LINE新戦略で「タウンページ目指す」、低価格の企業アカウントを全国へ


 NHN Japan株式会社は、同社が運営する無料通話・メールアプリ「LINE」において、飲食店やメディア、公共団体を対象にした有料ビジネスアカウント「LINE@」を12月上旬に提供開始する。当該アカウントを「友だち追加」したユーザーに対して、メッセージやクーポン情報などを配信できる。料金は月額5250円。

 全国規模で事業展開する企業が中心に導入している「公式アカウント」に制限を設けた“お試し版”とも言えるサービス。LINEの公式アカウントは、ローソンやすき家などが導入。ネット上の活動を実店舗での購入につなげるO2Oの成果が出ているといい、これを中小規模の企業に開放することで、LINEのインフラ化を進めるという。

ビジネスアカウント「LINE@」の概要

3カ月無料、月額5250円でLINEユーザーにクーポンが配信できる

 LINE@では、飲食やアパレル、美容、宿泊施設など向けの「ローカルアカウント」と、新聞やテレビ、ラジオなどを対象にした「メディアアカウント」を用意し、月額5250円で提供する。開始月を含む3カ月間は無料。公共団体や一部の教育機関を含む「パブリックアカウント」は無料で提供する。利用には審査(5〜10営業日)が必要となる。

 LINE@を導入する店舗やメディアは、クーポンやキャンペーン情報を配信することで、さらなる来店や購買促進が見込める。配信した情報はプッシュ型でユーザーに通知されるため、ダイレクトメールやメールマガジンなど既存のマーケティング手法と比べて高い閲覧率が期待できるとしている。

 なお、LINE@には、いくつかの制限が設けられている。まずは、LINE内の公式アカウント一覧ページに参画企業の情報が掲載されないため、自社の店舗や紙面などでLINE IDを周知して購読者を増やす必要がある。メッセージの配信数に制限はないが、購読者数の上限は1万人までとなる。また、公式アカウントと同様に、ECサイトへの誘導は禁止されている。

公式アカウントは月額800万円〜に大幅値上げ

 NHN Japanは現在、大手流通・小売、飲食・メーカー、民放キー局など、全国規模で事業展開する企業を対象に公式アカウントを提供している。なかでも、ローソンは購読者数が400万人を超え、クーポン発行後には10万人以上が店舗へ来店するなど、「O2O(Online to Offline)」の成果が評価されているという。

 公式アカウントの料金は初期費用が150万円、月額料金は200万円〜。2013年1月からは初期費用不要の月額800万円〜と大幅に値上げすることが決まっている。この理由についてNHN Japan執行役員の舛田淳氏は、「ユーザー数が当時の3倍以上増え、公式アカウントの価値が向上したため」と説明する。

 これに対してLINE@は、月額5250円に抑えたことで中小規模の店舗やメディアが導入しやすくなっている。「いきなり公式アカウントを開設するのは……」とためらう企業やメディアにとっては、LINE@を試してみて反応がよければ、公式アカウントに移行する使い方も考えられるという。

NHN Japan執行役員の舛田淳氏

O2OでLINEをインフラ化、独自の“LINE経済圏”構築へ

 LINEは7月以降、通話・メールを中心としたコミュニケーションツールから、ゲームや占い、クーポンなどを配信するプラットフォーム化に向けて舵を切ってきた。今回のLINE@を通じてO2Oサービスを展開することで、さらにプラットフォームを拡大し、「LINEのインフラ化を推進していく」と舛田氏は説明する。

 目指しているのは、日本全国のあらゆる店舗やブランド、メディアにLINE@が普及することだ。「北は北海道、南は沖縄まで、草の根レベルに浸透するだけの価格に設定している。LINE@がタウンページのように充実していけば」。まずは12月上旬から問い合わせベースで対応していくが、今後は全国でLINE@の営業を行うことも検討する。

 LINE@の普及に伴い、導入店舗やメディアを利用したユーザーに対して、「LINEマイレージ(仮称)」を付与することも視野に入れている。これにより例えば、喫茶店でコーヒーを飲んで貯まったマイルを美容室の支払いに充てられるなど、「LINEに商店街ができるイメージ」(舛田氏)。インフラ化を通じて“LINE経済圏”を構築していく考えだ。

OSOサービス展開によるLINEインフラ化のイメージ

「LINEで送る」ボタンで情報インフラ価値が高まる

 LINEのインフラ化にあわせて、「LINEで送る」ボタンを近日中に公開する。このボタンを設置すると、スマートフォン用のウェブページのURLを、LINEのトークやタイムラインへ共有できるようになる。具体的なボタン設置方法やサービス提供時期は未定。

 舛田氏によれば、「LINEで送る」ボタンを年内にリリースする予定はなかったが、「ユーザーの要望がかなり多く、非公式のボタンまで登場した」こともあり、正式提供が決まったという。

 また、これまで「小さなインターネット」だったというLINEが、「LINEで送る」ボタンが導入されることで、ウェブの「大きなインターネット」からも情報が流れてくるようになり、「情報インフラ」としての価値も高まると期待している。

「LINEで送る」ボタンの概要

競合参入は「予想よりも遅かった」

 スマートフォン向けメッセンジャーをめぐっては、10月19日にヤフーがカカオジャパンに出資し、世界で約6600万ユーザーが利用する「KAKAO TALK」を共同展開することを発表。10月23日にはディー・エヌ・エー(DeNA)が「comm(コム)」を開始するなど、競争が激化している。

 こうした状況について舛田氏は、「LINEを出した時点でメッセンジャー市場はホットになると社内で言い続けてきた」と想定内の動きだったと語る。実際に大手企業が参入してきたが、「予想よりも遅かった」といい、「その間、打てる策は最速で進めてきた」。

 KAKAO TALKやcommについては「プラットフォーム化を進めてきたLINEとは目指す方向が違う」と競合視していないとコメント。通話やメールといったメッセンジャーの基本機能は引き続き強化しつつも、LINEでつながる友達と楽しめるアプリやサービスを集約するプラットフォーム「LINE Channel」をはじめ、独自の方向で進化していく考えを示した。

 なお、LINEのユーザー数は11月16日時点で世界7500万ユーザーに到達。うち国内は3496万人に上る。NHN Japanはかねてより「年内1億ユーザー」を目標に掲げているが、舛田氏は「簡単な数字ではない」と前置きした上で、「策は打てるものは打ち続ける。カウントダウンがかかるまでアクセルを踏み続ける」と意欲を示している。


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(増田 覚)

2012/11/19 11:31