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福井弁護士のネット著作権ここがポイント

TPPで日本の著作権は米国化するのか〜続報:知的財産Q&A編


各国との事前協議が開始

骨董通り法律事務所の福井健策弁護士

 与野党・メディアを巻き込んだ激論の末、野田首相が交渉参加(のための事前協議入り)を宣言したTPP(環太平洋経済連携協定)。カナダとメキシコも協議参加の方針を表明し、TPPはにわかに、域内GDPでNAFTA・EUをしのぐ世界最大の経済圏に発展する可能性を帯びてきた。今週から、いよいよ日本政府と各国との「事前協議」が始まる。

 さて、TPPの知的財産面での影響について書いた前回コラムは予想を超える規模の反響をいただいた。クリエイティブコモンズジャパン・MIAU・ニコニコ動画・thinkCなど6団体共催による2回のネット中継シンポでは、各回4万人前後の視聴者を集めるなど、TPPと著作権についての関心も増えたように思う。この間、いくつもの意見、疑問などをいただき、あるいはネット上で見かけた。その代表的なものに、できるかぎりここで答えようと思う。

◇TPPで日本の著作権は米国化するのか〜保護期間延長、非親告罪化、法定損害賠償
http://internet.watch.impress.co.jp/docs/special/fukui/20111031_487650.html
◇TPPは農業だけじゃない、著作権分野でも議論を――福井弁護士らが呼びかけ
http://internet.watch.impress.co.jp/docs/news/20111109_489343.html
◇TPPで著作権侵害が非親告罪化されたら〜同人誌・コスプレを守る方法とは
http://internet.watch.impress.co.jp/docs/news/20111115_491036.html



Q:TPPにおける「米国政府の知財要求項目」は流出文書だが、出所は確かなのか?
A:米国政府の知財要求項目は、米国有力NGOであるKEIを経由して流出したもので信頼性はある。

 第一に、今回の米国要求項目とほぼ同一の要求メニューは、先日韓国議会で強行可決された米韓FTA(自由貿易協定)でも米国が韓国にそのまま呑ませている。日本の外務省が、米韓FTAの簡潔なまとめを公開しており、第18章「知的財産」では、「保護期間延長」「非親告罪化」「法定賠償金」「デジタルロック回避規制」「プロバイダーの法的責任」と、TPPでの米国要求の主要メニューがきれいに揃う。米国政府のサイトにある原文を見ると、TPPでの要求項目とほとんどの条文は同一文だとわかる。

 第二に、要求の主要部分は、米国が日本に例年要求する「日米経済調和対話」の項目とも一致する。いわばUSTR(米国通商代表部)のスタンダードだ。

 第三に、そのせいもあって、海外の識者やメディアの発言で文書の真正性を疑ったものは見たことがない。流出文書ならずとも通常の判断力があれば、TPPで米国が各国に何を要求するかは想像がつこう。

◇KEI経由で流出した米国政府の知財要求項目(PDF)
http://keionline.org/sites/default/files/tpp-10feb2011-us-text-ipr-chapter.pdf
◇外務省が公開している米韓FTAの概要(PDF)
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/tpp/pdfs/tpp03_01.pdf
◇米国政府が公開している米韓FTAの原文(英文)
http://www.ustr.gov/trade-agreements/free-trade-agreements/korus-fta/final-text
◇日米経済調和対話の翻訳文書
http://japanese.japan.usembassy.gov/j/p/tpj-20110304-70.html


Q:「ダウンロード違法化」が全著作物に適用されるという指摘もあるが、これは米国要求に入っていないのか?
A:流出した米国要求には入っていなかったが、今後要求される可能性は高まっている。

 米国政府は13日、日本のTPP加入に関する国内の意見公募を終了した。その中で、知財系で最有力のロビイ団体IIPAの意見は、「最大の輸出先・日本のTPP加入を歓迎」としつつ、やはり「保護期間延長」「非親告罪化」「法定賠償金」など同じ要望を掲げる。特筆すべきは、流出した米国要求に無かった「私的目的ダウンロードの違法化を全著作物に拡大し、かつ適当な場合に刑事罰導入」という要求までが挙げられたこと。

 日本では2010年の「ダウンロード違法化」により、私的使用を目的とする場合でも、ネット上の侵害映像・音楽のダウンロードだけは違法となった。ただし、他の著作権侵害と違って刑事罰はない。IIPAの要求は、ダウンロード違法化の適用範囲を全著作物に拡大して、かつ「適当な場合に刑事罰を導入せよ」というものだ。

 実はダウンロード違法化の拡大は、前述の「日米経済調和対話」では以前から米国の要求である(前回コラム参照)。日本は、TPPの事前協議でこうした「宿題」を突きつけられる可能性が高いだろう。

◇日本のTPP加入について米国で実施した意見公募(英文)
http://www.regulations.gov/#!docketDetail;dct=FR%252BPR%252BN%252BO%252BSR%252BPS;rpp=10;po=0;D=USTR-2011-0018
◇IIPAの意見(英文)
http://1.usa.gov/z6BjlK


Q:TPPはあくまでも農産物などの貿易問題が中心であって、知的財産は小さな問題なのでは?
A:少なくとも米国政府は知財・情報項目を重要分野と位置付けている。なぜか。コンテンツとITは米国最大の輸出産業にして、国力の源だからである。

 最近の報道によれば、その輸出額は農業や自動車などを凌駕し、著作権分野だけで年間10兆円強という驚異的な外貨を稼いでいるという。収支だけにとどまらない。拡散するソフトパワーが90年代以降の米国の力の源泉であり、「落日の超大国」どころか、世界を席捲するコンテンツ・IT系企業がほぼ米国勢で寡占されていることは周知の事実だろう。

 小資源の日本の国是もまた、知財立国・コンテンツ立国のはずである。では、日本は知財の輸出国か。特許など技術分野では確かに代表的な輸出国だ。しかし、著作権などコンテンツ分野では大幅な輸入超過国。決して「収支がすべて」というわけではないが、日銀「国際収支統計」によれば、2010年の著作権使用料は年間5600億円もの巨額赤字で、特許の黒字をかなり帳消しにした。その大半は対米赤字である。

 少なくとも米国の通商代表部(USTR)は、知財・情報分野をTPPの重要領域と正しく位置付けている。交渉状況に関する外務省文書を見ても、最近の会合で知財分野が紛糾している様子は見てとれる。

 むしろなぜ、日本では猫も杓子も農業と関税の話しかしないのだろう。

◇交渉状況に関する外務省文書(PDF)
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/tpp/pdfs/tpp01_09.pdf


Q:非親告罪化で二次創作の危機だという人々がいるが、米国でもパロディやコスプレは取り締まられていないではないか?
A:非親告罪化でパロディやコスプレ摘発が激増するかと言えば、即断はできない。ただし、「フェアユース」の例外が無いなど、日本は米国とは状況が違う。

 「フェアユース」は、いわば法的にグレーな領域において、著作権法の柔軟な運用を許す安全弁の規定。米国ではこれがあるので二次創作などが一定限度で適法となる。また、そうした主張を裁判で戦わせることを、さほど躊躇しない国民性もある。

 日本でも現在、「権利制限の一般規定」の名の下に部分的な「フェアユースっぽい規定」が議論されているが、それすら反対が強い。まして本格的なフェアユース導入は当分ない。米国も、フェアユース条項の他国への輸出にはお世辞にも熱心とは言えない。輸出相手のアジア諸国に著作権を「柔軟に運用」されては不便だから、当然だろう。

 つまり、フェアユースに限らず法慣習や社会のあり方が違う日本に、米国に都合の良い規定だけを接ぎ木することの是非が問われてくる。

 逆に、非親告罪化や保護期間延長が導入されるなら、「日本でも本格的フェアユース規定がないとバランスが取れない」という声は今以上に高まろう。韓国でも、米韓FTAによる知財強化策への反動からフェアユース待望論が高まり、導入が決まっている(参考:上野達弘「韓米FTA協定の締結に伴うフェア・ユース規定の導入背景」『著作権制度における権利制限規定に関する調査研究』参考資料33ページ〜)。



Q:非親告罪化で告訴が不要になると言っても、被害届無しで現実に警察が動くとは思えないが。

A:一般論として、「被害届がなければ警察は動かない」というのは必ずしも事実ではない。現実に、警察は海賊版など積極的に捜査・摘発しており、その上で著作権者に告訴するか問い合わせている。

 無論、多くの著作権者は海賊版の摘発を期待・歓迎しており、このこと自体が問題だという意味ではない(あくまでも被害届が捜査・摘発の前提では無いということ)。

 他方、二次創作について言えば、現時点では即断できない。ただ、上記のシンポで津田大介氏も指摘していたが、コミケやネット上などで「悪質な二次創作」を見つけたとして、問題視した第三者が「通報」を行うケースは増えるかもしれない。この場合、非親告罪の下では警察が捜査を断る理由が見つからず、摘発が増える可能性は、確かにあろう。

 殊更に不安を煽る必要はないが、非親告罪化と第三者通報の増大による表現の萎縮については、制度導入にあたって十分に議論する必要がありそうだ。



Q:非親告罪化は一大事だが、「保護期間の延長」は死後50年と死後70年の差がぴんと来ないし、どっちでも良いのでは?

A:率直に言って、これはもはや想像力の有無の問題である。

 第一に、20年といえば特許の全保護期間に相当する。そして膨大な権利者不明の「孤児作品」を含めて、延長の影響はあらゆる著作物に不可逆的に及ぶ。その差がどうでも良いことか、古い作品の権利処理で苦しむアーカイブその他の現場を一度でも見ればわかるだろう。

 第二に、大差が無いなら、なぜ欧米を代表する頭脳たちが保護期間の論争に強い関心を持ち続けたのか。

 第三に、そもそも単に「20年」の問題ではない。著作権はその誕生以来、期間延長が繰り返されているのだ。前述のコンテンツの国際収支を挙げるまでもなく、欧米などの「古い文化の輸出国」は当然に保護の超長期化を志向する。それが繰り返されては、日本など他の国々の収支はさらに悪化しパワーバランスが固定される、との指摘は根強い。

 日本は先進国ではカナダと並ぶ死後50年国の「最後の砦」だ。TPPの一メニューとして日本・カナダが延長を呑めば、世界はさらなる保護長期化の連鎖へと雪崩をうつ可能性がある。

 それで豊かな文化への人々のアクセスは守られるのか。日本の進路の意味は重い。むしろ、知財政策の面では共通点も多いカナダがTPP交渉に参加表明したことで、米国一辺倒ではない方向にTPPを導く戦略も探りやすいはずだ。(延長の影響全般については、thinkCのサイトに掲載されている論考や田中・林編『著作権保護期間』(勁草書房)を参照してほしい)。

◇thinkCのサイトに掲載されている論考
http://thinkcopyright.org/chuko0610.html


Q:データの一時保存が違法化されることで、動画サイトを視聴しただけで処罰されたり、サイトなどの閉鎖が相次ぐのか?
A:必ずしもそうは予測しないが、議論の流れに注意は必要だろう。

 作品のデジタルおよびネットでの利用は、キャッシュに代表されるように、時間が経てば消えてしまうような一時的なデータコピーをよく伴う。こうした一時的なコピーも「複製」であって、著作権法上は違法なのか? 日本に限らず欧米でもよく議論されてきた問題だ。米韓FTAでは、一時的複製を複製とみなす明文規定が入り、議論を招いている。

 TPPの米国要求にも、確かにほぼ同じ規定はある(4.1項)。この規定を受けて、「これからは、1)サーバーでのキャッシュや、2)動画サイトのストリーミング視聴だけで処罰される可能性がある」「何もできない」「ネット終了」との情報も一部で流れた(なお、問題点の整理は、「P2Pとかその辺のお話@はてな」のエントリーがわかりやすい)。

 注意したいのは、たとえば動画サイトにテレビ番組をアップしたり、あるいは「裏技」を使ってそれをダウンロードする行為は、「一時保存」ではなく削除のアクションをとらない限りデータが残る「恒久複製」なので、今回の要求以前から違法だということだ(前述の「ダウンロード違法化」参照)。さらに、時間とともに消えてしまうような一時保存も無許可だと違法になるかが、ここでの話。

 とはいえ、米国要求も4.1項の脚注で「一時複製を含める際、作品の通常の利用を妨げないような例外を設けよ」と明記している。また、16.3項には、「接続・転送サービスやシステムキャッシングでの一時的複製は、受動的なものなら一定条件で免責する」という趣旨の規定がある(米国のDMCAという法律と同じ内容)。

 TPPにもこうした留保が残るならば、日本が急にキャッシュサーバーやストリーミング視聴まで違法化するような法改正を余儀なくされる事態は、やや考えにくい。現行の日本法でも、1)サーバーでのキャッシュなどや、2)ブラウジング、ストリーミング視聴については、最近の改正で一定の手当てがされている(著作権法47条の5、47条の8)。

 とはいえ曖昧さはあるし、上記のエントリーも指摘するように萎縮効果はゼロではなかろう。注視していこう、というところだろうか。

◇一時的複製を複製とみなす明文規定が入ったことについて
http://eigokiji.cocolog-nifty.com/blog/2011/12/post-ab2f.html
◇P2Pとかその辺のお話@はてなのエントリー
http://d.hatena.ne.jp/heatwave_p2p/20111203/p1


Q:海外の海賊版を根絶できる点で、知財についてはメリットが大きいのでは?
A:疑問がある。

 確かに、米国要求には「海賊版対策」のメニューも並ぶ。以前も書いたが、筆者も純然たる海賊版には何の共感も無いので、本当に実効性のある海賊版対策には賛成だ。メディアの中にはこの点だけをとらえて、「TPPは知財では日本に有利」と報じるものさえあった。

 しかし、第一に、TPPで海外の海賊版対策をやるなら中国などが将来加入することが前提であり、現在その可能性は未知数としか言いようがない。

 第二に、すでに成立したACTA(海賊版防止条約)には日・米・韓・豪・加などが加盟しており、外務省によればEUの加盟も近いという。「米国と組んでACTA並みの保護を各国に迫る」(日経報道)のが目的なら、ハードルが高いTPPより、建前的に断りにくいACTAへの加入を中国などに求める方が近道だろう。現に日本はその努力中と報じられている。

 なぜ、他の国内制度を大幅に変更するリスクを冒してTPPでそれをやるのか。海賊版対策を加入のメリットに挙げる議論には疑問符が付く。



Q:英語版のWikipediaがサイトを24時間閉鎖するストライキを行うなど、IT系企業の激しい抗議を受けている米国のSOPA(オンライン海賊行為禁止法)、PIPA(知財保護法)が成立した場合、同じような規制がTPPで他国にも輸出されるのか?
A:現状では両法案の成否も最終的な内容も、不明としか言いようがない。しかし、仮に成立するならばその可能性はあろう。米国政府は、自国の規制だけが厳しくなることは恐らく望まないからだ。



Q:特許など、他の知的財産の分野ではどのような影響があるのか?
A:特許・商標・不正競争など、他の知的財産権の分野でも多くの保護強化メニュー(あるいは米国化)が要求項目に挙がっている。

 特許で論議を呼ぶかもしれないのは、「診断・治療方法を特許対象にせよ」という要求だ(8.2項)。日本では現在、「医療機器」や「医薬品」に関する発明が特許対象だが、医療行為だけは、いかに新しくても特許をとらせない運用がされてきた。米国要求はこれを特許対象に加えよというもので、新しい手術や検査の方法などが独占され得ることになる。

 医薬品にもある程度同じことは言えるが、特に医療行為となると、自分が知っている治療方法で眼の前の患者を救えるのにそうしない、という選択を医師に強制することができるのか。医療の根源に関わる問題とも言え、佐藤ゆかり議員が国会質疑で取り上げたのは記憶に新しい。

 また、例えば「医薬品データ保護条項の導入」(9.2項)という要求がある。これらの医薬品に関する保護強化策によって、特許消滅後の後発医薬品(いわゆるジェネリック医薬品)の開発・利用などが困難になると「国境なき医師団」が訴えている。ジェネリック医薬品を中心とした価格競争によって、HIV治療薬の価格は従来の1%にまで落ちて世界中の多くの患者の命を救ったといわれる。国際的に大きな争点になりそうだ。

 特許とTPPの関連については、筆者の所属する「骨董通り法律事務所」のサイトにおいて、諏訪公一弁護士がコラム化する予定なので、後日参照して欲しい。

 商標の分野では、音や匂いを商標の対象にせよという要求がある(2.1項)。現在、日本の商標制度では文字や図形のような視覚的なものだけが登録対象だ。これにCMのサウンドロゴのような音や、特徴的な香りを加えようというもの(サウンドロゴの例はニコニコ動画に大量にある。たいていは企業名などの言葉を伴うが、インテルの有名なジングルや森永のピポピポなど、音だけのものも。短いフレーズの場合、著作権はおそらく及ばない)。

 同じような改正論議は日本でも浮かんでは消えて来たが、仮に導入されたら、言葉も無しに登録されている「誰かの音や匂い」を、どうやって調べて避けることができるのか。課題はありそうだ。

◇ニコニコ動画の該当ページ
http://www.nicovideo.jp/watch/sm8761145
◇商標法を改正する動きについて
http://www.corporate-legal.jp/houmu_news568/


Q:「TPPは米国の陰謀」などと言われるが、そもそも輸出額が対GDP比で8%以下に過ぎない米国ではTPPへの関心は低いのでは?
A:恐らくそうだろう(日本やカナダなどが参加表明した現在は、多少関心は上がったかもしれない)。ただ、そのことと、TPPの日本に与える影響は別問題だ。

 また、米国民全般の関心が高いかどうかと、各ロビイ団体やUSTR担当者がタフな交渉をして来るかどうかも全く別。間違いなく、タフである(ただし、ロビイ団体も担当者も彼らの仕事をしているだけであって、それを倫理的に非難するような論調には意味はない。

 そもそも、「TPPは米国の陰謀か、そうでないか?」こそ、契約交渉にとってはどうでも良い。そんな論争に割く時間があるなら、政治家やメディアはTPPの現在条文案を入手し、わかりやすい解説付きで公表することに全力を挙げるべきだ。



提案〜まとめに替えて

 無論、本コラムで前回・今回と紹介した個別の交渉メニューについては賛否があろうし、それで良い。

 ひとつ提案だが、日本政府は、知財をはじめ各分野の「TPPのあり得る交渉項目」について、今年前半に公開シンポや検討会を集中開催してはどうか。前述の米国政府はもちろん、カナダ政府もすでにTPP加入について意見公募を実施している。交渉の勝負は緒戦だ。加入を求められた側が早々に意見公募を終える中、日本は何をやっているのか。

 交渉に入る前の今こそ議論するべきだ。なぜか。今年の中頃に正式交渉参加となれば秘密交渉の義務がまず確実に付いてくる。無論、秘密交渉の要求をはねのけてオープンな協議を参加国に呑ませるくらいの戦略も是非持って欲しいが、現実には容易ではなかろう。ということは今年後半、政府はTPP個別メニューの議論をかえってしづらくなる。

 では、次にはいつ、オープンな議論ができるのか。すべての妥結後、国会の批准審議に入るころである。もう交渉が終わったそんな時期になって条文内容を明かせばどうなるか。「秘密主義」「民主主義無視」と猛反発を受けるのは目に見えている。そして、それはすべて正論だ。内閣をひとつ潰すくらいの正論である。

 だから今こそ、「あり得る交渉項目」について政府やメディアも協力して情報を共有し、議論を始めておくべきだ。議論の中で、各メニューへの世論の反応も見える。どこに注力して交渉すべきかも明らかになり、また、交渉のための良いアイデアも生まれるかもしれない。

 どうだろうか。日本政府が透明で公平な「TPPのための国民会議」を自ら開催すれば、きっと国内外で株を上げると思うのだが。

◇カナダが実施した意見公募(英文)
http://canadagazette.gc.ca/rp-pr/p1/2011/2011-12-31/html/notice-avis-eng.html#d106


関連情報



2012/1/20 12:11


福井 健策
HP: http://www.kottolaw.com Twitter: @fukuikensaku
弁護士・日本大学芸術学部客員教授。骨董通り法律事務所代表パートナー。著書に
著作権とは何か」「著作権の世紀」(ともに集英社新書)、「契約の教科書」(文春新書)ほか。最近の論考に「全メディアアーカイブを夢想する」など。