津波被害を受けた小学校などの内部、解体前に「ストリートビュー」で記録


釜石市立唐丹小学校

 グーグル株式会社は13日、「震災遺構デジタルアーカイブプロジェクト」を開始したと発表した。東日本大震災で被害を受けた施設の外観や内部を、「ストリートビュー」の技術で可能な限りパノラマ写真で記録する。

 グーグルはすでに「東日本大震災デジタルアーカイブ」として、ストリートビューの撮影車両で被災地の街並みを撮影しており、延べ4万4000kmを約半年かけて走行。2011年12月に「Google マップ」と「未来へのキオク」において公開した。

 これに対して今回の震災遺構デジタルアーカイブプロジェクトは、公道からは撮影できない施設構内の様子を、自治体とのパートナーシップに基づいて撮影するもの。各自治体が管理する施設が対象となる。現在、岩手県大船渡市/釜石市/陸前高田市、福島県双葉郡浪江町が管理する32施設を予定しており、13日から約1カ月かけて撮影。年内をめどにインターネットで順次公開する。

 小学校の校舎や、津波が建物の4階まで達したことが分かる集合住宅なども撮影対象施設に含まれており、中には年内に解体予定の施設もあるという。「世界中の科学者や研究者をはじめ、一般の方がこうした情報にアクセスできるようにすることで、地震や津波が引き起こした被害をより深く知ってもらうきっかけになる」(グーグル)。


 震災から1年8カ月が経過し、戸田公明・大船渡市長は「被災地では、復興に向け被災した建物の解体が進んでいるが、一方で、東日本大震災の甚大な被害を風化させないためにも、これらを記録し、保存することは喫緊の課題」と説明する。

 一方で、戸羽太・陸前高田市長は「世間では津波の爪痕を後世に残すべきとの声も出たが、ここに住む市民の心には悲しみの象徴でしかない多くの建物を私は残すことはできない」という。

 震災遺構デジタルアーカイブプロジェクトは、被災した建物の現物を残さずに、震災の記憶の風化を防ぎ、その記録を後世に継承していくものとなる。戸田公明・大船渡市長は「市としても、震災の記録・保存は、後世に引き継ぐべき重要な事業。と同時に、震災の爪痕、そして復興への歩みを世界へ発信することは、ご支援をいただいた方々に対する責務のひとつでもあると考えている」とコメントしている。

 さらに、福島第一原発の事故で現在も警戒区域になっている浪江町の馬場有町長は、「今なお、多くの町民の方々は甚大な津波被災を含めたふるさとの状況を目の当たりにすることができない状況にある。今回の取り組みによって、貴重な現況を保存するとともに、町民をはじめとする多くの方々に原発被害によって復興が妨げられている事実を知らせることができることになる。この日本の中で、今も災害が続いていることを全国の皆さんにご理解いただけることを切に願っている」とのコメントを寄せている。

 グーグルでは、震災遺構デジタルアーカイブプロジェクトによる施設のデジタルアーカイブを希望する自治体や施設管理者からの連絡も受け付けている。

 震災遺構デジタルアーカイブの撮影は、飲食店などの店舗の内部をパノラマ写真で閲覧できる「おみせフォト」で使用している機材を使う。魚眼レンズカメラを三脚の上に据え付けたもので、カメラを90度ずつ回転させることで周囲の360度を撮影。それらの画像をつなぎ合わせてストリートビューに加工する。同機材は、文化財などの撮影にも用いられているという。




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(永沢 茂)

2012/11/13 18:24