ニュース
プログラミングで地域課題を解決する「Code for Japan」、企業から地方自治体に人材を派遣する「コーポレートフェローシップ」
2015年度下期の受け入れプログラムを開始、6月から実施した神戸市の活動についても報告
(2015/8/21 14:47)
プログラミングで地域課題を解決する人たちのコミュニティ「一般社団法人コード・フォー・ジャパン」(Code for Japan)は、企業から地方自治体に人材を派遣する「コーポレートフェローシップ」制度の2015年度下期の受け入れプログラムを開始した。
8月20日に開催された説明会では、コーポレートフェローシップとその2015年度下期について解説がなされた。さらに、2015年度上期の神戸市の事例について、神戸市の担当者や、神戸市に参加したコーポレートフォローにより、「どのように実施したか」「どのような課題があったか」「どこがよかった」といった生の声が語られた。
企業から自治体にリーダー人材を派遣
「Code for Japanは、行政に不平を言うのではなく、一緒に手を動かす活動」。関治之氏(Code for Japan代表)はまずCode for Japanを紹介。地域に住む人が、プログラムで問題を解決する活動だと説明した。行政・自治体と市民、クリエイターがフラットな立場でポジティブに話しあって「ともに考え、ともにつくる。しかも楽しく」というものだという。
Code for Japanの活動の中には自治体の変革を応援する「フェローシップ」があり、コーポレートフェローシップはその一つだ。2014年に鯖江市でトライアルを実施し、2015年前半から正式に開始した。
コーポレートフェローシップでは、自治体の課題解決のために人を企業から自治体に3カ月間派遣する。派遣された人は課題設定するところから始めるため、自治体の達成目標にマッチしたリーダー人材を選抜して派遣する。「人選は、スキル偏重ではなく、意欲や、自分で課題を作れるかどうかを重視ししている。自分から動かない人を送ってしまうほうがリスク」と関氏。「普段の仕事と違って明確な指示は来ない。そのため、普段の仕事ではあまり学べない、課題設定から学ぶことができる」。
コーポレートフェローシップにより、市民は行政とのコミュニケーションの向上、企業は人材育成や新ビジネス創造の機会、行政は企業との透明な関わりが得られ、「三方良し」となるという。
フェローシップ活動は、Code for Japanの手本となったCode for Americaでも行なわれており、過去5年で30都市に103名のフェローを派遣していると関氏は紹介した。
自治体は、取り組む課題と、机やPCなどの環境、受け入れ担当社員を用意すればいい。Code for Japanでは、派遣前レクチャーや週次レビュー、各種事例や調査内容といった情報などを提供する。企業へは、派遣する職員への長期出張や出向での扱いや、Code for Japanに支払うコーディネートフィー(50万円程度/人)、NDA締結などが求められる。
2015年下期については、自治体としてはすでに次の5市が決まっており、もう1つの市が現在調整中だという。「10月中には企業とのマッチングを終わらせたい」と関氏は語った。
自治体 | 課題 |
---|---|
福島県会津若松市 | 業務負荷の少ないオープンデータ公開のあり方 |
福井県鯖江市 | 「子育てしやすい鯖江市」にテーマを絞ったオープンデータ活用 |
兵庫県神戸市 | スタートアップ育成のエコシステム、オープンデータなどを活用したスタートアップとの協業 |
東京都調布市 | オープンデータのための市保有データの棚卸し、活用方法の検討 |
富山県南砺市 | 市民参加型情報集約 |
業務委託ではなく「協業」
2015年度上期の神戸市の事例について、当事者たちの報告もなされた。
コーポレートフェローを受け入れた側の体験を、神戸市の多名部重則氏(神戸市 産業振興局経済部担当課長)が報告した。
このときの達成目標は「スタートアップを育成するエコシステム作りの支援」。神戸市が新規施策として始めたスタートアップ支援事業を活性化することだ。事業としては、シリコンバレー派遣交流プログラムや、キャリア教育、アクセラレーションプログラム選考コンテスト、実際のシードアクセラレーションプログラムがある。
フェローとしては、ヤフー株式会社の宮崎光世氏と、神戸のNPO法人コミュニティリンク/Code for Kobeの松村亮平氏の2人が派遣され、派遣の形式で「行政実務研修生」の肩書で勤務した。
多名部氏が振り返ってまとめた「受け入れに当たって必要なこと」は、「トップ(市長)の理解」「人事当局への事前協議」「職場内(特に部下)への説明と理解」「派遣協定の締結」だ。
受け入れにあたって関氏らと相談して決めたのが、常勤でなく非常勤の勤務形態で、在宅勤務なども認めることだ。特に宮崎氏は住まいや勤務地が東京エリアのため、期間中に神戸に来たのは月平均5~6回程度だったという。「派遣より少しゆるい関係だったが、神戸市フェローであることの思いを持ってもらえたため、目標は充分達成できた」(多名部氏)。
ただし、3カ月の間に課題を拾って対応するには、現場の様子を知る必要がある。これについては、非常勤ながら兵庫在住の松村氏が多名部氏と行動することで現場の声を拾ったという。
さらに多名部氏は、フェローとの関係はコンサルや業務委託に近いが違うものであり、「協業」として考えたほうがいい、とふり返った。また、フェロー2人のノウハウや人脈によるサポートが大きかったといい、特にシリコンバレーの人脈や、Facebook広告を使うという案が効果が高かったと語った。
多名部氏は最後に、「部下からも『下期もぜひやるべき』という声が上がった。職場の雰囲気が変わった」ことを大きな変化として紹介した。
フェローとして働いて気付いたこと
コーポレートフェローとして神戸市で働いた経験について、松村亮平氏が報告した。
実際の業務としては、シリコンバレー派遣交流プログラムのサポートとして、集客(主に松村氏が活躍)や現地のプログラムの作成支援(主に宮崎氏が活躍)をした。また、要件には入っていなかったが、オープンデータのための庁内アイデアソンや、GitHub導入支援なども行なったという。
3カ月間働いて感じたこととして松村氏は、委託とオープンイノベーションをどうとらえていくかを間近で考えたとう「これからの仕事のあり方を考えるきっかけ」、民間と行政という互いに違う文化によりお互いに気付きがあったという「異文化における自分の価値の再発見」、新規事業のために人を招くという前向きな行政職員と働くことができたことによる「行政と民間の共創・共奏」の3つを挙げた。
最後に松村氏は、神戸市という政令指定都市で実現できたことを喜び、「これを萎ませないように盛り上げていきたい。まずはコーポレートフェローから」と語った。
また、松村氏の派遣元であるNPO法人コミュニティリンクの榊原貴倫氏は、「大手企業だけでなく、地元の企業やNPOが入って地に根の生えた活性化を維持していくのが大切」と述べた。派遣元のメリットとしては「神戸市の一員として活動するという、社会起業家として最高の経験が得られる。また、例えばマネージャ直前の社員の研修として、自分をやっている仕事の再確認に最高の研修となる」と語った。