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衆議院外務委員会が「ACTA」承認、ネット規制強化は「誤解」と繰り返し否定


 衆議院外務委員会は31日、「偽造品の取引の防止に関する協定(ACTA)」を承認した。すでに参議院では可決しており、衆議院本会議で可決されれば批准となる。

 同日行われた委員会の審議では、ACTAを根拠にインターネット規制が強化される恐れがあるとの指摘について、玄葉光一郎外務大臣、山根隆治外務副大臣、外務省の八木毅経済局長が繰り返し否定。ユーザーがインターネットサービスプロバイダーによって監視されたり、インターネット上の表現の自由など基本的人権が脅かされるのではないか、あるいは税関で個人がPCの中身を(海賊版コンテンツが含まれていないかなど)チェックされるのではないかといった懸念は「誤解」だとした。また、玄葉大臣は、日本では「本協定を締結するために、これ以上の国内法令の改正を行う必要は全くない」と明言した。

 野田首相の問責決議で国会審議が空転する中、外務委員会は29日に行われた前回に引き通き、野党委員が欠席したままで開かれ、与党委員だけでの採決だった。

答弁の模様は「衆議院インターネット審議中継」サイトのビデオライブラリで視聴可能

外務委員のもとに反対意見・苦情のファックスが殺到

 ACTAは、知的財産権に関する執行を効果的に実施するための国際協力の枠組みを定めたもので、日本が必要性を提起して交渉をとりまとめてきたという経緯がある。すでにある「知的所有権の貿易関連の側面に関する協定(TRIPS協定)」が1995年に発効して以降、デジタル技術が発展、侵害の新たな手法も出現してきたことを受け、新たに必要な義務や執行について、より詳細な手続きなどを定めたという。具体的には「民事上の執行」「国境措置」「刑事上の執行」「デジタル環境における知的財産権に関する執行」といった節で構成されている。

 これまでに日本、韓国、米国、カナダ、メキシコ、オーストラリア、ニュージーランド、モロッコ、シンガポールの9カ国と、EUおよびEU加盟22カ国が署名。6カ国が批准した段階で発効することになっている。

 しかし欧州では、条文があまりにも漠然としているために誤った解釈をされやすく、市民の自由が脅かされる運用につながる恐れがあるとして反対運動が起こり、EUの欧州議会に提出された嘆願書には280万人の署名が集まったという。これを受けて欧州議会は7月、ACTA批准を否決。また、報道などによれば、メキシコ議会も批准を中止するよう求める決議を採択したという。こうした動きもあり、日本でも最近になってACTAの批准を懸念する声が広がってきていた。

 31日の外務委員会の審議で質問に立った民主党の大泉ひろこ議員、村越祐民議員によれば、外務委員を務める議員のもとにはACTAに反対する意見や苦情のファックスや電話、メールが多数寄せられており、特にファックスについては同じ文面のものが大量に届くなど、用紙がすぐになくなってファックス機が正常に使えないほどの状況だという。

 外務委員会では当初、29日の委員会で採決する予定だったが、今回、あらためて国民に対して説明の場を設けたのだとしている。こうして寄せられた声の中から代表的なものを2人の委員が示し、これに対して政府側が答弁することにより、懸念を払しょくしようという流れだ。

 村越議員によると、ファックスで寄せられる懸念・批判の主なものは、「インターネットにおける言論空間が、政府による追加規制によって脅かされるのではないか」というもの。これに対して八木経済局長は、次のように回答した。

 「ACTAにおけるインターネットに関する規定としては、第27条が挙げられる。結論から言うと、この条項が個人によるインターネットの正当な利用を制限するものではなく、また、インターネットサービスプロバイダーに対して利用者に対する監視を何ら義務付けるものでもない。いずれにしても、我が国がACTAを締結するにあたり、個人のインターネット利用等に関する現行国内法上の措置に何ら変更はない。」

 「例えばインターネットの個人利用について第27条の1は、デジタル環境において生ずる知的財産権の侵害行為に対する効果的な措置について定めているが、ここでいう知的財産権の侵害行為とは、例えば、1)電子掲示板、動画投稿サイト等における著作物の無断の複製および公衆送信、2)DVDディスク等に記録された映画等の無許諾の複製および譲渡、3)インターネットオークションサイトにおける不正な商標商品の売買等を指している。従って第27条の1の対象となるのは、著作権や商標権等といった権利を侵害する違法行為であって、この規定を根拠として個人の正当なインターネット利用が制限されることはない。」

 「プロバイダーによる監視の点について、第27条の4において、商標権または著作権等が侵害されていることについて権利者が法的に十分な主張を提起し、かつ、それらの権利の保護または行使のために必要である場合にのみ、インターネットサービスプロバイダーに対して、権利侵害に使用されたアカウントの保有者を特定できる情報を権利者に対して開示するように命ずる権限を自国の当局に付与できる旨を規定している。さらにこの規定の実施にあたっては、電子商取引を含む正当な活動の新たな障害とならないようにすること、また、表現の自由、公正な手続き、プライバシーその他の基本原則が維持されるようにすることが必要とされている。ACTAによってインターネットサービスプロバイダーが常時、顧客の利用を監視することが義務付けられるわけではない。」

 また、「プライバシーその他の基本原則が〜」といったかたちで出てくる「基本原則」が示すところに関して、八木経済局長は以下のように説明した。

 「例えば、デジタル環境における著作権の侵害の疑いのあるものに関する情報を収集・分析するにあたっては、個人のプライバシーあるいは個人情報に配慮し、これを不当に侵害しないことを確保するために、各締約国の法令に定める公正な手続きにより、これを適切に行うことが求められるというようなことが含まれていると考える。」

 大泉議員が行った質問には、第23条の刑事犯罪に関する規定についてのものもあった。これは、同条で「各締約国は、刑事上の手続及び刑罰であって、少なくとも故意により商業的規模で行われる商標の不正使用並びに著作権及び関連する権利を侵害する複製について適用されるものを定める。この節の規定の適用上、商業的規模で行われる行為には、少なくとも直接又は間接に経済上又は商業上の利益を得るための商業活動として行われる行為を含む。」とあるが、「商業的規模」の定義が不明であり、「著作物を個人的に楽しむ場合が除外されているのかわからない」との指摘があることを受けてもの。これに対する八木経済局長の回答は以下の通り。

 「第23条は、著作権を侵害する複製であって、故意に商業的規模で行われる行為に適用される刑事手続き、罰則を規定しているが、『商業的規模』については具体的、詳細な内容までは定義されていない。従って、いかなる規模の行為が刑事罰の対象となるかは、各締約国の国内法によるものと考えられる。一般的には『商業的規模』とは、『商業的』という質的な要件と、『規模』という量的な要件の両方を含むものを指すと解される。単に著作物を個人的に楽しむ場合は商業的規模には当たらないと考えている。なお、我が国の著作権法第30条では、私的使用であれば基本的に、一定の場合を除き複製できるとされている。」

 玄葉大臣は質疑の最後、かつて青少年問題に関する特別委員会の委員長を務めていた時、インターネットの有害情報から子どもを守るためにフィルタリングを義務付ける法律を議員立法で作った際も「その過程で大量のファックスが来た」と振り返り、「誤解などがまん延している部分がかなりあるなと、今回のことについても思う」とコメント。「これから丁寧な説明を心がけていきたい。そのことが浸透したら、そういった反対論は全くなくなっていくだろうと思う」とした。


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(永沢 茂)

2012/8/31 11:51