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特別企画

認識されなくなったハードディスクをデータ復旧サービスに出してみた


 本誌で撮影をお願いしている野内幸雄カメラマンは初秋のある日、写真を保存しているハードディスクがPCから認識されなくなっていることに気付いた。3年にわたって日記代わりに撮影していたという写真が入っていたハードディスクだ。なんとかしたいと思いつつ、「むやみにさわるのもまずそうだ」と手を出せずにいたという。

 そんなとき、本誌でデータ復旧サービス「日本データテクノロジー」(サイト名は「データ復旧.com」)を提供するOGID株式会社にインタビューすることになり、野内カメラマンが撮影を担当した。これを機会と、野内カメラマンが復旧サービスを依頼したので、事の次第をレポートしたい。

猫が原因!?

 まずは野内カメラマンに状況を聞いてみた。

 野内カメラマンは猫を飼っている。この猫が元気で、家の中を駆け回るため、よく机や棚から物が落ちるのだそうだ。

 ある日、ふと見てみると、作業机に置いてあった電話機がPCの上に落ちていた。不安を感じながらPCを立ち上げたところ、Windows XPの「マイコンピュータ」から、データの入っているドライブが1つ見えなくなっていた。

 慌てながらも、まず状況を確認したという野内カメラマン。デバイスマネージャから見ると、問題のディスクは認識されている。BIOSからも認識されている。しかし、「マイコンピュータ」や、Windowsの標準管理ツールの「ディスクの管理」では認識されなかった。

 続いて、ディスクを別のPCのSATAポートに接続してみたが、ここでも認識されなかった。「ここであきらめて、様子を見ることにしました。下手に手を出すと傷口を広げそうなので」と野内カメラマンは振り返る。このあと、冒頭のとおり、日本データテクノロジーに依頼することになったわけだ。

 なお、このドライブは日立製のSATA接続のハードディスクで、2009年5月に購入した。冷却その他のため、SATAケーブルを引き出してPCの上にむき出しで置いていたのだという。容量1TBのうち95%程度までデータを詰め込んでおり、そろそろどうにかしようと思っていた矢先の出来事だった。

野内カメラマンのHDD。冷却するためにSATAケーブルを引き出して、むき出しでPCの上に置いていた 野内カメラマンが飼っている猫。電話機をPCの上に落とした“犯人”と思われる

“問診”で見当を付ける

エンジニアの安藤佳晃氏。医者の問診のようにヒアリングする

 実際に、上記のような状況をまとめたレポートとハードディスクを事前に日本データテクノロジーに送った上で、同社エンジニアの安藤佳晃氏と話をした。通電したかを尋ねられたり、デバイスマネージャでは見えたという話を確認されたり、まるで医者の問診のようなやりとりが続く。

 「まず調べたところでは、通電、ヘッド、モーターとも、動作はしています」と安藤氏。「それでも中のデータが読めない状態ですので、基板が損傷しているかもしれませんし、ファームウェアが損傷しているかもしれません。いろいろな可能性があります」と冷静に告げる。

 「ただし、仮説ですが、ヘッドが弱っている可能性が高い確率で考えられます」。安藤氏によると、持ち込んだモデルのハードディスクでは「RAMチップ」という場所に設定情報が記録されているという。そして、ハードディスク起動時に異常が発生すると、起動プログラムが安全のため自動的にRAMチップの特定の場所にフラグを立てて、ディスクを読みに行かないようにするのだそうだ。その結果、ファームウェアなどハードディスクのシステム情報が読めなくなって、PCから認識されなくなる、という話だ。「このモデルでは多い現象で、ちょうど同じような症状になっているように見えます」。

 この仮説が正しければ、おそらく電話機が落下したことによるショックが原因で、ヘッドの動きが正常でなくなったのだろうという診断だ。このモデルのハードディスクには3枚のディスクに、6本のヘッドがあり、1本のヘッドだけが異常であれば6分の5のデータが、2本のヘッドに異常があれば6分の4のデータが取り出せる可能性があるという。

 「RAMの問題であれば、ハードディスクを開封せずにデータを復旧できます。一度開封すると復旧率が下がるため、まず開封しないで検証できるほうから仮説を立てます」という安藤氏の言葉も、ちょうど外科医の手術の話のようだ。

16進ダンプを指し「ここです」

 仮説を検証するため、クリーンルームで実際にディスクの調査にかかる。ハードディスクを接続しながら、ハードディスクを握った手で振動を確認したり、耳元に持っていって異音がないかを確認する。「スクラッチ(ディスクの傷)はありませんね。このモデルはスクラッチがあるとかん高い音が出ますので。メーカーやモデルによって、それぞれ障害時の音に特徴があります」と、素人には想像のつかない職人の技を安藤氏は説明する。

作業のためにクリーンルームに入る安藤氏 約1万種類のハードディスクの部品をストックして、修理や分析に役立てている

 ハードディスクを作業用PCに接続すると、ツールからRAMにアクセスして、内容を確認する。PCの画面にはRAMの内容の16進ダンプが一面に表示される。筆者には何のことかわからないが、安藤氏には手にとるようにわかるらしい。どこに何があるかの知識は、海外からハードディスクの権威を招聘して技術指導を受けて身に付けたものだという。ある個所を指さし「ここです。やはりフラグが立っていました」と説明しながら、そこの数字を書き換える。

ハードディスクを接続して診断する。動作音を聴いたり、手で振動を感じたりしながら症状を確認する 専用のツールでNVRAMの内容を16進ダンプで表示し、読み込みを禁止しているフラグを書き換える

 RAMのフラグを書き換えたら、別のツールでディスクのマップ情報を読み込み、セクター単位で読めるかどうか試す。すると、ディスクが読めることが確認できた。やはり仮説どおりだ。読める個所と読めない個所があり、やはり特定のヘッドの領域で読み込みに難があることがわかった。

 「あとは、問題のあるヘッドを動作させないようにして、問題のないヘッドの領域から負荷をかけないようにデータを吸い出します」と安藤氏。データの吸い出しに要する時間は、1TBのハードディスクの場合で約2日だという。急ぎの要件であれば、ファイル使用領域を特定してデータを抜き出すこともできるというが、「その方法はディスクへの負荷が高いので、必要なとき以外は使わない」のだそうだ。

 問題のないヘッドの領域からデータを吸い出した後には、ハードディスクを開封し、正常なヘッドと交換して残りを吸い出すということもできる。「ただ、このモデルはスクラッチ(傷)が起きやすいので、あまりお勧めできません」とのことだった。

ハードディスクを開封してヘッドを外すところを見せてもらった。まず開封した後、中のパーツを外していく
ハードディスクから基板を外すところ 取り外したヘッド部分。このモデルでは8つのヘッドからなる(野内カメラマンのHDDとは異なるHDDのヘッド)

 今回のケースでは、いったん問題のないヘッドの領域からデータを吸い出した後に、異常が発生したヘッド1本を正常なヘッドに交換。その上で、データの復旧を試みたが、想定した通り、ディスクには既に多少のダメージがあり、すべてのデータを復旧することはできなかった。

分解したハードディスク。プラッターから、ヘッドや基板などのパーツが外されている ハードディスクを開封するための七つ道具。エタノールで掃除するための綿棒やガーゼ、プラッターをはずすときの指サック、ハードディスクに付けるジャンパピンなど。爪楊枝は、ヘッドをプラッターの間に入れるときに間に挟む

復旧されたデータが届いた

 後日、復旧したデータが収録されたUSB接続の外付けHDDが野内カメラマンの自宅に届いた。外付けHDDにはこのほか、復旧できたファイル名と復旧できなかったファイル名をリスト形式にまとめたファイルが保存されており、依頼者はどのファイルが復旧されたかどうかがわかるようになっている。

 今回の復旧で救出されたデータは、フォルダ数が1818個、ファイル数が9万4167個で、ファイル容量は925GBに上る。野内カメラマンによれば、復旧されたファイルの一部は開けなかったり、破損していたものもあったというが、7割以上のファイルが復旧されており、「大事なデータをまた目にできてとても感謝しています」と満足げに語る。

 なお、データ復旧にかかる料金は、「必要なデータが復旧できなければ無料」という成功報酬制を採用している。料金が発生する「成功の定義」は、「顧客データ入りのExcelファイル」「マイピクチャフォルダ内の孫の写真」など、顧客ごとに事前に決めた上で復旧作業を行っている。

 復旧料金の最低金額は総ディスク容量が20〜40GBで1万5000円〜、40〜60GBで4万5000円〜、60〜80GB以上で5万円〜、80〜100GBで6万円〜、100GB以上で7万円〜となっている。これに復旧の難易度や工程数を反映させて料金を決定する。ハードディスクの初期診断費用は3万円だが、「ホームページを見た」と電話で問い合わせれば、初期診断費用は無料だ。

救出したデータが保存された外付けハードディスク(左)と野内カメラマンのHDDが届けられる 救出したデータが保存された外付けハードディスク

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(高橋 正和)

2011/1/13 00:00