立花隆の電子書籍版全集がeBookJapanで配信開始、画像ベースで提供

~第1弾は「田中角栄研究」


著者の立花隆氏

 電子書籍販売サイト「eBookJapan」を運営する株式会社イーブックイニシアティブジャパンは4日、「電子書籍版 立花隆全集」を発表した。ジャーナリストの立花隆氏による著作物の中から約80作品を電子書籍化し、オンラインで配信する。第1弾は「田中角栄研究全記録」の上・下巻で、各735円。同日開催の記者向け説明会には立花氏も出席し、電子書籍化の狙いなどを語った。

未収録資料を追加した増補版を毎月刊行

 4日に配信を開始したのは、雑誌「文藝春秋」1974年(昭和49年)11月号に掲載された、立花隆著「田中角栄研究──その金脈と人脈」に由来する著作物。具体的には、「田中角栄研究全記録(上) 金脈追及・執念の五〇〇日」と「田中角栄研究全記録(下) ロッキード事件から田中逮捕まで」の2冊で構成される。

 電子書籍化にあたっては、紙版発行当時の本編に加え、一部作品では増補を実施する。当時の取材資料についても立花氏やスタッフらが精査した上で電子化し、図表として新規に追加収録される予定。


PC版での閲覧イメージ。スマートフォンとは異なり、拡大鏡機能をが利用できる追加収録される資料の一例

 閲覧可能な端末は、「eBookJapan」の基本サービスに準じる。iPhone、iPad、iPod touch、Android端末各種、Windows、Macなどで読むことができる。また、無料の「トランクルーム」サービスを併用すれば、一度購入した電子書籍を最大3種類の端末で読むことができる。この際、機器認証作業が必要となる。

 なお、第2弾は12月2日リリース予定の「被告人田中角栄の闘争 ロッキード裁判傍聴記」の1~2巻で、各630円。同3~4巻も2012年1月6日に発売する予定。その後も、毎月1回のペースで刊行していく。

立花氏、画像ベース電子書籍のメリットを強調

立花氏は腰を痛めているとのことで、座って解説を行った

 4日の記者会見には、立花隆氏本人も出席した。松下電器系のシグマブック、ソニー系のリブリエといった端末がデビューした2003年ごろ、両陣営からビジネス化に関する意見などを求められていたという立花氏だが、「市場が立ち上がる前にあっという間にしぼんでしまった」と当時を振り返った。イーブックイニシアティブジャパン創業者で現会長の鈴木雄介氏とはこのころから交流があり、さまざまな意見を交わしたという。

 立花氏は「iPadが出ることになって、第2次の電子ブックブームが到来したが、本当に盛り上がるかはまだ分からない。特に日本では、フォーマットの統一の問題がずっと引っかかっている。火がついた状態になるかはこれから」と語る。

 全集電子書籍化の直接のきっかけとなったのは、鈴木雄介氏からのオファーだったという。「私がそれに反応良く動いた理由は、eBookJapanが(テキストではなく)画像ベースの電子書籍化をしていたこと。まず紙の本があって、それを電子書籍にすることには多くのメリットがある」と立花氏は説明する。

 立花氏がまず挙げたのが、さまざまな図表を追加収録できる点。一般的な電子書籍フォーマットはテキスト文書ないしHTML由来の技術を用いているため、大きなサイズの図表をそのまま収録するには困難が多いという。

 オリジナルの田中角栄研究の執筆にあたっては、膨大な量の資料を集めたものの、そのすべてを「文藝春秋」1974年11月号に掲載することは、締切日次および文章量の都合で不可能だったという。また、紙版書籍では判型が限られるため、やはり大きな図表を載せるのが難しいが、画像ベースの電子書籍であれば、原寸大で収録し、ピンチイン/ピンチアウトで任意に拡大/縮小表示させられる。

 田中角栄研究の電子書籍版では、ある土地売買に関する謄本の画像がそのまま掲載されている。立花氏は「この資料は、『田中角栄研究』の核心とも言える35文字の文章『私たちは、新星企業(田中角栄の金脈会社)がつい最近も土地取引をおこなっている事実を知っている』という言葉を書くための論拠だった」と説明。この短い文章を締切間際の原稿にねじ込むため、その他の記述などをカットする事態にもなったが、結果としてこの言葉が、田中角栄の総理大臣辞任につながり、検察が捜査に乗り出すきっかけになったと立花氏は振り返る。

 「田中角栄研究」は第2弾の雑誌掲載も予定されていたが、総理辞任の影響もあって企画自体が流れた。立花氏も「文藝春秋とはケンカ別れして、数年仕事しなかった」と苦笑。雑誌掲載記事の単行本化も結局、講談社で行われた。この書籍が、今回電子化されることとなった。

 このほか、後日電子書籍化される「日本共産党の研究(上・下)」についても、当時未掲載の資料が多数残されており、中でもリンチ殺人を巡る供述調書の収録を検討しているという。「以前、文字起こしをして世に出そうかと思ったが、元がクセの強い文字のため、100%の活字化ができなかった。ただ、画像のままであれば、90%は読めるはずだ」と立花氏は語り、不完全な資料の公開にも画像ベースの電子書籍が有効だとした。

 立花氏は「日本は出版大不況で、電子ブック時代の花が開くかもまだ分からない。私のようなノンフィクション作家が今後どのように生きていくかも考えねばならないが、しばらくは紙と電子書籍が共存する過渡期が続くだろう。ただ、画像ベースの電子書籍であれば、従来には考えられなかった出版が実現する可能性もある」と期待の言葉を寄せた。

 記者説明会では、講談社出身の森岩弘氏(元『週刊現代』編集長)が同席し、やはり電子書籍化予定の「中核VS革マル(上・下)」の編集裏話を披露。「この単行本の元となった記事は、『月刊現代』の1974年11月号に掲載。つまり、田中角栄研究とまったく同じタイミングで執筆されていたわけで、(立花氏のタフさに)驚かされた」と当時を回顧した。

全文検索機能も2012年春から提供予定

(奥左から)小出氏、森岩氏、鈴木正則氏

 立花氏の説明に先立って、株式会社イーブックイニシアティブジャパンの代表取締役社長である小出斉氏が挨拶を行った。同社発足のきっかけは、創業者で現会長の鈴木雄介氏が出版社勤務時代、大量の返本の山を見たことにあるという。「今でいうなら『エコではない』。これを解決しようと2000年に創業し、その後、電子書籍の時代が来そうでなかなか来なかったが、昨2010年ごろから再び注目され、ついに先月、東証マザーズ上場を果たした」と小出氏は振り返る。

 eBookJapanの登録会員数は約58万名。1人あたりの月間購入額は約5000円に上るという。また、ユーザーの7割が30代以上だ。現在販売中の書籍は約5万2000冊で、うち約4万4000冊が漫画だが、一般書籍についても近年取り扱いを拡大。東洋文庫(平凡社)などを取りそろえているが、今回新たに立花氏の作品を加えた。

 小出氏は「立花作品の電子化にあたっては、当社独自の『画像ベースでの電子書籍化』が特色であると思う。立花氏が当時集めた資料、あるいは取材メモなどがそのままお客様に届けられることは強みだ」と説明。すでに発表済みの80作品以外にも、電子書籍化を拡大していくとしている。

 イーブックイニシアティブジャパン取締役の鈴木正則氏からは技術面の補足が行われた。まず画像ベースの電子書籍は、図版の収録に加え、日本語縦書き書籍特有の複雑な版組を忠実に再現できることが大きなメリットだとアピールする。

 また、電子書籍化にあたっては、当時の資料やメモを改めて検証した。鈴木氏は「田中角栄研究だけで段ボール箱20個分の資料がある。今後出る電子書籍についても、可能な限り、資料を追加していきたい」と、その方向性を示した。

 加えて、画像ベース電子書籍の弱みであった全文検索にも対応させる予定。2012年春の提供を目指して、現在開発中という。サービスの提供形態は未定だが、eBookJapan販売書籍すべてを対応させるのではなく、当初は立花隆全集をはじめとした一部シリーズのみの対応とする予定。購入していない書物の全文検索ができるか、という点も今後詰める。

 なお、全文検索データはOCRで構築する。現状、100文字に1文字程度の割合で読み込みミスが発生しているものの、人力修正は物量の面から現実的ではない。ただ、この状態でもある程度の実用には耐えると考えられるため、あえてこの精度でサービスを提供開始し、その後、ユーザーからの反応を聞きたいとしている。


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(森田 秀一)

2011/11/4 20:31