インド最新インターネット事情2012~アクティブユーザーが1億人を突破


 インドは中国同様にアジアの人口大国という括りで括られがちだが、インターネットの利用実態は全く異なる。

 中国ではゲームやコンテンツ再生やチャットなど、娯楽やコミュニケーション用途をきっかけとして普及するのに対し、インドではコミュニケーション用途は同じだが、ビジネス用途から広がりつつある。

 また、中国は母国語の中国語簡体字のウェブサイトが2000年前後のインターネット黎明期からあったが、インドではインターネット利用者が英語サイトをメインで利用するため、インターネット利用には英語スキルが必要となるのが特徴だ。

 英語以前に識字率が高くはないインドでは、貧しく文字が読めないため、もそもIT機器を利用しようがない層が多くいる。一方で、インターネットはインテリだけのものとなっている(もっとも、利用層偏りについて言えば、中国は中国で、5億3800万人というインターネット人口を抱えながら、文化大革命の影響で、若者しかインターネットを利用しないという特異な状況となっている)。

 さて、そんなインドでは、IAMAI(Internet & Mobile Associaton of India)のレポートによると、2012年6月末の時点で、高頻度で利用するアクティブユーザーは前年比16%増の1億3700万人とのこと。近年一気に増加した感があるが、その背景をレポートから読み解いてみよう。

携帯電話2台持ちのインド人ムンバイのキャリアショップ


アクティブユーザーは1億人超、PCが利用できる人は2億人超

 IAMAIが発表したレポート「Internet in India 2012」によれば、インドの人口11億7200万人中、2012年6月末時点でのインターネットユーザーは1億3700万人(利用率は約11.7%)で、うち月に1度以上利用するアクティブユーザーは1億1100万人(同約9.5%)。またコンピューターリテラシーがある人は2億300万人(人口の17.3%)。

 携帯電話利用者は9億5100万人(同81.1%)。細かい機能まで使いこなす人は多くないが、通話、音楽、カメラ機能へのニーズは高く、ITリテラシーのない人でも使える人はいる。ただ、携帯電話でのインターネット利用になると6300万人(同5.4%)、うちアクティブなユーザーは4300万人(3.7%)とずっと少なくなる。

 インド全体におけるインターネットの利用用途(複数回答可)は、都市部では「メール(87%)」「SNS(67%)」「チャット(61%)」はいずれも半数以上のユーザーが利用しており、コミュニケーション用としての需要が高いことがわかる。続いて、「音楽・ビデオ・写真(49%)」「検索(42%)」となっている。

 また、インターネット利用のきっかけとなるトリガー(複数回答可)は「メール(57%)」「SNS(30%)」「検索(18%)」「教育(17%)」「音楽・ビデオ・写真(15%)」となっている。メールがよく利用されているインドでは、インターネット利用頻度は高くなっているが、それでも「毎日(54.0%)」と応えるユーザーは5割強。「1週間に4~6回(14%)」「1週間に2,3回(16%)」「週に1回(9%)」など毎日は見ないユーザーも半数近くいる。

インターネット利用者の利用頻度インターネット利用者別の習熟度


インターネット利用のハードルがまだ高い農村部

 アクティブユーザーのうち8000万人が都市部の住民で、残り3100万人が農村部の住民だ。

 特に8大都市(ムンバイ・デリー・コルカタ・チェンナイ・ハイデラバード・バンガロール・アーメダバード・プネー)ではインターネット利用率は高く、ムンバイでは830万人、デリーでは600万人がインターネットを利用している。IAMAIによれば、年内にインターネットユーザーは1億5000万人まで、アクティブユーザーは1億2200万人まで増えると予測している。

インターネットユーザーを世代別男女別で分類インドの各大都市のインターネット利用実態

 農村部でのインターネット利用率の低さはリテラシーの低さも影響している。IAMAIが発表した「Internet in RURAL India 2012」によれば、インドの農村部の人口8億3300人のうち、コンピューターリテラシーがあるのは1割未満となる7000万人(農村部の人口の8.4%)で、インターネットユーザーは3800万人(同4.6%)、うちアクティブユーザーが上述した通り3100万人(同3.7%)となっている。

 携帯電話利用者は3億2300万人(同38.8%)で、うち携帯電話によるインターネットユーザーは僅か360万人(0.4%)となる。

ムンバイのキャリアショップ携帯電話2台持ちのインド人

 インターネットを利用しない理由は、「PCやインターネットが分からない」というリテラシー面、「(学校にも)PCがない」「電話線がない」「電気がない」というインフラ面、「必要に感じない」というモチベーションそれぞれによるもの。

 農村部のインターネット利用者の利用環境は厳しい。インターネットを利用する場所は「村から10km以上遠方のコミュニティサービスセンター(略称CSC)やネットカフェなどの施設(29%)」が最も多く、以下「村から10km以内のCSCやネットカフェなどの施設(27%)」「家(19%)」「友人宅(16%)」「モバイル(12%)」「村役場(10%)」「専門学校(7%)」と続く。

 インターネットカフェは1時間12ルピー(約18円)で、高い値段ではないものの、その遠さからアクセスの難しさが課題となっている。また、農村部といえどもインターネット利用時に使う言語(複数回答可)は「英語(79%)」「ヒンディー語(32%)」「テルグ語(21%)」「タミル語(8%)」「マラーティー語(5%)」と英語が圧倒的に多い。このため、“英語が読めないとインターネットがフルに活用できない”という状況はまだ続いている。今年に入ってようやく、人気サイトのひとつYahoo! Indiaで各公用語コンテンツが作られ始めた。公用語コンテンツが増え続ければ、インターネット利用の敷居が低くなろう。

インドのインターネットカフェの店内

 コミュニティサービスセンター(CSC)とは、政府や企業による農村でのインターネット普及を目的とした施設。各地で導入され、農村部のインターネットユーザーのうち57.7%がCSC利用経験があるというが、各農村から平均で6.6km離れているとされていて、さらなる導入の必要性をレポートでは説いている。利用用途(複数回答可)は「教育(81%)」「商業サービス(45%)」「電信サービス(43%)」「旅行(30%)」「金融(25%)」「政府サービス(24%)」「農業サービス(11%)」「医療サービス(7%)」となっている。

 とはいえ、農村部のインターネットユーザーが最も利用したいのは、音楽や動画やゲームなどの娯楽系サービスやコミュニケーションサービスだ。このニーズは現在のインテリが主流のインターネット利用用途とは異なる。

都市部のインターネット利用者農村部のインターネット利用者
CSCに関するニュースインターネット利用者は大都市から小都市・農村へ広がっている


インド地場メーカーがスマートフォンやタブレットをリリース

 9月に発表したTRAI(Telecom Regulatory Authority of India)の調査結果によれば、ブロードバンド利用戸数は7月末の時点で前年同期比17.4%増の1468万戸。利用者の多いプロバイダーは「BSNL (936万、シェアは63.7%)」「Bharti Airtel (137万、同9.3%)」「MTNL(108万、同7.3%)」となっている。固定電話利用者は都市部で2413万、農村部で720万、合計でも3133万と有線のブロードバンドでの普及には限界がありそうだ。

 対して、成長の期待が持たれているのが携帯電話だ。携帯電話加入者数は都市部が5億7890万、農村部が3億3458万で、合計9億1349万。ところが調査統計によれば前月比で2061万減となっている。これについてインドのメディアは驚きつつも、長く使われていない番号を、大手キャリアのReliance Communicationsが大量に処理したからと分析している。 3G利用者は3900万。

携帯電話ショップ携帯電話利用者はどこにでも
電話代をチャージする店はそこら中にある携帯電話も腕時計や海賊版DVDやテレビとともに売られている

 端末面で見れば、スマートフォンもタブレットも低価格機種が登場している。インドのCyberMediaによれば2012年1月~3月までのインド向け携帯電話出荷台数は5020万台で、うちスマートフォンは270万台。

 また、同じくCyberMediaの調査レポート「Cybermedia's Voice&Data Annual survey of the industry 2012」によれば、出荷額別のインド携帯電話市場のシェアは年間で「ノキア」「サムスン」「Micromax」「ブラックベリー」「Karbonn」「HTC」「Spice」「LG」「ファーウェイ」「G'Five」の順。

 前年比ではサムスン、Karbonnが大幅増、ブラックベリー、LG、G'Fiveが大幅減となった。Micromax、Karbonn 、Spiceはインドメーカー、G'Fiveはインド市場をターゲットとした香港メーカーであり、地場メーカーが台頭してきている様子も伺える。地場スマートフォンメーカーは、安さを売りにする機種もリリースしているが、それだけではなく、Dual GSMスロット搭載のスマートフォンなど地元のニーズに合わせた機種もリリースしている。

 タブレットに関しては、同じくCyberMediaによると、2012年4~6月に55万台を出荷。地場のMicromaxがトップシェアで、サムスン、アップルがそれに続く。前述したインドのメーカーKarbonnが登場したほか、世界最安タブレットを謳い35ドルという低価格で話題になった「Aakash」、その競合製品となる「Classpad」「BSNL T-PAD」など、インド内外のさまざまなメーカーが登場した。タブレット端末は、ショッピングセンターなどでインテリ層が利用する姿も見かけるが、それだけではなく、低価格タブレットは教育市場向けとされる製品が多く、教育現場などで導入するニュースをよく聞く。

5000円を切るタブレットも続々登場郵便配達のスタッフにタブレットが配られるというニュース



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(山谷 剛史)

2012/10/15 06:00