インド最新インターネット事情


 久しぶりにインドに行った。大都市では雰囲気も洗練され、都市という都市で、携帯電話とコンピューター学校、英語学校の広告を以前に増して目にするようになった。都市が変わっていく一方、農村の風景はというと、中国の農村よりもさらに変化が少ないように見えた。

 最高気温が連日40度を超える中、ホワイトカラー層は外出を避けるので、ショッピングセンターや高級なエアコンつきレストランなどの屋内でしかお目にかかることはない。それでも、モバイル機器などのガジェットを使いこなしている人は結構見かけた。

 ここでは、現場での経験や見た光景と最新統計を交えて紹介したい。

 

人口で比較されるインドと中国だが、ネット普及率では大差が

 インドのInternet & Mobile Associaton of India(IAMAI)が発表したレポート「I-Cube 2009-2010 Internet in India」によれば、2009年9月時点でのインターネット利用者数は7100万人。うち月に1度以上利用するアクティブユーザーは5200万人で、7割以上を占める。農村部の利用者は1510万人で、月に1度以上利用するアクティブユーザーが1210万人。

州都クラスの中心部地方都市の町並み

 ちなみに、中国の2010年末でのインターネット利用者数は4億5700万人(参考記事: http://internet.watch.impress.co.jp/docs/news/20110119_421176.html )に達した。2010年の中国の人口は約13億4000万人、インドは4月の暫定発表で12億1千万人と報じられている。人口大国として比較されることの多い両国だが、インドが7100万人にとどまっているのに対して中国4億5700万人と、インターネット利用者数が人口に占める割合には大きな乖離がある。

 また、インドのTelecom Regulatory Authority of India(TRAI)が4月29日に発表した、インドにおける2010年末時点のインターネットや携帯電話など通信業界の最新の利用状況をまとめた「The Indian Telecom Services Performance Indicators」によれば、2010年末時点のインターネット契約数は1869万で、うちブロードバンド契約数は1099万。

インターネット利用者の推移(IAMAI)インターネット利用者の年齢層(IAMAI)
ブロードバンド・ナローバンド加入者数構成比インターネットアクセス回線の内訳。DSLが半数を占め最多

 ISPの数は利用者数100人以上で105社あり、インド全土で展開している企業もあれば、州や都市単位で展開する企業もあるが、契約数の半数以上が国営通信の「Bharat Sanchar Nigam Ltd.(BSNL)(http://www.bsnl.co.in/)」社をISPとして選んでいる。同社のADSLプランの一例をあげると、2Mbpsのスタンダードプランで月250ルピー(約450円)、24Mbpsのプランで月6999ルピー(約1万2600円)。

 TRAIによれば、地域別利用者数では多い順に、商都ムンバイのある「マハーラーシュトラ州」、チェンナイのある「タミルナードゥ州」、首都「デリー首都圏」、IT都市バンガルール(バンガロール)のある「カルナータカ州」、バンガルールに次ぐIT都市ハイデラバードのある「アーンドラプラデーシュ州」と続き、「南高北低」の傾向にある。

 中国でもそうであったように、利用者は4大都市(ムンバイ・ニューデリー・チェンナイ・コルカタ)に集中していた初期段階から、年を追うごとにより規模の小さな都市へと普及が進んでいる。

プロバイダー別利用者インターネット利用地域。青は大都市、紫は小都市(IAMAI)
BSNLのADSLスタンダードプラン。ダウンロード上限あり。2MBpsのプランで月250ルピー(450円)BSNLのADSLハイスピードプラン。24MBpsのプランで月6999ルピー(1万2600円)

 

インドのネット利用者では、まず聞かれるのがFacebookのID

 まず、筆者の今回訪ねた地域は東インド、北インドと呼ばれる地域であり、どちらかといえば普及の遅れた地域であることをお断りしておきたい。ムンバイやデリーやバンガルールなどではこれ以上にインターネットが普及していると思われ、今後行く機会があったらまたレポートしていきたい。

 今回実際に街歩きしてみて、インドにおいては「Cyber Cafe」と呼ばれるインターネットカフェはどこにでもあるわけではなかった。幹線道路や住宅地の裏道に点々とあり、見つかる頻度は中国や東南アジアよりもずっと低い。

Cyber Cafeの内部

 おまけに純粋なインターネットカフェは少なく、出稼ぎに行く家族・友人への電話か、国際長距離通話用の公衆電話サービスや、文書の印刷やコピーなどビジネスサービスを主業務にするインターネットカフェはよく見かけた。筆者の過去の経験から大学の周辺ならばあるだろうと思いきや、そこにもやはり「Cyber Cafe」はなかった。

ビジネスセンターに併設するCyberCafe

 もっとも、インターネットカフェは数こそ少ないが、店内はどこも中学生~若い社会人男性などの利用者で賑わっていて、不人気であるわけではないようだ。IAMAIのレポートによれば、インターネット利用者の37%がインターネットカフェで、23%が家庭で、30%が会社内で利用している。

 折りしも筆者が行ったこの時期は、しばしば最高気温が45度を超す最も暑い時期であり、エアコンがなく扇風機だけのインターネットカフェの内部は35度を超す。そんな中で多くの利用者がアクセスしているサービスの筆頭が、Facebookだ。筆者自身ネットユーザーと話してみて、必ずというほど言われるのはFacebookのアカウントの交換であった。続いてGoogleやYahooの利用者が多かったが、中国で人気の映像・音楽コンテンツ視聴者やオンラインゲームの利用者も少数だった。

大都市の繁華街にあるCyber Cafe住宅街にあるCyber Cafe
インターネットの利用場所(IAMAI)インターネットの利用頻度(IAMAI)

 

インドではビジネス用途メイン~人気サイトのほとんどが英語である点が普及の障壁に

 Alexaでインドの人気サイトを見てみると、やはりFacebookが筆頭で、Google、Yahoo、twitter、orkut、Bloggerなど米国発の人気サービスが続く。では、地場インド発のサイトは不人気なのか、というとそうでもなく、各新聞社によるニュースサイトは前述のサイトに続いて人気がある。

 新聞社の中には電子書籍化し、会員に対して毎日データで配信するところも。続いて人気なのが、さすがオフショア開発で知られるインドといおうか、フリーランサーや求職者向けのオペレーターから、SE上級職までIT関係の仕事のマッチングサイトが人気となっている。鉄道のオンライン予約サイトもあり、こちらも人気。もちろんエアインディアやジェットエアウェイズなど、インドの航空会社の航空券もオンラインで予約可能であるし、各航空会社の同日同都市間の価格比較サイトもある。

 こうした人気のサイトを含め使われる言語は主に英語だ。ヒンディー語だけのサイトは少なく、英語とヒンディー両方の言語、プラスその他の言語をサポートするサイトは少数派だ。米国やインドの掲示板サイト上でもインド人同士は英語で意見交換する。

 こうした状況からインドでは、英語を使えて教養がないとインターネットがそもそも利用できないという状況になっている。

インターネット関連の広告はビジネス系が多いインドの英字新聞のオンラインショッピングに関する記事

 

さらなる普及にはヒンディー語サイトの充実が課題か

 独立前はイギリスが植民地として統治していたこともあり、インドでは英語とタイプライター文化、それにつながるパソコンスキルが浸透していそうなイメージがあるが、IAMAIの「I-Cube ~」によれば、英語が話せる人は9100万人、パソコンスキルを持つ人は8700万人、教養ある都市住民は2億1700万人にすぎない。インドの人口をざっくり12億とすると、英語が話せる人、パソコンスキルを持つ人はともに1割もいないことになる。

PC利用者の推移(IAMAI)

 インターネット普及への今後の課題としては、ヒンディー語で提供される“小難しくないサイト”の充実が必要だろう。実際、ヒンディー語によるインターネット入門サイトも提供されている。

 日本や中国では「パソコンはインターネットにつながって当たり前」「パソコン=インターネット」といえるほどセットになっている感がある。しかしインドでは、前述の通りパソコンスキルがある人は8700万人、対してインターネット利用者は7100万人と、パソコンが使える人よりもインターネット利用者は1600万人も少ない。

 「ふだんの生活の中でパソコンは使うがインターネットは全く利用しない」という層が単純計算で1600万人もいることになる。街歩きをするに、おそらくはいい就職をするためにコンピュータスキルを学ぶ(専門)学校が多いからかと察するが、加えて一定数が街中の写真屋や文書作成の目的だけでインターネットカフェ(ビジネスセンター)を利用したりするのもあるだろう。

 

低い固定電話の普及率

 IAMAIのレポートによると、2009年におけるインターネットの利用用途(複数回答可)は、トップがメール(87%)、2位が一般情報検索(80%)、3位が教育学習情報検索(65%)となっている。チャットソフトのQQをキラーコンテンツとして、若年層中心にインターネット利用が広まったエンタメ色の強い中国とは真反対で、メールと情報検索という、ビジネス・実用メインで利用されていることがわかる。

 続いて4位が音楽映像視聴(45%)、5位チャット(40%)と娯楽用途が入ってくる。以後6位は仕事探し(33%)とオンラインゲーム(33%)が同率で並び、8位は金融情報(24%)、9位は鉄道チケット予約(18%)10位はニュース検索(16%)、11位ボイスチャット・インターネット電話(14%)、12位オンラインバンキング(12%)と続く。

 また、固定電話のインフラについては、固定電話が最初からそれなりに家庭にあった中国と比べ、インドの固定電話の普及率は低い。TRAIのレポートによれば、携帯電話契約数が7億5000万に達しているのに対し、固定電話の加入者数は3509万しかない。

携帯電話によるモバイルインターネットの利用用途街中でも広告をよく見かけるTATAのUSBモバイル通信アダプター「Tata Photon」
娯楽コンテンツがないわけではなく、インドのテレビチャンネルも視聴できるインドで人気のネットサービス名をプリントしたこんな服も発見。規制サイトが多い中国では着られない!?

 

モバイル機器+ワイヤレス通信がひとつのスタイルに

 今後のひとつの方向性として示されているのが、スマートフォンやタブレットPCや3Gのデータ通信カードによる普及だ。大都市でも中小都市でも、幹線道路沿いやショッピングモールで3Gのデータカードの広告(特に日本では車やアウトソーシングで知られる「TATA」の「Tata Photon」)を良く見かけた。

 ショッピングモール内にある富裕層向けのレストランでは、Galaxy Tabなどのタブレットユーザーも見かけた。また、ホテルやショッピングセンター内では公衆無線LANが利用できるところも多いのだが、利用にはそれなりの料金が必要なケースが多く、おおむね富裕層向けと言ってよいだろう。

 PC売り場やPCメーカーのサイトを見る限りノートPCが売れ筋であり、モバイル通信の普及にともない、モバイル機器+無線通信がインドにおけるインターネット利用スタイルとして定着していきそうだ。

BSNLのデータカードの広告街中でも広告をよく見かけるTATAのUSBモバイル通信アダプター「Tata Photon」
BlackBerryが人気のようで、街中で使っている人よく見かけたPCといえばノートPCのようだ

 


関連情報


(山谷 剛史)

2011/6/7 06:00