Google有馬社長「インターネット産業こそが日本の経済を押し上げていく」


 株式会社野村総合研究所とグーグル株式会社は、インターネットの日本経済への貢献について共同研究を行い、10月19日にレポートを公開した。両社によれば、日本のGDPや地域経済に対するインターネットの影響を数値的に分析する試みはこれが初めてだという。調査結果によれば、インターネット産業の規模は約20兆円で、GDPの3.7%にあたり、インターネットにより喚起された消費を含めると42兆円に達した。

 調査結果は、専用サイト「Internet-Keizai.jp」(http://www.internet-keizai.jp/)で無償公開している。両社は、調査結果の利用について、「内容の改変を行わず、引用元を明記すれば自由に行ってかまわない」としている。

「インターネット産業こそが日本の経済を押し上げていく」グーグル有馬社長

グーグル株式会社 代表取締役 有馬誠氏

 グーグル株式会社 代表取締役 有馬誠氏は、中小企業のインターネット利活用率が欧米に比べて低いことから、中小企業向けのEC機能付きホームページサービス「みんなのビジネスオンライン」を開始するなど、「日本でビジネスを行う企業として、日本に貢献できるよう努力してきた」とこれまでの取り組みに触れた後、「日本は20年来の不況に直面しており、非常に厳しい状況にある。完全な回復にはまだまだ年月が必要と言われている。アメリカやヨーロッパの経済の先行き不安、それに連動する形の円高などにより、日本経済の先行きには暗雲が立ちこめていると言われている」と日本の困難な経済状況に言及。

 「しかし、そんな中で、世界でパソコンから18億人が、携帯から46億人がインターネットを利用している。この市場において、日本が世界に大きく貢献していくことができるという点では疑いの余地がないと考えている。しかし、定量的にその価値を図る数字がなかった。インターネットが日本経済の推進力になってほしいと考えているが、それを裏付ける数字がないというのは良くないんじゃないかということで、野村総研さんに共同研究をお願いすることにした」と述べ、共同研究に着手した動機を語った。

 調査結果については、「結論から言えば、当初の想定通り、インターネットが日本経済に及ぼす貢献は非常に大きいことがわかった。とくに日本の中小企業の躍進においては、非常に大きい効果がある」として、インターネット利活用と経済の伸び、とくに中小企業の成長には大きな相関性があると指摘。

 「日本は少子高齢化によって、人口は縮小傾向にある。そうした中で、インターネットを活用して海外マーケットに日本の得意な優れた商品を出していく、日本の企業が海外に顧客を求めるときに、インターネットを活用してほしいと考えている。インターネット産業こそが日本の経済を押し上げていく、再度成長にのせていくのに大きな力となるものだと考えている。」(有馬氏)

“インターネット利活用で、収入は減ったが生活の質が向上した”と感じる消費者

野村総合研究所 常務執行役員 此本臣吾氏

 野村総合研究所 常務執行役員 此本臣吾氏は、「1万人生活者アンケートというのを自主研究としてやっているが、2009年の調査結果ではそれまでにないような特徴が出ていた」として、「日本で調査すると、9割くらいが自分は中流だと回答する。さらに中の上、中の中、中の下と分けると、中の上が7~8%だった。それが、2009年には14%になっていた」と、2009年に生活者アンケートで起こった変化を紹介。

 「しかも、中の上と回答する人の収入を見ると、それまでの調査より減っている。年収が減っているのに、中の中から中の上に上がっている人がいるのは、ITの利活用によって“収入は減ったが生活の質は向上している”と感じる人が増えているため」と変化の理由を分析した。

 「今なら、居ながらにして日本中・世界中の名産品を取り寄せることができる。購入するにも、簡単に価格比較ができる。インターネットの利活用が、実際に生活の質の向上に結びついてきたということが、具体的な数字に表れたのが2009年の調査」だったとコメント。「そうした背景もあり、今回グーグルさんと一緒にインターネットの経済効果を調べてみるということになった」と野村総研がグーグルと今回の調査に取り組んだ背景を語った。

インターネット産業の規模は約20兆円~今後5年でさらに5兆円の伸びを予測

野村総合研究所 ICT・メディアコンサルティング部 主任コンサルタント 前原孝章氏

 調査の結果については、調査を担当した、野村総合研究所 ICT・メディアコンサルティング部 主任コンサルタント 前原孝章氏がブリーフィングを行った。

 前原氏は、「日本経済におけるインターネット産業の位置づけ」というテーマでは、リーマンショックの影響もあり、日本の実質GDPが2005年の536.8兆円から2010年の539.7兆円兆円と、ほぼ横這い状態で成長していないと指摘。そんな中、インターネット産業の規模は2010年に約20兆円で、GDPの3.7%にあたるまでに成長。さらに、インターネットにより喚起された消費を含めると42兆円に達する、と数字を挙げた。

 3.7%というのは、日本の代表的産業としてよく挙がる自動車の製造業(輸送用機械製造業)が2.7%よりも1%も大きい数字となる。また前原氏は、「インターネット産業は5兆円近く成長しており、他業種がすべて5%を切る中、4.9兆円と5兆円近く成長している」とコメント。インターネット産業の高成長率を指摘した。

 こうした数字を出す際の試算方法はいくつかあるが、今回は生産・分配・支出のうち、支出ベースで試算した。支出ベースでの試算は、生産から消費の過程でもっとも最終の消費に近いため重複して試算してしまう可能性が低いという。具体的には、インターネットに接続するための支出、ネットを介して購入した金額、政府の支出、インターネット関連の輸出入額などを足し込む方法で試算した。

 前原は、インターネットの経済効果は、たとえば購入行動ひとつを取っても、ECサイトで購入するという効果だけではなく、消費者がインターネットから情報を得ることで購買や消費行動につながる場面が多いことを指摘。インターネットが喚起する需要もインターネットの経済効果として見ていいのではないかとして、こうした広義のインターネット経済効果も試算したと述べた。

 調査結果によれば、店舗消費の19%に相当する21.8兆円もの消費にインターネットが関与しているという。前原氏は、「インターネットで調べて消費をするということは、ありとあらゆる製品で行われている」とコメント。消費者の購買活動において、インターネットが欠かせない存在となっていることを指摘した。

日本の地域経済と中小企業に対する貢献

 続いて前原氏は、県別に企業がウェブサイトをもっているかどうかを目視確認で調査してまとめた調査を挙げ、「県内企業のウェブサイト保有率が高いほど、従業員数が多い」というデータを示した。この結果では、「相関関係数も0.6と、強い相関関係が見られた」という。

 また、今回が初めての調査のため、理由については分析しきれていないが、「Eコマースの実施率が高いほど、地域のGDP成長率が高い」という調査結果を紹介。県別のEコマース実施率と、一人あたりGDPの成長率にも高い相関関係が見られたという。中小企業では、インターネットの利活用により企業の生産性が上がり、生産性が上がることで、日本経済の成長に結びつくと述べた。

震災復旧におけるインターネットの活用

 前原氏は、ビジネスインフラ(広告宣伝手段、資金調達、流通など)が失われてしまった震災時に、インターネットがビジネスの復旧に貢献した例を紹介。「インターネットは、物理的インフラに比べて早く復旧した。魚市場が再開されない状態でも、インターネットを通じて販売が復旧することでインターネットが経済活動のセーフティネットになった」として、「三陸とれたて市場」の例を紹介。

 合わせて、養殖設備がすべて失われた養殖業において、個人投資を募って必要な資金の調達を試みた「復興牡蛎プロジェクト」では、8月現在で約2億円の資金調達に成功している例を挙げた。

 また、「ハナサケニッポン」では、東北の商品を購入して復興の手助けをTwitterやYoutubeで呼びかけた結果、それまでリーチしていなかった消費者にも東北の地酒などの商品が購入されたと紹介。新たな顧客を呼び込む効果と、ブランド浸透の効果を上げたと述べた。

インターネット産業の将来とさらなる日本経済への貢献

 前原氏は、「日本のインターネット普及率は世界でもトップクラス」として、今後は普及から利活用へと進むことにより、インターネットGDPはさらなる成長が期待されると述べた。EC、音楽配信、VOD、データセンター、SaaS/ASPなどがとくに成長率が高いという。

 「ウェブサイト保有企業と未保有企業で、従業員一人あたりの売上げを比較すると1.4倍の開きがある」と述べ、ウェブサイト保有が進むことで、中小企業も業績の伸びしろがあることを示唆。また中小企業では付加価値による売上高への影響が特に大きいと指摘した上で、「中小企業においてインターネット利活用が進むことで、今後5年で10兆円規模の付加価値向上効果が期待される」と述べた。


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(工藤 ひろえ)

2011/10/20 06:00