電子書籍の課題や制度を検討、3省合同の懇談会が初会合


「デジタル・ネットワーク社会における出版物の利活用の推進に関する懇談会」の第1回会合

 電子書籍の課題や制度について検討する、総務省、文部科学省、経済産業省の3省合同による懇談会「デジタル・ネットワーク社会における出版物の利活用の推進に関する懇談会」の第1回会合が17日開催された。

 懇談会には、作家、出版社、新聞社、印刷会社、書店などの出版関係者や、電機メーカー、通信事業者、学識経験者など26人が構成員として参加。懇談会では、国内の電子書籍ビジネスにおける課題や制度についての検討のほか、国立国会図書館が進めているデジタルアーカイブの活用方法などについて検討を行う。

 第1回会合では、東京工業大学名誉教授・国立情報学研究所顧問の末松安晴氏を座長に選任。懇談会の下に技術に関するワーキングチームと、出版物の利活用のあり方に関するワーキングチームを設置し、それぞれのワーキングチームで月に2回程度検討を行った上で、6月中をめどに一定のとりまとめを行うことが確認された。

 会合では、講談社副社長の野間省伸氏が、出版社31社により設立された「日本電子書籍出版社協会」について説明した。同協会は、電子書籍販売サイト「電子文庫パブリ」を運営してきた「電子文庫出版社会」を母体として、3月24日の設立総会を経て正式にスタートする。電子出版事業に関する製作、流通、サービスなどについて研究や情報収集を行うほか、法整備の提言なども行っていくとしている。

 国立国会図書館長の長尾真氏は、電子書籍の流通が拡大が予想される中で、図書館が担ってきた国民の知る権利を保障する役割が引き続き確保されることが望まれると説明。ただし、電子書籍の無料貸し出しは出版界が成り立たなくなる懸念があるとして、公共図書館などでは館内のみ無料で電子書籍を利用できるようにするとともに、一般向けには第三者機関を通じて電子書籍の有償の貸し出しを行い、この機関が著作権処理などを行っていくというモデルを私案として披露した。

 第1回の会合は「自由討論」とされ、参加した構成員が意見や主張を述べた。作家の阿刀田高氏は、「デジタル化による収集・利用はもちろん大事だが、それに資するための本を今後作っていけるのかという観点も検討項目として考慮していただきたい」と発言。出版社は作家を発掘し、育てるといった役割を担ってきたが、これが電子書籍の時代に誰が担い、多様性は確保できるのかという観点を議論に求めたいという意見が、作家や出版社の構成員から多く挙がった。

 また、図書館の役割についても、漫画家の里中満智子氏が「デジタル化そのものは読む側にも発信する側にも素晴らしいことだが、図書館の問題は置き去りにされたまま、ここまで来てしまった」と発言するなど、多くの意見が挙がった。里中氏は、「多くの人に読んでいただけることはありがたいが、今売られている本が図書館でも大量に貸し出されているといった状況は、版元や作者にとっては痛し痒し。ベストセラーともなると、1つの図書館が何十冊もその本を購入して貸し出しており、住民からのニーズだという説明もあるが、果たしてそれでいいのかは議論が必要。海外では、図書館は定価の何倍かで本を買い取るという例もある。これまで出版社は誠実に対応してきたが、出版側が疲れ果てて倒れない仕組みをお願いしたい」として、電子書籍だけでなく従来からの図書館のあり方についても検討を求めた。

 米ソニーエレクトロニクス上級副社長の野口不二夫氏は、「米国では、電子書籍は高齢者に好評をいただいている。紙の本では字が大きくならない。また、デジタル化すれば音声読み上げも可能となるなど、メリットはたくさんある。米国では、公共図書館には紙の書籍とデジタル書籍が同じ数だけあり、デジタル書籍の貸し出しも同時に行えるのはその冊数までとするといった取り組みもある。紙だとコピーもスキャンもできるが、デジタルだからこそルールが厳密に適用できるという側面もある」と語った。

 KDDIの高橋誠氏は、「携帯電話事業者がデジタルコンテンツをユーザーに届けるようになって10年ほど経つ。日本のモバイルでは、権利を持っている人のコンテンツ、価値をユーザーに提供するということを大事にしてきたことで、非常にうまくいったと思う。また、デジタルコンテンツをきっかけとして、リアルの商品が売れたといったケースも多い。共存でプラスの方向になるようにしていきたい」と語った。

 慶應義塾大学教授の徳田英幸氏は、「紙とデジタルの知的融合により、新しい需要をおこせる出版物の形を議論していきたい。単に紙をスキャンしてPDFにしただけというものではなく、たとえば書いた人にフィードバックできる仕組みであるとか、新しい形の広告をそこに挿入するとか、新しい形を議論できればと思っている。創発型のビジネスモデルに期待したい」と語った。

 インターネット関連企業からは、グーグル名誉会長の村上憲郎氏、ヤフー最高執行責任者の喜多埜裕明氏も構成員として会合に出席したが、第1回会合では両氏からの発言は無かった。

 内藤正光総務副大臣は、懇談会には「表現の多様性の確保」「知のインフラの整備」「世界に負けない日本としてのビジネスモデル」の3点を期待していると説明。海外の電子出版ビジネスについては、「AmazonやAppleが日本で電子書籍ビジネスを展開することを拒むものではないし、拒否できるものでもない。一方で、表現の多様性の確保という観点からは、資本の過多に関わらず電子書籍ビジネスに参加できる環境の整備が必要だと考えている」と説明。「プレイヤーが多ければ多いほど、著作権者も選ぶことができる。できるだけ多くのプレイヤーがこの市場に参加できる仕組みを作ることが大切だと思っている。AmazonやAppleにも勝る、日本ならではの魅力あるビジネスモデルの構築に期待したい」と語った。


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(三柳 英樹)

2010/3/18 13:54