月額490円でここまで使える! Debian対応の「ServersMan@VPS」を試用してみた


 今年、日本のレンタルサーバー界隈で「格安VPS」が注目を集めている。

 ここ数年、海外事業者などが提供する1000円前後の仮想専用サーバー(VPS)が、一部のパワーユーザー層に使われてきた。そこにドリーム・トレイン・インターネット(DTI)が4月に、「ServersMan@VPS」で参入。月額490円・初期費用無料という、海外の事業者よりも安い価格で、国内の事業者からサービスが提供されることで、業界に衝撃を与えた。

 さらに、ServersMan@VPSは、サービス開始後も毎月サービス内容の増強を続けており、既に契約しているユーザーに対しても追加料金なしで提供されている。

 10月には、既に契約しているユーザーも対象としてドメイン登録料無料キャンペーンを実施している。契約してからもお得感が続くのは嬉しい。また、10月20日には、Debian GNU/LinuxがOSとして選べるようになった。そこで今回は、従来のCentOSの環境と新しいDebianの環境とを使い、独自の機能や使い勝手を試してみた。

ServersMan@VPS。初期費用0円・月額490円で利用でき、10月31日までは2カ月の無料期間が設けられている

「安い」は強い魅力

 ServersMan@VPSの最大の魅力は、身も蓋もない言い方だが「安い」ことだ。いちばんベーシックな「Entryプラン」は月額490円で利用でき、格安VPSサービスの中でも特に安い。さらに10月31日までは、2カ月の無料期間が設けられている。

 年間で合計すると、無料期間を除いて計算しても490円×12か月=5880円。例えば月額1000円のサービスを仮定すると、それより6120円安い。また、自宅サーバーを24時間動かす場合と比べても、サーバーの電気代は比較的低消費電力なマシンでも月額250円程度(Atomマシンで概算)から360円程度(Core Duoマシンで概算)かかる。さらにサーバー本体の費用やルーターなどの費用、空調なども考えると、月額490円は単純に安い。

 格安VPSの用途の1つとして、個人でウェブのサービスを試験的に立てる目的が挙げられる。そんな「試しにやってみよう」と思い立ったときに、勢いで始められるハードルの低さが、この価格にはある。

 なお、ServersMan@VPSには、Entryプランのほかに、上位のStandardプランとProプランもある。Entryプランがメモリー最大512MB(256MB保証)のところ、Standardプランが月額980円で最大1GB(512MB保証)、Proプランが月額1980円で最大2GB(1GB保証)となっている。下位プランから上位プランであれば、ディスクのデータをそのまま引き継いだまま移行できるので、Entryプランから始めて規模が大きくなったら上位プランに、ということもできる。

ServersMan@VPSの各プラン

新登場のDebian環境を試す

 ServersMan@VPSでは、10月20日からOSとして、CentOSに加えてDebian GNU/Linuxも選べるようになった。

 Debianは、Red Hat Linuxと同じぐらい長い歴史を持つプロジェクトだ。Linuxディストリビューションの多くは、Red Hat LinuxまたはDebianの流れをくむものが多く、CentOSやFedoraはRed Hat系、UbuntuはDebian系に位置付けられる。

 DebianとCentOSとでは、設定ファイルなどのシステム管理体系が異なる。慣れているほうを選べるのはLinuxを使っているユーザーにとってありがたい。

 慣れの問題を除くと、筆者が考えるDebianのメリットは、ソフトウェアパッケージの多さだ。CentOSは商用LinuxのRed Hat Enterprise Linuxのクローンであり、Red Hat社の選んだソフトを収録している。一方、DebianはコミュニティベースのLinuxディストリビューションであり、できるだけ多くの選択肢を提供するという方向性だ。

 ServersMan@VPSでDebianを使いたい場合、新規ユーザーの場合には申し込み時にCentOSとDebianが選択できる。既存ユーザーの場合も、会員情報・手続きページの「MyDTI」でOSの変更が行える。ただし、OSを変更した場合にはサーバーが初期化され、データが消えてしまう点には注意しよう。

「MyDTI」の画面から既存ユーザーもOSの変更が可能

 実際にServersMan@VPSにログインして、ソフトウェアパッケージ数を調べてみた。標準リポジトリに入っているソフトウェアパッケージは、CentOSでは3518個、Debianでは2万2938個。実際にはパッケージの粒度の違いなどもあるが、Debianのパッケージ数の多さがわかる。

 CentOSもDebianも安定指向(リリース後にソフトウェアのバージョンを上げないこと)のため、リリース時期の違いにより収録ソフトウェアのバージョンが異なる。代表的なソフトウェアのバージョンを、ServersMan@VPSで設定されているレポジトリでそれぞれ調べてみた。

【各ソフトウェアのバージョン】
ソフトウェアCentOSDebian
libc2.52.7
coreutils5.976.10
openssh4.35.1
Apache HTTP Server2.2.32.2.9
MySQL5.0.775.0.51
PHP5.1.65.2.6
Ruby1.8.51.8.7
Perl5.8.85.10.0

 なお、ServersMan@VPSは、1つのOSカーネルの上であたかも複数のOSが動いているかのように世界を分ける、コンテナ型の仮想化技術を採用している。そのため、Debian環境にログインしてLinuxカーネルのバージョンを調べたところ、CentOS用のLinux 2.6.18と表示された。

IPv6のウェブサーバーを立ててみる

 ServersMan@VPSを運営するDTIは、古くからインターネット接続サービスをしている。そのため、回線や管理などに安心感があるし、アナウンスやユーザーサポートが日本語というのも気安さがある。また、サーバーが国内にあるのもネットワーク上の近さのメリットがある。

 最初からIPv6アドレスが割り振られているのも特徴だ。IPv4アドレス枯渇でIPv6に移行しよう、と言われるが、実際のところ試す環境を作るのも難しいため面倒というのが正直なところだ。最初からIPv6アドレスが割り振られていれば、ネットワークの構築や設定を省略して、サーバーやアプリケーションのところから試せる。サーバー構築やウェブアプリケーション開発でIPv6対応を経験しておきたい技術者や、他人にさきがけてIPv6対応サーバーを公開してみたい新しい物好きの人には、手頃な実験環境として使えるだろう。

 試しに、Apache HTTPサーバーの仮想ホスト機能を使って、IPv4からアクセスしたときとIPv6からアクセスしたときとで違うウェブサイトを表示するよう設定してみた。IPアドレスベースの仮想ホストの設定で、それぞれIPv4のIPアドレスとIPv6のIPアドレスを指定する方法だ。

 ここではDebian環境で設定してみた。Debianでは、「/etc/apache2/sites-available」ディレクトリに1ファイル1仮想ホストで設定を置き、a2ensiteコマンドを使って仮想ホスト単位で有効にするようになっている。そこで、デフォルトのホスト設定をコピーして新しい仮想ホスト設定を作り、IPv6用仮想ホストの設定に書きかえ、a2ensiteコマンドで有効にしてApache HTTPサーバーを再起動した。

同じサーバーで、IPv4でアクセスしたとき(左)とIPv6でアクセスしたとき(右)とで違うページを表示してみる。Apache HTTPサーバーでIPアドレスベースの仮想ホストを設定した

レンタルサーバー感覚でも使える

 ServersMan@VPSは、Linuxサーバーの管理知識がないユーザーでも、レンタルサーバー感覚で使えるのも特徴だ。一般的な格安VPSでは素の仮想サーバーを貸して、ユーザーが自分でLinuxサーバーとしてセットアップすることが多い。

 ServersMan@VPSでは、セットアップされた状態でユーザーに渡されるほか、サーバーソフトウェアをあらかじめセットアップした「セットパッケージ」も用意している。素のサーバーに近い「シンプルセット」のほか、オンラインストレージを想定した「ディスクセット」、PHPなども使える「ホームページセット」がある。なお、ウェブサーバーのApache HTTPサーバーはいずれのセットでも初期インストールされている。

 StandardプランとProプランでは、インターネットサーバーとしての機能がひととおりセットアップされた「エンジニアセット」も用意されている。メールサーバーやDNSサーバーといった基盤まわりから、メーリングサーバーやウェブメールのサーバーまで最初からインストールされる。MySQLやJava、Tomcatといったウェブアプリケーションのためのソフトウェアも用意されている。

 なお、Debianの場合は、自分の好きなようにカスタマイズ出来る仕様のシンプルセットのみが提供されている。

サーバーソフトウェアをプリインストールするセットパッケージも用意される

プロ仕様のツールでウェブからサーバー管理

 エンジニアセットでは、ウェブからもひととおりのサーバー管理ができる。このウェブからの管理画面は「BlueOnyx」というツールだ。BlueOnyxは、レンタルサーバーなどで使われていたCobaltアプライアンスサーバーの技術が元になった、プロ仕様の管理ツールだ。

 BlueOnyxからは、ウェブサーバーの設定などにとどまらず、メールサーバーやDNSサーバーの設定、IPアドレス割り当て、ログの確認やログ解析、プロセス一覧など、ひととおりの管理作業がウェブからできるようになっている。yumによるOSのアップデートもBlueOnyxから設定できる。

 変わったところでは、ウェブブラウザーからJavaで作られたSSHクライアントを呼び出す機能もある。自分のSSHクライアントの入ったPCが手元にないときに、SSHログインしてサーバーを管理する必要がある場合に使えるだろう。

BlueOnyxでウェブサーバーを設定BlueOnyxでメールサーバーを設定。SMTPサーバーのほか、IMAPサーバーやPOPサーバーなども
ログイン失敗のログをBlueOnyxから確認。不正アクセスしようとした跡がわかるサーバーで動いているプロセス一覧もBlueOnyxから確認できる
OSの自動アップデートの設定。デフォルトでオンになっている「Remote Access」タブからSSHクライアント「Mindterm」を呼び出せる

 また、「仮想サイト」も作成できる。仮想サイトは、ウェブやメールなどの仮想ホスト機能をまとめて設定し管理するものだ。また、仮想サイトの中に一般ユーザーも作成でき、SSHなどでログインできるようにも設定できる。

 仮想サイトのデータは「/home/site」以下に各サイトごとのディレクトリに保存され、設定は各ソフトの設定ファイルに保存される。

画面上部の「サイトの管理」タブから仮想サイトを追加できる仮想サイトの設定画面。ウェブやメールの仮想ホストのほか、一般ユーザーも作成できる

 なお、BlueOnyxを使う場合、通常のApache HTTPサーバーとは別のApache HTTPサーバーが動作する。そのぶん、メモリー等を少し消費することには注意が必要だ

オンラインストレージ機能が標準搭載

 ServersMan@VPSは、オンラインストレージ機能「ServersMan」が標準で動いている。DTIの親会社であるフリービットが提供しているオンラインストレージサービス「ServersMan」と連携しているものだ。少々ややこしいが、ServersMan@VPSのユーザーが、自分のアカウントでServersManサービスにアクセスすると、ServersMan機能によって、ServersMan@VPSの仮想サーバーのディスク領域を利用できる。

 ServersManのオンラインストレージは、ウェブブラウザーでアクセスするか、HTTPを利用してファイルサーバーにアクセスするWebDAVプロトコロルで利用できる。WebDAVというと難しそうだが、Windowsには標準で「ネットワークの場所」または「ネットワークプレース」という名前でWebDAVクライアント機能が付いていて、エクスプローラーから通常のフォルダーと同じように開けるようになっている。また、Macでも標準で「サーバへ接続」機能によりフォルダーとして開ける。

 ただし、Windows 7では、ServersManのサポートページを参考にWindowsのレジストリを変更するか、サードパーティのWebDAVクライアントソフトを使う必要がある。ここではWebDAVクライアントソフトの例として、サポートページで紹介されているdddavで接続してみた。

WindowsのエクスプローラーでServersManのフォルダーを開くWebDAVクライアント「dddav」でServersManのフォルダーを開く
ウェブブラウザーでServersManのフォルダーを開く

 なお、ServersManにアップロードされたファイルは、仮想サーバーの/opt/serversman/web/htdocsディレクトリに保存される。

ウェブアプリケーションとServersManを連携させる

 せっかくのVPSなので、ウェブアプリケーションを試してみよう。

 ここでは、ウェブベースのフォトアルバム「JuxtaPhoto」をインストールしてみた。JuxtaPhotoはPHPベースのオンラインフォトアルバムで、スライドショー機能やRSS配信機能を供え、デザインもスッキリとしている。

 このフォトアルバムとServersManのオンラインストレージ機能を連携させてみよう。JuxtaPhotoでは、「pending」ディレクトリに写真を置いておくと、管理画面からボタン1つでまとめてアルバムにコピーして登録してくれる機能がある。そこで、JuxtaPhotoとPHPの設定を変更し、ServersManのディレクトリの中の特定のディレクトリをpendingディレクトリとして認識するようにして変えてみた。これで、WebDAVなどからServersManのデイレクトリに写真をコピーしておけば、ウェブからボタン1つクリックするだけでアルバムに登録されるわけだ。

ウェブの管理画面から、ServersManに置かれた写真をまとめて登録登録された写真がフォトアルバムに表示される

 同じようにServersManとウェブアプリケーションを連動させることにより、たとえば写真のファイルを置くだけでアルバムに載せつつURLをtwitterなどに投稿する、といったことも比較的簡単に実現できそうだ。

 以上、ServersMan@VPSを実際に使ってみた。格安サーバーのカテゴリーにあるサービスとして、お金をかけずに腕をふるって自分の管理するサーバーを立てたい人が主なユーザーになるだろう。が、それだけではなく、さまざまな付加機能も付いていることから、それらを組み合わせることで「遊べる」プラットフォームになりそうだ。


関連情報

(高橋 正和)

2010/10/25 00:00