特別企画

インドのタブレット/ネットサービス事情、「Amazonインド」や配車アプリ「OLA」、弁当宅配アプリなども利用してみた

マンガロールの街

 インドの南部にある、そこそこ豊かな中都市・マンガロールでのIT普及状況をレポートする。家電量販店ではスマートフォン売り場が人気となっていて、ユーザーが増えているが、その利用方法は、デジタルカメラ代わりというのが最も目立っている。スマートフォン売り場には及ばないが、タブレットもそこそこ売られている。タブレット売り場では、iPadやAndroid搭載タブレットから、Windows 10搭載のタブレットまで売られている。インドでは過去にも、学校においてタブレットを安価で配布したり、若者がタブレットを購入するというニュースがときどき出てくるように、パソコン代わりの初めてのコンピューター(これもパーソナルではあるが)として使われるケースがある。

 筆者がマンガロールに滞在した間も、ビジネス用途としてタブレットを見る機会があった。ホテルのフロントで、予約サイト経由の予約を確認するために、フロントのスタッフがタブレットを操作してチェックするのだ。これが中国や東南アジアだと、パソコンになるケースは多いが、何せインドはムンバイ以外は停電が日常的で、固定でのブロードバンドよりも、無線(主に3G)でのインターネットが圧倒的に普及している。パソコンは書類や帳簿の作成でローカルで利用し、インターネット利用が必要な簡易オペレーション用にタブレットを利用するというのだ。3Gドングルを使う方法と、SIMカードスロット内蔵のタブレットで単体で利用する方法があるが、多くの人がネットを利用しない現在、どうも後者の方が人気のようだ。

タブレットユーザー。家でもデータ通信でネットを楽しむ
街のデータ通信ドングルの広告

 ちなみに店舗や事業所を見ていると、パソコンを導入する風潮にもなっておらず、いまだノートで出納をメモしていく店舗ばかり。筆者が長らくウォッチしてきた中国では、今のインドくらい貧しかったころからパソコンを積極的に導入し、エクセルで整理しつつ、チャットをしたり、ゲームで遊んだり、VCDやDVDで遊ぶ人が目立ち、遊ぶため時間を潰すために新しいガジェットを積極的に導入するのが見られた。どうもインドでの理由なき仕事場でのパソコンやタブレット類の導入は消極的に見える。

 では、なぜそうした中で、ホテルやレストランなどがネットに繋ぐタブレットがあるのか。それはホテルやレストランがネット予約サービスを利用しているからにほかならない。「Expedia」「Hotels.com」などの旅行予約サイトでインドのホテルを検索してみると、「OYO rooms」という名のホテルが大量に見つかる。一見するとホテルチェーンに見えそうだが、これは非ホテルチェーンが、インド地場旅行予約サービス「OYO」が間に入ることにより表示されるというもの。ExpediaやHotels.comなどでインド各地のOYO roomsのホテルを予約すると、ホテル側にOYOが情報とともに代金を受け渡す。

タブレットで予約確認するホテルフロント
予約代理サービス「OYO」のロゴのあるホテル

 OYO roomsは昨年、ソフトバンクなどからの出資を受けたことでニュースとなったので、現地で利用した感想を書くと、まずサイトで登録されているホテルはバックパッカー用のベッドがあるだけの安宿ではなく、日本円で1500円以上はする、ちゃんとした朝食も付いてくるホテルである。一方で、宿泊料金は値引き表示とはいえ、地元の日本人いわく「値引き前の普段の価格がこんなに高いわけがない」。また、サイトで掲載されていたホテルの部屋のきらびやかな写真に比べ、実際の部屋は質素であった。ホテル予約ではだいぶ盛っている感じを受けた。

 インドのネットのサービスがすべて信用できないかというとそうではない。ものは試しと「Amazonインド」で商品を注文したところ、マンガロールに4、5日で届くと言われていた商品が3日で到着。宅配員が道に迷いながらマンションの部屋まで届けに来てくれた(筆者としては、道に迷いながら届けに来るというのが、10年前の中国を思い出させる)。Amazonインドはマンガロールに近いバンガロールに倉庫があるからか、中国の地方都市でのオーダーと同等の感覚で商品が届いた。インドというと、まともにモノが届かないという噂もあるが、パッケージに何ら損傷もなく届いている。

バンガロール空港にて。「Amazonインド」の広告

 Amazon以外にも、インドでは「SnapDeal」や「Flipcart」というオンラインショッピングサイトがあるが、もともとそれほど活発ではなかったところに、Amazonが突然、力を入れ始めたものだから、後を走っていたAmazonが先頭を走るようになった。また、それ以外ではクラシファイド、つまり「売ります、買います、サービスします」掲示板の存在も大きい。1つの街で実際に会って、新品・中古のモノを売買したりサービスを提供する掲示板は、以前からのネットユーザーは認知している。

 マンガロールで見かけるネットのサービスはまだある。よく見かけた広告は、地場の配車サービスの「OLA」と世界的な配車サービスの「Uber」だ。OLAもソフトバンクが出資しているサービスであり、インド各地でOLAとUberが利用者獲得で競っている。OLAもUberと同様、乗車位置にピンを置き、目的地を設定することで、大体の値段が分かる。タクシーも三輪車のオートリクシャーも、インドの多くの地域でぼったくるが、OLAは明朗会計で、しかも正規料金よりも安くて利用しがいはある。現金払いもできるが、OLA用のクレジットカードやデビッドカードでチャージする電子マネー「OLA Money」を利用して、キャッシュレスでの支払いも可能だ。もちろんドライバーもスマートフォンを所有し、アプリを起動して客を運ぶ。利用した際に「なんでOLAのドライバーになろうとしたのか? どこから情報を仕入れたのか?」と聞くと、「フレンドが教えてくれて」とドライバー。インドではどれだけ知り合い(フレンド)を作るかが生きるためのカギとなるが、ネットサービスにおいてもフレンドのつながりが大事となるようだ。

「OLA」で配車を試してみた
配車アプリ「OLA」のドライバー

 インド全土ではなく、マンガロールの街だけを対象に行っているサービスもある。筆者が見かけたのは、マンガロールのいくつかのレストランをカバーした食事のデリバリーサービスと、個人スーパーによる商品デリバリーサービスだ。前者を試しに利用してみたが、30分後くらいにプラスチックの弁当箱に入って届けられた。地元の日本人は「そのレストランでの食事の提供が遅いのは経験しているので、それを考えれば遅れずに送ってきたのでは」とのこと。中国でも食デリバリーは洗練されてきているが、見た目のパッケージの質と配達時間についてはインドのそれもそう悪くはなく、あとは利用できるレストランが少ない点と、電子マネーに対応していない点が中国と比べれば劣っていると感じた。ただインドでは、ダッパーワーラーという弁当配達ビジネスもあるので、それを奪うようなネットサービスはすぐには出ないだろう。OLAのようなネットユーザーを対象にした「ちょっと高い」ところのデリバリーに限られそうだ。

デリバリーサービス「tiffinboks」の配達員
「tiffinboks」の弁当宅配アプリで頼んでみた
地元のデリバリーサービス「tifinboks」の広告

 リアルショップでは使うことはあまりないが、電子マネーで有力なところでは「Airtel Money」というのが定番で、スマートフォン用アプリからのほか、フィーチャーフォンからでもSMSを使って利用できる。銀行への送金やオンラインショップでの支払い、通話料金の支払いだけでなく、鉄道のチケットの購入や映画のチケットの予約もできる。鉄道のオンライン化は進んでいて、鉄道の運行状況も把握できる。だが、まだ知る人ぞ知るサービスだ。

 インドの中都市・マンガロールでは、ネットサービスもネットデバイスもそれほど普及していない。中国のように「ネットサービスを活用しないとまともな生活ができない」というわけではない。しかし、現状あるものを繋ぐ仲介役的なサービスは続々と立ち上がっている(在インドの日本人いわく、「インド人の傾向としてリスクの少ないこのような仲介ビジネスを好む」とのこと)。爆発的に普及していくとは考えづらいが、サービスの普及とともに、スマートフォンやタブレットの必要性が徐々に高まり、ひいては普及していくのではないだろうか。

山谷 剛史

海外専門のITライター。カバー範囲は中国・北欧・インド・東南アジア。さらなるエリア拡大を目指して日々精進中。現在中国滞在中。著書に「日本人が知らない中国ネットトレンド2014」「新しい中国人 ネットで団結する若者たち」などがある。