさにライフログと呼べる使い方が可能になる。
快適に多数の写真を閲覧する環境は、サーバーや回線などのバックエンドのシステムが支えている。速度は遅い時には意識するが、速い場合はとくに意識せずに使っているもの。ユーザーがとくに意識せずに普通に利用できるサービスを提供しているのはさすがと言って良いだろう。
マイポケットに慣れると他が物足りなくなる
今回NTTコミュニケーションズの松本氏と青木氏に「マイポケット」について話を伺ったが、これでもかというくらいのこだわりが詰め込まれているサービスであることがわかった。
正直、このサービスを使い始めてしまうと、まず速いし、いろいろな機能が使えるうえ、スマートフォンやタブレットからも利用可能。操作にも迷うことがないため、他のオンラインストレージを使おうという気がなくなってくる。自分が使うのはもちろんだが、ユーザーのスキルレベルを問わず、他人にも積極的におすすめできるサービスと言える。
ウェブページのデザインや店頭配布のパンフレットは初心者にやさしいイメージのデザインになっているため、初心者向けのサービスと思ってしまう人もいるかもしれない。しかし実は、NTT Comが“ネットワーク屋”のプライドをもって構築した、技術的に相当面白いサービスと言えるだろう。
安心して長く使えるオンラインストレージサービスを検討している人は、やさしいユーザーインターフェイスと、高度な技術に裏打ちされたサービス品質をぜひ体験してみてほしい。