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レンサバ事業者がサーバーを捨てる? ファーストサーバ、中小企業向けの手軽なクラウドを提供

サーバー区画貸しからサービス業へ事業転換図る

 「当社の顧客の中心は従業員100名以下の中小企業で、専任のIT担当者はおらず、クラウドへのニーズはあるものの、手が回っていないのが実情。そうしたお客さまにも、クラウドのメリットを享受していただきたい」――。ヤフー株式会社(以下、Yahoo!)の子会社であるファーストサーバ株式会社は5日、新サービスブランド「Zenlogic(ゼンロジック)」を立ち上げ、第1弾として、クラウドベースのホスティングサービス「Zenlogic ホスティング」を提供開始すると発表した。価格は、12カ月契約時で月額2970円(税別)から。

 「Zenlogic ホスティング」は、ユーザーごとの仮想専用環境でWebやメールを利用できるホスティングサービス。OpenStackをベースに開発された、Yahoo!のIaaS基盤をインフラとして利用しており、レンタルサーバーの手軽さ、使いやすさ、価格を受け継ぎつつ、より安定した環境で利用できるようにしているという。

 従来のレンタルサーバーサービス(共用型)では、1つの物理サーバーを複数のユーザーが共用する形でサービスが提供されていたため、「アクセスが集中するとリソースの取り合いになり、サーバー全体が不安定になってしまう」(ファーストサーバの代表取締役社長、村竹昌人氏)問題があった。しかし「Zenlogic ホスティング」では、CPUやメモリ、ディスクのリソースをコミットする仮想専有型のため、ほかのユーザーのアクセスが増えても、それに影響されることなく利用を継続できるという。

 また、レンタルサーバーはハードウェアのスペックに依存するところが大きく、サーバーの性能が大きく変わったりすると、新しいサービスとしてその都度メニュー化されていたとのこと。このため、ユーザーが新しいサービスに移るには、サービスを契約した上で移行や設定の作業を自らが行う必要があった。

 一方で「Zenlogic ホスティング」の場合、一般的なSaaSのように同一サービスを改善し続けるので、「サーバーの乗り換えを気にすることなく、サービスを使い続けられるし、(クラウドサービスで一般的な)リソース可変の仕組みにより、繁忙期にも対応できる」(村竹社長)点を強みとする。

既存サービスに対する「Zenlogic ホスティング」の位置付け
ファーストサーバの代表取締役社長、村竹昌人氏

 しかし、いくら便利になったとしても、使いづらいものでは仕方がない。こうした点をケアするため、直感的に操作できる統合コントロールパネルを用意したほか、ユーザーサポートを充実させ、さまざまな問い合わせに対応できる体制を整備するとのこと。村竹社長は、このサポート窓口で、単なる操作法の教授だけにとどまらず、中小企業が抱える、ビジネスの課題に関する支援なども行っていく考えを示した。

“新しいファーストサーバ”へ

 こうした「Zenlogic ホスティング」を提供する背景には、ファーストサーバが、物理的なリソースを貸し出す単なるレンタルサーバー事業者から、サービス事業者への転換を図っていることがある。

 ファーストサーバではかつて、レンタルサーバーサービスにおいてデータ消失事故を起こした過去がある。同社ではこの事件を教訓として再発防止策を講じ、「安心してサービスをご利用いただけるようにしてきたが、事故後、『新しいファーストサーバがどうあるべきか』の議論を重ね、新しい事業コンセプトをどうすべきかを判断。レンタルサーバー事業者でありながらサーバーを捨てる決断をし、Yahoo!のIaaS基盤に全面移行することにした」(村竹社長)のだという。

 そうして生まれたのが「Zenlogic ホスティング」で、物理インフラから解放された結果、サービスの開発速度が大きく向上。また、プロビジョニングフレームワークやDNSなどでも自社提供にこだわらず、外部の最適なリソースを活用するなどの取り組みにより、工数が従来の1/5へ削減されたとのこと。こうして、エンジニアリソースをインフラからサービス寄りに振り分けた分、サービス強化に力を入れられるようになった。

最適な外部リソースの活用によりコストの最適化を図った
エンジニアリソースのシフトにより、サービス改善スピードが高速化

 村竹社長は、「レンタルサーバーは単なる価格競争になっていたが、お客さまからの『もっと使えるようにしてほしい』『ビジネスに使えるような提案をしてほしい』といった課題意識から生まれたのが『Zenlogic ホスティング』。現時点では万能のツールではないが、当社がサービス事業者に転換し、お客さま視点でサービスを提供する、そのスタート地点と位置付けている」と述べている。

 なお、今後は設定代行をはじめとするサポートメニューの拡充(4月以降順次)や、既存のレンタルサーバーのユーザーに向けた簡単移行ツール(7月予定)、ホスティング以外のサービス提供(2016年以降順次)などを行っていく予定。

 また、既存のレンタルサーバーのユーザーは、いずれはすべて「Zenlogic ホスティング」へ移行する予定。とはいえ、移行を急かすのではなく、ユーザーとの話し合いによって無理のない長いスパンでの移行計画を立案できるようにするとしており、その点で既存ユーザーに迷惑を掛けることはないとのことだ。

今後の計画

OpenStackを利用したクラウド基盤

 記者発表会では、ヤフー マーケティングソリューションカンパニー 開発本部 DevOps部 クラウド開発 リーダーの坂田浩隆氏から、「Zenlogic ホスティング」のインフラに関する技術的な説明も行われた。

 クラウド基盤としては前述のようにOpenStackを利用するが、仮想サーバーのリソースを提供するOpenStack基盤、仮想サーバーのデータを外部にバックアップするバックアップ基盤、仮想サーバーを監視する監視基盤の3つから構成される。

 このうちOpenStack基盤は、管理ノード群と、コンピュートリソースを提供するコンピュートノード群、データを格納するストレージノード群からなり、ストレージノード群には分散ストレージ技術のCephが採用された。

 ユーザーに障害を波及させないように、管理ノード群のコンポーネントは5冗長化され、障害発生時に自動でフェイルオーバーが行われる仕組みを採用。コンピュートノードについては、1ノードあたり100以上の仮想サーバーを収容可能にし、低コストを追究しつつも、I/Oがボトルネックにならないように、ストレージ側でOSを含む全データ領域を管理しているという。また、データ領域も障害に備えるために3冗長化されているとのこと。

OpenStack基盤の構成図
バックアップ、監視基盤の構成図

(石井 一志)