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日比谷の地下に知られざる「とう道」あり――それはケーブル収容空間と保守作業空間の確保を目的として構築された大規模地中構造物

実際の「とう道」。何本ものメタルケーブルが引かれているが、人が十分に通行できるだけの高さ・幅が確保されている

 東日本電信電話株式会社(NTT東日本)が6日、電話局舎設備および関連地下施設の見学会を報道関係者向けに都内で開催した。通信ケーブル敷設用の地下トンネル「とう道(洞道:とうどう)」を実際に歩き、その重要性などを解説した。

地下ケーブルのための通路、それが「とう道」

今回の見学で公開された部分。残念ながら、一部を除いて、ほぼすべて撮影禁止だった。この点ご了承を

 とう道とは、より正確に定義するならば「ケーブル収容空間と保守作業空間の確保を目的として構築された大規模地中構造物」だが、実際のところは、まさに地下トンネル。主にNTTの局舎と局舎を結んでおり、内部にはメタルケーブルや光ファイバーケーブルが整然と並んでいる。

 NTTが所管する地下構造物としては、他に「管路」がある。こちらはケーブル敷設を念頭に置いたもので、パイプのようにごく細い。当然、人が入れるようにはなっていない。

 対するとう道は、人が入って点検などが行えるだけの大きさ・広さを備えている。地下の浅い部分にとう道を作る場合は、地表から掘って後に天井部分を埋め戻す「開削とう道」とするのが一般的で、トンネル部分は四角くなる。地下鉄のトンネルのさらに下を通るような深いとう道はシールドマシンで掘削することから「シールドとう道」と呼ばれ、こちらはトンネルが丸型になる。

 とう道は非常に強固な設計がなされるため、地震を含めた防災の観点から信頼性が高い。加えて、テロなどから通信インフラを守るためにも有効とされ、入場にあたっては厳密な認証が行われる。NTTの社員であっても、とう道に入ったことがない人は相当数いるという。

 なお、地下にケーブル類を埋める方式としては「共同溝」があるが、これは通信以外に電気やガスなど、異なる事業者ないし自治体が工事費用などを分担し、設置する。これに対し、NTTのとう道は、同社の通信ケーブル用にほぼ特化している。

 とう道の歴史は古く、日本で初めて作られたのが大正15年(1926年)という。共同溝が生まれたのは昭和元年だが、これは元号が変わったためで、同じ年にあたる。

「とう道」に足を踏み入れてみると

1枚目の写真とは別の角度から撮った「とう道」。違いはほとんど分からない?!

 とう道の入り口は、基本的にNTTの局舎内にある。今回はNTT東日本の霞ヶ関ビル(地下鉄日比谷駅そば)から入り、潜水艦内部を思わせる防水壁(扉)をくぐると、そこがとう道。蛍光灯に照らされた、薄暗い空間ではあるが、12月なのに寒くないのも印象的だった。

 事前の説明はあったものの、とう道はまさに迷路だ。立て坑を階段で下りていくうちに方角は分からなくなり、回りを見ても特徴的な目印がほとんどない。ところどころに地図こそあるものの、部外者が歩き回るのは難しいだろう。

 とう道の内部には、安全を確保するためのさまざまな工夫が施されている。1984年には東京・世田谷のとう道で火災が発生し、甚大な損害を被ったことから、現在は全面的に火気持ち込みを禁止。それまでメタルケーブルの接合に火を使っていたが、これも止め、1本1本線をより合わせる方式とした。また、ケーブルそのものに耐火素材が使用され、既存のケーブルには耐火カバーが付けられた。

 また、地下という都合上、水はどうしても染み出してくる。見学の最中にも、筆者の頭にわずかながら水滴がしたたり落ちたし、さらに言えば氾濫した河川の水が流れ込む可能性もある。そのため、とう道各所にはポンプが設置され、水を下水へとくみ出している。このほか、酸素濃度の低下、ガスの流入に備えた対策も実施されている。

人との対比。通路は、排水や空気循環の都合状、やや上げ底されているので、高さは5mほどだろうか

通信設備の警備は超・厳重

 続いて、局舎内設備の見学に移ったが、セキュリティの都合上、撮影は完全に禁止。複数の設備室へ足を運んだが、どれも生体ないしキーカードでの認証が必須だった。また、見学者も白衣と静電靴の着用が義務付けられている。

こちらは非常用の電源車

 設備は、主に固定電話を主体としたメタルケーブルでの公衆回線網、光ファイバーでのインターネット通信のためのNGN(Next Generation Network)網に分かれている。

 このうち公衆回線網は、将来的な廃止、そしてオールIP化への移行に向けて現在総務省などで議論が進められている。加入者数の減少が顕著とはいうものの、局舎内にはそれでもなお膨大な数のケーブルが引かれ、やりとりされていることが分かる。

 ただし、交換機などが老朽化で維持限界を迎えているのも事実で、契約者減少によって余剰となった設備のうち、正常利用できるものを他局に転用するといった対応もすでに行われているようだ。

 一方、光ファイバー系のNGN網は、1装置単位あたりの収容回線数が多い。回線交換式固定電話の良さは種々あろうが、機材の設置スペースの違いを目の当たりにすると、廃止の議論が出て当然とも思える。

 このほか、局舎内外に用意された非常用電源設備についても一部公開された。NTT東日本の霞ヶ関ビルでは、全部で3台の非常用発電機(ディーゼル1台、ガスタービン2台)にと非常用バッテリーを備えている。

 これに加え、災害発生時は移動電源車も活用する。ガスタービン方式で出力は2000kVA。

ガスタービン方式で出力は2000kVA

 NTT東日本では、東日本大震災からの教訓も踏まえ、設備・運用の両面から防災対策を進めている。見学の会場となったNTT東日本の霞ヶ関ビルでも、水防対策の一環として1階部分の開口部を閉塞。入館口を2階へ移設する工事を行った。また、小売店や飲食店向けのWi-Fiスポット構築サービス「光ステーション」についても、非常時の無料開放を行い、被災者の情報入手をサポートしていく。