SSDやioDriveモデルも最速10分納品、「さくらの専用サーバ」新シリーズについて聞く


 さくらインターネット株式会社は、専用サーバー型のホスティングサービス「さくらの専用サーバ」において、新たに7月31日より「エクスプレスG2シリーズ」を開始した。

 これまで、さくらの専用サーバでは、申し込みから最速10分で利用できる「エクスプレスシリーズ」(月額9800円~)と、多様なカスタマイズが可能な「フレックスシリーズ」(月額2万7675円~)の2種類のメニューを提供してきた。

 今回のエクスプレスG2シリーズは月額1万9800円からで、料金的には既存2コースの間にあたるが、初期費用0円で使い始められる点が特徴となっている。また、これまではフレックスシリーズでしか利用できなかった、Fusion-io社の超高速ストレージ「ioDrive」を搭載したサーバーも選択可能となっている。

 「さくらの専用サーバ」やエクスプレスG2シリーズの狙いについて、同社社長の田中邦裕氏と、開発部マネージャーの加藤直人氏に話を聞いた。

「さくらの専用サーバ」料金表
シリーズ月額料金初期費用ストレージCPUメモリ
エクスプレス
シリーズ
9,800円79,800円HDD SATA 1TB(RAID1)Xeon E5620 2.40GHz標準16GB
最大64GB
11,800円99,800円Xeon E5645 2.40GHz
13,800円119,800円Xeon E5620 2.40GHz
エクスプレスG2
シリーズ
19,800円0円HDD SATA 1TB(RAID1)Xeon E3-1230V2 3.30GHz標準16GB
最大32GB
20,800円HDD SAS 600GB(RAID1)
21,800円SSD Intel 330 180GB
(RAID1)
49,800円HDD SATA 1TB(RAID1)
ioDrive 320GB
フレックス
シリーズ
(構成例)
27,675円199,800円NL-SAS 2TB×2Xeon 6Core 2.40GHz16GB
49,950円SSD Intel 320 600GB×2Xeon 6Core 3.06GHz32GB
90,700円SSD Intel 710 100GB×4
+ioDrive 320GB
Xeon 6Core 3.06GHz64GB

「中身を意識する必要がない」クラウドと「中身を意識することができる」専用サーバー

さくらインターネット社長の田中邦裕氏(右)と、開発部マネージャーの加藤直人氏(左)

―― 新しい専用サーバーサービスを2月に始めた背景と、今回のエクスプレスG2シリーズについて聞かせてください

田中:北海道の石狩に、電気を十分に使え、広い土地を柔軟に使えるデータセンターを建てたことで、それを活かした専用サーバーとして始めました。

 サービス開始時には、2Uに4台入るHP DL2000サーバーを使って最速10分で利用できる「エクスプレスシリーズ」と、2UでHDDも拡張できるDELL R510サーバーを使った「フレックスシリーズ」の2つに限られていました。今回のエクスプレスG2シリーズは、富士通の1Uサーバー「PRIMERGY RX100 S7」を採用して、ラインナップを広げました。このPRIMERGY RX100はこれまで、弊社で数千台規模で使ってきた機種の後継機種です。

 今度のエクスプレスG2シリーズは、エクスプレスシリーズと同じく10分納品で、よりハイスペックなサーバーを、フレックスシリーズより安価に使えるサービスにしました。同時に、初期費用をなくして負担を減らしたのもポイントです。

 Fusion-io社のioDriveも10分納品で使える点も特徴で、パフォーマンスを意識しています。一時期、専用サーバーの安価なサービスが各社から提供されたことがありましたが、VPSやクラウドサービスが登場したことで消えていきました。われわれは、クラウドではできないパフォーマンスや、構成の自由度で専用サーバーを差別化していくつもりです。

―― やはりユーザーは、パフォーマンスを求めて専用サーバーを選ぶのでしょうか

田中:パフォーマンスは大きいですね。絶対的なパフォーマンスだけではなく、クラウドではパフォーマンスが環境に左右されて自分でコントロールできない部分があるので、ユーザー自身でチューンしたい方が専用サーバーを選ぶということがあると思います。

 あとは物理的に占有したいというニーズですね。ハイパーバイザーも入らない形で、抽象化もしてほしくない。

 クラウドは「中身を意識する必要がない」のが長所ですが、専用サーバーは逆に「中身を意識することができる」のが長所です。

ioDriveやSSDでデータベースサーバーを高速化

―― 専用サーバーのユーザーさんの用途は

田中:幅広くあります。この上でPaaSやSaaSのクラウドサービスをやるユーザーさんもいますし、SIでのサーバー構築もあります。あと、ホスティングもあります。ユーザーさんをどれだけ収容できるかがホスティングの収益性ですので、オーバーヘッドのない専用サーバーが向いています。

 意外と、スケールアウトの必要がある要件は限られるんですね。できるのであれば、スケールアップのほうが楽だとユーザーさんが思うようになってきた。以前は、専用サーバーもそれほどパフォーマンスが高くなかったのですが、たとえば今回のエクスプレスG2シリーズであれば、メモリは最大32GB載り、ioDriveも選べるので、かなりのパフォーマンスが出ます。VPSやクラウドのインスタンスを10も20も借りるぐらいなら、専用サーバー1台の方が高性能にできる。

 また、IaaSでハイスペックなインスタンスを動かし続けると、案外高くつくんです。メモリ32GBのインスタンスを1カ月動かし続けると、数万円かかったりする。そういう用途であれば、専用サーバーのほうが安く上がります。

―― ioDriveを提供するというのは、ユーザーの要望があったのでしょうか?

田中:いや、弊社からの提案です。フレックスシリーズではオプションでioDriveに対応していて、提案したところ、使ってみたらすごく速くてびっくり、という反応もいただいています。

 そのioDriveのついたサーバーを、初期費用なし、年間で約60万相当の定額で提供します。ioDriveを買うことを考えれば、かなり安いです。

―― ioDriveコースの想定用途は、やはりソーシャルゲームとかでしょうか?

田中:それもありますが、一般にデータベースサーバーの性能が求められる用途全般ですね。フロントエンドのウェブサーバーは複数台にスケールアウトしても、データベースサーバーは1つにできたほうが効率がいい。たとえば、MySQLクラスタリングで、32GBのサーバー10台に分散しているシステムが、ioDriveを使うと1台でおさまったりするので、コスト効果もいい。

 ioDriveでなくても、SSDにしてもかなり効果があります。それなりに速い環境が必要ならSSD、圧倒的なスペックが必要ならioDriveとなると思います。

加藤:エクスプレスG2シリーズと同じハードウェア構成でランダム書き込みのベンチマークを取ってみましたが、ioDriveは10万IOPS、SSDも3.6万IOPSほどでした。ハードディスクでは数百から千ぐらいのIOPSなので、まったく違う数字です。ioDriveやSSDはランダムアクセスの性能がいいので、データベースと相性がいいですね。

―― SSDでは、書き込みの寿命や障害パターンがわからないことなどを心配する人もいるかと思いますが、どうでしょうか

田中:さくらインターネット研究所で、SSDの耐久試験をしたり、社内でもSSDを大量に導入して使い込んだりして試しています。ただ、最近のSSDは、公称のバイト数の上限まで書き込んでもなかなか壊れないですね。1世代前のSSDでは、読めなくなったりエラーが出たりと、メーカーごとに違う挙動を経験しましたが、最近のものではまだ故障に出くわしていない。ioDriveもいくら書き込んでも壊れませんね。

 とはいえ、われわれは、ハードもソフトも、いざというときのスペックには書かれていない挙動まで把握していなければ信頼はしきれない。なので、エクスプレスG2シリーズでもSSDをRAID 1で構成しています。

加藤:SSDは、書き込み限度がありますが、寿命が予測できるのでむしろ安心できるということはあります。HDDは寿命予測が難しい。

―― ioDriveやSSDは、社内で使われていますか?

田中:実は、「さくらのクラウド」の基盤システムでioDriveを使おうかと考えています。データベース的な部分ですね。これは技術検証中です。

 SSD化は進んでいて、社内のシステムやサーバーでも使っています。また、バックアップサーバーではZFSのSSDキャッシュ機能も使っています。膨大なデータが集まっていますので。

サーバーのチューニングなどのサポートも計画

―― 今回のサービスでも10分納品ということですが、サーバーなどのストックがたくさん必要ですね

田中:それも石狩データセンターの強みです。倉庫も大きく、ラックも最大4000ラックを設置できますので、前もってサーバーを設置しておいて需要に応えられるようにしています。そのたびに取り付けに行っていたら時間もかかりますし、手間や人件費も大変ですからね。

―― 10分納品などを開始して、専用サーバーのユーザー数などに変化はありましたか

田中:専用サーバーは一定数は新規申し込みが続いていて、以前よりペースが上がっているのは確かです。ただ、一方では専用サーバーを解約してクラウドサービスに移るユーザーも多い。サービスとして提供していくには、専用サーバーもユーザーの絶対数を増やしていかないといけない。エクスプレスG2シリーズは初期費用なしにしたことで、ユーザーのハードルを下げ、呼び水になればと考えています。

 VPSは価格競争になっていますが、専用サーバーは原価があるので、無茶な価格は付けにくい。ホスティングサービスは、ハードウェアに近付くほど付加価値を付けにくく、ファシリティや購買力、技術力がものをいうと思っていますので、弊社だからこそ提供できる専用サーバーのメニューを揃えていきたいです。

 他社とのさらなる差別化としては、サポート面を考えています。従来は、ユーザーのサーバーの中まではサポートできていなかったのですが、たとえばサーバーが遅いときに、RAIDカードの設定やOSのキャッシュの設定など、チューンナップのお手伝いも対応していこうと。あるいは、これまで具合の悪くなったときに「再起動しました」で済ませていたのを、これからは原因追及までやっていく。数多くのホスティング事例などからつちかった社内のノウハウを、ユーザーに提案していこうと思います。

クラウドも専用サーバーも接続したプラットフォーム化を目指す

―― 石狩データセンターということで、「さくらの専用サーバ」と「さくらのクラウド」との接続サービスなどの考えは

田中:グローバルIP経由で接続しても近くて速いのですが、「さくらの専用サーバ」のローカルネットワークと「さくらのクラウド」を直接接続できる、サービス間接続も予定しています。そうすると、ウェブでアプリケーションのフロントエンドは「さくらのクラウド」に、データベースサーバーは「さくらの専用サーバ」にという、それぞれの強みを組み合わせられます。

 現在、さくらのクラウドは新規受け付けを停止しているのですが、秋から本格的に再開する予定です。そのときには使えるようになればと考えています。

―― 今後の専用サーバーやそれ以外でのサービス予定は

田中:クラウド、ハウジング、VPS、専用サーバーの垣根を下げる「プラットフォーム」化をテーマにしていて、1つのサービスとして使える方向を狙っています。まずはローカル接続から始め、コントロールパネルの共通化や、ストレージの共有、などを考えています。

―― 「さくらの専用サーバ」のコントロールパネルにも、VPSやクラウドの経験が応用されているのでしょうか

田中:たとえばIPMIのリモートコンソールをブラウザーから利用できるようにしているので、いままで障害時にサーバーの再起動をデータセンターに電話で依頼していたのが、リモートから自分でできます。OSの再インストールも、ブラウザーから自分で、無料でできます。そうした使い勝手はクラウドに近いですね。そうした形で、クラウドの強みと専用サーバーとを組み合わせています。

 そのほか、広域イーサネットなどによる専用線接続サービスも、石狩データセンターで開始しようと予定しています。おそらく、今年度の上期中に提供開始できると思いますが、これがあると、専用サーバーを社内バックアップサーバーなどにしてインターネットを経由せずに使えますし、ネットワーク遅延なども都内とさほど変わらないレベルでアクセスできます。

 最終的には石狩以外でも同じようなサービスを提供して、冗長化などにも使えるようにしていきたいと考えています。


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(高橋 正和)

2012/7/31 11:00