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大学入試の「情報」科目、導入校拡大を〜5月18日に全国4会場で模擬試験

 大学教員などの有志で構成する「情報入試研究会」が5月18日、高校の新カリキュラムに対応した大学入試の「情報」科目を想定した模擬試験を実施する。定員は東京、神奈川、中部、関西で計300名。受験希望者からの申し込み受付は4月1日から4月19日までで、受験料は無料だ。同研究会が模試を実施する正式会場は今のところ4カ所だけだが、他の地域での会場提供や試験運営で協力校も求めている。また、高校などが自校の生徒を対象にそれぞれ模試を実施する団体受験形式での参加も呼び掛けている。

情報入試研究会発足メンバーの1人である早稲田大学教授の筧捷彦氏。3月3日に開催された「情報入試フォーラム2013」の冒頭であいさつした

 大学入試における情報科目は、大学入試センター試験に「情報関係基礎」として用意されているほか、愛知教育大学などですでに実施されてきた。また、今年からは明治大学の情報コミュニケーション学部の定員450名のうち20名について、情報を必須科目の1つとした方式が導入されている。さらに2016年からは慶應義塾大学総合政策学部・環境情報学部でも、入試選択科目の1つとして情報を追加することがアナウンスされている。

 ただし、センター試験をはじめとした情報入試問題は一定以上のレベルの受験生を想定して作成されているという。今後、情報入試の導入校を拡大するには、より広いレベルの受験生を対象として、高校の情報教科で学習した力を正しく評価できる手法の確立が求められる。

 こうした背景から、2012年3月に発足したのが情報入試研究会だ。情報科目の入試問題を試作し、これを使った模試を実施することでフィードバックを得ながら、適正な範囲・内容・水準を持った試験問題・試験方式の構築を目指す。5月に実施する模試は、その第1回となる。

 新カリキュラムとなる高校普通科の情報教科は、新しい教育指導要領の下、2013年4月の入学生から適用される。従来の「情報A」「情報B」「情報C」という3科目を、「社会と情報」「情報の科学」という2科目に再構成。いずれかを選択・履修する必修科目(2単位)となっている。この新カリキュラムで学んだ高校生が初めて大学入試を受けることになる2016年の入試をターゲットとして、情報入試研究会の成果を生かした情報入試のスタートを目指す。

情報入試研究会の活動スケジュール

都内で開催されたフォーラムで模試の概要発表、団体受験も呼び掛け

 3月3日に筑波大学東京キャンパス文京校舎で開催された「情報入試フォーラム2013」では、研究会発足メンバーの1人である植原啓介氏(慶應義塾大学環境情報学部准教授)から、第1回情報入試模試の実施概要が説明された。

慶應義塾大学環境情報学部准教授の植原啓介氏

 試験問題は、「社会と情報」「科学と情報」の共通問題が1題、「社会と情報」からが2題、「情報の科学」からが2題の計5題となっており、すべてが必答問題となっている。

 実際の高校生は今後、「社会と情報」「科学と情報」のいずれか一方を履修することになるが、模試では両科目をより多くの受験生に解いてもらってフィードバックを得るため、両科目の問題を必答とした。また、履修していない方の科目をどれだけ解けるのか見る狙いもある。

 試験会場と定員は、東京が50名(早稲田大学西早稲田キャンパスを予定)、神奈川が150名(慶應義塾大学湘南藤沢キャンパスを予定)、中部が50名(名古屋周辺で調整中)、関西が50名(大阪電気通信大学を予定)。当日のスケジュールは、集合時間が13時30分、試験時間が14時から15時30分までの90分間。

 受験申し込みは、情報入試研究会のウェブサイトに設置する専用ページで受け付ける。受付期間は4月1日から4月19日までだが、各会場とも定員になり次第締め切る。受験資格は特になく、高校生・大学受験生だけでなく、高校の情報科の教員や予備校関係者などが受験することも予想されるという。

 試験実施後は、1週間後をめどに、スキャンした答案、模範解答、解説、統計情報(受験者数、点数分布など)、点数・順位などを記したサーティフィケートをパスワード付きのウェブで返却する予定だ。紙の答案は破棄する。

第1回情報入試模試の実施概要

 情報入試研究会が模試を実施する会場・定員は限られており、北海道や九州などもカバーできていないため、同時間帯にそれぞれ自校で模試を実施できる高校や予備校の団体受験も受け付ける。情報系の高校などで生徒に受けてもらうかたちなどを想定しており、団体受験といっても最低人数の制限はない。参加校には、試験問題や解答用紙、模範解答、採点基準、解説の電子データ(すべてA4サイズ白黒で準備予定)を提供する。印刷および採点は各校で行い、採点結果などの情報を5月22日まで情報入試研究会にフィードバックすることが条件だ。その後、全国4会場や他の団体受験校などを含めた模試結果をとりまとめ、統計情報とサーティフィケートを各校へフィードバックする。

 なお、前述のように受験資格はなく、本物の高校生や大学受験生が受験するとは限らないため、統計情報やサーティフィケートはあくまでも参考情報であることに留意してほしいという。その一方で情報入試研究会では今後、本物の高校生や大学受験生のみの統計情報を集計する方法も検討する考えだ。

 統計結果などの情報は、今秋開かれる「高校教科『情報』シンポジウム(ジョーシン2013秋)」で報告する予定。あわせて、模試の受験者や団体受験校以外にも広く試験問題や解答用紙、模範解答、採点基準、解説などの資料を公開する。その間は非公開となるが、高校や予備校から問い合わせを受ければ、団体受験校と同様の素材を提供するとしており、それぞれ独自に模試を実施するのに利用可能だ。こちらの場合も、情報入試研究会のフィードバックが条件となる。

団体受験の概要

「試作問題#001」公開中、知識に加えて考え方を問う問題を重視

 情報入試研究会のウェブサイトでは、2012年秋にとりまとめた「試作問題#001」をPDFファイルで公開しており、これを見れば出題の方向性を把握することが可能だ。

 試作問題では例えば、「ディジタル」「アナログ」のいずれかを記入する文章の穴埋め問題、セキュリティ上のリスクが特に高い行為を選択肢から選ぶ問題、LAN側が1ポートのブロードバンドルーターと4ポートスイッチ2台を使って5台のPCがインターネットに接続できる配線を記入する問題、1行ずつにバラバラになったプログラムの記述を組み合わせて1から10までの和を計算して出力するプログラムを作成する問題、伝票情報から顧客情報データベースや商品情報データベース、伝票管理データベースのテーブルに格納する項目を選択する問題などがある。

「試作問題#001」の中の1問

 今回のフォーラムには、研究会メンバーの大学教員らのほか、高校の教員や大手予備校の関係者など80名あまりが参加し、活発な意見交換がなされた。例えば、試作問題の難易度と出題内容に関連して、2進数・16進数の計算や著作権の話題など、情報の教科書に載っているような「ベタな問題を避けているのではないか」との指摘も上がった。入試問題としては一般的な、知識の有無を問う問題が少ない印象だという。

 この点に関しては、知識に加えて、考え方を問うタイプの問題を、情報入試研究会の試作問題ではより重視しているというスタンスのようだ。また、知識を問うような問題は従来の情報入試でも出題されているため、内容や難易度により得点分布もだいたい想定できるのだという。これに対して試作問題では、あえて簡単な問題から難易度の高い問題まで設け、これを多くの人に受験してもらうことで、得点分布などがどうなるか見極める試行的な問題と位置付けている。

村井純教授、SFCで2016年に導入の情報入試の意図を説明

 フォーラムには、慶應義塾大学環境情報学部・学部長の村井純教授も出席。湘南藤沢キャンパス(SFC)にある環境情報学部と総合政策学部において、2016年から導入する情報入試について概要を説明した。

慶應義塾大学環境情報学部・学部長の村井純教授

 これら2学部の入試は現在、選択科目である「数学」「外国語」「数学および外国語」を午前に実施し、午後に必須の「小論文」を実施する方式だ。これに2016年より、選択科目の1つとして「情報」が加わる。すなわち、情報が得意であれば、数学や外国語を選択せずに、情報と小論文でSFCに合格する道も出てきたわけだ。村井教授は冗談交じりではあるが、「SFCを狙うなら、情報だけを勉強すればいい」と説明した。

 SFCの入試といえば、今年の数学の問題の1つとして「数独」が出されたことで話題になったばかりだ。村井教授はこの件についても言及。予備校関係者の苦言コメントを伝えた一部報道に対して「別に目新しさを狙って暴走したわけではない」と否定したが、新たに導入される情報の出題範囲・内容は、受験生(あるいは高校や予備校)にとってさらに一筋縄にはいかないものになることが想像できそうだ。

 村井教授はSFCのポリシーとして、日本の未来を担う人材を作るために学生には地球規模の視点を持って欲しいという狙いもあるとして、「情報」の教科の領域にとどまらず、それに隣接する領域や、さらには隣接しない領域をも含む問題を出す可能性があることを示唆した。

 フォーラムでは、「SFCが情報入試を導入するということで高校では大騒ぎになっている」と、教育現場での状況を報告した高校教員もいた。この教員からは、新カリキュラムでは「社会と情報」「情報と科学」の2科目のうち1科目の選択受講となることから、SFCの情報入試ではどちらの科目を重視した出題がなされるのか探りを入れる質問もあった。

 しかし、村井教授は「どっちからということは、気にしない。ぜひ、どっちも学んで欲しい」と述べて質問を受け流し、SFCを情報入試で受ける学生には、そういった科目の分類にとらわれない総合的な知識や問題解決能力を求めていることを暗に示した。

 なお、こうした総合的な問題は、すでに情報入試を導入している大学の問題にも見られるものだ。例えば愛知教育大学が二次試験の「総合問題」で出題した中には、CAPTCHAについて記述した英文の読解問題などもある。同大学によると、この総合問題では、情報の教科書の範囲を超えた領域も含まれているが、日常的に情報に接していれば見たことのあるテーマを取り上げていたとしており、「できる受験生は正答率が高い」ために、二次試験としての「弁別性」は高かったとしている。

情報入試は待ったなし、2016年により多くの大学で導入を

 村井教授によると、大学が入試方式を変更する際は2年前に予告するよう義務付けられているという。SFCが情報入試を導入するのは2016年からのため、本来は2014年に公表すればいいわけだが、SFCではそれより1年前倒しで2012年末に発表したかたちだ。SFCが情報入試の導入を発表したことで、今後1年の間にこの動きに同調する大学が表れ、2016年にはSFCはじめとしたより多くの大学で情報入試が実施されることを狙っているという。

 なお、情報入試は、時代背景から今後導入拡大が求められている一方で、多くの大学にとっては実現が難しい面もある。大学にとっても高校にとっても入試科目・受験科目は増やしたくないというのが実情であり、情報入試を選択する受験生が少なければ導入・存続は難しい。他の教科でも、受験生の少ない地理を入試科目から廃止する動きも実際に出てきているという。すでに情報入試を導入している大学でもこれを選択する受験生はまだ少数であり、多くの大学にとって情報入試の導入は、情報関連分野で大きな存在感を持つSFCとは事情が異なる。

 この点については、単独では情報入試の作問や実施が難しい複数の大学がアライアンスを組み、共同で情報入試を実施するのが現実的ではないかといったアイデアも挙がった。

 情報入試研究会は今後、2015年まで毎年5月に模試を実施し、調査・検討を進める。その成果をもとに各大学・学部がそれぞれの方針やレベルに応じて、2016年2月実施の実際の大学入試において情報入試科目を導入できるようにしたい考えだ。

「情報入試フォーラム2013」には全国の大学の教職員、高校の教員、予備校関係者など83名が参加。ちなみに、会場で発言した人などの意見を見る限りでは、SFCの入試で数独を出したことについて、予備校関係者だという人も含めて「あり」だとする肯定的な雰囲気だった

 フォーラムの最後にあいさつした村井教授は、2020年には地球の人口の80%がインターネットを使うとともに、オープンデータによってだいたいの情報がインターネットで入手できる時代になると指摘。そのような中で日本は、それら公開されているデータを収集・分析することで、環境をはじめとした地球規模の問題の解決で世界に貢献できるようにならなければならないとし、これからの高校生・大学生はそうした能力を身に付けないわけにはいかないと説明する。

 また、入試問題は大学の考えを表現するメディアでもあるという意味からは、情報入試を導入するということは、「日本人は何の問題を解決すべきなのか、どういう能力を持つべきなのか、そのために日本の教育は何を実行すべきなのか」ということについて、高校のカリキュラムの見直しも含めた大学からのメッセージでもあるという。村井教授は、2020年に必要とされるべき人材の育成のためには、逆算すると、情報入試の導入拡大は待ったなしの状況にあると訴えた。

(永沢 茂)