日本漫画家協会、出版社への著作隣接権付与に否定的な見解
社団法人日本漫画家協会は2日、出版者(社)への著作隣接権付与について、「現段階での出版者への隣接権付与、という提案については、残念ながら否定的にならざるを得ない」という見解を発表した。
この見解は、出版物の電子書籍化に伴う権利処理の円滑化や、海賊版などの権利侵害への迅速な対応を行うため、出版者にも「版面権」のような著作隣接権を付与しようという提案がなされていることに対し、日本漫画家協会が協会としての見解をまとめたもの。
文化庁が2010年11月から開催してきた「電子書籍の流通と利用の円滑化に関する検討会議」でも、出版者への権利付与の是非について議論が行われた。検討会議では、出版者に隣接権を付与することは権利処理の進展につながり、権利侵害に対して出版者が主体的に対応措置を図ることは必要といった積極的な意見が出た一方で、新たな権利者が増えることは電子書籍市場への新規参入を阻む可能性があるといった意見も挙がり、電子書籍市場の動向も踏まえて、継続して検討が必要だとする報告書が2012年1月にまとめられた。
日本漫画家協会では、出版者への権利付与により権利情報管理と処理能力が向上するという主張には一定の理解ができるとした上で、「それならばむしろ個別の出版者の管理よりも、より広域で一括した管理が可能な、新たな集中処理機構の創設を前提にした方が、ユーザーの権利確認や処理の利便性につながり、より健全であると思われる」と主張。そのことにより、アウトサイダー的な出版者とも権利を持ち合わなければならなくなるという、著作者の不安やリスクを回避できるとしている。
さらに根本的な問題としては、権利者が増えることによって権利者同士の意向の違いによるコンテンツが塩漬け状態になることの問題や、新規参入事業者への過度な障害になることへの懸念があり、電子書籍流通の促進という目的に逆行する危険性も否めないと指摘。また、多くの出版者が設定してくる電子配信のロイヤリティは、従来の紙媒体と大差がないように見受けられるが、流通や保管のコスト、制作費などを鑑み、先行する電子配信事業者により推移してきたロイヤリティ設定に合わせていくことが望ましいとしている。
権利侵害への対応についても、訴訟リスクをとってまで対応しなければならない、経済的影響の大きい侵害事案は非常に限定的であり、個別に対応することが合理的かつ現実的だと指摘。コンテンツごとの個別委任契約での対応が可能であり、権利侵害対策を理由として出版者全体に権利付与しなければならないほどの必然性には欠けると主張している。
こうしたことから協会では、コンテンツ制作を自身のプロダクションで完結させている「マンガ」というメディアの著作権団体という立場からは、現段階での出版者への隣接権付与という提案については、残念ながら否定的にならざるを得ないと結論付けている。
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(三柳 英樹)
2012/4/3 17:02
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