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フリーランスになったら知っておきたい税金の基本

フリーランスになったら知っておきたい税金の基本について、書籍『フリーで仕事を始めたらまっさきに読む「経理」「税金」「申告」の本』(笠原清明著/クロスメディア・パブリッシング刊)の一部内容を再構成してお届けします。

  • 営業が「攻め」ならば、経理は「守り」
  • 経理のポイントは5つ
  • 青色申告にしよう! そして65万円の控除を使って税金を安くしよう
  • 仕事専用の通帳とクレジットカードを作って記帳を楽にしよう
  • 所得税、住民税、印紙税など フリーにかかる税金を押さえておこう

営業が「攻め」ならば、経理は「守り」

 フリーになると本業の仕事を自分の思った通りにできるようになりますが、税金の申告など、事務系の業務も自分で行っていかなければなりません。営業が「攻め」ならば経理は「守り」です。どちらも大切でバランスよく行っていく必要があるのです。

 会社に勤めていたとき、年末が近づくと経理や総務の担当者から緑字の書類(扶養控除等申告書、保険料控除申告書)を渡され、生命保険の証明書などを「○○日までに忘れずに持ってきて」と言われたことでしょう。そして書類の準備を面倒くさく思い、忘れてしまい何度も督促されたこともあるでしょう。

 実はこの手続きを年末調整といい、会社が皆さんの税金の申告を代行してくれていたのです。フリーになると、当たり前ですが、誰も皆さんの税金申告を代行してくれません。昔は税務署が一方的に税額を決定していましたが、今は、納税者自らが税金を計算し、申告するという制度になっています。したがって自分で収入や経費を集計し、申告書を書き、税金を納める必要があります。

 独立したてのときは仕事をとることで精一杯で申告のことまで頭が回らないのが普通です。私もその気持ちがとってもよくわかります。また自ら税務署に申告し税金を払うのは馬鹿らしい、何か言ってくるまで放っておこう、と思ってしまう方もいらっしゃることでしょう。

 税務署も余程のことがない限り、開業した年に何か言ってくることはありません。2年目、3年目もまずないでしょう。私のような小さな商売をやっているところに税務署は来ないのかも……と安心してしまう方が多くいらっしゃいます。

 なんの書類整理もしなくてよく、しかも税金の支払いもないのですから、こんなよいことはありませんね。

 しかし、そんな天国のような状態は長くは続くはずはありません。私の経験では数年後に税務署の調査が入り、過去に遡って、まとめてごっそりと税金を持っていかれてしまうケースがほとんどです。日本の税務署はとても優秀なのです。

 このような事態になった場合、本来支払うべき税金のほかに、無申告加算税(申告をしなかったことによるペナルティ)、延滞税(納付が遅れたことによる利息)を納めなければなりません。

 また、もう私のところには税務署は来ない……と安心してしまうと、領収書等の整理がどうしても疎かになりがちです。税務署は証拠がある支出しか経費として認めてくれません。領収書等をもらっていなかったり、紛失してしまったりしていた場合、無駄な税金を支払うことになってしまうのです。ここでもきちんと申告した人と差が出てしまいます。

 さらに青色申告特別控除(10万円または65万円)などの特典を使った合法的な節税もすることができません。そうです。フリーになったら自分自身のためにも、経理をきちんと行う必要があるのです。

経理のポイントは5つ

 それではさっそく、フリーの経理のポイント5つについて説明することにしましょう。

①税務署などに開業の届出をする

 フリーになったら、税務署に開業届を提出しましょう。税務署は、所得税など国税の窓口となる役所です。届出の期限は開業の日から1カ月以内となっています。開業届と一緒に青色申告の申請書など税の特典を受けるための書類も提出しましょう。

②領収書などの作り方、書類整理をマスターする

 仕事が完了したら請求書を出す、お金をもらったら領収書を出す、支払い先から受け取った請求書や領収書は、きちんと整理して保管する、これはフリーの事務作業の基本中の基本です。お客様にしっかりしていると思われるような領収書が作れるよう、書式、印紙の貼り方、印鑑の押し方、控えの残し方などのルールをマスターしておきましょう。受け取った請求書や領収書は、お金を支払った証拠となる大切な書類なので、整理や保存のルールをマスターしておきましょう。

③日々の記帳をマスターする

 仕事に関連するお金の出入りは帳簿に記録しておく必要があります。法律で記帳が義務付けられていることがその理由ですが、そもそも記帳しておかないと、儲けを計算することができませんね。また、簿記のルールにしたがった記帳をすることで、青色申告の特典を受け、税金を安くすることもできます。

※本書『フリーで仕事を始めたらまっさきに読む「経理」「税金」「申告」の本』ではパソコンを使って簡単に日々の記帳ができる方法を提案していますので、簿記の知識がない方でも「簿記のルールにしたがった帳簿」を作成することができます。

④決算整理と青色申告決算書の作り方をマスターする

 個人事業の締め日(決算日)は12月31日です。決算にあたっては、売掛金や買掛金の計上、減価償却の計算などの決算整理を行います。本書ではフリーの方に必要な決算整理のやり方をわかりやすく説明しました。

 決算整理が完了したら、1年間の損益の状況をまとめた書類(損益計算書)と年末の財産・債務の状況をまとめた書類(貸借対照表)を作成します。これらの書類を青色申告決算書といいます。

⑤翌年の3月15日までに確定申告をする

 1月から12月の儲けは、翌年の3月15日までに税務署へ納税者自らが申告をする、というルールになっています。この手続きを確定申告といいます。市県民税の申告は原則として不要です。税務署から県、市に情報が流れることになっているからです。

 期限までに申告をしないと、税の特典が受けられなくなったり、加算税や延滞税など余分な税金を支払ったり、と損をしてしまいます。3月15日までに申告、と覚えておきましょう。

青色申告にしよう! そして65万円の控除を使って税金を安くしよう

 きちんと記帳をして申告をしてください、そうしてくれれば税金を安くしてあげますよ……ごくごく簡単に青色申告制度のことを説明するとこのようになります。節税がアメとすれば記帳がムチと言えるでしょう。

 簿記のルールに従った記帳をして義務(ムチ)をはたしている場合の主な特典(アメ)は次のとおりです。

  • 青色申告特別控除(65万円を経費に追加できる)
  • 青色事業専従者給与(事業の手伝いをしている家族に給料を支払える)
  • 少額減価償却資産の取得費必要経費算入(30万円未満の資産購入費を経費に落とせる)
  • 純損失の繰越控除(赤字が出た場合、3年間持ち越しができる)

 青色申告にするためには事前に税務署への申請が必要です。1日でも期限に遅れると青色申告にすることができません。フリーになった年の青色申告承認申請書の提出期限は次のとおりです。確定申告のときでは間に合いませんので注意してください。

  • 1月15日までに業務を開始した場合 → 3月15日まで
  • 1月16日以後に業務を開始した場合 → 業務を開始した日から2カ月以内

 なぜ「青色申告」と言うのですか、とよく聞かれます。答は単純。通常の申告の場合、申告書の用紙の色は「白色」なのですが、特典を受けた申告の場合、通常の申告と区分するために「青色」の用紙を使用したことから、特典を受ける申告を「青色申告」というようになったそうです。クレジットカードのゴールドカード、プラチナカードと同じ意味合いですね。

 青色申告にすると、先ほど説明したとおりの特典があるのですが、特に注目していただきたいのは、青色申告特別控除です。65万円の経費をドンとプレゼントしてくれるという、大盤振る舞いの特典だからです。いくら税金が安くなるのか、所得税と住民税について見ていくことにしましょう。所得税は累進税率といって年間の儲けが多いほど税率が高くなりますので、儲けが多い方ほど高い税率の分、税金を安くできます。一方、住民税の税率は10%なので、儲けの金額にかかわらず安くなる税額は一定です。安くなる税金の金額を表にすると次のとおりになります。

年間の儲け所得税住民税合計
300万円6.5万円6.5万円13.0万円
500万円13.0万円6.5万円19.5万円
1000万円21.4万円6.5万円27.9万円
※年間の儲け=課税所得金額として計算しました

 年間の儲けが300万円の方で、所得税と住民税が合わせて13万円も安くなります。結構な金額ですね。食いしん坊の私は、焼き肉、中華、イタリアン……ここも行ける、あそこも行けると、いろんなレストランが頭に浮かんでしまいます。

 このように大きなメリットのある青色申告ですが、簿記のルールに従った記帳をする、という義務があることを忘れてはいけません。簿記なんてわからない……と不安になっている方もいらっしゃるのではないでしょうか。

 でもそんな心配は無用です。今やパソコンを活用することで、簿記がわからなくても記帳ができる時代になっているからです。

仕事専用の通帳とクレジットカードを作って記帳を楽にしよう

 記帳が必要なのは、仕事上のお金の出入りだけです。プライベートのお金の出入りについては、記帳をする必要がありません。しかし、通帳やクレジットカードに仕事上のお金の出入りとプライベートのお金の出入りが混在していると、本来、記帳の必要がないお金の出入りまで記帳しなくてはなりません。そこで次のように通帳やクレジットカードについて公私の区分をするようにしましょう。プライベート専用の通帳やプライベート用のクレジットカードは記帳をする必要はありませんので、その分、記帳にかかる労力を節約することができます。

① 仕事専用の通帳、プライベート専用の通帳を作る

 フリーで仕事を始めたら、仕事にかかるお金の出入りを行うための、仕事専用の通帳を作りましょう。売上の振り込み、仕事で使う携帯電話の口座振替、外注先への振り込みなどはこの通帳を使って行います。また、仕事に使う現金についても、この口座から引き出します。

 一方、プライベートにかかるお金の出入りは、仕事専用の通帳とは別の通帳、言うなればプライベート専用の通帳を使用するようにします。プライベート専用の通帳は、日々の生活に必要な現金の引き出し、趣味のゲームや音楽の利用料などの引き落とし、年金の受け取りなどに使用します。プライベート専用の通帳は記帳をする必要はありません。

② 生活費は定額をプライベート専用通帳に資金移動する

 生活費は月末などの一定の時期に、まとまった金額を仕事専用の通帳からプライベート専用の通帳に資金移動します。仕事専用の通帳からプライベート専用の通帳に給料を振り込むといったイメージです。

③ 仕事専用のクレジットカード、プライベート専用のクレジットカードを作る

 通帳と同様に、クレジットカードについても、仕事専用のカードとプライベート専用のカードを作るようにしましょう。仕事専用のカードは得意先の接待、事務用品の購入など、仕事に関係する支払いに使用します。一方、プライベート専用のカードは、友人との会食、洋服の購入、趣味の代金の支払いなどに使用します。

所得税、住民税、印紙税など フリーにかかる税金を押さえておこう

 税金の仕事をしている私でも税務署、県税事務所、市役所の税務課など「税」の字がつく役所から電話や手紙がくるとドキッとします。頭を下げて仕事を取ってきて、体をはって稼いだお金を挨拶なしで持って行くところ、心情的にはこんなところでしょうか。

 でもフリーで仕事を始めた以上、「税」がつく役所と上手に付き合っていかなければいけません。大切なのは敵?を知ることです。フリーで仕事を始めた方はどんな税金をどこに支払う必要があるのか、その概要について説明することにしましょう。

 一般的な税金の解説本では税目別に解説をしていくのですが、本書では「自分で税額を計算して申告する税金」と「役所が税額を通知してくる税金」に区分して説明することにしました。自画自賛ですが、こちらの方がするべきことが明確なので、わかりやすいと思います!

自分で税額を計算して申告する税金

・所得税
個人事業の儲けにかかる国税です。税務署に確定申告をして納める税金で、フリーの税金=所得税と言っていいほど、フリーの方にとっておなじみの税金です。1月1日から12月31日までの儲けを翌年3月15日までに申告し納税します。

・消費税
所得税は儲けにかかる税金ですが、消費税は取引にかかる国税です。「売上代金とともに受け取った消費税」と「仕入代金などとともに支払った消費税」の差額を税務署に納めます。ただし、すべての事業者について消費税の納税義務があるのではありません。前々年の売上が1000万円以下のような小規模な事業者は、納税義務が免除されています。1月1日から12月31日までの消費税を翌年3月31日までに申告して納税します。

・印紙税
領収書、契約書など印紙税の課税対象となる書類を作成したときには、印紙税を納める必要があります。印紙税は書類に収入印紙を貼付し消印することで納付します。収入印紙は郵便局等で販売しています。国税で特に申告の必要はありません。収入印紙を買うことで印紙税を納めたことになります。領収書を発行するときには注意してください。受取金額が5万円以上(平成26年3月31日以前は3万円以上)の領収書には印紙を貼る必要があるからです。

・源泉所得税
従業員を雇っている方に納付の義務が生じる税金です。したがって従業員を雇っていない方は心配いりません。給料やデザイン料など一定の報酬を支払うとき、所得税を天引きして預かります。この天引きする税金のことを源泉所得税といいます。国税で「所得税徴収高計算書」という納付書に税額などを記入し金融機関で納付します。

・償却資産税
器具備品や機械装置などの資産を150万円以上所有している方にかかる税金です。購入時に消耗品費に落としているものは課税対象になりません。なお、150万円の判定は購入価格でなく評価額で行います。市税(東京23区は都税)でその年の1月1日における資産の所有状況を固定資産税(償却資産)の申告書に記入して申告します。税額は市役所(東京23区は都税事務所)から通知されます。

役所が税額を通知してくる税金

・市県民税
個人事業の儲けにかかる税金です。住民税ともいわれている地方税で、市役所が窓口になります。所得税の確定申告をするとその内容が税務署から市役所に伝達されるので、申告する必要はありません。6月ごろ市役所から税額が通知されます。

・事業税
個人事業の儲けにかかる税金です。儲けが290万円以下の方は免税になります。県税です。市県民税と同様に所得税の確定申告の内容が税務署から県に伝達されるので、申告する必要はありません。8月ごろ県税事務所から税額が通知されます。

・従業員の住民税
従業員の給料を支払うとき、源泉所得税と同様に従業員の市県民税を天引きして預かり、納付しなければなりません。特別徴収といいます。源泉所得税は事業主が税額を計算した金額を控除しますが、住民税は市役所から差し引く税額が通知されます。通常は6月ごろ通知があります。

フリーで仕事を始めたらまっさきに読む「経理」「税金」「申告」の本(単行本)

著者:笠原清明
定価:1680円(税別)
発行日:2014年11月27日
ISBN:9784844373865
ページ数:288ページ
サイズ:B5変形
発行:株式会社クロスメディア・パブリッシング
発売:株式会社インプレス