特別企画
インディーズマガジン「月刊群雛 (GunSu)」ができるまで(前編)
発行元「日本独立作家同盟」呼びかけ人の鷹野 凌氏が語る、創刊までの経緯
(2014/2/4 06:00)
私、鷹野 凌が呼びかけ人をしている「日本独立作家同盟」は、1月28日に「月刊群雛 (GunSu) ~インディーズ作家を応援するマガジン~」を創刊しました。複数のメディアで記事にしていただき、とてもいいスタートを切ることができました。また、多くの方から祝福の言葉や温かい応援のメッセージをいただき、心より感謝しております。この場をお借りして御礼申し上げます。本当にありがとうございます。
実は、INTERNET Watchからはインタビューの打診を受けていたのですが、私はネット上に顔出しをしないことにしているので、代わりにこの“「月刊群雛 (GunSu)」ができるまで”についての記事を書かせていただくことになりました。
◇URL
「日本独立作家同盟」
http://www.allianceindependentauthors.jp/
「月刊群雛 (GunSu) ~インディーズ作家を応援するマガジン~」
http://www.allianceindependentauthors.jp/p/gunsu.html
日本独立作家同盟ができるまで
月刊群雛(GunSu)について説明する前に、まず日本独立作家同盟について説明しておく必要があるでしょう。以下、単に同盟と表記します。これは、自己出版(self-publishing)をする個人作家の集まりです。カッチリとした組織を志向しているわけではなく、「来る者は拒まず、去る者は追わず」の緩やかな共同体を目指しています。設立は2013年9月1日で、スタート時は私1人でした。基本的にウェブ上だけで参加者を募り、5カ月間で参加表明した方が100人を超えるほどになっています。
同盟をつくるきっかけとなったのは、メディア・アナリストで「英国メディア・ウオッチ」の小林恭子氏が「マガジン航」へ寄稿した、「ロンドン・ブックフェア2013報告」という記事です。英国にある、既存の出版社に頼らず作家同士が助け合いながら本を世に出していく「Alliance of Independent Authors」という組織の存在を知り、日本にもこういう同盟があったらいいのに、と思ったのです。ところが、「インディーズ作家 コミュニティ」などのキーワードで検索をしても、なかなかめぼしいところが見つかりません。「だったら自分で作っちゃえ!」と考えたのが発端です。
本家英国の同盟は、自分自身が出版社(者)となることによる「書くことと出版の民主化」を活動の目的としています。が、私は既存の出版社や取次・書店という流通を、敵視するつもりも否定する気もありません。個人でやれることには、能力だけではなく、時間的な限界があります。一人では実現困難なプロジェクトも、役割を分担し組織で動くことで迅速に解決できる場合があります。「作家同士の助け合い」だけだと難しいことは、商業出版にお任せすればいいという考えです。
ただ、デジタル化やネットワーク化によって、「個人でできること」の範疇は以前に比べれば飛躍的に広くなっています。既存の出版社・取次・書店が、「個人でできること」と同レベルにとどまっていれば、いずれ淘汰されてしまうでしょう。企業には、個人にはできない役割を果たして欲しいと思います。
◇URL
「小林恭子の英国メディア・ウオッチ」
http://ukmedia.exblog.jp/
マガジン航「ロンドン・ブックフェア2013報告」
http://www.dotbook.jp/magazine-k/2013/04/23/london_bookfair_2013_report/
出版社が新人を育成できなくなってきている
ここ10数年ほど、ずっと「出版不況」だと言われています。売上の落ち込みは雑誌がもっともひどく、2000年を100とすると2012年には68と、約3分の2になっています。いっぽう、コミックや文庫は微減程度で推移しているのですが、発行点数が増えているため、作品1点あたりの売上は減っています。
雑誌が次々と休刊していく中で、出版社がこれまで果たしてきた新人育成機能が弱くなってきていると言われています。例えば「ジャンプ」「マガジン」「サンデー」といった漫画誌は、単行本の販売が収益の中心となるビジネスモデルだと言われています。収益は一部の人気作品によって支えられており、無名の新人による作品はついでに読まれて存在を知られていきます。これは恐らく、「文藝春秋」や「SFマガジン」といった文章の世界でも同じでしょう。
雑誌の売上をなんとか維持していくため、掲載する作品は過去に実績のあるベテラン作家が中心となり、新人作家を載せる余地がだんだん少なくなっていきます。冒険ができなくなってしまうのです。載せたとしても人気が出なければすぐに打ち切りになり、単行本すら発行されないようなケースも増えているようです。
休刊した漫画誌が舞台を移し、ウェブコミックという形で存続しているケースもあります。しかしウェブの特性として、上から順に読まれるようなことはあまりなく、特定のコンテンツしか読まれない傾向が強くなります。ランキングで上位になった作品だけが読まれ、多くの作品が埋もれていってしまっているのが現状でしょう。
個人作家に立ちふさがる、制作、登録、告知のハードル
では、セルフパブリッシングの世界はどうでしょう? ランキングで上位になった作品だけが読まれ、多くの作品が埋もれていってしまう傾向はより顕著です。商業出版の世界は、編集者によってあらかじめ作品が選別されたり磨き上げられたりしていますが、セルフパブリッシングは「誰でも出せる」ため圧倒的に「石」が多い玉石混交です。ただ、商業出版では世に知られることはなかったような作品が、日の目を見る可能性があるのも事実です。
私はライター業をするかたわら、「ブクログのパブー」「BCCKS」「Amazon Kindleダイレクト・パブリッシング」「Apple iTunes Connect」「Google Play ブックス パートナーセンター」などのセルフパブリッシングプラットフォームを利用して自己出版をしています。2013年の販売実績は合計約1200部ですが、とてもそれだけでは食べていけません。正直、無料で公開しているブログの広告収入の方が何倍も多いです。しかし、私の書いた本を「お金を出してでも読みたい」と思ってくれた人がこれほど存在するというのも、ありがたいことだと思います。
さて、実際に自己出版をしてみると、そこにはさまざまなハードルがあることに気づきます。文章を書いたり漫画を描いたりと、作品を生み出す難しさに関しては言うまでもないでしょう。それ以外にも、配信に適したファイルの「制作」、配信プラットフォームへの「登録」、そして何より、その作品を多くの人に「告知」すること、すなわち「買ってもらう」ことや「読んでもらう」ことが最大のハードルです。
こういったさまざまなハードルを、「作家同士の助け合い」によって解決していこうというのが同盟の目的です。ウェブサイトでは、記事をクリエイティブ・コモンズ・ライセンス 表示 2.1 日本 (CC BY 2.1 JP)で公開し、広くノウハウを共有しています。私自身があちこちのプラットフォームを使っているので、「制作」や「登録」のノウハウはそれなりにあります。しかし、私個人の能力や時間には限界があるので、趣旨に賛同いただける方にはぜひ寄稿をお願いしたいところです。
◇URL
「ブクログのパブー」
http://p.booklog.jp/
「BCCKS」
http://bccks.jp/
「Kindleダイレクト・パブリッシング」
https://kdp.amazon.co.jp/
「Apple iTunes Connect」
https://itunesconnect.apple.com
「Google Play ブックス パートナーセンター」
https://play.google.com/books/publish/
同盟に参加をするには?
同盟への参加に、特に資格は必要ありません。作品の巧拙は問いませんし、プロデビュー済みでもアマチュアでも構いません。帰属も問いません。有償/無償、フィクション/ノンフィクション、文章/イラスト/写真/漫画など表現技法や手法・分野も問いません。もちろんお金もかかりません。必要なのは、自らの足で立とうとする意思だけです。「作家同士の助け合い」によって互いに研鑽し、素敵な作品を生み出せるような土壌をともに育てていきましょう。参加方法の詳細は、「日本独立作家同盟について」の記事をご確認下さい。
◇URL
「日本独立作家同盟について」
http://www.allianceindependentauthors.jp/p/about.html
無名の個人作家には告知のハードルが最も高い
先に述べた通り、無名の個人作家にとって最も高いハードルは「告知」です。制作と発表のハードルが下がることで、たくさんの作家や作品が生まれ、そして埋もれていっています。同盟ではいまのところ、新刊情報やキャンペーン情報の配信希望があれば、その全てを記事化しています。それほど媒体力があるわけではないのですが、かなりの頻度で希望者が現れます。それだけ告知手段で困っている作家が多いのだということを、日々痛感させられます。
Kindleストア専門で情報を発信している、「きんどう」というかなり大手の個人サイトがあります。ここでは定期的に、Kindleダイレクト・パブリッシングをやっている作家に呼びかけをして、一斉無料キャンペーンなどを行っています。大勢で一斉に告知をすると一人でやるより注目されやすくなるようで、それなりに成果も出ているようです。ただ、Kindleダイレクト・パブリッシングで無料キャンペーンをやるには、Kindleストアで独占販売しなければならないため、私のように複数のストアで販売していると参加できません。
それに、いくら最大手とはいえ、Kindleストアのシェアは4割くらいだと言われているので、Kindleストアだけで販売すると残りの6割の存在を無視することになってしまいます。また、ユーザーを特定のベンダーだけにロックインさせてしまうのは、私の主義にも反します。だから私は、手間はかかりますが、なるべく多くの販売チャンネルを利用するようにしています。
◇URL
「きんどう」
http://kindou.info/
- 明日の後編では、月刊群雛(Gunsu)創刊の経緯と、編集方針などをお伝えします。どうぞお楽しみに!(編集部)