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2012年著作権法改正でどう変わる? 違法ダウンロード刑罰化Q&A編


 著作権法の一部を改正する法律が6月20日、参議院本会議で可決・成立した。今回の改正では、違法ダウンロード行為に対する罰則(違法ダウンロード刑罰化)が加えられたほか、DVDなどに用いられる「CSS」などの暗号型技術を回避して行う複製が違法(刑事罰はなし)となること(DVDリッピング違法化)などが盛り込まれた。

 違法にアップロードされた音楽・映像を違法と知りながらダウンロードする行為については、2009年の前回改正において、私的使用目的の複製の範囲外とされ、違法とされていたが、罰則は設けられていなかった。今回の改正では、このうち有償の著作物を違法ダウンロードする行為に対し、2年以下の懲役又は200万円以下の罰金、あるいはその双方と規定した。

 改正著作権法は2013年1月1日から施行するが、DVDリッピング違法化にかかわる規定や違法ダウンロード刑罰化に関する規定などは、2012年10月1日から施行する。

 多くのインターネット利用者に関係すると見られる今回の著作権法改正だが、どの程度の影響があるのか。果たしてどこまでが合法で、どこからが違法となるのか。知的財産権に詳しい骨董通り法律事務所の福井健策弁護士に聞いた。「違法ダウンロード刑罰化編」「違法ダウンロード刑罰化の懸念編」「DVDリッピング規制編」の3回にわけてお伝えする。

 第1回は「違法ダウンロード刑罰化編」。

Q1:どのような行為が違法ダウンロードの刑罰化の対象になる?
A1:例えば、ファイル共有ソフトやオンラインストレージで無断提供される、動画・音楽のダウンロードが該当します。


Q2:YouTubeやニコニコ動画などのストリーミングサービスを閲覧するとPC内にキャッシュが生成されるので処罰対象?
A2:最終的には裁判所の判断ですが、その可能性は低いと思います。
解説:今回の刑罰化の条文をおさらいしましょう。処罰対象は、「1)有償の著作物等の、2)著作権・著作隣接権を侵害する自動公衆送信を、3)受信して行うデジタル方式の録音・録画を、4)そうと知りながら行って著作権等を侵害した者」です(新119条3項)。

 そもそもアップが適法だったプロモーション動画などの場合、2)「著作権・著作隣接権を侵害する自動公衆送信」ではない。よって、個人利用のためにそれを無許可ダウンロードしても処罰対象になりません(お勧めはしませんが)。他方、アップ自体が無許可でされたいわゆる「違法動画」の場合、それがストリーミングサービスであっても2)「自動公衆送信」には違いないので、対象動画にはなります。

 問題は、いわゆる「ストリーミング」視聴の場合には、ユーザー側で恒久的な保存は通常されず、キャッシュ保存程度ですね。ですから、ブラウザー視聴に技術的に伴うデータ保存などでも3)「録音・録画」にあたるかが、疑問として指摘されました。

 ただ、著作権法には別な箇所で、まさにこうした場合を想定したコンピューターでのデータ保存を認める例外規定があります(47条の8)。そして、「ダウンロード刑罰化」の規定には、著作権法の他の条文で適法と認められる利用まで処罰対象にするような効力はない。

 文化庁も従前から、YouTubeなどの視聴は違法でないという立場です。今回の立法過程でも、見る限り「視聴」の取り締まりは議論されておらず、ストリーミング閲覧まで取り締まるとすれば不意打ち以外の何者でもないでしょう。

 人に刑罰を課す以上、法の条文は明確でなければならないという「罪刑法定主義」からすれば、「ストリーミング的な視聴」も処罰したいならそうはっきりわかる条文にすべきだし、逆にいえば今回の条文で刑事責任を問うのは難しいと思います。無論、そういった誤った逮捕や起訴がされないように、注視して行くことも大切ですね。


Q3:専用ツールを使ってYouTubeやニコニコ動画から動画をダウンロードすると処罰対象?
A3:処罰の可能性があります。
解説:ダウンロード刑罰化の罰則は「2年以下の懲役又は200万円以下の罰金、あるいはその双方」です。なお、使われる専用ツールの内容によっては「技術的保護手段の回避」といって、その点からもダウンロードは違法となり得ます。ただ、こちらは違法というだけで刑事罰がないのですね。よって、今回の改正ではじめて処罰対象になったことになります。

 なお、ダウンロード違法化や刑罰化は、「一定の場合にはたとえ私的な複製でも従来のように免責されないよ」という改正です。ファイル交換(P2P)などで、最初から自らもネットで提供するつもりでダウンロードをする場合は、そもそも意図が「私的使用」ではないので、今回の改正以前からダウンロード自体に罰則があります。「10年以下の懲役又は1000万円(法人なら3億円!)以下の罰金、あるいはその双方」とさらに重いので、要注意です。


Q4:海外のサイトから違法ダウンロードする行為は?
A4:明らかに処罰対象ですね。
解説:条文には、「国外で行われる自動公衆送信であって、国内で行われたとしたならば著作権又は著作隣接権の侵害となるべきものを含む」と付記されているので、違法・処罰対象となります。


Q5:テレビ番組の静止画をダウンロードする行為は?(ソースが映像だと静止画でもNG?)
A5:処罰対象にはあたらないでしょう。
解説:一般には説明しやすさのために「ダウンロード刑罰化は映像・音楽が対象」などと言いますが、実際の条文は著作物の種類に限定はなく、何であれ「(ダウンロード形式の)録音・録画」が禁止され処罰対象なのです。現行法では「録画」とは動画の複製を指しますので(2条1項14号)、静止画のダウンロードはあたらないでしょう。


Q6:ファイル共有ソフトはインストールしたり起動するだけでNG?
A6:それはありません。
解説:違法なファイルを無許可でアップロードしたり、意図的にダウンロードしなければ、通常のファイル共有ソフトの利用はそもそも違法になりません。もし、違法というのであれば、「Winnyは価値中立なソフトで、適法な用途にも使える」とした先日の最高裁判決と整合しないことになります。


Q7:ファイル共有ソフトを利用したらNG?
A7:使用法によります。
解説:例えば、P2Pソフトで特徴のある人気アーティストの曲名を検索して、大量にヒットした同名の音楽ファイルを、そのアーティストの演奏曲だと期待して入手したとしましょう。現状ではこうしたファイルは無断でアップされている可能性が極めて高いので、「侵害コンテンツと知りながら行う録音」にあたりそうです。

 ちなみに、P2Pで違法ファイルをダウンロードして放置しておくと、(さらにに罰則の重い)違法アップロードにあたる可能性もあるので要注意です。

 (編集部注:Winnyでは、ダウンロードしたファイルは暗号化したキャッシュファイル形式で転送され、ダウンロードしたユーザーのキャッシュフォルダに格納される。ファイル転送が完了すると、ファイルはキャッシュファイル形式からオリジナルのファイルに復元され、ダウンロードフォルダに置かれる。さらに、キャッシュフォルダに残ったファイルも公開され、他のユーザーがそのファイルを検索したり、ダウンロードできるようになる。)


Q8:ゲームのファイルをダウンロードすることは違法?
A8:動画的な要素の強いゲームの場合、ダウンロードは「録画」と見られ、A2で示した条件を満たせば処罰対象となる可能性があるでしょう。


Q9:マンガのファイルをダウンロードすることは違法?
A9:動画化したようなものを除けば、静止画のダウンロードなので私的目的なら今回の刑罰化の対象にはあたらないでしょう。


Q10:「違法と知りながらダウンロードした」というのはどうやって証明する?
A10:状況証拠、そして本人の自白が決め手になるのでしょう。
解説:まず、P2Pの場合のように「違法コンテンツと強く疑われる」状況ですと、ダウンロードした側は相当に不利でしょう。他方、より微妙なケースの場合、当事務所の桑野弁護士もコラムで書いていますが、「違法コンテンツかもしれないけどまあいいか」という程度の「未必の故意」でも、処罰の可能性はあるのですね。

 いずれにしても、本人の自白が決め手となることは間違いありません。これはダウンロード刑罰化に限ったことではなく、密室の取り調べの中で不当な自白誘導などが無いよう、捜査の透明化をはかることは日本の刑事行政にとって大きな課題です。


Q11:違法ダウンロードしたユーザーは警告もなしにいきなり逮捕される?
A11:逮捕前の警告が無い場合もあるでしょうが、むしろ可能性が高いのは、予告無しのPCの押収ですね。


Q12:違法ダウンロードユーザーのPCが警察に押収される?
A12:重要証拠ですから十分あり得ます。


Q13:刑事罰で起訴されなくても民事で訴えられることはある?
A13:あり得ます。ただし、かなり悪質な大量ダウンロード者でないとレアケースにとどまるかもしれません。
解説:民事で損害賠償請求などをする場合、権利者としては「どの著作物がどれだけダウンロードされたか」や「被告が違法であることを知ってダウンロードを行っていたか」を証明しなければなりません。そうなると、立証が可能か不可能かという以前に、相当な負担になることは間違いないのですね。

 日本は一般的に米国などに比べると賠償金の相場が低いと言われ、もっと明らかな著作権侵害でも権利者からすれば「泣き寝入り」になるケースが多い。私的ダウンロードの場合ならばなおさらでしょう。

 ただし、現在TPPで米国が要求している「法定賠償金」が導入された場合、米国で報道されるような「ダウンロードした市民の大量提訴」も可能性が高まりそうです。

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2012/7/10 11:00


福井 健策
HP:http://www.kottolaw.com Twitter:@fukuikensaku
弁護士・日本大学芸術学部客員教授。骨董通り法律事務所代表パートナー。著書に
著作権とは何か」「著作権の世紀」(ともに集英社新書)、「契約の教科書」(文春新書)ほか。最近の論考に「全メディアアーカイブを夢想する」など。