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マイナンバーで変わった年末調整の書き方(前編)

 2015年も残り1カ月あまり。毎年恒例の年末調整の時期がやってきた。サラリーマンの方は、会社から年末調整の申告書が配られているだろう。また自宅には生命保険料控除証明書も届いている方がいるはずだ。年末恒例の行事だが、皆さんは何のために年末調整をしているのか理解されているだろうか。

この記事の内容は、2015年11月に掲載した当時のものです。年末調整の書き方についての最新記事(2017年11月現在)は、以下をご参照ください。

 筆者は独立して10回目の確定申告を迎えようとしている。それ以前、サラリーマン時代に20年以上年末調整を行った。しかし、当時の筆者は税金に関する知識は皆無で、一体何のために記入しているのか理解していなかった。生命保険の証明書は10万円を超える1枚を張れば済むことも知らず、医療保険、学資保険など何枚も張り付けていた。年末調整=節税と知ったのは、独立して税金のことを少し理解した後だった。

 サラリーマン時代の筆者のように年末調整=意味不明の方もいるだろう。年末調整はサラリーマンが税金と接する数少ない機会だ。この機会に少しだけ税金と向き合い理解を深めていただきたい。

年末調整は何を調整するの?まずはサラリーマンの税金を知ろう

 年末調整は何を調整するのか。そのことを知るために簡単にサラリーマンの税金の仕組みを説明しよう。毎月の給与明細を見ると所得税、住民税、厚生年金、健康保険、雇用保険などが天引きされているはずだ。年末調整の直接の対象となるのは所得税だ。この所得税の算出方法は以下の通りだ。

・給与の収入金額(年収)-給与所得控除=給与所得
・給与所得-各種所得控除=課税所得
・課税所得×税率=所得税

サラリーマンの所得税算出の概念図。収入から給与所得控除を引くと所得。所得から控除を引くと課税所得。課税所得に税率を掛けると所得税が算出できる

 最初の式の給与所得控除はサラリーマンの必要経費などと言われるもので「サラリーマンも何かしら経費が掛かるでしょ」ってことで、一定額を収入から差し引いて(減税して)くれる仕組みだ。

給与所得控除の計算式
給与等の収入金額(年収)給与所得控除額
162万5000円以下65万円
162万5000円超 180万円以下収入金額×40%
180万円超 360万円以下収入金額×30%+18万円
360万円超 660万円以下収入金額×20%+54万円
660万円超 1000万円以下収入金額×10%+120万円
1000万円超 1500万円以下収入金額×5%+170万円
1500万円超245万円(上限)

 例えば、年収500万円の人の給与所得控除額は「360万円超 660万円以下」の計算式を使用して収入金額×20%+54万円で算出できる。

給与所得控除額:500万円×20%+54万円=154万円
給与所得   :500万円-154万円=346万円

 ここで覚えておきたいのは収入と所得の言葉の違いだ。年末調整の申告書には「収入金額」「合計所得金額」「所得の見積額」と言った言葉がひんぱんに出てくる。例えば奥さんや子どものパート・アルバイト代の年間の合計が103万円の場合、年収、収入と呼ばれるのは103万円、そこから給与所得控除(103万円の場合は65万円)を引いた38万円が所得となる。

 2番目の式の各種所得控除は基礎控除、配偶者控除、扶養控除、社会保険料控除、生命保険料控除などが一般的だ。例えば独身で生命保険に加入していなければ天引きされた社会保険料控除以外は基礎控除の38万円だけとなるが、専業主婦と大学生の子どもがいて生命保険に加入していると控除額が増える。控除額が増えると課税所得が減り所得税が減るという仕組みだ。控除額を比較してみよう。

独身:基礎控除 38万円+社会保険料控除 76万円=114万円
既婚:基礎控除 38万円+社会保険料控除 76万円
  +配偶者控除 38万円+扶養控除 63万円+生命保険料控除 5万円=220万円
※既婚の例は専業主婦+大学生の子ども+旧生命保険12万円とした

 同じ年収500万円(所得346万円)の場合、独身の例では課税所得が232万円(346万円-114万円)で所得税は13万4500円。既婚の例では課税所得が126万円(346万円-220万円)で所得税が6万3000円となる。扶養する家族が増え、生命保険に加入したことで控除が増え、所得税額が減ったことが分かる。サラリーマンの税金に関してもっと詳しく知りたい方はこちらの記事を参照していただきたい。

源泉徴収票の見方、知っていますか? ~税金の計算方法を理解すると節税ができる~
http://internet.watch.impress.co.jp/docs/special/20150304_690747.html

 もう1つ知っておきたいのは所得税の納税方法だ。所得税は毎月の給与から天引きされている。「給与所得の源泉徴収税額表」なるものがあり、例えば給与から社会保険料を引いた額が28万円の場合、独身であれば7610円、扶養親族が2人いれば4370円と、毎月みなし金額を納税している。

 12月の給与でその年の収入が確定する。加えて「生命保険を増やした」「二十歳を超えた大学生の国民年金を親が払った」など個人個人の細かな事情を反映して所得税額が決定する。みなし金額で毎月納税している額はやや多めとなっていて、12月の給与で最終調整(=年末調整)して正しい納税額とする仕組みだ。そのため12月は少し手取り金額が増えることが多い。年末調整の申告書は払いすぎた税金を取り戻すための申告書と理解しよう。

給与所得の源泉徴収税額表(平成27年分)(PDFダウンロード)
https://www.nta.go.jp/shiraberu/ippanjoho/pamph/gensen/zeigakuhyo2014/data/01_1.pdf

「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を記入しよう~扶養する親族が増えると控除が増える~

 年末調整で会社から2枚あるいは3枚の紙が配られているだろう。2枚の場合は「平成28年分 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」と「平成27年分 給与所得者の保険料控除申告書 兼 配偶者特別控除申告書」。3枚の場合はこれらに加え前年に提出した「平成27年分 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」が変更の有無の確認用に配られる。

平成28年分 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書(PDFダウンロード)
https://www.nta.go.jp/tetsuzuki/shinsei/annai/gensen/pdf/h28_01.pdf
平成27年分 給与所得者の保険料控除申告書 兼 配偶者特別控除申告書(PDFダウンロード)
https://www.nta.go.jp/tetsuzuki/shinsei/annai/gensen/pdf/h27_05_03.pdf

 まずは「平成28年分 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」から見ていこう。この申告書の裏面の冒頭には「この申告書は、平成28 年の最初の給与の支払いを受ける日の前日までに、給与の支払者に提出してください。」と書かれている。文面どおりに受け取れば2016年(平成28年)の1月の給料日前までに出す書類だが、ほとんどの企業は年末のこの時期に記入・提出することとなっている。

 ここに記載された家族構成(配偶者、扶養親族など)を反映して、1月から毎月天引き(源泉徴収)する所得税額を決定するための申告書ということだ。前年に記載された申告書と比べることで、子どもが増えた、おばあちゃんと同居を始めたなどの情報を把握することもできる。

 「平成28年分 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」は様式が変更された。追加された項目は以下の通り。この手の申告書としては大幅な変更と言えるだろう。

1.給与の支払者の法人(個人)番号
2.あなたの個人番号
3.配偶者、扶養親族の個人番号
4.非居住者である親族
5.生計を一にする事実
6.控除対象外国外扶養親族

個人番号など今回の申告書は多くの変更個所がある

 この中ですべての人が対象となるのは個人番号=マイナンバーだ。来年(平成28年)から給与の支払いなどに必要となるマイナンバーを、会社はこの「平成28年分 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」に記載してもらい収集することとなる。ところが、ニュースでも取り上げられているようにマイナンバーが記された通知カードの送付が大幅に遅れている。自分の地域の差し出し状況は以下のサイトで確認することができる。

個人番号通知カードの郵便局への差し出し状況
https://www.kojinbango-card.go.jp/cgi-bin/tsuchicard/jokyo.cgi

 例えば筆者が住民票をおく名古屋市瑞穂区は11月18日、オフィスのある川崎市麻生区は11月19日となっている。この日付は国立印刷局から郵便局へ発送した日付で、各家庭に届くのはこの日付から最長3週間としている。かなり多くの人が12月に受け取ることになりそうだ。

 これに伴いマイナンバーの収集と年末調整を切り離す企業もあるようなので、この辺りの対応は各社のルールに合わせることとなる。マイナンバーについては以下の記事も参照いただきたい。

ついに通知開始!マイナンバーで最初に注意すべきポイントは? 社会保険労務士に聞いてみた
http://internet.watch.impress.co.jp/docs/special/20151002_721533.html

自分に関する情報はすべての人が記入する

 では具体的に「平成28年分 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を記入していこう。この申告書は図のようにいくつかのブロックに分けられている。「自分」は自分の会社や自分自身の名前、住所など。AからEは奥さん(配偶者)や子ども、親などの親族に関して記入する。

自分は自分に関する情報、A~Eは親族に関する情報を記入する

 自分のブロックは会社や自分自身の情報なので特に問題はないだろう。Aブロックは奥さん(配偶者)、Bブロックは16歳以上の子どもや親(扶養親族)、Cブロックは障害者など、Dは子どもが2人いて1人を自分の扶養親族、もう1人を働いている奥さんの扶養親族にする場合などで使用する。Eブロックは16歳未満の子どもがいる場合に記入する。多くの人が記入するのは自分とA、B、Eブロックとなる。

 最初に記入するのは自分に関する情報。このブロックはすべての人が記入することになる。記入例を見てみよう。所轄税務署とは会社の所在地を所轄する税務署。税務署、会社名、法人番号、会社の住所は、おそらく会社側がハンコなどで記入済みであろう。市区町村は自分が住民票をおく地域を記入する。「あなたの個人番号」はもちろんマイナンバー。結婚している人は配偶者の有無の有に丸印、独身の人は無に丸印を付ける。独身で扶養する親などがいなければ、このブロックを書くだけでこの申告書の記入は終了となる。

自分のブロックはすべての人が記入する

配偶者控除と扶養控除を積み上げると大幅節税ができる

 次はAブロックとBブロック。例年と大きく変わったのはマイナンバー。控除対象となる奥さん、子ども、親などがいる場合は該当者の個人番号を記入する必要がある。Aブロックは控除対象配偶者を記入する。控除対象となるのは収入(年収)で103万円以下、所得で38万円(103万円-65万円)以下の配偶者となる。ただしこの所得は平成28年中の所得だ。「来年のことなんか分からないよ」と言う人もいると思うが、毎年パート代が103万円を超えないようにセーブしているのであれば、取りあえず103万円以下の金額を記入すればよい。仮に超えたとしても1年後にリカバリーは可能だ。

 奥さんが正社員で年収が300万円、400万円としっかり稼いでいる場合は空欄とする。その奥さんも会社でこの申告書を記入しているはずだが、奥さんも旦那さんが年収500万円などと稼いでいる場合は、空欄で提出することとなる。

控除対象配偶者と控除対象扶養親族の記入例

 Bブロックは奥さん(配偶者)以外の控除対象となる、扶養親族(子どもや親)を記入する。こちらは控除対象の条件が少し複雑なので、まずは所得の条件から見ていこう。配偶者控除と同様に所得が38万円以下であれば控除対象となる。例えば大学生の子どもにアルバイト収入がある場合、収入(年収)が103万円以下であれば所得が38万円以下となり、控除対象となる。親が公的年金をもらっている場合は、年齢により控除額が異なる。65歳未満の公的年金控除額は70万円、65歳以上の公的年金控除額は120万円なので。

65歳未満 公的年金が108万円以下であれば所得が38万円以下(108万円-70万円)となり控除対象
65歳以上 公的年金が158万円以下であれば所得が38万円以下(158万円-120万円)となり控除対象

 親が公的年金に加え、アルバイト等の給与所得もある場合は、2つの所得の合算が38万円以下であれば控除対象となる。例えば、65歳以上で公的年金が144万円、アルバイト収入が72万円の場合、

公的年金  144万円-120万円=24万円
アルバイト 72万円-65万円=7万円

となり、合計した所得は31万円なので控除対象となる。

 親の年金に関する注意点は公的年金か否かだ。例えば父親がサラリーマンで母親が専業主婦だった場合、父親が亡くなった後に母親が受け取っている年金は遺族年金だ。遺族年金は公的年金ではないので、所得の対象とはならない。仮にその額が180万円であっても控除対象となる。

 所得条件の次は年齢の条件を確認していこう。控除対象となるのは平成28年の年末で16歳以上=誕生日が平成13年(2001年)1月1日以前に生まれた人だ。所得が38万円以下で16歳以上であれば控除対象ということだ。

 16歳以上という条件以外にも年齢により記入の仕方が変わるところがある。老人扶養親族(昭22.1.1以前生)、特定扶養親族(平6.1.2生~平10.1.1生)と誕生日が書かれた欄がある。平成28年の年末時点で昭和22年1月1日以前に生まれた人は70歳以上、平成6年1月2日から平成10年1月1日に生まれた人は19歳から22歳となる。この2つの年齢の合致すると特典が得られるので注意深く確認したい。次の図を見ていただきたい。

扶養親族とその年齢による控除額の違い

 特定扶養親族の対象となる19歳から22歳はほぼ大学生の年齢で、控除額が25万円加算され63万円となっている。70歳以上は老人扶養親族で、同居の場合は58万円、それ以外は48万円とこちらも控除額の加算がある。この年齢の扶養親族がいると税金が減るということだ。あくまで年齢が条件なので、特定扶養親族は大学生である必要はない。浪人生でもフリーターでも生計を一として年間の所得が38万円以下であれば特定扶養親族となる。

 特定扶養親族にあたる子どもがいる場合は、該当する欄に丸印を付ける。同じく70歳以上の親を扶養している場合は、同居なら同居老親等に丸印、その他であればその他に丸印を付ける。これにより控除額が増え税金が減ることになる。

 大学1年生の早生まれの子を持つ親には、悲しいお知らせがある。ストレートに大学に進学した子どもで4月2日~1月1日生まれの子は、その年の年末に19歳となり特定扶養親族の対象となる。1月2日~4月1日に生まれた早生まれの子は年末時点では18歳のため、特定扶養親族の対象外だ。そのため25万円の控除額の加算は受けられず、税金を多く納めることとなる。同学年の1/4は早生まれなので極めて不公平な話だが、日本人は税金の知識が乏しいのであまり問題視されていない。

住民税に関する事項

 一番下のEブロックは住民税に関する事項だ。ここには平成28年の年末時点で16歳未満の子ども(扶養親族)を記載する。誕生日で表すと、平成13年1月2日以後に生まれた子どもだ。ザックリ言うと中学生以下の子どもが対象となる。

住民税に関する事項の記入例

 最後に、個人番号以外で変更になった「非居住者である親族」「生計を一にする事実」の欄について簡単に説明しておこう。「非居住者である親族」とは日本に住んでいない親族をさす。平成28年から該当する親族を扶養控除の対象とする場合は、「親族関係書類」および「送金関係書類」を提出する。「平成28年分 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」では該当する欄に丸印を付け、「生計を一にする事実」の欄には送金金額を記入する。

 海外の大学に留学する子どもがいると、この欄を記入することになるが、この欄が新設された理由は、日本で働く外国人労働者の不正対策と言われている。海外に扶養している親族が20人いると申告すれば扶養控除額は1人38万円でも760万円となる。課税所得760万円の高額所得者が所得税0円になるということだ。そのため外国政府が発行した戸籍謄本、出生証明書、婚姻証明書などを対象とする「親族関係書類」の説明に「これらの書類が外国語で作成されている場合には、その翻訳文を含みます」と書かれている。ということで、多くの人はこの項目が追加されたことを気にする必要はなさそうだ。

国外居住親族に係る扶養控除等の適用について
https://www.nta.go.jp/shiraberu/ippanjoho/pamph/pdf/kokugaifuyou_leaflet.pdf

 「平成28年分 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」は、フォーマットの変更はあったが、本質的なところは変わっていない。毎年書き方に悩む人は、書き終えた申告書のコピーを保存しておくとよいだろう。ただし、家族全員のマイナンバーが書かれているので、過敏になる必要はないと思うが保存には注意が必要だ。節税という面では、子どもを扶養親族に入れ忘れることはないと思うが、親の年金はよく調べると控除対象の扶養親族に入れられる可能性がある。親が長生きすると10年、20年と控除が受けられることもあるので、一度は確認しておくことをお勧めしたい。

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 「平成28年分 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」の書き方は、これで終了。次回はもう1枚の「平成27年分 給与所得者の保険料控除申告書 兼 配偶者特別控除申告書」の書き方について説明したい。