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セルフパブリッシング支援の「日本独立作家同盟」がNPOに改組
(2015/2/21 06:00)
プロ・アマ問わず、個人による作品の出版支援やノウハウ共有を目的とした任意団体「日本独立作家同盟」は20日、特定非営利活動法人(NPO)への改組に向け、手続きを開始したと発表した。同日の説明会では、漫画家の鈴木みそ氏らをゲストに招いてのトークセッションも行われた。
任意団体としての日本独立作家同盟は2013年9月1日に発足。いわゆる“セルフパブリッシング”“自己出版”に取り組む個人の支援を目的とし、作品の宣伝協力のほか、2014年1月からは雑誌「群雛(ぐんすう)」を電子版およびオンデマンド印刷版で発刊するなど、独立した出版事業体としても活動している。なお、会の参加にあたっては、“商業デビュー”しているか問わないのも特徴。
セルフパブリッシングは、小説や漫画の作者が自ら電子書籍ストアなどに登録し、出版社の介在なしにを作品を流通させる仕組みのこと。出版のハードルが極めて低く、誰もが利用しやすい一方で、プロによる編集作業を経ないため、質の確保の面では課題があるとされる。また、膨大な作品数の中でいかに読者に発見してもらうか、その宣伝手法についての議論が頻繁に交わされている。
今回、会の公正性や透明性を向上させる狙いから、NPOへの改組を行う。実際には設立申請などを伴うことから、NPOとしての正式な登記は2015年4月となる見込み。
改組後は正会員および賛助会員制度を導入する。一般会員の参加は引き続き無料。年会費は議決権のある正会員が年会費1万円。賛助会員は同5万円(1口)。年会費を支払った会員は、今後開催予定のセミナー・勉強会などに無料参加できるようになる予定。
NPO改組後はウェブメディア事業を強化、セミナーなども開催
20日の説明会には、団体の発起人・代表であり、NPO化後には理事長に就任する鷹野凌氏が登壇した。2012年初頭になされたKindle国内参入報道をきっかけに、自身のブログで電子書籍ストアのレビューを公開したところ、これがニュースサイト編集者の目にとまり、フリーライターとしての活動を開始。セルフパブリッシングにも積極的に取り組んでいるという。
日本独立作家同盟は、英国ですでに誕生していた「Alliance of Independent Authors」という作家団体を手本に設立された。既存出版社に頼らず、作家たちが自ら協力し合って本を作っていくという理念の団体だが、類する組織が日本で見つからなかったことから、鷹野氏がまず1人で設立。活動母体となっているGoogle+内コミュニティページの登録者数は483人。うち、自己紹介の掲載という形で参加表明した人は237人となっている。
月刊誌「群雛」は、「同盟の活動の軸を作る」との発想から生まれた。制作にあたっては複数の作家・編集者が携わっているが、Googleドライブを通じてデータ共有を行い、文字校正を含むほぼすべての作業をオンラインで完結させている。
群雛に関連した収益の約9割は作家へ、残りも校正やデザインの関係者に分配している。鷹野氏は「このため、全く儲かっていない。そもそも儲かる仕組みになっていない」と、その内幕を明かす。
その後、ある編集者からインタビューを受けた際に「公益性が高い取り組みだから、NPOとしてやってみれば?」とアドバイスされ、「儲からないんだったら、儲けることを目的としなければいい」(鷹野氏)という逆転の発想に至ったという。
NPOに対しては、Googleなど大手の企業が支援プログラムを設けている例が多い。行政面でのメリットもあるため、団体の信頼性や事業継続性を高めるとの観点から、NPO化を目指すことにした。
NPO改組と前後する形で、群雛の誌面充実も図る。オンデマンド印刷版の購入者に電子版を進呈するほか、別冊も刊行。また、群雛はノンジャンルかつ先着順で掲載作を募っているが、応募者多数のため、載せきれないケースが多発している。これを緩和するため、鷹野氏は「編集体制が整えば『文芸群雛』『漫画群雛』『実話群雛』などのバリエーションも出かけていきたい」と述べている。
また、ウェブメディア事業も強化する。セルフパブリッシング専門の情報サイトを開設し、ランキングの情報や、インタビューなどを載せていく。また、会員参加型のセミナーを毎月開催する予定。
鷹野氏は「活動にご興味を持っていただけた方は、同盟のGoogle+コミュニティに参加したり、群雛を立ち読みでも構わないので読んでいただきたい」「その上で、一緒に“インディーズ”を盛り上げていきしょう」とアピールした。
商業出版とセルフパブリッシング、それぞれの課題とは?
鷹野氏による説明の後は、トークセッションが行われた。NPOとしての日本独立作家同盟の理事に就任予定のまつもとあつし氏(ジャーナリスト)、仲俣暁生氏(文芸評論家・編集者)とともに、ゲストとして鈴木みそ氏(漫画家)が参加。商業出版やセルフパブリッシングにまつわる諸課題について語り合った。
鈴木氏は、主に紙の商業出版の分野で恒常的に大ヒット作が登場する一方、“3万部くらい売れる中堅作家”の収入が大幅に減っていると自著で分析しており、これがセリフパブリッシングに取り組む1つのきっかけだったという。
一方、仲俣氏は「一般文芸作品の作家としてデビューするには、新人賞に選ばれるしか道がない」という現状を指摘する。ワープロなどが普及した結果、漫画を描く以上に容易に、誰もが文芸作品を執筆できるようになっている。このため「編集者にはとにかく多くの作品が寄せられてきて、これを下読みするだけで大変。結果として、(作品の出来不出来の)フィルタリングが新人賞一辺倒になっている」と説明。ネット上のプラットフォームを活用するなど、作品を見出すために何らかの効率的手段が必要ではないかと提案する。
また、商業作品については、執筆期間が圧縮される傾向や、出版企画のゴーサインが出る前の事前取材・調査にまつわる費用負担といった問題もある。結局、執筆者自らが費用をかけて取材したものの、その途上で企画が停止してしまうなどの事態も散見されるという。仲俣氏は「もう自己出版どころか自己執筆では」とジョークを飛ばしていた。
鈴木氏は、電子書籍時代は校正に関するハードルが下がっていると指摘する。「紙の本は一度出したら修正がきかない。だけど、電子書籍なら出して間違ってたら『ごめんなさい』で、二版にすればいい。(スマートフォンアプリのように)未完成状態を繰り返しでもいいのでは?」と、1つの考え方を示した。
出版の自由度がセルフパブリッシングによって高まる一方で、作者は訴訟リスクに備える必要も出てくるという。特に表現は繊細な問題となっており、鈴木氏は「例えばキリストはよくても他の宗教の神はダメであったりする。長年やってきたベテランならこの線引きは分かるが、新人ではそこまで気が回らないだろう」「日本国内では大丈夫だった表現が、海外ではNGになるケースもある」と危惧する。
まつもと氏は「議論を進める中で、YouTuberのことを思い出した。『大儲けできる』と話題になったが、その背景では、Googleが広告の出口をきゅっと締めれば、あっという間に食えなくなってしまう」「その点、書籍は著者自ら値付けできたりと自由度が高い。この自由度を活かすべきではないか」と述べた。