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クラリオン、Googleの音声認識・検索を利用したカーナビを年内提供へ

 Googleとクラリオン株式会社は5月10日記者会見を開催、クラリオンがGoogleの音声認識「Google 音声検索」および検索技術「Google Places」を利用する契約を締結したと発表した。クラリオンは4月1日から開発に着手しており、年内に両技術を盛り込んだカーナビ製品を市場投入する見込みだ。

Google アジア太平洋 CEO セールス ディレクターのRichard Suhr氏とクラリオン株式会社 泉 龍彦 取締役社長

 発表会にはGoogle アジア太平洋 CEO セールス ディレクターのRichard Suhr(リチャード・サー)氏とクラリオン株式会社 泉 龍彦 取締役社長が出席。Googleの地理空間情報の企業向けサービスとクラリオンのカーナビ製品の展開について説明した。

地理空間情報の市場規模は年間2700億ドル、さらに毎年30%の成長率で拡大

Google アジア太平洋 CEO セールス ディレクターのRichard Suhr氏

 GoogleのSuhr氏は、「情報というと、テキストや画像をまず想像するが、大多数の情報は地理空間情報と関連がある。Google検索のうち20%までがなんらかの位置情報と関連付けられている。地理空間情報のテクノロジーは我々の生活を大きく変化させた。A地点からBへいきたい時の経路などがどこでも見つかるようになっている」として、地理空間情報の市場は年間2700億ドルで、さらに毎年30%の成長率で拡大し続けていると述べた。

 政府や官公庁は地理空間情報を利用して都市計画やインフラ敷設を進め、企業では地理空間情報を利用することで年間173億ドルを節約。消費者も目的の情報を得られることで11億ドルを節約、49億ドルの燃料の節約につながっていると述べ、地理空間情報の有用性を強調した。

 Suhr氏は、現在はスマートフォンの普及にともない、Googleマップやストリートビューをはじめとした地理空間情報の利用が一般に普及しているが、「わたしのミッションはこうした地理空間情報を企業にもたらすことだ」とした。

 Googleでは、2005年に提供開始したGoogle Maps API for Businessのほか、Google Maps Engine、Google Earth Enterpriseを3つの柱として企業向けに提供している。Google Maps API for Businessは、自分の持っている地図情報をカスタマイズしたり、ブランド化したりすることが可能で、小売店が店舗の位置をわかりやすく紹介したり、任天堂ではストリートビューをゲームの中に取り込むといった利用例があると説明した。Google Earth Enterpriseは3Dで地図を表示することができ、政府や防衛関係などで利用されているという。

 現在80万以上のアクティブなサイトでGoogle Mapsが利用されており、中でももっとも大規模でエキサイティングな利用例としては、産総研、KDDI、日立建機などが上げられるが、今回のクラリオンもそうした利用例になるとした。

 具体的には、今回クラリオンの自動車向けクラウド情報ネットワークサービス「Smart Access」で、Google Places API、Google 音声検索 API、Send-To-Carを提供する。Google Places APIは、Googleが保持している店舗やレストランに関する電話番号や地図、写真レビューなどの情報をAPI経由で利用できるサービス。Google 音声検索 APIは文字通り音声検索をAPIを介して利用するサービスで、Send-To-CarはGoogle Mapsのカーナビゲーション向け機能で、事前にパソコンやモバイル向けGoogle Mapsで調べた目的地の情報をカーナビに転送できる機能となる。

 カーナビゲーションシステム向けのAPI提供例としては、ヒュンダイやダイムラーなどとも同様の契約をしているという。

 Suhr氏は「これまでスマートフォンなどで利用されてきた地図空間情報を、車載用のシステムに搭載していただくことで、スマートフォンなどと同じように地図情報が利用できる。Googleのミッションは、世界中の情報を整理し、世界中の人々がアクセスできて使えるようにすること」だと述べ、今後も地理空間情報をさらに活用できるよう進めていくとした。

80万以上のアクティブなサイトでGoogle Mapsが利用されている
クラリオンの「Smart Access」に、Google Places API、Google Voice API、Send-To-Carを提供

クラリオンの技術とGoogleの技術をクラウドを介して車載機器に融合

クラリオン株式会社 泉 龍彦 取締役社長

 クラリオン株式会社 泉 龍彦 取締役社長は、「つながるという言葉をキーワードにして事業を進めている。ただつながるというだけではなく、より使いやすく便利に利用できることを目指している。クラウドを使った、まさにゲートウェイで、車で必要な情報を取り込む」と自動車向けクラウド情報ネットワークサービス「Smart Access」のコンセプトを説明。

 また「Smart AccessはIT技術との融合だけでは進められない」として、日立グループのクラリオンが持つ技術、具体的には電気自動車があと何km走れるか、車自身を感知してどういった人の流れがあるかといったセンシング技術などと、今回Googleが提供するようなIT技術をクラウドを介して車載情報機器に融合させることで最先端製品と最先端技術を提供し続ける「車両情報システムプロバイダー」を目指すとした。

 クラリオンの技術について具体的にはたとえば、「Googleの素晴らしい音声認識を、車の中という大変厳しい状況の中で使えるようにするのがクラリオンの技術」だと述べた。

 また、Googleの技術を採用した理由については、「Smart Accessはもともと日立のテレマティクスシステムを使っているが、クラリオンの車載情報システムは世界中でビジネスをしている。世界対応で音声認識技術という点ではGoogleが最も優れている。Googleは47カ国の言語に対応しており、世界中に展開できるということが最大の理由」(クラリオン理事 マーケティング本部長 松岡義久氏)だとした。

 最終的な製品ではクラリオンのマップを使うことになり、Google Mapsは通信を介して地理空間情報を利用する形となるという。クラリオンは世界に車載情報機器をOEMで数多く提供しており、電波のつながらないところがまだ多くあるため、地図は車載器側で持つ形になるという。

 また、通信は何を使うかという質問に対して松岡氏は、「カーナビの高級機が売れるのは日本だけで、車載器はなるべく小さくして、スマートフォンでアプリを走らせて、車載器とどう連携させるかというのが世界のトレンド」だとして、一般コンシューマ向けとしてはスマートフォンと連動して、接続はBluetoothを使うことになるだろうとした。「一年後くらいにMiracastが使えるようになったら無線に対応し、Wi-Fiが最終形と考えている。」

 Miracastは、無線LANで動画を転送する通信方式の標準規格で、Wi-Fi Allianceによって策定された。ルータやアクセスポイントを経由せず、1対1で直接無線通信を行い、機器同士でディスプレイをミラーリングするといった利用が可能。Googleは2012年10月に、Android 4.2でMiracastに標準対応することを発表している。

Smart Accessによるクラウドサービス
Smart Accessで活用するGoogleのサービス
車載情報システムにおけるクラウド型音声認識サービス
進化するSmart Accessサービス

 発表会では開発中のカーナビのデモも行われ、クラウドを利用することで、開店したばかりの店が検索できることや、Googleの検索を用いることで、「お腹が空いた」といった自然言語でも近辺のレストラン一覧が表示されるなど、これまでのカーナビでは対応できなかった情報検索が可能になることを実際に見せた。

 泉社長は、「今回すごいのは、音声認識をクラウドでやっているということだ。音声認識のクオリティと、検索する情報の圧倒的な量はいままでにないもの」だと述べた。

 今回のデモはプロトタイプで、目的地検索のみに絞っているが、もっといろいろなことに活用して、より高い付加価値をつけようと2年先くらいまでの計画をしているという。

 利用料金については、基本的に有料サービスを考えているというが、課金の方法はいろいろ考えられるとして、「消費者が直接有料サービスに加入するモデルでは、一定期間無料として、継続して利用する場合は有料サービスに移行していただくといった提供も考えられる。また、自動車メーカーに納入する場合は、自動車メーカーが利用料を負担し、消費者には直接の課金は発生しないといったモデルもあるだろう」(松岡氏)とした。

Google検索を使うことで「お腹がすいた」「タイヤチェーン買いたい」といった自然言語での検索が可能になる

(工藤 ひろえ)