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「ZOZOTOWN」の4倍売れている――楽天のファッションEC事業戦略

岩尾貴幸“CFO”のもと市場拡大・世界展開へ

 楽天株式会社が2月14日に行った2012年通期決算説明会のプレゼンテーション資料には、ファッションEC事業における流通額規模と成長率の実績として、この分野で国内大手である株式会社スタートトゥデイの「ZOZOTOWN」との比較グラフを提示。ファッション専門ECサイトとして注目を集めるZOZOTOWNを大いに意識した姿勢をあらわにしていたが、その楽天が先週あらためてファッションEC事業「楽天ファッション」について報道関係者向けの説明会を開催し、常務執行役員・楽天市場事業副事業長の高橋理人氏、執行役員・楽天市場事業営業第四部部長の岩尾貴幸氏らが利用動向や今後の戦略について説明した。

 楽天市場事業の事業長は三木谷浩史代表取締役会長兼社長が兼任しているため、高橋氏は国内の楽天市場事業の事実上の責任者となる。また、岩尾氏は、三木谷氏から“CFO”(この場合は「Chief Financial Officer」ではなく「Chief Fashion Officer」)に任命され、同社のファッション戦略を展開する役目を担っているという。

執行役員・楽天市場事業営業第四部部長の岩尾貴幸氏
常務執行役員・楽天市場事業副事業長の高橋理人氏

 ファッションECは、ZOZOTOWNのほか、世界的大手のAmazonも注力しているカテゴリーであり、Amazonは2012年8月、日本におけるファッション分野のアフィリエイト料率を引き上げている。今後、この分野での競争激化が予想されるとともに、ECの主要カテゴリーの1つになると考えられている。

 岩尾氏は、こうしたファッションECにおいても楽天はすでに国内最大規模だとアピールするとともに、物流面の強化などで世界も視野に入れた戦略を進めていることも明らかにした。

「楽天ファッション」の年間流通総額は3567億円、「ZOZOTOWN」の4倍

 楽天ファッションの2012年における流通総額は3567億円で、年間成長率は15.0%を維持している。国内における楽天のEC全体の流通総額が1兆4460億円のため、その4分の1を占める規模だ。一方、ZOZOTOWNは917億円で、年間成長率は24.6%。楽天では、「ZOZOTOWNが(ファッションECでは)国内最大規模と言われているが、楽天はその4倍の取り扱い高がある」(加藤氏)とアピールする。ちなみに楽天ファッションの店舗は年間500~800店のペースで増加しており、2012年末時点で約1万2000店舗。

 国内ファッションEC市場における楽天ファッションのシェアは、36%程度とみられるという。これは、楽天ファッションの流通額と、民間シンクタンクが推計したファッションEC市場規模の数字などを照らし合わせて、楽天が算出した数字だ。

 また、楽天ファッションで過去1年間に1回以上購入した“アクティブ会員数”は、ZOZOTOWNのアクティブ会員数の約4.1倍に上るという。楽天ではアクティブ会員数の実数を公表していないが、ZOZOTOWNが公表しているデータでは2012年12月のアクティブ会員数が173万8669人となっており、これをもとに推計すると楽天ファッションのアクティブ会員数は713万人弱ということになる。

国内の主なファッションEC事業者の流通額推移

 ところで、一口に“ファッション”といってもその定義はあいまいで、楽天ファッションとZOZOTOWNの直接の比較には違和感もある。たとえて言うなら、ZOZOTOWNはブランドショップやセレクトショップが入ったファッション専門ビルのようなイメージなのに対して、楽天はそれよりも規模が大きい大型総合ショッピングモールのイメージがあるためだ。

 楽天ファッションの範囲は「メンズ」「レディース」「靴」「バッグ・小物・ブランド雑貨」「ジュエリー・アクセサリー」「腕時計」「インナー・下着・ナイトウエア」「キッズ・ベビー・マタニティ」となっており、これらのカテゴリーであれば日用品に近いものなども含まれるとみられ、かなり広い領域を対象としていることになる。

 実際、楽天ファッションでは昨年、店舗のプライベートブランドの低単価商品である美脚や保温に優れた機能商品が大流行したという。ファッションECの初心者がまずはこうした低単価商品を購入し、その後、高単価のバッグや財布といった商品の購入にシフトしていく傾向があるとしている。

「楽天ファッション」トップページ

 楽天によると、楽天ファッションにおけるアクティブ会員およびゲスト購入者の1人あたりの年間購入点数はZOZOTOWNの約2.3倍、同じく楽天ファッションにおける年間購入金額はZOZOTOWNよりも2000円多い。

 やはり楽天ファッションの年間購入点数・年間購入金額の実数は公表していないため、ZOZOTOWNが公開している2012年10~12月期のデータをもとに推計すると、年間購入点数はZOZOTOWNの5.4点に対して楽天ファッションは12.4点、年間購入金額はZOZOTOWNの3万4617円に対して楽天ファッションは3万6617円ということになる。

 購入点数に2倍以上の開きがありながら購入金額ではそこまで大きな差がないことから、楽天ファッションの利用者はZOZOTOWNの利用者に比べ、単価の低い商品を繰り返し購入している傾向が見えてくる。現時点で楽天ファッションは、高単価のいわゆるブランドファッションというよりも、低単価の衣類などを購入できるECサイトとして信頼を得ていることがうかがえる。なお、ZOZOTOWNの購買単価が楽天ファッションより高いとはいえ、前述したデータから算出すると1点あたり平均6411円ほどだ。

楽天ファッションとZOZOTOWNの年間購入点数・年間購入金額の比較

ZOZOTOWNに対抗するセグメントに「楽天ブランドアベニュー」

 楽天によると、楽天ファッションの購買者の年齢層分布はZOZOTOWNよりもやや上の年齢にずれており、20代後半から働き盛りの各年代層向けの品ぞろえが豊富なことが楽天ファッションを下支えしているという。一方で年齢層分布を若年層へも拡大し、まさしくZOZOTOWNの領域と真っ向から競合しようというのが、2012年1月にスタートしたブランドショップの公式ポータル「楽天ブランドアベニュー」であり、傘下の女性向けファッションECサイト「Stylife」(現在、完全子会社化に向けてTOB実施中)ということになる。

 岩尾氏によると、楽天のファッションEC事業を三角形のピラミッドで表すと、高さを三等分した3つのセグメントに分けられるという。

楽天のファッションEC事業における3つのセグメントについて説明する岩尾氏

 底辺部分の最も大きな規模を持つセグメントが「通常出店」と呼ばれる楽天市場のコアビジネスだ。楽天市場は地方の店舗やプライベート店舗、並行輸入店舗で成り立っているとしており、楽天ファッションの流通総額3567億円のうち、通常出店のセグメントで「おそらく8割近い部分を占めているのではないか」(岩尾氏)という。これをベースに、ファッションECの次なる一歩として展開しているのが、2つめのセグメントだ。

 それが三角形の中段の「ドメスティック・ブランド・ビジネス」と呼んでいるセグメントであり、このセグメントではZOZOTOWNが国内最大であることは楽天も認めるところ。楽天ブランドアベニューやStylifeによってこのセグメントを強化しようというわけだ。

 もちろん、これら2つのセグメントで扱う商品が明確に分類されるものではなく、公式ブランドショップの中には通常出店の形態で楽天市場に出店しているブランドもある。現在、楽天ファッションでは合計910ブランドを扱っているが、内訳は通常出店が660ブランド、楽天ブランドアベニューが250ブランド。今後、楽天ブランドアベニューやStylifeにおける取り扱いブランドの拡大に向け、ブランドの誘致体制を強化していくとしている。

 ZOZOTOWNが含まれるドメスティック・ブランド・ビジネスのセグメントだけ見れば、国内最大規模とは言えない楽天だが、通常出店との相乗効果は大きい。前述したように、通常店舗で低単価商品を買い慣れた利用者が、ブランドアベニューで高単価商品を購入するようになることが期待できる。逆に、楽天ブランドアベニューの購入者が通常店舗で購入するようになることも考えられる。実際、楽天ブランドアベニューの購入者のうち実に6割が、楽天ブランドアベニューを利用するために初めて楽天会員になった利用者だという。そしてその7割が、ブランドアベニューだけでなく従来からの通常出店の店舗も利用するようになっているとしている。

「楽天ブランドアベニュー」トップページ

 そして三角形の一番上のセグメントが、いわゆる「インターナショナル・ハイファッション・ブランド」のセグメントだ。このセグメントの国内市場に本格的に参入している企業はまだないと楽天では説明。「こうしたブランドをECでどうやって販売していくのか、楽天もこれからこのセグメントに踏み込んでいきたい。楽天が米AHAlifeに出資したのも、ハイファッションのビジネスをECでやるための1つのテストだと考えてもらえばいい。ハイファッション業界へのアクセスも含めた上でのテストケース」(岩尾氏)としている。

 このように楽天ファッションのセグメントは大きく3つに分けられるが、「楽天としてやりたいことは、どのセグメントでも一番になること。どこをどうとっても楽天ファッションが常に一番にある状態を作っていきたい」(岩尾氏)という。

Amazonの倉庫を機械化したような“自動倉庫”で物流効率化

 楽天ブランドアベニューの戦略を強化するにあたっては、通常出店と大きく差異化が図られるポイントの1つとして、“フルフィルメント”と呼んでいる出店形態を挙げている。楽天ブランドアベニューではクリエイティブを重要視しており、ページデザインは個々のブランドのイメージに合うように楽天側のクリエイティブ担当ディレクターによって行われる。また、プロモーションや倉庫の運営も楽天が実施するかたちとなり、「在庫以外は楽天が面倒を見る」(岩尾氏)。売上料率が一定、固定費なしという部分も通常出店と異なる。

 フルフィルメント形態をとる楽天ブランドアベニューでは物流サービスの拡充は必須で、「物流そのものがファッションECに大きな影響を与える」(岩尾氏)と強調する。楽天ファッションにおける翌日配送(あす楽)対応は20%程度にまで増えたものの、ファッションECの国際大手サービスに比べて国内事業者は当日配送や返品無料といった面で遅れをとっているのだという。これを解決するのが「楽天スーパーロジスティクス」を掲げて展開している物流システムであり、店舗にとっては注文が増えても当日出荷が可能で、土日も含めて365日出荷可能な体制を提供する。利用者にとっても送料が安価であることなどのメリットがあるとしている。

 楽天スーパーロジスティクスで注目されるのが、楽天が買収した仏Alpha Direct Services(ADS)社の保有する“自動倉庫”の技術だ。商品の搬入や棚への仕分け、発送時の棚からのピックアップ、人間に対する発送作業の指示などをすべて自動的に行う「シンデレラ」というシステムを開発した。いわば、Amazonの物流センターにおいて人間が行っている処理を機械で行うもので、フランス国内では高さ約15m・奥行き約200mの自動倉庫が実際に稼働しているという。現在は靴や書籍に特化したかたちだが、これをアパレルにも展開できると楽天では考えている。

 楽天は述べ床面積約4万6000坪の倉庫「楽天フルフィルメントセンター」を千葉県市川市ですでに運用しており、「楽天ブックス」や「楽天24」の商品出荷をサポートしている。今後、楽天フルフィルメントセンターを兵庫県などにも開設する一方で、具体的な時期はまだ見えないが、それらの拠点にシンデレラを導入していきたい考えだ。アパレルでは商品の形状が多用だが、靴のように一定の大きさの箱に入れて扱うなど、自動倉庫で扱うことを前提にメーカーが出荷当初から梱包形態を考慮することで、箱物商品の作業効率化に大きな効果があるとみている。

国内ファッション市場のEC率はわずか4%、楽天ファッションでこれを30%規模に

 矢野経済研究所の「ブランドネット戦略調査」によると、国内のファッション小売市場におけるEC率は4.0%にとどまっており、米国の12.3%、英国の11.9%などに対して遅れをとっている。

 しかし楽天では、逆にEC率がまだ低い日本だからこそ今後の伸びが大きい市場であるとし、「4%の中で(競合とのシェア争いを)どうのこうの言うよりは、この市場全体を10%、20%、30%に拡大していくことが楽天にとってもブランドや店舗にとっても大事。最終的にはファッション全体のECを拡大する先陣を切りたい」(岩尾氏)と説明。スマートフォンなどスマートデバイス経由でのEC利用が伸びている中、その比率が比較的高いのもファッション市場であるとし、今後は店舗向けにスマートデバイス向けページの編集機能の拡充や動画ショッピング機能の導入などを予定している。

 また、ファッションECは国内だけでなく海外でも勝負できるECのキラーコンテンツでもあると説明する。「今、楽天は13カ国に進出しているが、将来は29~30カ国に進出する計画。CFOというのは、日本のファッションブランドそのものをグローバルに展開していくことに責任を持っている執行役員。今後、モバイルの強化とグローバル展開をがんばっていきたい」(高橋氏)とした。

(永沢 茂)