特別企画

多様化する電子書籍市場の今後

インプレス総合研究所「電子書籍ビジネス調査報告書2016」より<第4回>

7月28日に発行したインプレス総合研究所の調査報告書「電子書籍ビジネス調査報告書2016」をもとに再編集し、4回にわたってお送りします。

 電子書籍・電子雑誌のビジネスモデルは1冊(1ダウンロード)ごとに課金することがほとんどであったが、近年はサブスクリプション(定額制)モデルや広告収入等により無料で読めるマンガアプリなど、さまざまな形態のモデルが導入されている。本シリーズでは、最近注目されている電子書籍・電子雑誌の形態について、その動向やビジネスモデル、今後の展望などを整理して紹介する。

 最終回となる第4回は、電子書籍・電子雑誌のビジネスモデルについて、これまで紹介していないものも含めて整理し、あわせて今後の電子書籍市場規模の予測をお送りする。

 事業者が利用者に対して直接サービスを行う場合、電子書籍のビジネスモデルは、多くの電子書籍ストアが採用する、利用者が閲覧するために課金が必要な有料モデルと、無料モデルの2つに大きく区分されるが、広告収入等をもとにした無料モデルと課金の組み合わせ等、いくつかのモデルを組み合わせたハイブリッドモデルも多い。

有料モデル――「Kindle Unlimited」開始で月額定額制が注目される

個別課金型

 個別課金はユーザーが読みたいコンテンツをその都度購入する形であるが、販売単位としては1冊や1巻での販売、コミック等での1話単位での販売、シリーズもの等複数巻をセットにしたものがある。

 課金のタイミングには、あらかじめまとまった額のポイントを購入してその範囲内で購入する場合と、その都度決済する場合とがある。大半の電子書籍ストアがこの方式を採用している。

月額課金型

 月額課金型は、フィーチャーフォンの公式メニューの時代から培われてきた料金形態であり、ユーザーが毎月一定額を支払う。ユーザーには課金額に応じたポイントが毎月付与され、そのポイントを使用してコンテンツを都度購入する。ポイントを使いきった場合には追加で購入することも可能である。ポイントの使用の有無にかかわらず、毎月一定額が課金されるため、事業者にとっては安定した収益が見込めるメリットがある。一方、ユーザーには課金額に応じてプレミアムでポイントが付与されることが多いほか、都度の決済が不要となるメリット等がある。

サブスクリプション型

 月額定額制の読み放題のサービス。直近ではアマゾンジャパンが定額読み放題サービス「Kindle Unlimited」を日本でも開始している。日本では、このビジネスモデルは、電子書籍より電子雑誌配信で先行して普及し始めている。

 最も早い導入は、2010年6月に開設された「ビューン」と思われ、その後「ブックパス」でも電子雑誌も対象とした「読み放題プラン」などが取り入れられたが、2014年6月にサービスが始まった「dマガジン」で急速にユーザー数が拡大。

 電子書籍向けのサービスとしては、2012年には上述「ブックパス」の「月額読み放題プラン」が登場している。最近では2015年7月にスタートした「Yahoo!ブックストア読み放題」などコミックを中心としたもの散見するようになった。

レンタル型

 個別課金型・月額課金型の一種であるが、一定時間内が経過すると該当の電子書籍・電子雑誌が読めなくなる。閲覧期限がある分、個別課金型よりも安価で提供される。

定期購読型

 主に定期的に発行される電子雑誌を対象とするもので、あらかじめ決められた期間分の料金を支払うことで、その期間に発行される電子雑誌を購読できる。紙の雑誌の定期購読とほぼ同じ仕組みで、長期契約の場合は割引価格が適用される場合もある。該当の電子雑誌の発売日に自動的に端末に配信されるか、ダウンロードを促す通知が届くサービスが多い。なお、類似の仕組みに、あらかじめ決められた期間の電子雑誌の購入予約だけを行い、発売日に自動的に端末に配信されるが、課金はその都度行われるサービスもある。

無料モデル――広告モデルや有料課金との組み合わせなど多様なモデルが存在

販促/キャンペーン型

 コミックのシリーズものなど冒頭の巻が無料配信されたり、毎日あるいは毎週などの間隔で1話ずつの連載形式により無料配信されたりするもの。多くの電子書籍ストアが取り入れており、無料で提供していない続巻や関連する電子書籍の購入、ストアへの定常的なアクセスを期待するものである。販促やキャンペーン的な要素が強く、出版社や電子書籍ストアが必要なコストを負担する場合がほとんどである。

メディア型

 出版社等による直営のサイト/アプリ。サイト/アプリ内の作品は期間限定で無料公開。連載形式で新旧作品を随時入れ替え、常に一定数、もしくはそれ以上の作品が掲載されている。出版社に加え、DeNAやNHN comicoといったIT企業が編集体制を設け参入した無料マンガ雑誌アプリも、このカテゴリーに入る。

 出版社にとっては、自社のレーベルやコンテンツのブランディングや読者の囲い込みのための宣伝ツール/媒体としてのニュアンスが強く、サイトやアプリの名称も自社の媒体名を冠するケースが多い。ビジネスモデルとしては、紙もしくは電子版の本誌や他の有料コンテンツの販売である。無料連載から有料の電子書籍への誘導や、グッズ販売に誘導するパターンもある。

 最近では、新人作家デビューのための媒体としても機能する。人気作品は電子書籍や書籍をはじめとするメディア化で収益化を図る。

新人発掘・ライツ販売型

 主には投稿型サイト/アプリ。プロの作家ではなく、また、プロ志望か否かを問わず、個人が小説、ライトノベル、コミックなどを公開する。コンテンツは無料。今のところ、小説、ライトノベル、コミックなど創作物のみで、ノンフィクション系のサービスは確認できていない。

 小説やライトノベルなどの文字ものに関しては、2000年代半ば以降の“ケータイ小説”ブームから誕生したものが多い。

 一方コミックは「マンガボックス」や「comico」「LINEマンガ」などの多数のユーザーを抱える無料マンガアプリやサービスに併設されるケースが目立つ。また、新人応援のために“先読み”などユーザーにプレミアムを提供することで有償コンテンツに誘導するサービスもあり、収益源の1つとなっている。

 一般的には、多くの作品の中からアクセス数の高い人気作品や各種受賞作品などを電子書籍化・書籍化・映像化・ゲーム化・キャラクター化といった他メディア展開をし、ライツ手数料などで収益化を目指している。

 一部のサイト/アプリでは、初めから出版社と提携しているものもある。

広告費型

 コンテンツは無料で公開するが、コンテンツごとにバナー広告、ネイティブ広告、他サービスのアプリなどへの誘導(リワード広告)、タイアップ等の広告を掲載する。広告料は作者にも還元される。

 すでに十分に収益を得た旧作や、紙書籍では品切れ重版未定のまま電子書籍化されない作品を、出版社ではない法人が作者と契約を結んで配信するケースが多い。

時間制限制型

 一定時間内(一部別規定もあり)であれば、コンテンツは無料。規定時間を消費した場合は“回復”を待つ。課金やアイテムで早い“回復”も可能で、無料のソーシャルゲームと同様のモデル。バナー広告などでも収益を得ていることが多く、ユーザーは利用料を支払うことなく一定範囲でコンテンツを閲覧できる。その範囲を超えて利用するためには課金が必要となり、フリーミアム的なモデルで、無料と有料のハイブリット型のモデルである。

紙とのセット

 紙の雑誌や書籍を購入すると、その雑誌や書籍の電子版も閲覧できるもの。電子雑誌は無料の場合と「honto読割50」のように割引価格で購入できる場合とがある。無料の場合は、書店や出版社の協力による紙の雑誌や書籍の販促やキャンペーン的要素が強い。読者にとっては、家では紙の雑誌、外出先では電子版といったライフスタイに合わせた新たな読書体験が可能となるほか、バックナンバーをデジタルで保存しておけるといったメリットもある。

2020年度の電子書籍市場規模は3000億円に拡大

 最後に電子書籍・電子雑誌の市場規模を紹介する。この市場規模は上記の有料モデルと有料課金が含まれており、広告収入は含まれていない。

 2015年度の電子書籍市場規模は1584億円と推計され、2014年度の1266億円から318億円(25.1%)増加している。電子雑誌市場規模は242億円(対前年比66.9%増)と推計され、電子書籍と電子雑誌を合わせた電子出版市場は1826億円となった。

 2016年度以降の日本の電子書籍市場は今後も拡大基調で、2020年度には2015年度の1.9倍の3000億円程度になると予測される。

 今後もスマートフォンやタブレット等のデバイスの進化や保有者の増加をベースに、認知度の拡大や利便性の向上による利用率の上昇、紙の書籍との同時発売の増加、電子書籍ストアのマーケティングノウハウの高度化、電子オリジナルのコンテンツや付加価値の付いた電子書籍の販売、セルフパブリッシングの拡大等により、2016年度以降も拡大が続くことが予想される。

 有料電子書籍の利用者はまだPC調査で14.6%、スマートフォン調査で16.5%にとどまっており、利用率上昇による市場の伸びしろは大きいといえる。

 動画や音楽の分野では定額制配信サービスが普及しているが、定額制サービスが普及し市場拡大につながる可能性もある。さらに、各電子書籍ストアが試行錯誤しながら展開してきた各種キャンペーンなどマーケティング施策も確立されてきた。無料のマンガ連載や、無料マンガアプリをきっかけとした購入も増加すると予測される。

 電子雑誌は、大画面で高精細なスマートフォンやタブレットの普及をベースに、月額課金モデルのコミック誌や月額定額制の読み放題サービスの利用者の増加が予測される。また、電子雑誌広告市場の形成による電子雑誌配信の本格化なども想定され、引き続き市場の拡大が見込まれる。2020年度には480億円程度になると予測され、電子書籍と合わせた電子出版市場は3480億円程度と予測される。

電子書籍・電子雑誌の市場規模予測

書誌情報

タイトル:電子書籍ビジネス調査報告書2016
編者  :インプレス総合研究所
価格  :CD(PDF)版    6万8000円(税別)
     CD(PDF)+冊子版 7万8000円(税別)
判型  :A4判
ページ数:384ページ