特別企画
電子雑誌の動向
インプレス総合研究所「電子書籍ビジネス調査報告書2016」より<第2回>
2016年9月15日 06:00
7月28日に発行したインプレス総合研究所の調査報告書「電子書籍ビジネス調査報告書2016」をもとに再編集し、4回にわたってお送りします。
- 第1回:無料マンガアプリと広告
- 第2回:電子雑誌の動向(この記事)
- 第3回:定額制読み放題と今後の展望
- 第4回:多様化する電子書籍市場の今後
電子書籍・電子雑誌のビジネスモデルは1冊(1ダウンロード)ごとに課金することがほとんどであったが、近年はサブスクリプション(定額制)モデルや広告収入等により無料で読めるマンガアプリなど、さまざまな形態のモデルが導入されている。本シリーズでは、最近注目されている電子書籍・電子雑誌の形態について、その動向やビジネスモデル、今後の展望などを整理して紹介する。
第2回は、読み放題サービスが台頭する電子雑誌についてお送りする。
テレビCMで認知度が拡大した電子雑誌
2015年度の電子雑誌の市場規模は242億円となり、昨年度の145億円から約1.7倍の規模に拡大した。
その中でも、2014年6月にサービスを開始したNTTドコモの「dマガジン」が好調だ。
「dマガジン」は、電子雑誌の読み放題サービスで月額400円(税別)。同様のサービスはau(KDDI)「ブックパス」、ソフトバンク「ビューン」が先行していたが、電子雑誌市場は「dマガジン」が牽引したと言ってもさしつかえないほど、雑誌出版社にとっては急成長を遂げたサービスとなった。
会員数は、オープン半年後の2014年12月13日付で100万人、1年後の2015年6月14日には200万人、2016年3月12日付で300万人を突破した。2016年3月期のNTTドコモ決算説明会資料によれば、期末時点での契約数は325万となっている。1カ月間は無料お試し期間であるため、400円×契約数が売上高にはならないものの、2015年度の電子雑誌の売上規模のうち「dマガジン」は圧倒的なシェアを誇っており、5割近くあるものと推測される。
通信キャリアならではのネットワークを使って、ドコモショップ店頭での販促や無料キャンペーンを活用することができたのは強みである。ドコモユーザーであれば、キャリア決済できるのは手間もなく、また、課金の心理的障壁は他の決済手段と比べて格段に低いはずだ。他方でこれまでの通信キャリア的な囲い込みの発想を捨てて、他の「dマーケット」のサービスと同様、キャリアフリーにしていることも成功要因の1つであろう。
読み放題が、動画など他のデジタルコンテンツとともに提供されているサービスもある。2015年4月にオープンした「Book Place for U-NEXT」(U-NEXT)や同年6月オープンの「フジテレビオンデマンド」(フジテレビ)がそうで、雑誌読み放題のサービスが会員向けに無料で提供されている。
また、株式会社オプティムが提供するサービス「タブホ」は、単体でサイトを持つだけでなく積極的にパートナー企業と提携してサービスを提供している。「ひかりTVブック雑誌読み放題」(NTTぷらら)や「雑誌読み放題 タブホ for BIGLOBE」(ビッグローブ)のようにパートナー企業のサイトへの提供するケース、IIJmioやDMM.mobileといった回線のオプションとして提供するケースなどがある。コンビニエンスストアでもサービスに申込みが可能。
直近では、「Kindle Unlimited」(アマゾンジャパン)、「楽天マガジン」(楽天)が始まり、ますます注目を集めている。「dマガジン」が話題になり、“雑誌読み放題”を提供するサービスが増えてきたことを受けて、ネット上では各社のサービスを比較する記事も散見するようになってきている。今後は圧倒的なブランド力を持つ「dマガジン」とどう差別化し、また、それをどう訴求するかが普及の鍵となるだろう。
一方で、伸び悩んでいるのが号ごとの個別販売である。電子雑誌は号ごとの個別販売か月額定額制に二分されるが、後者の月額定額制が雑誌1号と同程度の価格で読み放題となることから、ユーザーとしては個別販売のメリットを見出しづらく、月額定額制に集中している傾向が見られる。月額定額制で提供されていない雑誌も存在する、個別販売の場合はバックナンバーも閲覧できる、定額制でカットされているコンテンツやページも収録されている場合があるといったこともあり、個別販売が伸びている雑誌もあるが、出版社によっては個別販売の売上は横ばい、月額定額制での売上のみが拡大しているといった状況も見られる。
定額制の契約者数が拡大している間は売上も拡大していくが、契約者数が仮に数千万人規模に達するなどして拡大が止まった暁には、市場規模の拡大も止まることも考えられる。
マイクロコンテンツとしての記事販売
電子書籍のメリットは束を必要としないことで、マイクロコンテンツは90年代、電子書籍の黎明期から人気コンテンツだった。
雑誌の記事もマイクロコンテンツとして切り出され、電子書籍として配信されてきた経緯がある。「週刊新潮」(新潮社)連載の「黒い報告書」シリーズや「週刊文春」(文藝春秋)のスクープ記事もマイクロコンテンツとして安価で配信されてきた。しかしこうした手法も、前述の「dマガジン」のようなサービスが普及するとともに、マイクロコンテンツとしてのメリットは薄れていきている。
その一方で、専門性の高いサイトで記事を販売する動きは、比較的安定している様子である。
2014年9月1日、日本最大のレシピサイト「クックパッド」が主要出版社や個人料理家と提携する定額制のレシピ本コーナー「プロのレシピ」が開設された。関係者の談によれば、料理やレシピ関連の電子書籍(=雑誌記事などのマイクロコンテンツ)では断トツで売れるサイトである。クックパッド全体の月間利用者数は2016年3月時点で6000万人を突破しており 、現在、プレミアム会員も180万人を数えている(ウェブサイトより)。それだけのユーザー数を抱えるレシピ検索のためのサイトでコンテンツを提供していることが、好調の理由であろう。
規模としてはここまで大きくはないものの、同じ2014年10月、旅行ガイドブックや観光を特集した雑誌、ご当地出版社発行のローカル出版物などの電子書籍専門サイト「たびのたね」がオープンした 。運営はJTBパブリッシングだが、旅行関連書の出版社35社の電子書籍や電子雑誌のマイクロコンテンツを配信する。また、これらをユーザーが「まとめたね」機能を使ってオリジナルガイドブックとして制作できるという特徴も持っている。対象となるコンテンツは、何もガイドブックや旅行雑誌に限定しているわけではなく、「週刊女性」(主婦と生活社)に掲載された旅行・おでかけスポット情報を記事として取り扱っており、出版社も多様で、Kindleストアなどの総合ストアでは取り扱っていないような出版社のものもある。
広告市場形成やECサイトとの連携
今後の電子雑誌市場の成長のカギを握るのが、周辺ビジネスとの連動や電子広告市場の形成であろう。
特に売れ行きの落ち込みが激しい紙媒体の雑誌は、部数の落ち込み以上に広告収入の激減の方が厳しいはずである。単に紙を電子化して販売するだけでは、とてもではないがカバーできない。新たなビジネスモデルを構築する必要がある。
出版社とは違う発想から生まれたブランジスタの無料電子雑誌は、広告収入を主な収益源として成功している電子雑誌である。紙の感覚であれば、雑誌というよりフリーペーパーであろうが、会員登録やダウンロード不要の簡便さと、著名編集者を招き有名女優なども起用する高いクオリティとで、月間読者数200万人を抱えている。電子雑誌は現在のところ11誌で、2015年4月14日に幻冬舎と楽天とで創刊したスマホ雑誌「GINGER mirror」の電子雑誌システムを提供しているのもブランジスタである。
「GINGER mirror」は幻冬舎のファッション誌「GINGER」を単に電子化するのではなく、「GINGER」編集部が「GINGER」読者に向けて楽天市場の商品をセレクトし、そのまま買える機能を持たせるといった試みである。
電子雑誌とは言えないものの、ECとの連携という点においては、集英社の「FLAG SHOP」が好調である。「FLAG SHOP」は2007年にオープンした集英社雑誌掲載の商品が買える公式のファッション/アパレル直営通販サイトである。サイトは集英社100%子会社のProject8が運営しており、2016年3月現在、会員は70万人、月間訪問数は約180万人。雑誌の企画と連動したコーナーや、ウェブオリジナルのコンテンツ、限定コラボ品の販売などで、集英社の通販事業の売上高は2016年5月期で55億円である。新たな収益源としての事業であり、これをそのまま他社に転嫁することはできないが、元来持っていた雑誌のブランド力を生かした事業と言えるだろう。
現在配信されている電子雑誌のほとんどが、紙をそのまま電子化したものだが、電子雑誌の閲覧が増えれば紙と電子を合わせての広告出稿料金をアドオンしていける可能性は高く、紙と電子とセットで掲載することはもちろん、紙媒体とは別に広告を出稿する企業も出てくるだろう。「dマガジン」のような読み放題サービスの出現によって、雑誌の販売金額が下がるのは疑いの余地はないのだが、閲覧数を増やすことによって媒体としての価値を高め、広告による収益を上げる可能性は十分ある。
また、マンガアプリ内の広告(純広告、リワード広告など)がようやく成長し始めているが、既存のネット広告を展開するのであれば、アプリやウェブマガジンのように動的なサイトである方が効果的なのかもしれない。
電子雑誌と電子広告、あるいは周辺ビジネスとの連携は、まだまだ模索が続きそうだ。