“文書版YouTube”米Scribd社Adler社長インタビュー

文書共有サービス「Scribd」のビジネスモデルと今後の展望

 米Scribdは、インターネットで文書が共有できるサービス「Scribd」を2007年に提供開始。「Scribd」にアップロードした文書ファイルは瞬時にFlashに変換され、簡単に閲覧できるうえ、ブログに埋め込むことも可能だ。その簡単便利な使い勝手と共有サービスであることから、「Scribd」は“文書版YouTube”と言われる。

 米Scribdはさらに、ユーザーが作成した文書を販売できるオンラインストア「Scribd Store」を2009年5月に開設。基本的に文書をアップロードして値段を設定するだけの簡単操作で文書を販売できる「Scribd Store」は、文書の新しい流通方法として注目を集めている。

米Scribd社CEO兼CofounderのTriip Adler氏

 Amazon.comのKindleも話題となっているが、誰もがパブリッシュできるオープンな環境を提供するという点で、「Scribd」はKindleのように商業出版物を電子化する流れとはアプローチがまったく異なるものだ。

 サンフランシスコで、「Scribd」を提供するScribd社を訪問し、社長のAdler氏にインタビューすることができた。2010年は、日本における「電子出版元年」になると言われている。IT革命という視点では、Kindleよりも革新的と言えるScribd社の構想について伺った。

だれでも手軽に出版できたら、もっともっと便利になる

――まず最初に、“Scribd”の読み方について日本のブログなどで話題になっています。何と発音すればいいのでしょうか?

Adler氏:
 米国でも「スクライブド」と発音する人もいますが、「スクリブド」と読んでください。

――なぜこのサービスを作ろうと思ったのかから、教えてください。

Adler氏:
 私の父は外科医なのですが、父が専門書を出版するのを見て大変そうだなと思っていました。オンラインならばもっと簡単にできるのに、と思ったのです。父だけではなく、祖母の料理のレシピや学校のプリントなどもパブリッシュできるようになれば、もっともっと多くの人たちが便利になるだろうと思いました。

――Scribdの現在の状況を教えてください。

Adler氏:
 この半年間でユーザーは2倍になり、1500万ユーザーを獲得しました。コンテンツは、350億ワードのテキストと多くのビジュアルがこのサイトに登録されています(データはいずれも11月時点)。これらのドキュメントは完全にソーシャルに共有されていて、お互いの文書にコメントを付けることもできます。

一番の特徴は「ソーシャルであること」

――Scribdの主な特徴はどんなところでしょうか?

Adler氏:
 一番はソーシャルであることです。プロフェッショナルでない素材・教材なども、書籍・雑誌・新聞などの商業コンテンツと同じように蓄積され、ソーシャルアプリケーションで共有できます。

 つまり、グーグルやヤフーなどのサーチエンジンでもこれらのコンテンツにアクセスできるのです。また、Facebook、Twitterなどのソーシャルアプリケーションとも連動しています。

 さらに、Kindle、iPhone、ソニーリーダーなどのモバイルデバイスでもアクセスすることができ、そしてこれらのコンテンツはプリントすることもできます。

 また、パブリッシュのプロセスが簡単なことが上げられます。ワンステップの操作でパブリッシュすることができるし、パブリッシュされたドキュメントは簡単な手順で誰とでも共有することができます。

――対応しているファイル形式について教えてください。

Adler氏:
 アップロード/ダウンロードフォーマットともに、PDF、Word、Execl、PowerPoint、テキスト、オープンオフィスなどをサポートしています。それらのファイルはすべてFlashに変換され、ユーザーはWebブラウザーで閲覧できます。

――ePubフォーマット(※注)はどうですか?

Adler氏:
 ePubフォーマットは出版社では流行っていますが、一般ユーザーにとってはそうではないと思います。まずは一般ユーザーに対し、用途に応じてさまざまな形式で扱えるようにしたいと考えています。表示をFlashにしたのも、一般ユーザーがWebブラウザーで見るのに、Flashならば特別のプラグインを入れなくても済むからです。

※注)IDPF(International Digital Publishing Forum、国際電子出版フォーラム)が普及促進するXMLベースの電子書籍のオープンフォーマット「OEBPS Container Format(OCF)」のこと。ファイルの拡張子が.epubのため、一般に「ePub」と呼ばれる。米Sonyが販売する電子書籍端末「PRS-700」などはEPubに対応しており、米Sonyが運営するebook store(http://ebookstore.sony.com/)もePubに対応している。
オフィスの片隅には社員が遊ぶというカートが置いてあった。いかにもベンチャーらしい雰囲気。

取り分はコンテンツホルダーが80%、Scribdが20%

――コンテンツホルダーとの取引条件は?

Adler氏:
 コンテンツホルダーが販売価格の80%を取り、Scribdが販売価格の20%を手数料として受け取ります。ちなみに、Amazon.comとの違いは価格付けと内容を、コンテンツホルダーがいつでも変更できることだと思っています。これはテストマーケティングに使えるし、データ更新も気軽にできます。

――12月なかばに参加出版社は150社になりましたが、最初に参加した出版社はどこだったのでしょうか?

Adler氏:
 このシステムを使用した最初の大手出版社は、Simon & Schuster(サイモン・アンド・シュースター)だったと思います。現在では多くの出版社に利用していただいています。また、MITの出版部門やシカゴ大学などアカデミックのお客様も重要だと考えています。米国で著名な技術出版社のO'Reilly(オライリー)社もScribdを利用しているんです。

――商業出版コンテンツの占める割合は? また、有料コンテンツの割合は?

Adler氏:
 商業出版社の比率は正確には調べていないのですが、小規模なコンテンツプロバイダーが圧倒的に多いので、それほど高くはないと思います。有料コンテンツも15%程度で、多くは無料コンテンツです。

――DRM(Digital Rights Management)には対応しているのでしょうか?

Adler氏:
 出版社がDRMを望むのであれば、提供することができます。ただ、いつでも、どこでも、どんなデバイスからでも情報を共有できるということに意味があると考えています。実際、現状ではDRMを使っているコンテンツはとても少ないと思います。

これまで取材された記事が額に入れられて飾ってあった。一番手前は中国の記事。

日本向けの展開は?

――日本語対応や日本での決済は可能ですか?

Adler氏:
 すでに19か国語に対応していて、日本語のコンテンツも扱うことができるはずです(編集部注:実際には日本語環境では表示が崩れることがある)。ただ、今は米国で購入することを前提としており、他の国から決済することはできません。どの地域でビジネスをしたいかは、それぞれのパブリッシャーによると思うし、権利関係の問題も存在します。まずは、米国市場をから始めて徐々に広げていきたいと考えています。

ビジネスモデルは広告がメイン

――売上モデルや事業概況について教えて頂けますか?

Adler氏:
 ビジネスモデルは広告が主です。現在の収入のほとんどは、Google Adsenseによるものです。Scribdのコンテンツはテキスト形式が主なので、広告とのマッチングが非常によく、マネタイズしやすいのです。

 一方のストアー(販売)売上はまだまだ小さい。ただし、毎月1.5倍の勢いで伸びてきており、今後は期待できます。現在のメンバーシップは無料ですが、将来はプレミアムサービスを開始しようと思っています。

 Scribd社は未上場企業なので売上などの数値は公表していませんが、事業はとても順調で、この第2四半期で黒字になりました。創業時に、約13億円のベンチャーファンドを受けているのですが、とてもユニークだと評価されています。

「パブリッシャーと読者を直接結び付けたい」

Adler社長。ハーバード大卒とのことだが、気さくな感じでインタビューに答えてくれた。

――今後の計画や抱負があれば、教えてください。

Adler氏:
 これまでは出版流通などの仕組みがありましたが、デジタルデバイスを使った情報流通では、パブリッシャーと読者とを途中に誰も介在させないで直接に結び付けたいと考えています。

 読者が情報を買うということは、パブリッシャーと読者がお互いに結び付くということで、すばらしいことだと思います。

 コンテンツ流通という観点では、すでにKindle、Kindle for PC/Macなどがあります。ただ、Webベースでの情報流通は、一度パブリッシュするだけでどのようなデバイスでも見ることができる、クロスメディアの可能性を示唆しています。これは、まだ誰も実現できていないのではないでしょうか。

――ありがとうござました。


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(取材&執筆:インプレスR&D 発行人 井芹昌信)

2010/1/25 06:00