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TPPで著作権侵害が非親告罪化されたら〜同人誌・コスプレを守る方法とは

漫画家・赤松健氏が5つの対応策提示


 ジャンプやサンデーの作家が全員でなくていい、一部でもいいから「私たち漫画家は同人誌が結構好きです!」とアナウンスすれば、警察が2次創作同人誌を摘発するのに萎縮するかもしれない。これはすぐにでもできる方法です――。11日夜に開催されたシンポジウム「TPPはネットと著作権をどう変えようとしているのか!? 徹底検証! 保護期間延長・非親告罪化・法定賠償金」の中で、漫画家の赤松健氏が、著作権侵害の非親告罪化による影響から「2次創作同人誌と即売会を守る方法」の1つとして紹介した。

漫画家の赤松健氏(「ニコニコ生放送」より)

 シンポジウムは、クリエイティブコモンズジャパン、コンテンツ学会、MIAU(一般社団法人インターネットユーザー協会)、thinkC(著作権保護期間の延長問題を考えるフォーラム)などが共同で開催したもの。第1回が7日に行われたのに続いて第2回が今回行われ、同じく「ニコニコ生放送」で中継された。

 パネリストは、赤松氏のほか、株式会社二ワンゴ代表取締役の杉本誠司氏、慶應義塾大学教授の中村伊知哉氏、民主党の衆議院議員の川内博史氏。司会は、MIAU代表理事で評論家の小寺信良氏が務めた。また、当初は予定されていなかったが、知財分野におけるTPP議論の火付け役でもある弁護士の福井健策氏が急きょ登壇した。

非親告罪化で、同人誌やコスプレに壊滅的打撃?

 thinkCによると、TPPでの検討分野の1つとして知財政策があり、その中で米国側は、著作権保護期間の延長、著作権侵害の非親告罪化、法定損害賠償制度の導入、米国型のプロバイダーの義務・責任の導入、デジタルロック回避の規制、真正品の並行輸入の禁止権などを要求してくるとみられるという。

 今回のシンポジウムでは、非親告罪化、米国型のプロバイダーの義務・責任、保護期間の延長あたりが話題となったが、中でも大きく扱われたのが非親告罪化について。著作権侵害行為に対して権利者からの告発なしで警察による摘発や刑事罰の適用が行えることになるため、漫画に関しては2次創作同人誌、コミケ、コスプレといった活動への影響が懸念されている。

 こうした活動の多くは正式な許諾を受けずに行われているとされ、著作権侵害にあたるが、漫画家や出版社などの権利者がはっきりと許諾を与えてはいなものの、黙認している“グレーゾーン”だ。こうした活動が正規作品の人気を盛り上げている面もある。

 小寺氏は、グレーゾーンがあることで実験的なコンテンツが生まれ、それが新しいコンテンツに成長していく面が多分にあるとし、「クリエイティブの発祥の場所になっている、あいまいなところが日本の法律の中にある」と評価する。

 しかし非親告罪化されれば、こうしたグレーゾーンに対して、権利者が刑事罰を望んではいないような摘発まで行われる可能性もあり、2次創作同人誌やコミケ、コスプレが壊滅的打撃を受けるのではないかというわけだ。

 実際には、警察がコミケの会場になだれ込んできて片っ端から摘発していくというようなことは考えにくいというが、そうしたことも制度上は可能であるということになれば、最も懸念されるのが「萎縮効果」だ。

 「2次創作同人誌と即売会を守る方法」は、仮にTPPによって非親告罪化が現実のものとなってしまった場合に、同人誌やコスプレを守るために権利者が行える対抗手段として赤松氏が考えてきたものだ。

 なお、赤松氏は漫画家という権利者側の立場だが、こうした対応手段を呼び掛けていることからもわかるように、同人活動に理解を示している立場にある。「漫画家全員がそう思っているとは言えないが、私はコミケとかに親しんだ身。最近は同人出身の作家が非常に増えている。ふるさとを壊したくないなっていうのはある」という。

シンポジウム中継の中で行われたニコ生アンケートの調査結果

赤松氏による、5つの「2次創作同人誌と即売会を守る方法」

 赤松氏が紹介した「2次創作同人誌と即売会を守る方法」は、以下の5つ。効き目が強いものから順に並んでいる。

 1)出版社による、2次創作の公認
 2)クリエイティブコモンズ(のようなもの)を表示する
 3)ワンフェス風「当日版権」を導入する
 4)2次創作ガイドライン「コピーは禁止。同人はOK。」など
 5)作者側が「私たち(マンガ家は)同人誌が結構好きです」とアナウンスする

 まず、1)についてだが、出版社が作者の意向を確認した上で2次創作を認めれば、著作権的に全く問題はなくなるという。しかし、「ジャンプ、サンデー、マガジンが『同人OK』と言うのは到底不可能。グッズなどを勝手に作られたら困る。同人のパワーが雑誌を盛り上げていることはわかるが、公式に認めることは不可能」。

 また、2)はクリエイティブコモンズのようなマークを表示し、2次利用の方法を示すという考えだが、赤松氏は、これも現実的には無理かもしれないとした。

 次に、3)の「当日版権」というのは、ワンフェス(フィギュアなどのガレージキットの展示即売イベント)に出店するガレージキットの製作者が、自身の作品の写真とともに申込書を書いて事前に提出すると、それが漫画家のところに届き、漫画家がOKを出すかどうか判断する仕組み。赤松氏によると、「今は“魔改造”はもう出てこないので、普通、まとめてOK出しちゃってます。作家さん、みんなそうだと思います」とのこと。これをコミケの3日間に導入。コスプレイヤーが写真を編集部に提出、OKをもらってから「それを着て、コミケの一定の場所でコスプレを合法的にやる」というわけだ。

 ただし、フィギュアやコスプレは原作のキャラクターに似せる方向にあるのに対し、「2次創作、特にエロパロは作者の望まないかたちで改造してくる。『これはないんじゃないか』というのもある」。それゆえに2次創作同人誌を当日版権方式で救うのは無理ではないかという。また、同人誌の場合、コミケの後も書店で継続して販売する場合もあり、そうしたことまで含めてすべてタダで済ますというのは「ちょっと認められないんじゃないか」とも。

 4)の2次創作ガイドラインは、「東方シリーズ」や「初音ミク」などで出されているようなガイドラインを指す。そのまま複製するのはNGだが、キャラクターを2次利用して同人コンテンツを制作するのは認めるといった趣旨のものだ。しかし、こうしたガイドラインをすべての漫画家、すべての出版社が出すのは現実的ではないと赤松氏はみている。

 そして5)が、記事冒頭で挙げた、漫画家による声明というわけだ。

グレーゾーンに「明瞭な許諾」を与えることには限界も

 福井氏は、この5つの方法について、同人誌だけではなく2次創作全体にあてはまるものだと評価する一方で、グレーゾーンを“合法化”しようとすることの難しさや限界を指摘した。

 例えば、1)から3)までの方法は「明瞭な許諾」「明瞭なライセンス」を与えることであるとした上で、それを与えるのか与えないのかを権利者がはっきり決めなければならない点がネックになるという。また、「クリエイティブコモンズライセンスを出すということは、(2次創作作品を)見ずしてラインセンスを出すということ。効き目はあるが、世の中のみんなに対してライセンスを出さなければならないため、ライセンスを出す側からするとハードルが高い」。逆にワンフェス方式も、作品を見た上で許諾できるものと許諾できないものを仕分けした上でライセンスを出さなければならないため、限界が出てくるという。「要するに、明瞭な許可、明瞭なライセンスという構成をとろうとすると、グレーが入ってこないため、こういう限界にどうしてもぶつかる」。

 一方、はっきりとOKとアウトの仕分けをせずに、少しグレーな領域を入れ、「よりOKなもの」と「よりアウトなもの」を「なんとなく」示そうというのが、4)のガイドラインという方法だが、「フレキシビリティは高いが、それだけに明瞭な許諾を与えているかどうかはっきりしない」。福井氏は、「従来はこうしたガイドラインがある場合もない場合も、事実上グレーゾーンとして働いていたからそれなりに機能していたが、非親告罪化が導入されたときに、明瞭な許諾と言えるかどうかわからないものだけで萎縮を防げるのか」と課題を指摘した。

 さらに、5)については、「フレキシビリティは高いが、『逮捕されちゃうかもしれない』ということに対する効果は低い」とした。

弁護士の福井健策氏(右)(「ニコニコ生放送」より) MIAU代表理事で評論家の小寺信良氏(「ニコニコ生放送」より)

グレーゾーンを発展させるべく出た“フェアユース”議論だが……

 二ワンゴの杉本氏は、ニコニコ動画ユーザーのマインドに与える非親告罪化のインパクトについて、「当然、今まで以上に2次創作をしようという気持ちは押さえ込まれてしまう可能性は高い」と指摘する一方、「現状のインターネットユーザーは、そういうことに対しての耐性が出来つつあると思っている」とも。「おそらく、そういうことが起きても、それを超えて新しいクリエイティブを生み出し、どのように2次創作していくかという方法論が生まれていくと思う」とした。

 中村氏は、グレーゾーンを“フェアユース”とからめて言及。これまで「緩くうまいことやってきた」とする「日本のやり方」をもう少し緩め、グレーゾーンを発展させようとして出てきたのが、日本のフェアユースの議論だと説明する。しかし、延々と議論されたにもかかわらず、ようやく出された日本版フェアユースの方向性は限定的。まだ法案もまとまらない段階で、立法措置で対応するのは時間もかかる。「法律でどうこうしようというアプローチ自体、もう効き目が薄いのではないか」と指摘。「それならば別の生態系を作っていったほうがいい。ワンフェスやコミケで見られているような、日本型の緩くやってきたことを実体的に広げていくやり方のほうが、今はいいのではないか」とした。

株式会社二ワンゴ代表取締役の杉本誠司氏(「ニコニコ生放送」より) 慶應義塾大学教授の中村伊知哉氏(左)、民主党の衆議院議員の川内博史氏(右)(「ニコニコ生放送」より)

日本の知財政策へのスタンスを固める必要性

 シンポジウムが行われた11日夜は、ちょうど野田首相がTPP交渉に対する方針表明の会見が行われた時間とも重なった。首相の会見が始まるとその中継音声が流されたが、ほどなくして川内氏の携帯に会見内容の文面がメールで届き、それを読み上げる場面もあった。

 川内氏は、野田首相の「TPP参加に向けて各国との協議に入る」との表現について、「交渉参加」でも「交渉参加表明」でもなく、まだその前の事前協議の段階であると説明。実際に交渉に参加することになったとしても、それまでにはまだまだ長い道のりがあるとし、知財政策について国内で議論する時間はあるとした。

 ただし現状では、TPPによる日本の著作権制度への影響について、「そもそも、著作権法を所管している文化庁自体が全くシミュレーションしていない」と川内氏はいう。また、川内氏は民主党の経済連携プロジェクトチームの座長代理を務めており、党内のTPPに対する意見を集約・報告をまとめた当事者だが、同プロジェクトチームで知財に関する議論は「私が質問しただけ」。しかも、保護期間延長と非親告罪化にどのように対処するのかとの質問に対する回答は、「文化審議会の著作権分科会でも議論して、一定の成果はある。しかし、しっかり対応したい、みたいな」わけのわからないものだったらしい。

 なお、保護期間延長や非親告罪化など米国側が要求してくる項目は、何もTPPに限ったものではなく、「日米経済調和対話」で提示される「米国側関心事項」に毎年載ってくる項目であり、日本国内においてきちんと議論を積み上げ、対応スタンスを固めておかなければならない問題だという。

シンポジウム第2回は、講談社「現代ビジネス」が共催し、同社セミナールームで行われた。「ニコニコ生放送」での中継は延べ3万3000人ほどが視聴した




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(永沢 茂)

2011/11/15 06:00